コラム
公開 2019.07.17 更新 2022.08.12

秘密保持契約書(NDA/CA)とは?意味・書き方、締結プロセスを弁護士がわかりやすく解説

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NDAとは秘密保持契約書のことであり、秘密情報を他社などへ提供する際に締結するものです。
自社の秘密情報を守るためには、NDAの締結が不可欠です。
この記事では、企業法務に詳しい弁護士が、NDA作成や締結のポイントについて解説します。

記事を監修した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
第二東京弁護士会所属。中央大学法学部法律学科卒業。一橋大学法科大学院修了。離婚や相続といった家事事件のほか、建物明渡請求を中心とした不動産法務や企業法務など、様々な案件を取り扱う。依頼者の感情の機微まで気を配り、丁寧な対応を心掛けている。
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秘密保持契約書とは何か

企業間で取引を行う際には、その取引の目的遂行のために、自社の営業秘密等の秘密情報を他社に開示する必要が生じる場合があります。
そのような場合において、秘密情報の開示者側(以下「開示者側」といいます。)が自社の秘密情報を守るため、秘密情報を受領する側(以下「受領者側」といいます。)に対し、開示を受ける秘密情報の保持等を約束させる契約が、秘密保持契約です(NDA・CAとも呼びます)。

秘密保持契約を締結することにより、開示者側は、受領者側に開示した情報の秘密保持や目的外使用の禁止などを義務づけることができ、また、受領者側が秘密保持の約束を破ったことにより開示者側が損害を被った場合には、開示者側は債務不履行を理由に受領者側に損害賠償を請求することができます。
さらに、秘密保持契約に規定を置くことにより、開示者側は、受領者側の情報の流出・漏洩行為の差止めを行うことができる可能性を高めることができます。

NDAを結ぶ目的

NDAを締結する目的は、主に次のとおりです。

特許申請

特許とは、企業などが発明を出願して登録を受けることで、出願から20年の間、その発明の使用や販売などを独占できる制度です。

特許の登録は、「公然知られた発明」については行うことができません。
そのため、NDAを締結することなく業務委託先などに特許技術を開示してしまうと、その技術についての特許を受けることができなくなるおそれがあります。

特許申請を検討している場合には、その技術が秘密情報の範囲に含まれることを明確としたうえで、NDAを締結しましょう。

不正競争防止

業務提携や業務提携などを行う中で、開示をした技術情報を用いて取引先が似た商品を開発したり、開示をした営業機密を用いて取引先が営業活動を行ったりすれば、自社にとって損害が生じるおそれがあります。
このような事態を防ぐため、あらかじめNDAを締結しておきましょう。

なお、仮にNDAを締結していなくても、これらの行為は不正競争防止法に抵触する可能性が高いといえます。
しかし、NDAでこれらを秘密情報として明記をしておくことで、万が一の際の差止請求や損害賠償請求がよりスムーズとなるでしょう。

いつ締結するか

NDAは、自社の秘密情報を相手方に開示する前に締結する必要があります。
開示してしまってからでは遅いため、タイミングに注意しましょう。

関連法律

NDAには、主に次の法律が関連します。
下記の法律は、関連する部分のみでも確認しておくと良いでしょう。

個人情報保護法

個人情報保護法とは、個人情報の適正な取扱いなどについて定めた法律です。
個人情報保護法では、個人情報の取り扱いを業務委託などする際には、委託先に対して適切な監督をしなければならないとされています。

そのため、個人情報を含むデータの取り扱いを委託する際には適切な監督の一環として、NDAを締結しておきましょう。

民法

民法とは、契約の一般的なルールなど定めた法律です。
仮にNDAの締結がなかったとしても、相手の債務不履行によって損害を被った場合には、民法の規定により損害賠償請求をすることができます。

しかし、民法における損害賠償の範囲は、「通常生ずべき損害」と「当事者がその事情を予見すべきであった特別な損害」のみです。
そのため、NDAにおいて損害賠償の範囲や損害賠償の予定額などを定めておくことで、いざというときの損害賠償がスムーズとなる他、相手への抑止力ともなるでしょう。

不正競争防止法

不正競争防止法とは、事業者間の公正な競争の確保などを目的とした法律です。

この法律において、「営業秘密を保有する事業者からその営業秘密を示された場合において、不正の利益を得る目的で、又はその営業秘密保有者に損害を加える目的で、その営業秘密を使用し、又は開示する行為」は不正競争に該当するとされ、差止請求や損害賠償請求の対象とされています。

しかし、何が「営業秘密」にあたるのかは企業や状況によって異なるため、仮に開示した情報を相手が不正に使用して損害を被った場合に損害賠償請求などをするためには、その情報が営業秘密にあたることを証明しなければなりません。

