コンビニエンスストア(以下「コンビニ」)が24時間営業になって久しく、24時間営業が当然と思っている方もいらっしゃると思います。
しかし、深夜のコンビニ営業には、人件費、光熱費等のコストと、その時間帯の売上とのバランスの問題が大きく、オーナーによっては24時間営業をやめたいと思う方も少なくないようです。
このような、24時間営業を見直したいというオーナーの申し出に対して、本部がそれを認めず、24時間営業を継続するよう求めた場合について、公正取引委員会事務総長が、2019年4月24日、「優越的地位の濫用」として独占禁止法上の問題が生じる旨、発言したことは記憶に新しいかと思います。
その後、2019年9月11日、オーナー8名が、本部が独占禁止法に違反しているとして、公正取引委員会に集団申告を行い、2019年10月11日には、2回目の集団申告も行いました。
ここで登場する「独占禁止法」「優越的地位の濫用」とは何なのか、以下、解説いたします。
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1.独占禁止法とは
コンビニの24時間営業強制が「独占禁止」法に違反するといわれても、ピンとこない方もいらっしゃると思います。
独占禁止法は、正式には「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」といい、これを縮めて「独占禁止法」と称しています。
名称から明らかなように、この法律は、「私的独占の禁止」と「公正取引の確保」を目的とした法律です。
前者は、他の事業者の事業活動を排除したり、他の事業者を支配したりすることにより、市場を支配することを禁じようとするもので(独占禁止法第3条前段)、健全な市場を確保することを目的としたものです。
後者は様々な類型の不公正な取引を禁止することで、弱い立場にある事業者を保護することを目的としたものです。
独占禁止法は公正取引委員会の所管であり、独占禁止法の問題が生じた場合、公正取引委員会が見解を出したり、審決を出したりします。コンビニの24時間営業問題について公正取引委員会事務総長が発言したり、オーナーが公正取引委員会に申告を行ったりしたのは、独占禁止法が公正取引委員会の所管であるためです。
2.優越的地位の濫用とは
「優越的地位の濫用」とは、独占禁止法の中でも、「公正取引の確保」を目的として、一定の行為を禁止したものです。
コンビニの24時間営業問題は、本部が24時間営業を継続するよう求める行為が、その禁止される行為に該当するとオーナーが主張して、訴えたものです。
それでは、24時間営業を継続するよう求める行為の、何が問題となりうるのでしょうか。
「優越的地位の濫用」が認められる要件を、詳細にみていきたいと思います。
「優越的地位の濫用」は、独占禁止法第2条第9項第5号に定められたものです。
その内容は、自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して、正常な商慣習に照らして不当に、次のいずれかの行為をすることをいうとされています。
- (1)継続して取引をする相手方に対して、その取引に関する商品・役務以外の商品・役務を購入させること(購入・利用強制)
- (2)継続して取引をする相手方に対して、自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること(利益提供の要請)
- (3)取引の相手方に対して、商品の受領を拒む、受領した商品を引き取らせる、対価の支払いを遅らせる、対価を減額させる、その他、相手方に不利益となるように取引の条件を設定・変更すること(受領拒否、返品、支払遅延、減額等)
24時間営業を継続するよう求めることは、(1)や(2)には該当しなさそうです。
そこで、以下では、主に(3)を前提として、検討したいと思います。
(1)「優越的地位」とは
先ほどから「優越的地位」という言葉が何度も出てきておりますが、本部はコンビニオーナーに「優越」する立場にあるのでしょうか。また、そもそも、両者の関係はどのようなものでしょうか。
契約の内容にもよりますが、一般的に、コンビニオーナーは、従業員ではありません。
コンビニオーナーは、コンビニの「本部」と「フランチャイズ契約」を結び、本部の名前を使用して、自らの責任でコンビニを経営しています。このようなフランチャイズ契約を結ぶことを、(フランチャイズへの)「加盟」といいます。
