コラム

退職勧奨での退職は会社都合?自己都合?退職勧奨のメリットと自己都合扱いするデメリット

退職勧奨による退職は、会社都合退職なのでしょうか?
また、自己都合退職扱いとすることはできるのでしょうか。

今回は、自己都合退職と会社都合退職の違いや退職勧奨の取り扱い、退職勧奨の進め方などについて弁護士が解説します。

記事を監修した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
一橋大学法学部法律学科卒業。元裁判官。企業法務、M&A、労働法、事業承継、倒産法(事業再生含む)等、企業に係わる幅広い分野を中心とした法律問題に取り組む。弁護士としてだけでなく、裁判官としてこれまで携わった数多くの案件実績や、中小企業のみならず、大企業や公的企業からの依頼を受けた経験と実績を活かし、企業組織の課題を解決する多面的かつ実践的なアドバイスを提供している。
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退職勧奨とは

退職勧奨とは、会社が退職してほしいと考えている従業員に対して、退職をしてもらうよう会社側が働きかけを行うことです。
従業員の意に反して一方的に退職させる解雇とは異なり、従業員との合意による雇用契約の終了を目指します。

しかし、単に人員整理をしたいなど会社側の事情のみで退職を促しても、従業員からすればこれに応じるメリットがありません。
そのため、退職勧奨に応じれば退職金を上乗せするなど、従業員側にとってメリットとなる条件を提示することが一般的です。

退職勧奨での退職は会社都合?自己都合?

従業員の退職理由には、大きく分けて「会社都合」と「自己都合」が存在します。
いずれに該当するのかで失業保険の受給開始までの期間など、退職後の処遇などについてさまざまな違いが生じるため、会社都合退職か自己都合退職かというのは重要な問題であるといえるでしょう。

結論をお伝えすれば、退職勧奨による退職は、原則として会社都合退職に該当します。※1

自己都合退職とは、たとえば従業員が婚姻をして遠方へ引っ越す場合や、従業員が他社への転職を決めて退職する場合など、従業員側の都合による退職です。
退職勧奨は、会社側の事情で退職を促すものである以上、たとえ会社が提示した条件に従業員が応じて退職の合意をしたとしても、自己都合退職扱いとはなりません。

会社都合退職となるのは解雇をした場合のみであるとの誤解も散見されますが、これは誤った認識ですので、正しく理解しておきましょう。

「会社都合退職」と「自己都合退職」の主な違い

退職が「会社都合退職」である場合と「自己都合退職」である場合とで、どのような違いが生じるのでしょうか?
両社の主な違いは、次のとおりです。

失業保険給付が大きく違う

失業保険給付とは、雇用保険の被保険者である人が失業をした場合、失業期間中に雇用保険から受けられる給付のことです。※2

自己都合退職か会社都合退職かによって、失業保険給付の待機期間や受給日数などが異なります。

待機期間とは、受給資格が決定してから実際に失業保険給付が受けられるようになるまでの期間のことです。
会社都合退職の場合の待機期間は7日間である一方で、自己都合退職の場合の待機期間は、原則として2か月間とされています。※3

また、失業保険給付が受けられる日数も、会社都合退職の方が自己都合退職よりも長く設定されています。

退職金が違う場合がある

会社によっては、自己都合退職の場合と会社都合退職の場合とで退職金の額や計算方法に差をつけている場合があります。
これは、その会社が退職金規定をどのように定めているかによって異なりますので、あらかじめ規定を確認しておくとよいでしょう。

従業員の再就職へ影響する場合がある

従業員が再就職をするにあたって、前の職場の退職理由を問われる場合があります。
退職理由が自己都合であるのか会社都合であるのかによって、採用の可否に差が生じる可能性があるかもしれません。

助成金で不利になるかどうかが違う

助成金とは、企業が要件を満たして申請をすることで、国などから返済不要の資金を受け取ることができる制度です。
助成金にはさまざまなものが存在しますが、人材雇用や人材育成など、人に関するものが数多く存在します。

