株式会社の主な機関として、株主総会と取締役(取締役会)があります。
会社運営で生じるさまざまな事項のうち、株主総会の決議事項にはどのようなものがあるのでしょうか?
また、株主総会決議は、どのような要件を満たした際に成立するのでしょうか?
今回は、株主総会の決議事項や決議方法などについて、弁護士がくわしく解説します。
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株主総会とは
株主総会とは株式会社における最高意思決定機関であり、会社の株主によって構成されます。
株式会社のオーナー(出資者)は、株主です。
一般的に「会社でもっとも権力を有する人」といえば、社長(代表取締役)を想起する人も少なくないでしょう。
しかし、会社のオーナーである株主は取締役を選任したり解任したりする権限を有しており、代表取締役よりも強い意思決定権限を有しています。
代表取締役を含む取締役は、株主から委任を受けて業務執行を行い、株主が所有する会社の価値を最大化する役割を担っています。
中小企業などでは代表取締役が100%株主であるケースもあり、この場合は株主と取締役の違いが理解しづらいかもしれません。
一方、上場企業などでは取締役と株主は異なっており、違いがイメージしやすいでしょう。
株主総会の種類
株主総会には、定時株主総会と臨時株主総会があります。
ここでは、それぞれの概要を解説します。
定時株主総会
定時株主総会とは、毎年定期的に開催する株主総会です。
会社法では、「定時株主総会は、毎事業年度の終了後一定の時期に招集しなければならない」と規定されています(会社法296条1項)。
多くの上場企業は決算月を3月に設定していることから、事業年度を終えて計算書類が出そろった6月頃に定時株主総会が集中する傾向にあります。
なお、事業年度は必ずしも1年である必要はなく、法令上は半年を一事業年度とすることも可能です。
一方で、1年を超える期間を一事業年度とすることはできないとされていることから、少なくとも1年に1回は定時株主総会が開かれることとなります(会社計算規則59条2項)。
定時株主総会では、事業報告や決算承認、剰余金の配当などが議題となることが多いでしょう。
ほかに、役員の選任や役員の報酬決定などが議題となることも少なくありません。
臨時株主総会
臨時株主総会とは、定時株主総会以外の時期に開催される株主総会です。
会社法では、「株主総会は、必要がある場合には、いつでも、招集することができる」と規定されています(会社法296条2項)。
株主総会で決議したい事項によっては、次回の定時株主総会を待っては時機を逸するものもあるでしょう。
その場合は、臨時株主総会を招集することとなります。
株主総会での決議事項と報告事項の違い
株主総会の主な決議事項は後ほど解説しますが、株主総会には決議事項のほかに「報告事項」が存在します。
決議事項とは、文字どおり、株主総会での承認決議が必要となる事項です。
一方、「報告事項」は報告が必要なだけであり、株主総会による承認決議は必要ありません。
会社法では、株主総会での「報告事項」として、次の2つが定められています。
- 事業報告(同438条3項)
- 計算書類(同439条、438条2項)
ただし、このうち「計算書類」が報告事項となるのは、次の要件をすべて満たした場合に限られます。
- 取締役会設置会社であること
- 会計監査人設置会社であること
- 次を満たす適正な計算書類であること
- 1.会計監査報告と監査役の監査報告の内容に問題がないこと
- 2.計算書類が監査報告の通知報告期限を過ぎて監査を受けたものではないこと
これらの要件を満たさない場合、計算書類は「決議事項」となり、株主総会での承認が必要となります(同438条2項、439条)。
株主総会決議の3つの種類
株主総会の決議には、3つの種類があります。
ここでは、それぞれの決議要件を解説します。
普通決議
普通決議とは、株主総会における基本の決議方法です。
普通決議は、次の要件を満たした場合に成立します(同309条1項)。
- 行使可能議決権の過半数を有する株主が出席すること(定款で排除可能)
- 出席した株主の議決権のうち、過半数が賛成すること
特別決議
特別決議とは、株主にとって重大な事項の決議に適用される決議方法です。