コンビニに限らず、経営には、仕入れ、販売、集客、従業員採用、商品開発など、様々な専門的なノウハウを必要とします。ブランド名など、一般に認知されている名称があれば、それを利用することで、一から始めるより経営をしやすくなることが多いでしょう。フランチャイズの本部は、これをオーナーに提供し、オーナーはその対価としてロイヤリティを本部に支払うのが、フランチャイズ契約の一般的な構造です。
つまり、コンビニオーナーと本部は、独立した契約当事者であって、オーナーが本部に雇われているわけではありません(直営店を除く)。
このように、フランチャイズ契約のシステム自体は、オーナーと本部双方にとってメリットのある仕組みですが、デメリットもあります。ロイヤリティを支払わなければならない、本部のマニュアル・指示に従わなければならない、契約期間中(多くは10年以上)、立地変更などの業態変更ができない、契約終了後に同種事業を営むことができない、などが挙げられます。
24時間営業継続の問題と特に関連するのは、「本部のマニュアル・指示に従わなければならない」という点でしょう。これに違反した場合には、フランチャイズ契約を解除されるなどのリスクもあります。
そして、公正取引委員会が平成14年4月24日に公表した「フランチャイズ・システムに関する独占禁止法上の考え方について」(平成23年6月23日改正)(以下「フランチャイズ・ガイドライン」)では、【コンビニオーナーにとって、本部との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すため、本部の要請が自己にとって著しく不利益なものであっても、これを受け入れざるを得ないような場合】には、本部が優越的地位にあるものとしています。
また、これに該当するかどうかの判断にあたっては、
- (1)本部に対する取引の依存度(本部による経営指導等への依存度、商品・原材料等の本部・本部推奨先からの仕入割合等)
- (2)本部の市場における地位
- (3)コンビニオーナーが取引先(契約する本部)を変更できる可能性(初期投資の額、中途解約権の有無・内容、違約金の有無・金額、契約期間等)
- (4)本部・コンビニオーナーの事業規模の格差
等を総合的に考慮して判断するものとしています。
コンビニのフランチャイズ契約では、商品の仕入先が指定されていたり、本部の指導に従わなければならないとされていたりすることもあります。
また、店舗をオーナーが用意するタイプのフランチャイズ契約であれば、オーナーには店舗建設費などの初期投資があり、これを回収するまでは契約する本部を変更することができないということもあるでしょう。
もちろん、契約期間中の解約権がない、またはあっても制限されていれば解約は不可能ないし困難ですし、中途解約の場合に違約金が発生する場合には、額にもよりますが、事実上、解約に制限があることは否定しがたいでしょう。もっとも、本部も初期に経営指導などの初期投資をしていますので、これをロイヤリティで回収する前に解約されては損失となります。その意味で、解約権を制限する契約条項がすべて不当であるというわけでもありません。
本部がコンビニオーナーに対して「優越的な地位」にあるかどうかは、これらの要素を総合的に考慮して判断されますが、やはり本部の市場における地位や事業規模(上述の(2)と(4))も影響するためか、本部はコンビニオーナーに対して「優越的な地位」にあると判断されることも少なくないようです。公正取引委員会が平成22年11月30日に公表した「優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」(平成29年6月16日改正)(以下「優越的地位ガイドライン」)は、本部の優越的地位を認めた審決例として、平成10年7月30日の勧告審決、平成21年6月22日の排除措置命令を掲載しています。
(2)「濫用」とは
「濫用」とは、国語辞書に記載された意味合いとしては、「正当な基準、限度を超えた行為」とされています。換言すれば、「正当な基準、限度」を超えていなければ、(優越的地位の)「濫用」には当たりません。上述の「正常な商慣習に照らして不当に」とは、このことを示しています。