助成金を受けるための要件はその助成金によって異なりますが、一定の期間内に会社都合の退職者が出ていないことを助成の要件としているものが少なくありません。
そのため、企業が退職勧奨をする際には、助成金への影響にも注意が必要です。

会社が退職勧奨する目的・メリット

会社が退職勧奨をする目的やメリットとメリットは、次のとおりです。

目的

会社が退職勧奨をする主な目的は、会社の方向性と合わない従業員や業績が芳しくない従業員に、円満に退社してもらうことです。

また、会社の業績が低迷しており、従業員の数を減らす目的で退職勧奨をする場合もあります。

メリット

先ほど解説したように、退職勧奨による退職は、原則として自己都合退職ではなく会社都合退職です。
では、自己都合退職扱いにできないにもかかわらず、会社はなぜ退職勧奨をするのでしょうか?

退職勧奨をする最大のメリットは、解雇を回避することができる点です。

仮に「業績が芳しくない」、「会社の風土と合わない」といった理由で解雇をしてしまうと、解雇予告手当の支払いなどが必要となります。
また、相手から解雇無効や損害賠償を求める訴訟が提起される可能性が高いでしょう。

日本の労働法では、解雇のハードルが非常に高く設定されており、会社が非の少ない従業員を訴訟リスクなく解雇することは、容易ではありません。

一方で、退職勧奨で相手が退職に合意をしてくれれば、解雇というリスクを負うことなく、従業員に辞めてもらうことが可能となります。

退職勧奨を一方的に自己都合扱いとした場合のデメリット

会社都合退職と自己都合退職には、先ほど解説した違いが存在します。
中でも、助成金の受給要件を満たさなくなることは、企業にとって死活問題であることが少なくありません。

そのため、企業としては、できるだけ会社都合退職ではなく、自己都合退職としたいことでしょう。

しかし、退職勧奨による退職を一方的に自己都合扱いとすることは絶対に避けるべきです。
その理由は次のとおりです。

損害賠償請求される可能性がある

退職勧奨を自己都合扱いとした場合には、退職をした従業員から損害賠償請求がされる可能性があります。
従業員にとっては、自己都合退職は失業保険給付などの面で不利となってしまうためです。

訴訟にまで発展すれば、認定された損害賠償請求を支払う必要が生じるほか、対応に多くの時間を要することでしょう。

退職勧奨をする場合の注意点

退職勧奨をすること自体は、何ら違法なものではありません。
一方、無理に退職を迫る「退職強要」は不法行為であり、損害賠償請求の対象となります。

では、退職勧奨のつもりが退職強要に該当してしまわないよう、どのような点に注意すればよいのでしょうか?
退職勧奨をする際の主な注意点は次のとおりです。

執拗な面談は行わない

退職勧奨をする場合には、相手と執拗な面談をすることは避けましょう。
頻繁に面談を設定したり面談時間が長すぎたりする場合には、退職強要と判断される可能性があります。

脅したり無理に退職を迫ったりしない

退職勧奨に際して、相手を脅したり、無理に退職を迫ったりしてはいけません。
このような行為をしてしまうと、退職強要に該当する可能性が高くなります。

会社としては、退職してほしいと考えていることを明示したうえで、退職するかどうかは従業員次第であることも明確に伝えるようにしましょう。

明確に拒否されたら深追いしない

退職勧奨に応じるかどうかは、あくまでも従業員側の任意とされています。
そのため、相手が退職勧奨に応じない意思を明確に示した場合には、それ以上の交渉や働きかけを続けることは避けたほうがよいでしょう。

相手が退職する意思がないことを示しているにもかかわらず、深追いをしてしまうと、退職要用に該当する可能性が高くなります。

面談の記録を残す

退職勧奨をする際や相手が交渉に応じた場合などには、その都度面談の記録を残しましょう。
従業員が対象勧奨に応じたとしても、口頭のみでその記録が残っていなければ、後日退職を強要されたなどと主張されてしまう可能性があるためです。

