コラム
公開 2022.10.13 更新 2022.10.17

パワハラによる慰謝料相場はどのくらい?弁護士に相談する場合にかかる費用は?

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社内でパワハラが起きた場合、その慰謝料にかかる標準的な金額はどれくらいなのでしょうか?
今回は、パワハラに対する慰謝料の一般的な金額やパワハラによって会社が問われる責任、パワハラについて弁護士へ相談した場合にかかる費用などをくわしく解説します。

(※なお、慰謝料や弁護士費用の金額はケースごとにさまざまであり、「相場」といえる金額が決まっているわけではありませんが、本記事では大まかな金額の範囲を分かりやすく表す用語として「相場」という表現を用いています。)

記事を監修した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
一橋大学法学部法律学科卒業。元裁判官。企業法務、M&A、労働法、事業承継、倒産法(事業再生含む)等、企業に係わる幅広い分野を中心とした法律問題に取り組む。弁護士としてだけでなく、裁判官としてこれまで携わった数多くの案件実績や、中小企業のみならず、大企業や公的企業からの依頼を受けた経験と実績を活かし、企業組織の課題を解決する多面的かつ実践的なアドバイスを提供している。
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パワハラとは

社内でパワハラが起きてしまうと、加害者に対してのみならず、その舞台となった企業に対しても慰謝料請求がなされる可能性があります。

では、パワハラとは、どのような行為を指すのでしょうか?
はじめに、パワハラの定義とパワハラの6類型について解説します。

パワハラ防止法によるパワハラの定義

2019年に、労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(通称パワハラ防止法)が改正され、同法30条の2において、パワハラが法律上定義されるとともに、事業主にパワハラ防止のための必要な措置を講じることが義務付けられました。
この義務は、2020年6月から大企業に適用されており、2022年4月からは中小企業にも適用されています。

このパワハラ防止法が定めるところによると、「優越的な関係を背景とした言動であること」「業務上必要かつ相当な範囲を超えたものであること」「労働者の就業環境が害されるものであること」という3つの要件をすべて満たすものがパワハラに該当します。※1

ただし、実際に社内で起きた事例がパワハラに該当するかどうか判断しかねる場合も少なくないでしょう。
社内で起きた行為がパワハラに該当するかどうかの判断に迷う場合には、早期に弁護士へ相談することをおすすめします。

要件1:優越的な関係を背景とした言動であること

パワハラに該当するためには、その言動が優越的な関係を背景としたものであることが必要です。
典型的な例としては、上司から部下に対する言動が挙げられるでしょう。

ただし、同僚や部下からの行為であるからといって、パワハラに該当しないわけではありません。
たとえば、同僚や部下が職務の遂行上必要な知識や経験を有しており、その同僚や部下の協力を得ないと円滑に業務が進行できない場合や、同僚や部下からの集団での行為である場合などには、同僚や部下からの行為であってもパワハラに該当する場合があります。

要件2:業務上必要かつ相当な範囲を超えたものであること

パワハラに該当するためには、その行為が業務上必要な範囲や相当な範囲を超えたものであることが必要です。
そのため、業務上必要であり、相当程度の叱責や注意であれば、パワハラには該当しません。

なお、「業務上必要かつ相当」であるかどうかは、ある言動のみを切り取って判断するのではなく、その言動の目的や頻度、業務の内容など、さまざまな要素を総合的に考慮して判断することとされています。

要件3:労働者の就業環境が害されるものであること

パワハラの要件の3つめは、その言動によって労働者が身体的または精神的に苦痛を与えられ、就業環境が不快なものとなったために能力の発揮に重大な悪影響が生じるなど、言動の受け手である労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じることです。

なお、これは言動の受け手である労働者の主観ではなく、「平均的な労働者の感じ方」をもとに判断することとされています。
これは、同じような状況で、同じような言動を、社会一般の労働者が受けた場合に、就業する上で看過できないほどの支障が生じたかどうかで判断するというもので、なるべく客観的な基準とするためのものです。

言動の受け手が精神的な苦痛などを感じたからといって、一般的には精神的な苦痛を感じるほどではない言動であったのであれば、パワハラには該当しません。

厚生労働省によるパワハラの6類型

厚生労働省では、パワハラを6つの類型に分けて紹介しています。※2
この6類型と、優越的な関係を背景として行われることでそれぞれの類型においてパワハラの要件を満たすと考えられる例は、次のとおりです。