特別決議は、次の要件を満たした場合に成立します(同2項)。
- 行使可能議決権の過半数を有する株主が出席すること(定款の定めで、「3分の1以上」にまで緩和可能)
- 出席した株主の議決権のうち、3分の2以上が賛成すること(定款の定めで、加重可能)
特殊決議
特殊決議とは、株主にとって重要性がきわめて高い事項に適用される決議方法です。
特殊決議には、次の2つが存在します。
定足数要件が「半数以上」となるもの
1つ目は、定足数要件が「半数以上」となるものです。
これは、次の要件を満たした場合に成立します(同3項)。
- 行使可能議決権の半数以上を有する株主が出席すること(定款の定めで、加重可能)
- 出席した株主の議決権のうち、3分の2以上が賛成すること(定款の定めで、加重可能)
議決権の4分の3以上での決議が必要なもの
2つ目は、議決権の4分の3以上での決議が必要なものです。
この場合は、次の要件を満たした場合に成立します(同4項)。
- 行使可能議決権の半数以上を有する株主が出席すること(定款の定めで、加重可能)
- 出席した株主の議決権のうち、4分の3以上が賛成すること(定款の定めで、加重可能)
株主総会の主な決議事項
株主総会の決議事項について、会社法では次のように定められています(同295条1項)。
- 株主総会は、この法律に規定する事項及び株式会社の組織、運営、管理その他株式会社に関する一切の事項について決議をすることができる。
つまり、株主総会は会社の最高意思決定機関であり、会社に関するすべての事項について決議権限があるということです。
しかし、これはあくまでも取締役会がない場合であり、取締役会がある場合は株主総会の権限がやや縮小されます。
取締役会がある場合における株主総会の決議事項は次のとおりです(同2項)。
- 会社法で規定された事項
- 定款で定めた事項
ここでは、株主総会の決議事項として「会社法で規定された事項」の一例を、次の4つに分類してそれぞれ解説します。
- 会社の経営に関する事項
- 役員の選任・解任に関する重大な事項
- 役員報酬に関する事項
- 株主の利害に関する事項
会社の経営に関する重大な事項
株主総会の決議事項の1つ目の類型は、会社の経営に関する重大な事項です。
たとえば、次の規定などがこれに該当します。
- 定款変更
- 資本金額の減少
- 準備金の額の減少
- 事業譲渡や子会社譲渡などの契約承認
- 解散
- 組織再編の契約承認
定款変更
定款変更は、株主総会の決議事項です(同466条)。
株主総会で定款を変更するには、特別決議が必要です。
資本金額の減少
資本金額の減少は、株主総会の決議事項です(同447条1項)。
この変更は、普通決議によって行います。
資本金額の減少をするには、株主総会決議によって次の事項を定めなければなりません。
- 減少する資本金の額
- 減少する資本金の額の全部または一部を準備金とするときは、その旨と、準備金とする額
- 資本金の額の減少がその効力を生ずる日
ただし、株式会社が株式の発行と同時に資本金の額を減少する場合において一定の要件を満たす場合、取締役会の決議で資本金を減少させることが可能です(同3項)。
準備金の額の減少
準備金の額の減少は、株主総会の決議事項です(同448条1項)。
この変更は、普通決議によって行います。
準備金の額の減少をするには、株主総会決議によって次の事項を定めなければなりません。
- 減少する準備金の額
- 減少する準備金の額の全部または一部を資本金とするときは、その旨と、資本金とする額
- 準備金の額の減少がその効力を生ずる日
資本金額の減少と同じく、一定の要件を満たす場合、取締役会の決議で資本金を減少させることが可能です(同3項)。
事業譲渡や子会社譲渡などの契約承認
次の行為など一定の行為をしようとする際は、その効力発生日の前日までに、株主総会で契約の承認を受けなければなりません(同467条1項)。
- 事業の全部の譲渡
- 事業の重要な一部の譲渡
- 子会社株式の全部
- 一定の要件を満たす子会社株式の一部譲渡
- 他の会社からの事業の全部譲受け
- 事業の全部の賃貸
この株主総会決議は、特別決議によって行います。
解散
会社の解散事由の一つに、「株主総会の決議」があります(同471条3号)。
株式会社の解散には、特別決議が必要です。
組織再編の契約承認