フランチャイズ・ガイドラインでは、フランチャイズ・システムによる営業を的確に実施するために必要な限度を超えて、一定の行為をして、正常な商慣習に照らしてオーナーに対して不当に不利益を与える場合には、優越的地位の「濫用」に該当するとされています。
商品の仕入先の指定には、本部のブランドイメージにそぐわない商品の取扱いを防いだり、オーナーが短期的な利益に固執して低品質な商品を仕入れようとするのを防ぐという、合理的な目的があります。
本部の指導に従わせることも、たとえば極端に低価格で販売されるとブランドイメージを損なったり、他のオーナーに影響が生じたりしますので、これらを防ぐという点では合理性があります。
そのため、このようなオーナーへの制限が、すべて不当である、濫用に当たるというわけではありません。
しかし、そのような正当、合理的な目的を超えて、オーナーに制限が課され、オーナーが不利益を被ることもあります。
フランチャイズ・ガイドラインでは、たとえば以下の行為が「濫用」に当たるとしています。
- 仕入先、清掃・内装工事業者について、正当な理由がないのに、本部や本部の指定する事業者とだけ取引させ、良質廉価で商品や役務を提供する他の事業者と取引させないこと
- 返品が認められないのに、その店舗で実際の販売に必要な範囲を超えて、仕入数量を指示し、その数量を仕入させること
- ロイヤリティの算出基準から、期限切れで廃棄することになった商品(いわゆる「廃棄ロス」)の原価を控除できない仕組みであるのに、正当な理由なく、品質が急速に低下する商品等の見切り販売を制限し、売れ残りとして廃棄することを余儀なくさせること
優越的地位ガイドラインは、「正常な商慣習に照らして不当に」の「正常な商慣習」とは、公正な競争秩序の維持・促進の立場から是認される商慣習をいい、現に存在する商慣習に合致していれば問題ないというわけではないことを明らかにしています。
(3) 24時間営業を継続するよう求めることは「優越的地位の濫用」か
この問題点について、公正取引委員会は、2020年4月末時点で公式見解を提示していません。そのため、以下は筆者の個人的見解である点、ご容赦ください。
本部がオーナーに対して優越的地位にあることについては、特段の事由がない限り、否定することは難しいでしょう。
そのため、24時間営業を継続して求めることが、「正常な商慣習に照らして」正当であるか、不当であるかが基準になると考えられます。
換言すれば、
- 24時間営業をしなければ、ブランドイメージを損なうほどの損害を本部が被るのか
- その損害は、24時間営業によるオーナーの負担(人件費、光熱費等)を認めても、回避すべきものであるのか
- その他、24時間営業を継続させる、本部側のメリットはあるのか
といった点が問題になりうるでしょう。
(令和2年8月31日作成)
3.2020年9月2日 コンビニエンスストア本部と加盟店との取引等に関する実態調査について
2020年9月2日 公正取引委員会は、「コンビニエンスストア本部と加盟店との取引等に関する実態調査報告書」を取りまとめました。
この調査の結果、
- (1)加盟店は、集客に必要な商標を本部から借り受け、小売業を営むために必要な機能の大半を本部に依存しているなどの状況から、本部との取引がなくなれば、コンビニ事業を継続できないオーナーも多いこと
- (2)契約期間が長く、オーナーの大半は資金力のない個人か中小企業であるため、解約金も考慮すると取引先を変更する余裕がない場合が多いと考えられること
- (3)加盟店へのアンケートにおいて、不当な取引上の要求を受け入れているのは、本部の意向に逆らうと契約校親等で不利益が生じるのではないかと思ったからであるという回答が多いこと
本部が加盟店に対して優越的な地位にあると認められる場合が多いと考えられるとしました。
その上で、「(今回の調査対象となった8チェーンにおいて)本部と加盟店とで合意すれば時短営業への移行が認められているところ、そのような形になっているにもかかわらず、本部がその地位を利用して協議を一方的に拒絶し、加盟者に正常な商慣習に照らして不当に不利益を与える場合には、優越的地位の濫用に該当し得る。」と結論づけました。
公正取引委員会は、さらに24時間営業等の問題を踏まえ、フランチャイズ・ガイドラインの改正を行う姿勢を明らかにしました。
ガイドラインの改正案の公表が待たれるところです。
(令和2年10月30日作成)