コラム
公開 2024.02.24 更新 2024.02.28

単体8_新規_就業規則がない会社は違法?社労士がわかりやすく解説

就業規則は、その企業における働き方のルールを定めた規程です。
中には、就業規則がない会社もあります。

では、就業規則がない会社には、どのようなパターンがあるのでしょうか?
また、就業規則がない場合、会社にどのようなデメリットが生じる可能性があるのでしょうか?

今回は、就業規則がない場合のデメリットや就業規則がないことでトラブルが生じた場合の対処法などについて、社労士が詳しく解説します。

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就業規則とは

就業規則とは、事業場で働く労働者の労働条件や服務規律などを定めるものです。

就業規則では、会社の休日や休憩時間、賃金の算定方法などについて定めます。
つまり、会社で働く上でのルールを定めたものが、就業規則であるということです。

就業規則がない2つのパターン

すべての会社に、就業規則があるわけではありません。
中には、就業規則がない会社もあります。

では、就業規則がない会社は、すべて違法なのでしょうか?
ここでは、2つのパターンについて解説します。

なお、就業規則がある場合、会社は従業員に対して就業規則の内容を周知しなければなりません。
そのため、勤務先の会社に就業規則がある場合は、従業員が就業規則を閲覧できる状態となっているはずです。

従業員が10人未満であり法律上作成が義務づけられていない場合

就業規則の作成はすべての会社に対して義務付けられているわけではありません。
常時10人以上の従業員を使用する使用者に対してだけ義務付けられています(労働基準法89条)。

そのため、従業員が10人未満の会社は、就業規則がなくても違法ではありません。
ただし、就業規則を作成することで会社のルールが明確となるほか労使トラブルを防ぎやすくなるため、従業員が10人未満であってもあえて就業規則を作成している会社はあります。

なお、従業員が10人以上であるかどうかは、正社員のみならず、パートやアルバイト従業員の数も含めてカウントされます。
また、退職者が出たことなどによって一時的に10人を下回る場合であっても、10人以上の従業員を雇用していることが通常の状態である場合は、就業規則の作成が義務となります。

作成義務があるにもかかわらず作成していない場合

常時10人以上の従業員を雇用している場合は、就業規則を作成し労働基準監督署へ届出なければなりません。
これに該当するにもかかわらず就業規則がない企業は、労働基準法に違反しています。

ここでは、就業規則がないといえるかどうか迷いがちなケースを3つ解説します。

就業規則はあるものの周知されていない場合

中小企業の中には、就業規則はあるものの社長のパソコンや机の中などにしまい込まれており、従業員がその存在さえ知らないこともあります。
この場合は、「就業規則がある」とはいえません。

就業規則は単に作成だけをすればよいのではなく、従業員に周知してはじめて効力を生じるものであるためです。
従業員への周知方法としては、次の方法などが挙げられます(同106条1項、労基法施行規則52条の2)。

  1. 各作業場の見やすい場所へ常時掲示するか、常時備え付ける
  2. 各従業員に書面を交付する
  3. その他の厚生労働省令で定める方法(常時モニター画面などで確認できるようにすること)

就業規則があるものの周知できていない場合は、周知の方法を早急に検討し周知を行いましょう。

賃金規程がない場合

就業規則はあるものの、賃金規程がない場合もあります。

賃金規程とは、給与に関する部分のみを抜き出した規程です。
賃金規程は必ずしも就業規則と別で作成すべきものではなく、就業規則に賃金に関する規定を盛り込んでいる場合は、賃金規程を別途作成する必要はありません。

ただし、賃金に関する規定について就業規則で「別途賃金規程で定める」などと記載したにもかかわらず賃金規程がない場合は、就業規則に不備があることとなります。
この場合は、早急に賃金規程を作成しましょう。

パート従業員用の就業規則がない場合

正社員とパート従業員とでは、雇用の条件などが異なることも多いでしょう。
そこで、正社員用とパート従業員用とで、就業規則を分けることが少なくありません。
この場合は、就業規則内に「この就業規則は正社員に適用する」などの規定を設けて、適用対象者を限定することとなります。