  1. 身体的な攻撃型:殴打や足蹴りを行ったり相手に物を投げつけたりする
  2. 精神的な攻撃型:人格を否定するような言動を行う、必要以上に長時間にわたる厳しい叱責を繰り返し行う、他の労働者の前で威圧的な叱責を繰り返し行う
  3. 人間関係からの切り離し型:特定の労働者を仕事から外して長時間別室に隔離する、1人の労働者に対して同僚が集団で無視をして職場で孤立させる
  4. 過大な要求型:新入社員に必要な教育を行わないまま到底対応できないレベルの業績目標を課して達成できなかったことを厳しく叱責する、業務とは関係のない私用な雑用の処理を強制的に行わせる
  5. 過小な要求型:管理職である労働者を退職させる目的で誰でも遂行可能な業務を行わせる、気に入らない労働者に対する嫌がらせのために仕事を与えない
  6. 個の侵害型:労働者を職場外でも継続的に監視したり私物の写真撮影をしたりする、労働者の機微な個人情報について本人の了解を得ずに他の労働者に暴露する

これらの類型を知ったうえで、企業内でパワハラが起きないよう注意しましょう。
なお、実際には、これらのうち複数の行為が併合して行われる場合も少なくありません。

パワハラで慰謝料請求をされるのは誰?

社内でパワハラが発生した場合、被害者側から慰謝料請求をされるのは誰なのでしょうか?
一般的には、次の二者が慰謝料請求の対象となることが多いでしょう。

パワハラ加害者

パワハラで慰謝料請求をされるのは、原則としてパワハラの加害者本人です。
加害者が複数人いる場合には、複数人に対して慰謝料請求がなされるケースもあります。

パワハラが行われた企業

パワハラの舞台となった企業に対して、慰謝料請求がなされるケースも少なくありません。

企業ぐるみでパワハラを行っていた場合はもちろん、企業がパワハラに対して適切に対処しなかった場合など、企業にも責任があると判断した場合などにも、企業に対して慰謝料請求がなされる可能性があります。

パワハラで企業が慰謝料請求をされる根拠

社内でパワハラが起きた場合、なぜ加害者のみならず企業に対しても慰謝料請求がなされる可能性があるのでしょうか?
その根拠は、次のとおりです。

使用者責任

企業は、その雇用する労働者の行為について、使用者責任を負っています。
使用者責任とは、業務の遂行のために従業員が第三者に損害を加えた場合において、企業が損害賠償責任を負うという民法上の決まりのことです。

使用者責任の典型的な例としては、運送会社の運転手が業務中に、過失により交通事故を起こした場合、企業が加害者と連帯して賠償責任を負うケースが該当します。

使用者責任において、損害を加えた相手である「第三者」には、社内の人も含まれます。

そのため、パワハラによって自社の従業員が他の従業員に損害を加えた場合には、この使用者責任によって企業も責任を負うこととなるのです。
パワハラで企業に対する損害賠償請求が認められたケースでは、ほとんどがこの使用者責任を原因としているといえるでしょう。

なお、企業が従業員の選任や事業の監督について相当の注意をしたときなどには、使用者責任を免れるとされています。
しかし、このハードルは非常に高く、相当の注意をしたことなどを理由にパワハラにおいて企業の使用者責任が免除されるケースは、ほとんどありません。

不法行為責任

不法行為責任とは、故意や過失によって他人の権利や法律上保護される利益を侵害した者が負う、賠償責任です。

たとえば、企業ぐるみでパワハラを行っていた場合や、パワハラについて企業へ相談していたにもかかわらず、適切な対処がされなかったことによってパワハラが長期化したり悪化したりした場合などには、企業に対して不法行為責任が問われる可能性があるでしょう。

債務不履行責任

企業は、従業員に対して安全配慮義務を負っています。

社内でパワハラが発生して被害者の快適な職場環境や安全、健康が害された場合には、この義務に違反したとして、債務不履行責任に基づく損害賠償請求がされる可能性があります。

パワハラの慰謝料相場

パワハラで認められる慰謝料の金額は、そのパワハラの程度や内容、継続した期間などによってさまざまであり、一概にいえるものではありません。
(※本記事では大まかな金額の範囲を分かりやすく表す用語として「相場」という表現を用いています。)

一般的には、短期間や単発の暴言など比較的軽めのパワハラの場合で数万円程度、長期にわたる暴言などの場合には、その内容に応じて10万円から100万円程度の慰謝料が認められるケースが多いでしょう。

また、被害者が精神疾患を発症するなどして休職に追い込まれた場合や、暴行を伴う場合などには、100万円から400万円程度の慰謝料が認められる場合もあります。

また、被害者が自殺をしてしまったケースや後遺障害が残ってしまったケースなどでは、さらに高額となる可能性が高いでしょう。

パワハラで慰謝料が認定された実際の裁判例

パワハラで会社に対しての慰謝料請求が認められた事例には、どのようなものがあるのでしょうか。
ここでは、3つの例を紹介します。

同僚間の暴行について使用者に損害賠償責任を認めた事例

備品管理の業務分担を起因として、女性社員Xに対して同じ課に所属する男性社員Yが暴行を加え、女性社員Xが顔面挫創と頸椎捻挫の傷害を負った事例です。
女性社員Xは、その後手のしびれなどが残り、2年半にわたって休業しました。
会社は、この休業期間中に女性社員Xを解雇しています。

