就業規則には、必ず記載しなければならない「絶対的記載事項」があります。
この絶対的記載事項には、どのようなものがあるのでしょうか?
また、就業規則を作成する際は、どのような点に注意する必要があるのでしょうか?
今回は、就業規則の絶対的記載事項や作成時の注意点などについて、社労士がくわしく解説します。
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就業規則の記載事項は3つに分類できる
就業規則の記載事項は、次の3つに分類できます。
はじめに、それぞれの概要を解説します。
絶対的記載事項
絶対的記載事項とは、就業規則に必ず記載しなければならない項目です。
就業規則の根拠法である労働基準法(以下、「労基法」といいます)では、次のように規定されています(労基法89条)。
- 常時10人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。次に掲げる事項を変更した場合においても、同様とする。
そのうえで、記載が必要である事項が列記されています。
就業規則にはこの絶対的記載事項を必ず記載しなければならず、絶対的記載事項が漏れている場合、就業規則の作成義務を果たしたことにはなりません。
ただし、必ずしもすべての絶対的記載事項を就業規則で直接定める必要はありません。
たとえば、賃金について別途賃金規定を設けたうえで、就業規則には「賃金規定で定める」旨を記載することもできます。
なお、就業規則は作成後に労働基準監督署へ届け出る必要がありますが、賃金規定などを別で設ける場合には、就業規則と併せて賃金規定なども届け出なければなりません。
相対的記載事項
相対的記載事項とは、定めがある場合に就業規則に記載しなければならない事項です。
絶対的記載事項と同じく労働基準法89条に列記されていますが、相対的記載事項は「労働者に食費、作業用品その他の負担をさせる定めをする場合においては、これに関する事項」など、「〇〇の定めをする場合においては」として記載すべき場面が限定されています。
つまり、特に定めがない場合は就業規則に記載する必要がない一方で、定めがある場合は就業規則に記載しなければならない項目が相対的記載事項です。
任意的記載事項
任意的記載事項とは、法律上に規定はないものの、就業規則に記載することができる事項です。
就業規則には「絶対的記載事項」と「相対的記載事項」だけしか記載してはいけないわけではなく、その他の項目も、公序良俗や法令に違反しない範囲で自由に記載することができます。
つまり、絶対的記載事項と相対的記載事項以外の項目は、すべて任意的記載事項です。
就業規則の絶対的記載事項
就業規則の絶対的記載事項について、一つずつ解説します。
- 労働時間
- 賃金
- 退職・解雇
労働時間
1つ目は、「始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて交替に就業させる場合においては就業時転換に関する事項」です。
それぞれのポイントを解説します。
- 始業及び終業の時刻
- 休憩時間
- 休日、休暇
- 労働者を2組以上に分けて交替に就業させる場合においては就業時転換に関する事項
始業及び終業の時刻
「労働時間は、1週間については40時間、1日については8時間とする」など労働時間を定めたうえで、始業時間と終業時間についても定めます。
また、始業時間や就業時間を繰り上げたり繰り下げたりできる旨を定められます。
休憩時間
休憩時間の開始時間や長さ、休憩をとる方法などを定めます。
休憩時間も、業務の都合などによって繰り上げたり繰り下げたりできる旨を定められます。
休日、休暇
休日は、法律上、「週1回付与する」など曜日を特定しなくても問題ありません。
ただし、可能な限り「土曜日及び日曜日」など曜日を指定することが望ましいでしょう。
休暇は、年次有給休暇や産前産後休業、育児休業、介護休業などを定めます。
また、夏季休暇や年末年始休暇など、会社が任意に与える休暇についても記載します。
労働者を2組以上に分けて交替に就業させる場合においては就業時転換に関する事項
交替勤務制を設ける場合の、交替の順番や時間などです。
賃金
2つ目は、「賃金(臨時の賃金等を除く)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項」です。
整理すると、ここで定めるべき事項は次のとおりです。
- 賃金の決定方法:「本人の職務内容、技能、勤務成績、年齢等を考慮して各人別に決定する」など、賃金の決め方
- 賃金の計算方法:残業代の計算方法や、欠勤の場合の計算方法など