しかし、正社員用の就業規則はあるものの、パート従業員用の就業規則がない場合もあります。
この場合は、パート従業員に適用される就業規則がないこととなるため、常時10人以上を雇用する事業所であれば労働基準法に違反します。

労働基準法ではパート従業員を含めたすべての従業員について就業規則を作成することを求めており、正社員用だけ作成すればよいわけではないためです。
パート従業員用の就業規則がない場合は、早急に作成へ取り掛かりましょう。

会社に就業規則がないデメリット

就業規則がない場合、会社にとって多くのデメリットが生じる可能性があります。
ここでは、就業規則がないことで生じ得る会社にとっての主なデメリットを7つ紹介します。

(義務がある場合)罰則の適用対象となる

従業員数から見て就業規則の作成義務があるにも関わらず就業規則がない場合は、労働基準法に違反しています。
この場合は罰則の適用対象となり、30万円以下の罰金に処される可能性があります(同120条)。

減給や懲戒解雇が困難となる

会社が従業員に対して懲戒解雇などの懲戒処分を下すには、原則として就業規則による根拠が必要です。
就業規則がない場合には懲戒の根拠となる規定が存在しないことから、問題行動を起こす従業員がいたとしても、減給や解雇など懲戒処分をすることが困難です。

就業規則がないにもかかわらず懲戒解雇などをしてしまうと、解雇した従業員から訴訟を提起されるなど、さらなるトラブルに発展する可能性があります。

長期休職者への対応が困難となる

就業規則がないと、病気などによる長期休職者への対応が困難となります。

会社としては、たとえ病気などのやむを得ない事情であったとしても、長期間休職して職務にあたらない従業員を雇用し続けることは難しいでしょう。
そこで、就業規則で休職期間に一定の制限を設けたうえで、その期間中による復職が難しい場合は退職することと定めることが一般的です。

一方で、就業規則がない場合は休職期間や復職に関する取り扱いが不明瞭であり、休職期間中の給与や退職についてトラブルとなる可能性が高くなります。

会社のルールが曖昧になりやすい

就業規則がないと、会社のルール(服務規程)があいまいとなります。
そのため、会社の秩序が保たれにくくなるおそれがあるほか、望ましくない行為をした従業員を解雇することなども困難です。

就業規則で服務規程を定めることで会社のルールが明確となり違反の抑止力となるほか、違反時の対応もしやすくなります。
就業規則で定める服務規程の内容は会社によって異なりますが、たとえば次の内容などを定めることが多いでしょう。

  • ハラスメント(セクハラ・パワハラ)の禁止
  • 取引先とのリベート授受の禁止
  • 機密情報の取り扱い
  • 通勤への自家用車使用のルール
  • 酒気を帯びての職務の禁止
  • 貸与物品や社用車の取り扱い

採用で不利となりやすい

求職者の中には、会社には就業規則があるものと考える人も少なくありません。
就業規則がない場合は求職者が不安になり、人材採用において不利となるおそれがあります。

助成金の活用がしづらくなる

助成金とは、要件を満たして申請することで、国などから返済不要な資金を受け取れる制度です。
厚生労働省は人材雇用や人材育成に関する多くの助成金制度を設けており、これをうまく活用することで事業の拡大につなげやすくなります。

助成金の受給要件はさまざまですが、多くの助成金で就業規則の存在が要件とされています。
そのため、会社に就業規則がない場合は助成金を活用しづらくなります。

高齢になった従業員に辞めてもらいづらくなる

多くの会社が定年制を設けており、従業員が一定の年齢に達したら退職することとしています。
しかし、定年制を採用するには、就業規則や雇用契約書にその旨が明記されていなければなりません。

そのため、就業規則がなく雇用契約書にも定年についての定めがない場合は、従業員が高齢になって就業が難しくなったとしても、会社が一方的に雇用契約を打ち切ることができません。

