株主総会について知っているつもりでも、理解があいまいであることや誤解していることもあるでしょう。
株主総会に誤解があり手続きなどに瑕疵があれば、決議が無効となるなど重大な影響が生じるおそれがあります。
そもそも、株主総会とはどのような役割を持つものであり、どのような種類があるのでしょうか?
また、株主総会は、どのような手順で開催すればよいのでしょうか?
今回は、株主総会の基本や開催手順などについて、弁護士がくわしく解説します。
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株主総会とは
文字どおり、株主総会とは株主による総会です。
決議事項について議決権を有する株主に賛成か反対かを問い、一定の要件を満たした場合に議案が成立します。
比較的規模の小さい会社では、代表取締役などが株主を兼ねていることが少なくありません。
しかし、上場企業など規模の大きな企業をイメージするとわかるように、株主と取締役は本来別の機関です。
そして、会社の最高意思決定機関は、いわゆる「社長」などの代表取締役ではなく、株主総会です。
会社の組織などに関する重大な事項を株主総会が決定し、代表取締役などの取締役はその枠組みの中で業務を執行します。
株主総会と取締役会の役割
株主総会と取締役会は、それぞれどのような役割を担うのでしょうか?
会社の機関設計にはさまざまなパターンがあるものの、株式会社である以上、株主総会と「取締役」は必須の機関です。
取締役は、1名だけでも構いません。
ただし、取締役が合議体を構成する「取締役会」を設置する場合は、取締役は3名以上必要です。
つまり、株式会社には大きく分けて、取締役会のある「取締役会設置会社」と、取締役会のない「取締役会非設置会社」があるということです。
取締役会がある場合、株主総会の権限がやや縮小され、取締役会の権限が大きくなります。
ここでは、取締役会設置会社であることを前提に、それぞれの役割について解説します。
株主総会の役割
先ほど解説したように、株主総会は、会社における最高意思決定機関です。
株主はいわば会社の「オーナー」であり、株式会社に出資をしている者を指します。
そのため、後ほど解説するとおり、会社や組織に関する重大な事項など、組織運営に関わる基本的な事項を決議します。
また、取締役などの役員を選任したり解任したりする権限も、株主総会が有しています。
取締役会の役割
取締役会は、会社の業務執行を担います。
また、取締役会は、個々の取締役の業務執行を監督する役割も担っています。
株主総会が取締役の人事権を有する一方で、取締役会には株主を排除する権利などはありません。
あくまでも株主総会が会社の最高機関であり、取締役会は株主総会から委任を受けて業務を執行する役割を担います。
株主総会での主な決議事項
取締役会非設置会社の場合、株主総会は、会社法に規定する事項のほか、株式会社の組織や運営、管理その他株式会社に関する一切の事項について決議します(会社法295条1項)。
一方、取締役会設置会社の場合は、次の事項に限り株主総会が決議することとされています(同2項)。
- 株主総会の決議事項として、会社法で定められている事項
- 株主総会の決議事項として、定款で定めた事項
このうち「2」は会社によって異なるため、自社の定款を確認するとよいでしょう。
ここでは、取締役会設置会社であることを前提に、会社法で定められている株主総会の決議事項の例を解説します。
会社の組織や事業に関する重要事項
1つ目は、会社の組織や事業に関する重要事項です。
たとえば、定款の変更や合併などの組織再編、解散などがこれに該当します。
具体的な事項は、次のとおりです。
- 定款変更(同466条)
- 資本金額の減少(同447条1項)
- 資本準備金の額の減少(同447条1項)
- 事業譲渡や子会社譲渡などの契約承認(同467条1項)
- 解散(471条3号)
- 吸収合併、新設合併、吸収分割、株式交換など組織再編の契約承認(同783条1項、795条1項、804条1項、816条の3第1項)
株主の権利に直接関係する事項
2つ目は、株主の権利に直接関係する事項です。
たとえば、次のものがこれに該当します。