- 賃金の支払方法:「労働者が指定した銀行口座への振込みにより支払う」など。ただし、労働者に対して直接、通貨で支払うことが法定されている
- 賃金の締切りと支払の時期:末日締め、翌月25日払いなど。ただし、毎月1回は支払うことが法定されている
- 昇給に関する事項:昇給の時期など
なお、就業規則で直接定めず、別途賃金規定で定めるとすることも可能です。
退職・解雇
3つ目は、退職や解雇に関する事項です。
ここでは、退職の手続きや自然退職なる事由、解雇の事由、定年などについて定めます。
退職や解雇については、トラブルに発展することが少なくありません。
そのため、社労士や弁護士などに相談したうえで、内容を慎重に検討することをおすすめします。
就業規則の相対的記載事項
次に、就業規則の相対的記載事項について解説します。
- 退職手当に関する事項
- 賞与や最低賃金額に関する事項
- 食費や作業用品などの負担に関する事項
- 安全衛生に関する事項
- 職業訓練に関する事項
- 災害補償、業務外の傷病扶助に関する事項
- 表彰、制裁に関する事項
- その他全労働者に適用される事項
退職手当に関する事項
退職金を支給するかどうかは、会社が自由に決められます。
退職金を支給する場合、就業規則にその額や計算方法などを定めましょう。
また、懲戒解雇をした場合など不支給となる事由を設ける場合は、その事由も記載します。
賞与や最低賃金額に関する事項
賞与を支給するかどうかは、会社が自由に決められます。
賞与を支給する場合は、支給の時期や支給の基準日などを記載します。
また、法定された最低賃金を超える額の最低賃金を会社が独自に保証する場合には、会社内での最低賃金を記載します。
食費や作業用品などの負担に関する事項
従業員の食費や作業用品代を一次的には会社が負担するものの、一部を従業員に負担させ、給与から天引きする場合などがあります。
その場合は、その旨を就業規則で具体的に定めなければなりません。
なお、業務に必要となる作業用品代を従業員に負担させること自体は違法ではありません。
ただし、雇入れ時に負担について明示することが必要とされています。
安全衛生に関する事項
安全衛生に関する事項とは、安全衛生法や施行令、施行規則などで規定されている事項のうち、その事業場において特に必要な事項の細目や、その他事業場の安全衛生上必要な事項などです。
たとえば、健康診断に関する事項やストレスチェックの実施に関する事項などがこれに該当します。
職業訓練に関する事項
職業訓練に関する事項とは、職業訓練の種類や内容、期間、対象の資格などに関する事項です。
訓練中の労働者に対して特別の権利義務を設定する場合や、訓練終了者に対して特別の処遇をする場合は、これらに関する規定も記載します。
災害補償、業務外の傷病扶助に関する事項
災害補償に関する事項とは、業務上の事由や通勤によって従業員が怪我などした場合における補償に関する事項です。
また、業務外の傷病扶助に関する事項とは、業務外で従業員が怪我などをした場合において、会社が独自に扶助をする場合の規定です。
表彰、制裁に関する事項
表彰については、たとえば永年勤続表彰など会社が従業員を表彰する制度を設ける場合に、表彰の事由や方法、時期などを定めます。
一方、制裁とは従業員に何らかの問題行動があった場合に、出勤停止や減給、降格、解雇などをするために必要となる規定です。
制裁の種類や程度、手続きなどを定めます。
特に制裁についてはトラブルとなることが少なくないため、厳格な定めが必要です。
また、たとえば「一度遅刻したら懲戒解雇とする」など制裁が重すぎる場合は、いくら就業規則で定めても無効となる可能性が高いでしょう。
そのため、バランスに注意しなければなりません。
その他全労働者に適用される事項
その他、その事業場のすべての労働者に適用される事項も、相対的記載事項です。
たとえば、旅費規程や福利厚生に関する事項などがこれに該当します。
就業規則の任意的記載事項
就業規則の任意的記載事項には、法令や公序良俗に反しない限り、どのような内容を定めても構いません。
一般的には、次の事項などを記載することが多いでしょう。
- 企業理念
- 就業規則の基本精神の宣言
- 就業規則の適用範囲に関する事項(正社員用の就業規則とパートタイマー用の就業規則を分けて作成する場合などに、その就業規則の対象者を定める)
- 就業規則の解釈に関する事項
- 服務規律
- 採用手続きに関する事項
- 副業に関する事項
就業規則作成の注意点
就業規則を作成する際は、どのような点に注意すればよいのでしょうか?
