就業規則の閲覧を従業員から求められたものの、閲覧させたくないと考える場合や、そもそも就業規則がどこにあるのか経営者でさえわからなくなっている場合もあるようです。
就業規則は従業員に閲覧させなくてもよいのでしょうか?
また、従業員に就業規則を閲覧させるには、どのような方法があるのでしょうか?
今回は、就業規則の閲覧について社労士が詳しく解説します。
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就業規則とは
就業規則とは、労働者の賃金や労働時間などの労働条件に関することや職場内の規律などについて定めた職場における規則集です。
パートやアルバイトを含めて従業員が10人以上である事業所では就業規則の作成と労働基準監督署への届出が義務化されています。
従業員が10人未満であっても、職場におけるルールを明確にするためには、就業規則を作成することが望ましいでしょう。
就業規則の内容を労働基準法の内容よりも不利とすることは、原則として認められません。
そのため、就業規則を作成する際は、社会保険労務士(社労士)や弁護士などの専門家へ相談のうえ、適法な内容とすることが必要です。
なお、就業規則と混同されがちなものに労働契約があります。
労働契約とは、その従業員の労働条件について、企業と従業員個人との間で締結する契約です。
就業規則では事業所全体のルールについて定め、より細かい部分や個人差がある部分などについて労働契約で定めるイメージです。
ただし、個々の従業員と締結する労働契約を従業員全体に適用される就業規則の内容よりも不利とすることは、原則として認められません。
企業が就業規則を作成する主な目的
就業規則は、どのような目的で作成するものなのでしょうか?
ここでは、企業が就業規則を作成する主な目的を3つ解説します。
労働基準法違反による罰則の適用を避けるため
1つ目は、労働基準法違反による罰則の適用を避けるためです。
先ほど解説したように、従業員が10人以上である会社では就業規則の作成が義務付けられています。
従業員が10人以上いるにもかかわらず就業規則を作成しない場合や、作成していても労働基準監督署へ届け出ていない場合は、30万円以下の罰金の対象となります。
従業員が十数人程度の会社では、労働基準法による義務を果たす目的で就業規則を作成するケースが多いでしょう。
労使トラブルを避けるため
2つ目は、労使トラブルを抑止するためです。
就業規則がないと、職場での規律が曖昧になってしまいがちです。
たとえば、従業員が欠勤を繰り返したとしても、就業規則がなければ解雇することは困難でしょう。
また、欠勤中の給与などの取り扱いについても、従業員と個別に話し合って決めなければなりません。
さらに、その結果従業員同士の待遇に差が生じてしまうと、これが原因でトラブルに発展する可能性もあります。
就業規則がなければ、原則として従業員を懲戒解雇することもできません。
就業規則があることで、「働き方」についてのルールが明確となり、画一的な対応がとりやすくなります。
また、会社のルールや違反した場合の懲戒についても定めることで、トラブルの抑止力となるほか、トラブル時の対応がスムーズとなる効果も期待できます。
このように、就業規則の作成は経営者にとってもメリットが少なくありません。
このような目的を持っている企業は、従業員が10人未満であっても就業規則を作る傾向にあります。
コンプライアンスを徹底するため
3つ目は、コンプライアンスを徹底するためです。
就業規則の整備は、労使関係のコンプライアンスを徹底していく第一歩目となります。
就業規則を作成し、これをきっかけに社労士や弁護士などによるアドバイスを受けることで、より法令を遵守したクリーンな経営へとつながります。
今後会社の規模を拡大していきたい場合は、比較的小規模の段階からコンプライアンスを意識して就業規則の作成に取り組むことが多いでしょう、
就業規則は従業員に閲覧させる必要がある?
作成した就業規則は、従業員に閲覧させる必要があるのでしょうか?
ここでは、順を追って解説します。
従業員は就業規則をいつでも閲覧できる
就業規則などについて定めている労働基準法では、就業規則について「常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること、書面を交付することその他の厚生労働省令で定める方法によつて、労働者に周知させなければならない」と規定されています(労基法106条1項)。
そのため、従業員から求めがあった場合は、就業規則を閲覧させなければなりません。
そもそも、本来は従業員があえて会社に閲覧を求めるまでもなく、従業員が自ら掲示や交付された書面を見ることで確認できるはずのものです。
ここでは、会社が迷いがちであるケースにおける対応について解説します。
対応に迷う場合は、社労士や弁護士などの専門家へご相談ください。
パートやアルバイト従業員に就業規則を閲覧させる必要はあるか
パートタイマーやアルバイトスタッフに対しても、正社員と同様に就業規則を閲覧させる義務があります。
就業規則は正社員のみならず、パートやアルバイト従業員に対しても適用されるものであるためです。
入社前に就業規則を閲覧させる必要はあるか
入社前の従業員(内定者)に対しても、就業規則を閲覧させる必要があります。
内定者から閲覧を求められた際に閲覧させればよいものではなく、その内定者に対して入社後に就業規則を適用したいのであれば、労働契約の締結までに就業規則を周知しなければなりません。
労働契約の締結(入社)時点までに就業規則を閲覧させなかった場合は、その人に対して就業規則が適用できなくなるおそれがあります。
休職中の従業員に就業規則を閲覧させる必要はあるか
休職中の従業員も従業員である以上、就業規則を閲覧させる義務があります。
ただし、その休職者の事情に応じて自宅への郵送など個別に対応する必要まではなく、通常どおり作業所内への掲示や会社のパソコンモニターでの閲覧などの方法をとれば問題ありません。
退職後の従業員に就業規則を閲覧させる必要はあるか
すでに退職した従業員から就業規則の閲覧を求められた場合、会社がこれに応じる義務はありません。
そのため、閲覧に応じるかどうかは会社の判断となります。
社外のメンバーに就業規則を閲覧させる必要はあるか
業務の委託先など、従業員ではない社外のメンバーに対して就業規則を閲覧させる義務はありません。
閲覧させない場合は罰則の対象になる
就業規則を閲覧させる義務があるにもかかわらず従業員に閲覧させない場合、その行為者や事業主は、30万円以下の罰金の対象となります(同120条1項1号、121条)。
従業員に就業規則を閲覧させる主な方法
従業員に就業規則を閲覧させるには、どのような方法をとればよいのでしょうか?