そこで、あらかじめNDAにおいてその情報が秘密情報にあたることを明示しておくことで、相手が不正に使用などをした情報が秘密情報であることが明白となります。

入れるべき項目・留意点

秘密保持契約を結ぶ際には、まずは、自らが情報を開示する側であるのか、それとも受領する側であるのか、自社の立場を把握することが大切です。
今回は、スタートアップ企業などにとって重要となる、自社の営業秘密などの秘密情報保護の観点から、開示者側の立場に立って基本的な留意点を以下のとおり説明いたします。

(1)秘密情報の定義

「秘密情報」とは、一般的には、情報の開示者側が受領者側に対して開示する情報のなかで、開示者側が秘密にしたいと考えている情報のことをいいます。
契約によっては、秘密保持契約の存在や内容、取引に関する協議・交渉の存在や内容についても、「秘密情報」と規定することがあります。
開示者側にとっては、自らが開示する情報は、原則として全て「秘密情報」として定義し、開示する全ての情報に対して、受領者側に秘密保持や目的外使用の禁止を義務づけた方が安全といえます。

一方で、受領者側は、自らが負う義務の範囲を狭めるべく、対象となる秘密情報を可能な限り特定することを望みます。
受領者側は「秘密情報」の定義について、「書面で秘密情報である旨の明示をしたもの」や「口頭で開示された場合でも一定期間内にその内容を書面にして秘密情報である旨の明示をしたもの」などといった限定をつけることを希望することが多いといえます。
受領者側にそのような特定を提案された開示者側としては、自社においてそのような秘密情報の「明示」を適切に行えるほど管理体制が整っているのか、本来秘密情報として取り扱うべき情報が秘密情報として取り扱われなくなるおそれがないかどうかなど、現実的な可能性やリスクを慎重に検討することとなります。

(2)目的外使用の禁止

秘密保持契約には基本的には契約の目的が設定されています。
開示者側は、受領者側が契約の目的以外に受領した情報を使用することを妨げるため、目的外使用の禁止の条項を入れることとなります。
なお、開示者側としては、契約の目的の記載についても、秘密情報の定義や目的外使用の禁止の範囲の解釈に影響する可能性があるため、広く定めすぎないように注意して設定することが大切です。

(3)秘密保持義務の例外(開示許容当事者)

取引の目的遂行のために、受領者側において、開示者側から開示を受けた秘密情報を受領者側の役員・職員、グループ会社とその役員・職員、アドバイザーなどに開示することが必要となる場合もあります。
このような場合には、開示者側は、受領者側に秘密情報の開示の必要な範囲を具体的に特定するよう要求し、受領者側が特定する開示先(以下「当該開示先」といいます。)への開示が本当に必要であるのかを検討することとなります。
また、当該開示先への開示を認める場合には、開示者側は、秘密保持契約内に、開示者側と受領者側間の秘密保持と同程度の内容の秘密保持契約を受領者側と当該開示先との間で締結することを義務付ける規定を入れたり、または、受領者側に当該開示先への監督責任を負わせる規定を入れるなどの対応を検討する必要があります。

(4)複製の禁止

開示者側としては、特に機密性の高い情報を開示する場合には、受領者側に秘密情報及びその格納媒体の複製を禁止することも検討します。
仮に、受領者側に複製を許容した場合であっても、複製物の管理について秘密情報に準じて扱うよう義務付ける旨の規定を入れておくことが望ましいといえます。

(5)秘密情報の破棄・返還

開示者側としては、秘密保持契約内に、自らの請求によって、契約期間中であるか否かを問わず、いつでも受領者側に秘密情報を記録などした媒体及びその複製物の破棄・返還を請求できる旨の規定を入れておくことも望ましいといえます。
また、破棄・返還に際し、開示者側は、受領者側に破棄証明書・返還証明書の発行義務を課す場合もあります。
このような規定を設けることで、開示者側は、受領者側に破棄・返還を慎重に行わせるきっかけを与えることとなります。

(6)知的財産権の確保

開示者側は、受領者側に対し、秘密情報などをもとにしたリバースエンジニアリングや、特許出願行為などの知的財産権を侵害する行為を禁止する旨を定めておく場合があります。
また、開示者側の情報提供が受領者側への知的財産権の付与やライセンスに該当しない旨を明記することも、権利関係が明確になるため有益です。

(7)競業禁止

開示者側は、場合によっては、秘密保持契約において「自社と競合するビジネスを行ってはならない」旨を明記しておくことも重要となります。当該条項により、開示者側は、受領者側に秘密情報を利用して同様のビジネスを行われてしまうことを防ぐことができます。
ただし、職業選択の自由を過度に侵害する競業避止義務などは公序良俗に反して無効となる場合があるため、義務が課される年数や範囲などについては注意する必要があります。