この事例では、勤務先企業の使用者責任が認められ、男性社員Yと連帯して60万円の慰謝料の支払義務を負うこととされました。
また、女性社員Xの解雇は無効であると判断されています。※3

パワハラや暴行等と自殺との間に相当因果関係有りとされた事例

男性従業員Xが、勤務先企業の役員2名から日常的に殴る、蹴る、頭を叩くなどの暴行や、「てめえ、何やってんだ」「ばかやろう」と大声で怒鳴る、「会社を辞めたければ7,000万円払え、払わないと辞めさせない」と発言するなどのパワハラを受けていた事例です。

また、「私は会社に今までにたくさんの物を壊してしまい損害を与えてしまいました。会社に利益を上げるどころか、逆に余分な出費を重ねてしまい迷惑をお掛けした事を深く反省し、一族で誠意をもって返さいします。二ケ月以内に返さいします」などと書いた下書きをもとに退職願を書くよう強要しました。
さらに、この下書きには、「額は一千万~一億」と鉛筆で書かれた後で消された跡があったようです。

その後、男性従業員Xは自殺をしています。
これを受け、男性従業員Xの遺族である妻子が会社と会社役員2名に対して不法行為に基づく損害賠償請求訴訟を提起しました。

判決は、会社役員1名によるパワハラや暴行、退職強要などの不法行為と男性従業員Xの死亡との間に相当因果関係があったことを認め、会社と会社役員1名に対して合計約5,400万円の損害賠償を命じています。※4

就業規則の書き写しなどが違法であるとして損害賠償請求が認められた事例

職員Xが、上司から就業規則の書き写し等の教育訓練を命じられた事例です。

職員Xは国鉄労働組合の組合員であり、勤務中にバックル部分に国鉄労働組合マークが入ったベルトを着用していました。
これに対して上司が就業規則に違反する旨述べ、取り外すよう命じたものの、職員Xがこれに応じなかったため、教育訓練と称して、およそ1日半にわたり、就業規則の書き写しや、書き写した就業規則の読み上げを命じられたものです。

これに対し、職員Xは精神的・肉体的苦痛を与えられたなどとして、損害賠償請求を求めました。

この事例では、会社の使用者責任と上司の不法行為責任が認められ、会社と上司に連帯して20万円の慰謝料と5万円の弁護士費用の支払いが命じられています。※5

パワハラで会社が慰謝料請求された場合の弁護士費用相場

社内でパワハラが発生して企業に対して慰謝料請求がなされた場合には、早期に弁護士へ相談することをおすすめします。

では、パワハラについて企業が弁護士に対応を依頼した場合、かかる費用はどの程度なのでしょうか?
ここでは、弁護士費用としてかかる一般的な金額を、着手金と成功報酬とに分けてお伝えします。
(※本記事では大まかな金額の範囲を分かりやすく表す用語として「相場」という表現を用いています。)

なお、弁護士費用は依頼先の法律事務所や案件の内容によって異なっており、一律ではありません。
そのため、より具体的な費用を知りたい場合には、依頼を検討している先の事務所へ個別で確認するとよいでしょう。

着手金

着手金とは、業務を依頼するにあたってかかる費用です。
パワハラについて企業が弁護士に対応を依頼した場合、着手金はおおむね30万円程度でしょう。
ただし、このような場合の着手金は、相手方から請求された金額を基準に計算されますので、個別の事案ごとに金額は異なります。

成功報酬

成功報酬は、相手との交渉の結果得られた経済的な利益に対してかかる費用です。
パワハラでの慰謝料請求であれば、減額できた慰謝料額の15%~20%程度となることが多いでしょう。

Authenseのハラスメント防止対策プラン

Authense法律事務所では、「ハラスメント防止対策プラン」をご用意しております。アンケートなどで社内の実態調査を行い、企業の特徴・実態に合わせたパワハラ対策をご提案、
企業としてのパワハラ対策の方針を明確にします。ご要望に応じてオーダーメイドプランを作成いたしますので、お気軽にお問い合わせください。

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まとめ

社内でパワハラが起きた場合には、加害者に対してのみならず、その舞台となってしまった企業に対して慰謝料請求がされる場合もあります。
パワハラが起きたことや、企業の対応が甘かったことを理由に被害が拡大したことが事実であればしっかりと償うべきである一方で、一般的な金額より非常に高額な慰謝料を請求された場合には、厳正に対処すべきでしょう。

しかし、慰謝料の交渉を企業のみで行うことは容易ではありません。

Authense法律事務所にはパワハラ問題にくわしい弁護士が多数在籍しており、これまでも多くの案件を解決に導いてきました。
パワハラについての慰謝料請求でお困りの際には、ぜひAuthense法律事務所までご相談ください。

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