最後に、就業規則作成の注意点を4つ解説します。
法律の最低基準を下回る規定は無効となる
労働条件については、労基法などの法令で基本的な事項が定められています。
就業規則で法令の定めを修正することはできるものの、原則として法令の最低基準を下回る規定を設けることはできません。
たとえば、労基法では休憩について「使用者は、労働時間が6時間を超える場合においては少くとも45分、8時間を超える場合においては少くとも1時間の休憩時間を労働時間の途中に与えなければならない」との規定があります(労基法34条)。
これについて、労働時間が8時間を超える場合における休憩時間を、就業規則で90分と定めることは可能です。
法令よりも、従業員にとって手厚くなっているためです。
一方、労働時間が8時間を超える場合の休憩時間を40分に短縮することはできません。
同様に、民法では「当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から2週間を経過することによって終了する」旨の規定があります(民法627条1項)。
これに反して、就業規則で「退職の申し入れは1か月前までにしなければならない」などと定めること自体は可能です。
しかし、法令の基準である2週間を超える期間は会社からのお願いでしかなく、申入れから1か月を経過するまで退職しないよう強要することはできません。
このように、就業規則を作成する際は法令の基準を確認したうえで、法令の基準を下回らないよう注意する必要があります。
自社に合った内容で作成する
就業規則は、厚生労働省からモデル就業規則が公表されています。
ほかにも、雛形やテンプレートなどは簡単に見つかることでしょう。
しかし、モデル就業規則やテンプレートをそのまま活用することはおすすめできません。
なぜなら、これらは一般的な内容で作成されており、自社の実情に合っていないことが多いためです。
特に、厚生労働省のモデル就業規則には手当や休暇などが多く盛り込まれています。
実際には支給するつもりのない手当や設けるつもりのない休暇が記載された就業規則を作成してしまうと、従業員からその手当の支給や休暇の使用を求められトラブルとなるかもしれません。
そのため、モデル就業規則などをもとにするとしても、自社に合った内容へとカスタイマイズする必要があります。
作成後は労働基準監督署への届出が必要となる
就業規則を作成したら、行政官庁(労働基準監督署)へと届け出なければなりません。
届出を忘れると罰則が適用される可能性があるため注意が必要です。
なお、就業規則を届け出る際は、就業規則に関して従業員代表者から意見を聴き、その意見を記した意見書を添付する必要があります。
従業員に周知する必要がある
せっかく就業規則を作成しても、周知されていなければ就業規則は無効となるおそれがあります。
たとえば、一定期間休職した従業員について就業規則の定めに従って雇用契約を終了させようとした場合、就業規則が周知されていなければ、雇用契約を終了させられない可能性があります。
そのため、就業規則を作成したら、必ず従業員に周知しましょう。
従業員に周知させる方法は、事業場の見やすい場所に貼り出したり、システム上に格納し事業場に設置したモニターで閲覧させたりする方法などが挙げられます。
一部の従業員しか入室できない部屋に貼り出した場合や、一部の従業員しかシステムにアクセスする権限を有していない場合は周知したとは認められない可能性が高いことには注意が必要です。
まとめ
就業規則の絶対的記載事項や相対的記載事項などについて解説しました。
就業規則は会社が自由に作成できるものではなく、記載すべき事項が法令で定められています。
また、各条項の内容は、法令の基準を下回ることができません。
就業規則の作成には注意点が少なくないうえ、一度作成すると従業員にとって不利益となる変更は困難です。
そのため、就業規則の作成は「とりあえずモデル就業規則をそのまま使おう」などとは考えず、はじめから社労士のサポートを受けて慎重に行うようにしてください。
Authense社会保険労務士法人は就業規則の作成サポートに力を入れており、さまざまな業種においてサポート実績があります。
就業規則の作成をご検討の際は、Authense社会保険労務士法人までご相談ください。