景品表示法(景表法)とは、不当な表示や景品によって消費者を誘引することのないよう、消費者保護の目的で設けられている法律です。
景表法では、どのような規制がされているのでしょうか?
また、景表法の規制に違反すると、どのような事態が生じるのでしょうか?
今回は、景表法の規制内容や違反をしてしまった場合の罰則などについて、弁護士が詳しく解説します。
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景品表示法(景表法)とは
景品表示法は、正式名称を「不当景品類及び不当表示防止法」といい、「景表法」と略されることも少なくありません。
景表法の目的は、「商品及び役務の取引に関連する不当な景品類及び表示による顧客の誘引を防止するため、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれのある行為の制限及び禁止について定めることにより、一般消費者の利益を保護すること」です(景表法1条)。
一般的に、消費者は自身の購入する商品やサービスについて、詳細を調べることは困難です。
たとえば、あるセーターAが「カシミヤ100%」と表示されていれば、それが正しいとの前提に立って商品を選ぶほかないでしょう。
似たデザインの「カシミヤ80%」のセーターBが同程度の価格で並べて売られていれば、カシミヤ100%の方を選ぶ可能性があります。
しかし、実際にはセーターAのカシミヤ混用率が60%だったのであれば、消費者は嘘の表示によって選択を阻害されたといえるでしょう。
このような事態を防ぎ、消費者が自主的かつ合理的に自身の購入する商品やサービスを選べる環境を実現するため、景表法が設けられています。
景表法は、主に次の2つの記載内容から成っています。
- 不当表示の禁止
- 景品類の制限および禁止
ここでは、それぞれの概要について解説します。
景表法の規制内容1:不当表示の禁止
景表法の規制内容の1つ目は、不当表示の禁止です。
先ほど解説したように、商品やサービスの表示が実際とは異なるものとなっていると、消費者が自主的かつ合理的に商品やサービスを選ぶ機会が阻害されてしまいかねません。
そこで、不当表示を禁止する旨の規定が設けられています。
不当表示の禁止は、「優良誤認表示」と「有利誤認表示」、そして「指定告示」の3つに分類されます。
優良誤認表示
優良誤認表示とは、事業者が自己の供給する商品やサービスの取引において、その品質や規格その他の内容について一般消費者に対して行う次の表示であって、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められる表示です(同5条1項)。
- 実際のものよりも著しく優良であると示すもの
- 事実に相違して競争関係にある事業者に係るものよりも著しく優良であると示す次の表示であり、
消費者庁のホームページによると、たとえば次のものがこれに該当することとされています。※1※2
- カシミヤ混用率が80%程度のセーターに「カシミヤ100%」と表示した
- 「この技術を用いた商品は日本で当社のものだけ」と表示していたが、実際は競争業者も同じ技術を用いた商品を販売していた
- 販売する中古自動車の走行距離を3万kmと表示したが、実は10万km以上走行した中古自動車のメーターを巻き戻したものだった
- 国産有名ブランド牛の肉であるかのように表示して販売していたが、実はブランド牛ではない国産牛肉だった
- 医療保険について「入院1日目から入院給付金をお支払い」と表示したが、入院後に診断が確定した場合、その日からの給付金しか支払われないシステムだった
- 天然ダイヤを使用したネックレスのように表示したが、使われているのはすべて人造ダイヤだった
有利誤認表示
有利誤認表示とは、事業者が自己の供給する商品やサービスの取引において、価格その他の取引条件について、一般消費者に対して行う次の表示であって、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められる表示です(同5条2項)。
- 実際のものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認されるもの
- 競争事業者に係るものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認されるもの
消費者庁のホームページによると、たとえば次のものがこれに該当することとされています。※1※3
- 当選者の100人だけが割安料金で契約できる旨表示していたが、実際には、応募者全員を当選とし、全員に同じ料金で契約させていた
- 「他社商品の2倍の内容量です」と表示していたが、実際には、他社と同程度の内容量にすぎなかった
- 外貨定期預金について、外貨預金の受取利息を手数料抜きで表示したが、実質的な受取額は表示の3分の1以下になってしまう
- 運送会社が基本価格を記載せずに、「今なら半額!」と表示したが、実は50%割引とは認められない料金で仕事を請け負っていた
指定告示
景表法では、急速な時代の変化に対応するため、ここまで紹介した優良誤認表示と有利誤認表示のほか、内閣総理大臣が指定する一定の表示についても禁止することとしています(同5条3項)。
2023年12月現在、これには次の6つの告示が定められています。
- 無果汁の清涼飲料水等についての表示(昭和48年公取委告示第4号)
- 商品の原産国に関する不当な表示(昭和48年公取委告示第34号)
- 消費者信用の融資費用に関する不当な表示(昭和55年公取委告示第13号)
- 不動産のおとり広告に関する表示(昭和55年公取委告示第14号)
- おとり広告に関する表示(平成5年公取委告示第17号)
- 有料老人ホームに関する不当な表示(平成16年公取委告示第3号)
自社で取り扱う商品やサービスに関連する告示についてはよく確認し、禁止されている内容を理解しておいてください。
景表法の規制内容2:景品類の制限および禁止
景表法の規制内容の2つ目は、景品類の制限と禁止です。
商品やサービスに過大な景品が付けられていると、消費者が過大な景品に惑わされて質の良くないものを購入してしまったり、商品そのものではなく景品による競争がエスカレートして商品の質が低下したりすることが懸念されます。