- 剰余金の配当(同454条)
- 自己株式取得等に関する事項の決定(同156条1項、160条1項)
- 相続人等に対する株式の売渡請求の決定(同175条1項)
- 株式併合(同180条2項)
- 募集株式の発行等における募集事項の決定(同199条2項)
- 新株予約権の発行における募集の決定(同238条2項)
役員の選任・解任、役員報酬
3つ目は、取締役など役員の選任や解任と、役員報酬に関する事項です。
具体的には、次の事項がこれに該当します。
- 取締役・監査役・会計参与・会計監査人の選任(同329条1項)
- 取締役・監査役・会計参与・会計監査人の解任(同339条1項)
- 取締役・監査役・会計参与の報酬等の決定(同361条1項、379条1項、387条1項)
なお、役員報酬については株主総会で個々の取締役などの報酬額を決めることもできる一方で、取締役全員の報酬の合計上限額だけを株主総会で決めることも可能です。
この場合、個々の取締役の報酬は、株主総会が定めた総額の範囲内で取締役会が決めることとなります。
また、役員報酬は、法律上は株主総会ではなく定款で定めることもできます(同361条1項)。
ただし、変更に手間がかかることから、定款で役員報酬を定めるケースはさほど多くないでしょう。
役員報酬の定め方やその他の決議事項についてお困りの際は、弁護士へご相談ください。
株主総会の種類
株主総会には、「定時株主総会」と「臨時株主総会」があります。
ここでは、それぞれの概要を解説します。
定時株主総会
定時株主総会とは、「毎事業年度の終了後一定の時期に招集しなければならない」とされる株主総会です(同296条1項)。
株式会社の場合、事業年度の終了時期は会社ごとに異なるものの、上場会社などでは3月決算とすることが多いでしょう。
そのため、事業年度が終了し、決算が確定した6月頃に定時株主総会が開かれることが多くなっています。
定時株主総会では、前事業年度の事業報告や計算報告のほか、配当金に関する事項などが決議されることが一般的です。
定時株主総会は、省略できません。
また、一事業年度を1年を超える期間とすることはできないとされています(会社計算規則59条2項)。
そのため、少なくとも1年に1回は株主総会が開かれることとなります。
臨時株主総会
株主総会は、必要があるときはいつでも招集できます(会社法296条2項)。
そして、定時株主総会以外の時期に招集される株主総会が臨時株主総会です。
議案の内容によっては、定時株主総会の時期まで決議を待つことが適さない場合もあるでしょう。
その際は、臨時株主総会を開催して決議することとなります。
株主総会の決議方法
株主総会の決議は、常に過半数でなされるわけではありません。
決議の方法は、決議事項の重要性などに応じて次の3種類があります。
- 普通決議
- 特別決議
- 特殊決議
ここでは、株主総会におけるそれぞれの決議要件について解説します。
普通決議
普通決議とは、もっとも基本的な決議方法です。
役員の選任や解任、報酬決定、剰余金の配当などはこの普通決議によって行われます。
普通決議の成立要件は、次のとおりです(同309条1項)。
- 行使可能議決権の過半数を有する株主が出席すること
- 出席した株主の議決権の過半数が賛成すること
ただし、定款で定めることにより、定足数要件(「1」の要件)の排除が可能です。
特別決議
特別決議とは、株主にとってより重大な事項に適用される決議方法です。
定款の変更や組織再編の承認、解散、株式の併合などはこの普通決議によって行われます。
特別決議の成立要件は、次のとおりです(同309条2項)。
- 行使可能議決権の過半数を有する株主が出席すること
- 出席した株主の議決権の3分の2以上が賛成すること
定款で定めることにより、定足数要件を「3分の1以上」にまで緩和することが可能です。
ただし、定足数要件を排除することはできません。
また、定款で定めることにより、議決権要件を加重することもできます。
一方で、議決権要件の緩和はできないことには注意が必要です。
特殊決議
特殊決議とは、株主にとっての重要性がきわめて高い事項について適用される決議方法です。
特殊決議には、次の2種類があります。