そのようなリスクを避けるため、面談内容については常に記録に残し、面談の都度相手に署名などをもらっておくことをおすすめします。
相手の合意を得たうえで、録音をしておくことも一つの手です。

退職勧奨をスムーズに進めるためのポイント

退職勧奨をスムーズに進めるためのポイントは、次のとおりです。

無理に自己都合扱いとすることは避ける

従業員の退職について、会社からすれば、できるだけ自己都合退職扱いにしたいところでしょう。
しかし、先ほど解説したように、退職勧奨による退職は、原則として会社都合退職です。
従業員が交渉に応じて退職に合意をしたからといって、そのことをもって自己都合退職となるわけではありません。

無理に自己都合退職扱いにしようとすると、従業員との関係性が悪化して交渉が決裂してしまう可能性があるほか、損害賠償請求へと発展する可能性もあります。
そのため、無理に自己都合退職にしようとすることは避けるべきでしょう。

自己都合退職か会社都合退職かの判断に迷う場合には、労使問題にくわしい弁護士までご相談ください。

従業員が納得しやすい理由を提示する

退職勧奨をする場合には、退職勧奨の対象となっている従業員が納得しやすい理由を提示するとよいでしょう。
たとえば、その社員に遅刻が多く注意をしても改善されなかったり、営業成績の低い状態が続いていたりするのであれば、このような内容を明確に伝えるなどです。

ただし、パワハラや退職強要と認定されてしまうことのないよう、伝え方には十分に注意しましょう。
いくら相手に非があったとしても、相手の人格を否定する言動や暴言にあたる言動は、行うべきではありません。

また、「あなたが悪いので退職してほしい」という言い方は、退職強要や解雇であると判断される可能性があるほか、相手に遺恨をのこす可能性があります。
そのため、「この会社には向いていないかもしれません」、「ほかに、もっと活躍できる場があるのではないかと思います」など、やわらかい言い方を心がけましょう。

なお、退職勧奨を伝える側としても、面談の場に臨む際には緊張するかと思います。
そのため、伝えるべきことをあらかじめまとめ、シミュレーションをしたりメモを持参したりすることをおすすめします。

適切な条件を提示する

退職勧奨をする際には、相手にとって有利となる条件を提示するとよいでしょう。
具体的には、退職金を上乗せすることや、転職先をあっせんすることなどです。
適切な条件を提示することで、退職に応じてもらえる可能性が高くなります。

ただし、マイナスの条件を提示してしまうと、退職強要に該当する可能性がありますので注意しましょう。
たとえば、「退職勧奨に応じなければ解雇する」、「退職勧奨に応じなければ、(相手の望まない)〇〇へ配置転換をする」などです。

あらかじめ弁護士へ相談する

従業員側からすると、退職は生活の糧を失いかねない非常に大きな出来事です。
だからこそ、退職勧奨はスムーズに進むケースばかりではありません。

もちろん、無事に合意まで進む場合もありますが、交渉が決裂する場合もあります。
また、退職強要であるなどとして、従業員側が訴えを起こしたり労基署へ駈け込んだりする場合もあるでしょう。

そのため、退職勧奨を検討する際には、あらかじめ、労使問題にくわしい弁護士へ相談することをおすすめします。
弁護士へ相談することで、提示すべき適切な条件や退職勧奨の進め方などについて具体的なアドバイスが得られるほか、万が一交渉がこじれてしまった場合の対応もスムーズとなるためです。

まとめ

退職勧奨を発端とした退職は、原則として会社都合退職となります。
無理に自己都合扱いとすれば交渉が決裂する可能性が高いほか、訴訟へ発展するリスクもあるため、このようなことは行わないようにしましょう。

また、退職勧奨が退職強要にあたらないようにも注意しなければなりません。
退職勧奨は非常にナイーブな対応が必要となりますので、進め方などについて、あらかじめ弁護士へ相談することをおすすめします。

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