就業規則に定めるべき事項

就業規則には、どのような内容を定める必要があるのでしょうか?
ここでは、就業規則に定めるべき事項の概要について解説します(同89条)。
トラブル発生時の対応がスムーズとなる就業規則の作成をご希望の際は、社労士や弁護士などの専門家へご相談ください。

絶対的記載事項

絶対的記載事項とは、就業規則に必ず定めなければならない事項です。
就業規則の絶対的記載事項は、次のとおりです。

  1. 始業および終業の時刻、休憩時間、休日、休暇に関する事項
  2. 賃金の決定、計算および支払いの方法、賃金の締切りおよび支払い時期ならびに昇給に関する事項
  3. 退職(解雇に関する事項を含む)に関する事項

相対的記載事項

相対的記載事項とは、定めがある場合には就業規則に記載する必要がある事項です。
会社が内々に定めを置いたとしても、就業規則に記載しなければ効力が生じません。

就業規則の主な相対的記載事項は次のとおりです。

  1. 退職手当に関する事項
  2. 臨時の賃金(賞与)、最低賃金額に関する事項
  3. 食費、作業用品などの負担に関する事項
  4. 安全衛生に関する事項
  5. 職業訓練に関する事項
  6. 災害補償、業務外の傷病扶助に関する事項
  7. 表彰、制裁に関する事項
  8. その他、すべての労働者に適用される事項

任意的記載事項

任意的記載事項とは、会社が任意に就業規則に定めることができる事項です。
任意的記載事項は「任意」である以上、公序良俗に反しない限りどのような定めを置いても構いません。

一般的には、次の事項などを定めることが多いでしょう。

  1. 社是や社訓、企業理念
  2. 就業規則が適用される従業員の範囲
  3. 服務規律に関する規定(ハラスメントの防止や、機密情報の保護など)
  4. 異動に関する規定
  5. 試用期間に関する規定
  6. 休職に関する規定

就業規則がないことでトラブルとなった場合の対処法

就業規則がないことで労使トラブルに発展した場合、どのように対処すればよいのでしょうか?
最後に、トラブル発生時の対応について解説します。

早期に弁護士へ相談する

就業規則がないことによって労使トラブルが生じたら、労使トラブルに詳しい弁護士へ早期にご相談ください。
トラブルに発展している以上、従業員はすでに弁護士へ相談している可能性があります。

また、会話を録音されている可能性もあり、不用意な発言をしてしまえば会社にとって不利となってしまいかねません。
そのため、トラブル発生時には早期に弁護士へ相談し、必要に応じて代理で交渉してもらうことをおすすめします。

就業規則を作成する

本来であれば、労使トラブルが発生する前に就業規則を作成しておくべきです。
なぜなら、就業規則があることで防ぐことのできるトラブルは少なくないほか、トラブル発生時の対応もスムーズとなりやすいためです。

しかし、すでにトラブルが発生してしまった場合は、トラブルの沈静化と並行して就業規則の作成に取り掛かることをおすすめします。
トラブルをきっかけとして就業規則を作成することで、以後同じようなトラブルが生じる事態を防ぎやすくなるためです。

なお、トラブル抑止につながる就業規則は、厚生委労働省のテンプレートをそのまま使用するだけでは十分とはいえません。
そのため、就業規則を作成する際は、社労士や弁護士などの専門家へご相談ください。

まとめ

就業規則の作成義務や、就業規則がない会社のデメリットなどについて解説しました。
常時使用する従業員が10人以上である場合は、パートやアルバイトを含むすべての従業員を対象とした就業規則を作成し、労働基準監督署へ届出なければなりません。

また、従業員数が10人未満の場合でも、トラブル抑止のためには就業規則を作成することをおすすめします。
就業規則がないと従業員の懲戒解雇や定年による雇用契約の解除が難しくなるほか、助成金の活用がしづらくなったり会社のルールがあいまいとなったりするデメリットが生じるためです。

しかし、自社に合った就業規則を作成することは容易ではありません。
そのため、就業規則の作成は社労士や弁護士などの専門家のサポートを受けて行うようにしてください。

Authense社会保険労務士法人では就業規則の作成支援に力を入れています。
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