定足数要件を緩和できないもの
1つ目の特殊決議は、次の要件で成立する決議です(同309条3項)。
- 行使可能議決権の半数以上を有する株主が出席すること
- 出席した株主の議決権の3分の2以上が賛成すること
特別決議とは異なり、定足数要件が「過半数」ではなく「半数以上」となっています。
そのため、たとえば議決権を1個ずつ有する株主が10名いる場合において、特別決議の場合は6名の出席が必要であるところ、この特殊決議では5名の出席でよいこととなります。
また、特別決議とは異なり、定款で定めても定足数要件の緩和はできません。
一方で、定足数要件も議決権要件も加重することは可能です。
この特殊決議は、次の場面などで用いられます。
- 発行株式の全部について譲渡制限を設けるための定款変更の承認
- 公開会社が消滅し、株主に対して譲渡制限株式が交付される場合における吸収合併契約や株式交換契約の承認
- 公開会社が消滅し、株主に対して譲渡制限株式が交付される場合における新設合併契約や株式移転計画の承認
議決権の4分の3以上での決議が必要なもの
2つ目の特殊決議は、次の要件で成立する決議です(同309条4項)。
- 行使可能議決権の半数以上を有する株主が出席すること
- 出席した株主の議決権の4分の3以上が賛成すること
この場合、定足数や議決権要件の緩和はできません。
一方、定款で定めることにより、加重することは可能です。
この特殊決議は、非公開会社において、次の権利について株主ごとに異なる内容を定める場合における定款変更の承認について用いられます。
- 剰余金の配当を受ける権利
- 残余財産の分配を受ける権利
- 株主総会における議決権
必要な決議方法や決議要件、定款の定めについてお困りの際などには、弁護士へご相談ください。
株主総会開催までの基本的な流れ
株主総会は、どのような流れで開催する必要があるのでしょうか?
最後に、取締役会設置会社である前提で、株主総会開催までの基本的な流れを紹介します。
なお、ここで紹介するのは一般的な流れであり、上場している場合や定款の定めの内容などによってはこれら以外の手続きが必要となる場合があります。
株主総会の開催や招集についてお困りの際は、弁護士へご相談ください。
取締役会による招集事項を決定する
はじめに取締役会を開催し、株主総会を招集する旨と次の事項などを決定します(同298条1項)。
- 株主総会の日時及び場所
- 株主総会の目的である事項があるときはその事項
- 株主総会に出席しない株主が書面によって議決権を行使することができることとするときは、その旨
- 株主総会に出席しない株主が電磁的方法によって議決権を行使することができることとするときは、その旨
- その他法務省令で定める事項
招集通知等を発送する
次に、株主に対して招集通知を発送します。
招集通知は、株主総会の日の2週間前(非公開会社の場合は1週間前まで)に発送しなければなりません(同299条1項)。
招集通知には、計算書類や事業報告など株主総会の参考書類のほか、議決権行使書などを同封します。
ただし、株主の全員の同意があるなど一定の要件を満たしたときは、招集の手続きを省略できます(同300条)。
株主総会当日
あらかじめ定めた日に、株主総会を開催します。
株主総会で議決権を行使できるのは、基準日現在において議決権を有する株主です。
株主総会の開催場所に特に決まりはないものの、定款で定めた場合はこれに従います。
また、株主が参加しづらい場所での開催は決議取消しなどの原因となり得るため、避けるべきでしょう。
まとめ
株主総会の概要や決議方法、開催の流れなど、基本的な事項について解説しました。
株主総会の開催手続きなどに不備がある場合、決議が無効となったり取消しの原因となったりするおそれがあります。
そのような事態が生じないよう、弁護士のサポートを受けるなど、不備のない開催が必要です。
Authense法律事務所では企業法務の専門チームを設けており、株主総会の開催支援などコーポレート法務に力を入れています。
株主総会についてお困りの際や、株主総会の手続きを不備なく確実に遂行したい場合などには、Authense法律事務所までお気軽にご相談ください。