(8)損害賠償条項

受領者側が秘密保持契約に違反したことにより開示者側が損害を負った場合には、開示者側が受領者側に対して損害賠償請求を行うことが想定されます。
債務不履行に基づく損害賠償の範囲については、民法で「債務不履行によって通常生ずべき損害」や「当事者(債務者)がその事情を予見した(することができた)特別な事情によって生じた損害」と定められていますが、 開示者側としては、民法の原則よりも損賠賠償の範囲を広げたり明確にするため、例えば「損害(合理的な弁護士費用を含む)」といった文言を入れることを検討することとなります。

(9)差止め

秘密保持契約に、情報の流出・漏洩行為の差止め規定がなくとも、秘密情報が不正競争防止法上の「営業秘密」に該当する場合には不正競争防止法に基づき差止請求ができる場合がありますが、秘密情報が「営業秘密」に該当しない場合でも差止めができるように、開示者側としては、秘密保持契約内に、受領者側の情報の流出・漏洩行為の差止め規定を入れておき、差止請求の根拠を示しておくことも有益といえます。

(10)有効期間

秘密保持契約の有効期間は、開示する秘密情報が陳腐化し、有用性を失うと予想される程度の年数を設定することが多いです。
また、損害賠償条項など、契約終了後も効力を残すべき条項については、秘密保持契約内に「契約終了後も引き続き効力を有する」旨を規定する必要があります。

NDAの法的根拠を担保するためのポイント

NDAの法的根拠を担保するため、NDAの対象となる秘密情報をNDAの中でしっかり定義するようにしましょう。
形だけのNDAを締結していても、提供した情報が秘密情報に該当するかどうかがあいまいなままでは、いざというときに法的対応を取ることが難しくなる可能性があるためです。

また、NDAは関連する法令を熟知したうえで作成する必要があります。
NDAの法的根拠を担保するため、NDAの作成やレビューは弁護士へご相談ください。

締結までの進め方

NDAの締結は、次の手順で進めると良いでしょう。

秘密保持契約書の作成

はじめに、NDA(秘密保持契約書)の原案を作成します。

NDAの原案をどちらが作成すべきかについて、明確なルールはありません。
しかし、何が秘密情報にあたるのかを盛り込む必要があるうえ、秘密情報を守りたい側が作成した方が合理的であるため、秘密情報を開示する側が作成することが一般的です。

双方確認・合意

秘密保持契約書の原案が作成できたら、相手方にその内容を確認してもらいましょう。
そのままの内容で合意が取れる場合もあれば、内容の一部修正を求められる場合もあります。

意見の齟齬が生じた場合にはその点のすり合わせを行って双方が納得する内容へ条項の修正を行い、最終的な秘密保持契約書を作成します。

署名・締結

契約内容に合意ができたら、双方の代表者が秘密保持契約書へ署名と捺印を行いましょう。
秘密保持契約書は2部作成し、双方が1部ずつ保管することが一般的です。
なお後述のように、近時一般的となってきた電子契約によることもでき、電子契約ならではの多くのメリットがあります。
これで、NDAの締結が完了となります。

秘密情報の開示は、NDAの締結後に行いましょう。

秘密保持契約書(NDA)の雛形

NDAの雛形は、経済産業省のホームページで公表されています。
こちらのページの「【参考資料2】各種契約書等の参考例」をご参照ください。

この雛形を参考として、NDAを作成することも一つです。

経済産業省「秘密情報の保護ハンドブック」

NDAを締結するにあたっては、経済産業省が公表している「秘密情報の保護ハンドブック」が参考になります。

このハンドブックでは、情報漏えい対策として有効と考えられる対策が包括的に紹介されていますので、一読したうえでNDAを締結すると良いでしょう。

雛形の注意点

雛形はあくまでもNDAの基本形でしかなく、当然ながら企業や取引の個別事情は一切反映されていません。
雛形をそのまま埋めれば何となく見栄えの良い契約書が作成できたと感じてしまいがちですが、実務上、それのみでは不十分です。

NDAを含む契約書は、作成自体がゴールではありません。
雛形をそのまま利用した結果、守るべき秘密情報を守ることができなかったり、いざというときにスムーズに差止請求や損害賠償請求ができなかったりすれば、本末転倒でしょう。

雛形をベースとした場合であっても、取引における個別事情がすべて反映されているのか、秘密情報は適切に定義されているのかなど、項目をすべて細かくチェックすることが必要です。