そこで、景品類の価額の最高額や総額などに関する規制が設けられています。
景品類の定義
景品表示法で規制される「景品類」とは、次の3つの要件をすべて満たすものを指します。
- 顧客を誘引するための手段として
- 事業者が自己の供給する商品・サービスの取引に付随して提供する
- 物品、金銭その他の経済上の利益
これらに該当する「景品類」を提供しようとする際は、景表法の規制に違反しないよう注意が必要です。
共同懸賞
「懸賞」とは、くじやじゃんけんなどの偶然性や特定行為の優劣などによって景品類を提供することを指します。
懸賞には「共同懸賞」と「一般懸賞」とがあり、このうち共同懸賞とは、複数の事業者が共同して行う懸賞です。
たとえば、商店街やショッピングモールの店舗、同業者が集まる団体が共同で行う抽選会などが、この共同懸賞に該当します。
共同懸賞の場合における景品類限度額規制は次のとおりです。
- 景品総額:懸賞に係る売上予定総額の3%まで
- 景品最高額:取引価額にかかわらず30万円まで
一般懸賞
一般懸賞とは、共同懸賞以外の懸賞です。
たとえば、抽選券やじゃんけん大会で景品類を提供するものや、クイズなどの回答の正誤により景品類を提供するものなどがこれに該当します。
一般懸賞の場合の景品類限度額規制は、次のとおりです。
- 景品総額:懸賞に係る売上予定総額の2%まで
- 景品最高額
- 取引価額が5,000円未満の場合:取引価額の20倍まで
- 取引価額が5,000円以上の場合:10万円まで
総付景品
総付景品とは、一般消費者に対して懸賞によらずに提供される景品類です。
商品やサービスの利用者などにもれなく提供するもののほか、先着順で提供されるものなどがこれに該当します。
総付景品の場合の景品類限度額規制は、次のとおりです。
- 景品総額:規制なし
- 景品最高額
- 取引価額が1,000円未満の場合:200円まで
- 取引価額が1,000円以上の場合:取引価額の10分の2まで
景表法に違反するとどうなる?
景表法に違反すると、どのような事態が生じるのでしょうか?
景表法に違反した場合に生じる主なリスクを3つ解説します。
罰則の対象となる
景表法に違反すると、消費者庁などからの調査がなされることとなります。
その結果問題があると判断されると、消費者庁などによる指導や命令の対象となります。
この命令に従わない場合は、行為者が2年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金またはこれらの併科に処される可能性があるほか、法人も別途3億円以下の罰金刑の対象となります(同36条、同38条1項)。
課徴金の対象となる
景表法では、課徴金制度が設けられています。
課徴金とは、違反行為によって得た利益のうち一定額の納付を命じることで、違反を未然に抑止するために設けられている制度です。
刑事罰や罰則のみでは、違反行為によって高額な収益を得られる企業への抑止力としての効果は弱いでしょう。
極端な例ですが、違反行為によって100億円もの儲けを得られるのであれば、法人に対して3億円の罰金が処されるリスクがあったとしても、違反行為をすると判断されるおそれがあるということです。
そのような事態を避けるため、課徴金制度が設けられています。
景表法に違反した場合の課徴金は、原則として違反にかかる商品やサービスの売上額の3%です。
ただし、売上金計算の最長期間は3年とされているほか、課徴金額が150万円未満となる場合は課徴金を賦課しないこととされています。
企業の信用にキズがつく
景品表示法に違反をして措置命令を受けると、消費者庁のホームページに企業名などが公表されます。
場合によっては、ニュースなどで取り上げられたりSNSなどで話題になったりしてしまうこともあるでしょう。
これにより、企業の信頼が失墜し、今後消費者から選ばれにくくなる可能性があります。
企業が景表法に違反しないためのポイント
景表法に違反すると、先ほど解説したとおりさまざまなリスクが生じます。
では、景表法に違反しないためには、どのような対策を講じればよいのでしょうか?
最後に、違反行為をしないために講じたい主な対策を3つ解説します。
法令のみならずガイドラインも読み込んで理解する
1つ目は、景品表示法の法令に加え、ガイドラインも読み込んで理解しておくことです。
景品表示法は一定の業種などに限定して適用されているものではなく、すべての事業者にとって関係する法律です。
そのため、法律を知らずにうっかり違反をしてしまうことのないよう、法律やガイドラインをよく読んで理解しておく必要があります。
違反事例集を定期的に確認する
2つ目は、違反事例集を定期的に確認することです。
景表法の違反事例は消費者庁から公表されているため、この違反事例を定期的に確認しておくことをおすすめします。※4
実際の違反事例を確認して読み込むことで、具体的にどのようなことをしたら違反行為に該当するのかのイメージが掴みやすくなるためです。
弁護士へ相談する体制を整えておく
3つ目は、不明点が生じた際に弁護士へ相談できる体制を整えておくことです。
業務を行う中では、自社の製品やサービスを消費者から選んでもらうため、さまざまなアピールをしたいはずです。
しかし、明らかに嘘の内容を記載するのは問題であると判断しやすい一方で、「これは違反なのか、問題ないのか」と悩んでしまうことも多いでしょう。
判断に迷った際に相談できる弁護士を確保しておくことで、独断で決行した結果景表法に違反する事態を避けることが可能となります。
まとめ
景表法の規制内容や、違反をしてしまった際の罰則などについて解説しました。
景表法は、すべての事業者が理解し、注意すべき法令の一つです。
景表法違反をすると罰則や課徴金の対象となるほか、企業の信用が失墜してしまうリスクも生じます。
理解不足から景表法の規制にうっかり違反してしまう事態を避けるため、法令やガイドラインなどをよく読み込んだうえで、弁護士へ相談できる体制を構築しておくとよいでしょう。
Authense法律事務所には企業法務に強い弁護士が多数在籍しており、景表法にまつわる相談や広告案の確認依頼などの多くお受けしています。
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