ここでは、閲覧や周知の方法について解説します。
社内に掲示する
1つ目は、就業規則を常時各作業場の見やすい場所へ掲示するか、備え付ける方法です。
社内のどこに掲示してもよいわけではなく、「見やすい場所」への掲示や備え付けが求められます。
そのため、たとえば社長室のデスクにしまい込んである状態はこれにあたらないでしょう。
また、「常時」掲示や備え付けが必要であり、一時的に掲示したり備え付けたりするだけでは不十分です。
個々の従業員に配布する
2つ目は、就業規則をプリントアウトしたものを、個々の従業員に配布する方法です。
ただし、この場合は配布した就業規則の取り扱いについてリスクが残ります。
就業規則を配布すると、このコピーを第三者に渡したりインターネット上に掲示したりする従業員が現れる可能性があるためです。
社内のデータベースに掲載する
3つ目は、社内のデータベースに掲載し、これを画面上で閲覧させる方法です。
この方法によって就業規則を周知している会社が多いでしょう。
なお、この場合は次の要件を満たすことが必要です(平成9年10月20日基発第680号)。
- 各労働者に、就業規則等を電子的データとして取り出すことができるよう、電子機器の操作の権限が与えられていること
- 事業場における各労働者に対して、必要なときに就業規則等の内容を容易に確認できるよう、電子機器から電子的データを取り出す方法が周知されていること
そのため、システム内に格納されているもののそのパソコンを使う権限が一部の従業員にしか与えられていない場合や、システムのわかりづらい場所に格納されており確認方法が周知されていない場合は、これをもって就業規則を周知しているということは困難です。
コピーの持ち出しを認める義務まではない
従業員から、就業規則のコピーの配布や持ち出しを求められることもあるでしょう。
しかし、法律上、就業規則のコピーや持ち出しにまでに応じる義務はありません。
コピーなどに応じてしまうと、そのコピーが外部に流出するなど不適切な使われ方をする可能性もあります。
コピーまでを認めるかどうかは慎重に判断すべきでしょう。
従業員は労働基準監督署で就業規則の閲覧ができる可能性がある
会社が従業員に就業規則を閲覧させることを拒否する場合、従業員は管轄の労働基準監督署で相談することで、就業規則の閲覧をする道があります。
ただし、従業員がいきなり労働基準監督署を訪問して閲覧できるものではなく、会社に閲覧を求めたものの拒否されたなど、一定の事情の存在が必要です。
繰り返しお伝えしているように、会社は従業員に就業規則を閲覧させる義務があります。
そうであるにも関わらず、会社に閲覧を拒否される状態となっており、その結果従業員が労働基準監督署に対して閲覧を求める事態となった場合には、労働基準監督署から会社に対して指導がなされる可能性があります。
就業規則の閲覧をさせないデメリット
就業規則を従業員に閲覧させないことは違法であるばかりでなく、さまざまなデメリットが生じる可能性があります。
最後に、就業規則を閲覧させないことの主なデメリットを3つ解説します。
罰則の対象となる
先ほど解説したように、就業規則の周知は労働基準法で定められた義務です。
就業規則を閲覧させない場合は、行為者や事業主に対して30万円以下の罰金が課される可能性があります(同120条1項1号、121条)。
就業規則が無効となる可能性がある
就業規則があっても、その内容が従業員に周知されていない場合は、せっかく作成した就業規則が無効と判断される可能性があります。
たとえば、長期間休職した従業員や会社の服務規定に反した従業員を就業規則の規定に従って解雇しようとしたものの、その従業員に対してこれまで就業規則が周知されていなかった場合、解雇が無効とされる可能性があるでしょう。
企業イメージが低下する可能性がある
就業規則の周知義務があることなど、従業員は知らないだろうと考えるかもしれません。
しかし、詳しい内容や法的根拠までは知らなかったとしても、就業規則の周知義務があることなどは、インターネットで検索すればすぐにわかることです。
そうであるにもかかわらず就業規則が周知されておらず、また閲覧を求めても拒否された場合などは、従業員による会社への信頼が揺らぐ可能性が高いでしょう。
また、SNSやインターネット上の転職掲示板などに投稿され、会社のイメージが低下するおそれもあります。
まとめ
就業規則は単に作成さえすればよいものではなく、従業員に対して周知しておくべきものです。
そのため、従業員から閲覧を求められた際に閲覧に応じるべきであるのはもちろんのこと、本来はあえて閲覧を求められるまでもなく、作業所内に掲示したりパソコンのモニターで確認できるようにしたりしなければなりません。
ただし、コピーの持ち出しまでを認める必要はないでしょう。
従業員や内定者などから就業規則の閲覧を求められて対応にお困りの際は、社労士や弁護士などの専門家へご相談ください。
Authense社会保険労務士法人では、企業の現状に即した就業規則の作成や、労使にまつわるコンプライアンス整備を支援しています。
就業規則の作成でお困りの際や、就業規則を従業員に周知するための体制整備でお悩みの際、その他労使関係のコンプライアンス整備をご検討の際などには、Authense社会保険労務士法人までまずはお気軽にご相談ください。