しかし、これを自社のみで行うことは容易ではありません。
いざ問題が起きた際に取り返しのつかない事態とならないよう、NDAを作成する際には弁護士へご相談ください。

【状況別】NDA作成のポイント

NDAを作成する際には、その目的に応じて異なるポイントが存在します。
それぞれの場面において注意すべきポイントは、次のとおりです。

従業員とのNDA

従業員の入退社時やプロジェクトへの参加時など、従業員が新たに情報へアクセスする権限を持つ際には、NDAを締結することをおすすめします。
機密情報は、従業員から漏洩することが少なくないためです。

万が一の漏洩を避けるため、NDAには罰則規定まで定めておくと良いでしょう。
併せて、就業規則の懲戒事由に「NDAに違反したこと」を含める方法もあるでしょう。

また、退職時には改めてNDAを締結し、特に秘密情報を守るべき職種である場合には、退職後一定期間における競業避止義務も定めておくべきでしょう。

M&AにおけるNDA

M&Aの場合には、相手先がどの会社であるのかということが既に秘密情報にあたることが多いでしょう。
特に売り手企業においては、自社がM&Aを検討していること自体、外部に漏らしたくないセンシティブな情報であるためです。

そのため、具体的な交渉に入る前の段階で、NDAを締結することが一般的です。
M&AにおけるNDAでは、必ず次の事項を秘密情報として明記しておきましょう。

  • M&Aの交渉をしていること自体
  • M&Aの希望取引条件
  • 決算内容など具体的な企業情報

また、M&Aは交渉の結果、成立しないことも珍しくありません。
そのため、万が一交渉が決裂した場合における情報の取り扱い方法(破棄または返却)についても、明確に定めておきましょう。

デューデリジェンスにおけるNDA

デューデリジェンスとは、対象企業を適正に評価する手続きです。

決算書の情報を精査する他、決算書のみでは確認できない簿外資産や簿外負債を確認したり、法務リスクの有無を確認したりします。
デューデリジェンスは、M&Aを行う際やベンチャーキャピタルからの投資を受ける際などに行われることが一般的です。

デューデリジェンスは、いわば企業を丸裸にするものであるため、あらかじめNDAを締結してから行います。

デューデリジェンスに際しては、M&A仲介会社や買い手企業がNDAの原案を作成する場合も少なくありません。
締結する際には、これにそのまま合意するのではなく、自社が提供する秘密情報が網羅されているか、その後情報は適切に破棄されることになっているのかなど、よく確認をしたうえで合意するようにしましょう。

よくある疑問を解決

NDAに関するよくある疑問は、次のとおりです。

違反があった場合の対応方法

相手がNDAに違反した場合には、行為の差止めや損害賠償請求を行うことが可能です。
NDAに秘密情報が具体的に特定されており、かつ損害賠償の予定額の記載があると、よりスムーズに対応できることが多いでしょう。

情報が漏洩している場合にはできるだけ早期の対応が必要となるため、まずは弁護士へ相談することをおすすめします。

収入印紙が必要か

収入印紙は、契約書が印紙税法における課税対象文書に該当する場合に、貼付しなければなりません。
しかし、NDAは印紙税法における課税対象文書のいずれにも該当しませんので、収入印紙の貼付は不要です。

ただし、NDAに他の契約内容を併記した場合、その内容によっては課税対象文書に該当する可能性がありますので、注意しましょう。

電子契約のメリット・デメリット

コロナ禍において、電子契約が一気に普及しました。
電子契約とは、従来のように印刷をした書面に署名や捺印をするのではなく、契約書の電子データに双方が電子での署名を付すことで成立する契約を指します。

電子契約とすることで、契約書の郵送にかかる手間や印刷コストなどを削減することが可能となります。
また、電子上での書面の管理がしやすいため、紛失しにくい点もメリットです。

また、NDAではそもそも収入印紙は必要ありませんが、紙で作成した場合には収入印紙が必要となる契約であっても、電子契約であれば収入印紙の貼付は必要ありません。

一方、サイバー攻撃を受けた際にリスクに晒される可能性がありますので、こまめなバックアップを取るなどの対策は必要です。

まとめ

NDAは、自社の秘密情報を守るために非常に重要な役割を担うものです。
秘密情報を開示する際には、開示する情報に合ったNDAをあらかじめ締結し、情報漏洩リスクから身を守りましょう。

Authense法律事務所には、NDAなど企業間の契約に強い弁護士が多数在籍しております。
NDAのレビューや作成を弁護士へ依頼することで、万が一相手がNDAに違反した場合の対応も踏まえたNDAを作成できるため安心です。

NDAについてお困りの際には、ぜひAuthense法律事務所までご相談ください。

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