吸収合併や新設合併、吸収分割、株式交換などの組織再編をしようとする場合、効力発生日の前日までに株主総会決議によって契約などの承認を受けなければなりません(同783条1項、795条1項、804条1項など)。
この決議は、特別決議によって行います。
役員の選任・解任に関する事項
株主総会の決議事項の2つ目の類型は、役員の選任・解任に関する事項です。
具体的には、次の規定などがこれに該当します。
取締役等の選任
取締役、監査役、会計参与、会計監査人は、株主総会決議によって選任します(同329条1項)。
これらの決議は、普通決議によって行います。
取締役等の解任
取締役、監査役、会計参与、会計監査人は、株主総会の普通決議によって解任できます(同339条1項)。
なお、解任自体はいつでも可能である一方で、解任に正当事由がない場合は、損害賠償請求の原因となります(同2項)。
役員報酬に関する事項
株主総会の決議事項の3つ目の類型は、役員報酬に関する事項です。
これらは、株主総会の普通決議によって決定されます(同361条1項、379条1項、387条1項)。
なお、役員個人ごとの報酬額を株主総会で決めることもできる一方で、株主総会では「取締役全員で〇円」「監査役全員で〇円」など役職ごとの合計額や合計額の上限額だけを決めることも可能です。
この場合は、個々の取締役の報酬は取締役会で、個々の監査役の報酬は監査の協議で決めることとなります。
また、役員報酬は株主総会ではなく定款で定めることもできるものの、変更の手間がかかるため、実務上は株主総会で決議することが多いでしょう。
株主の利害に関する事項
株主総会の決議事項の4つ目の類型は、株主の利害に関する事項です。
たとえば、次の規定などがこれに該当します。
- 剰余金の配当
- 自己株式取得等に関する事項の決定
- 相続人等に対する株式の売渡請求の決定
- 株式併合
- 募集株式の発行等における募集事項の決定
- 新株予約権の発行における募集の決定
剰余金の配当
剰余金の配当は、株主総会の決議事項です(同454条)。
剰余金の配当をする場合、次の事項などを株主総会の普通決議で定めなければなりません。
- 配当財産の種類と帳簿価額の総額
- 株主に対する配当財産の割当てに関する事項
- 剰余金の配当の効力発生日
自己株式取得等に関する事項の決定
会社が自己株式を取得しようとするときは、株主総会の特別決議で次の事項などを定めなければなりません(同156条1項)。
- 取得する株式の数
- 取得する株式と引き換えに交付する対価の額
- 株式を取得することができる期間
また、自己株式は特定の株主から取得することもできます。
この場合は、その特定の株主は議決権を行使できません(同160条4項)。
相続人等に対する株式の売渡請求の決定
会社は定款で、相続などで株式を取得した者に対し、株式の売渡しを請求できる旨を定めることができます(同174条)。
この定めがある場合、実際に売渡を請求しようとする際は、株主総会特別決議で一定の事項を定めなければなりません(同175条1項)。
株式併合
株式併合とは、従来の2株を1株とするなど、複数の株式を1株に併合することです。
株式併合は株主総会の決議事項であり、特別決議で一定の事項を定めなければなりません(同180条2項)。
募集株式の発行等における募集事項の決定
新たに発行する株式などの引き受け手を募集する際は、募集事項について株主総会で決定しなければなりません(同199条2項)。
この決定は、特別決議によって行います。
新株予約権の発行における募集の決定
会社が新株予約権を発行しようとする際は、募集事項について株主総会で決定しなければなりません(同238条2項)。
この決定は、特別決議によって行います。
まとめ
株主総会の決議事項について解説しました。
取締役会がない会社では、会社に関するすべての事項を株主総会で決定することとなります。
一方、取締役会がある場合には、会社法で規定された事項と定款で定めた事項が、株主総会の決議事項です。
株主総会の決議には普通決議と特別決議、特殊決議が存在するため、定足数や議決権要件を理解しておきましょう。
イレギュラーな決議をしようとする際は、あらかじめ弁護士にご相談ください。
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