相続人の一人が被相続人の預金を引き出し、その使途が不明あるいは不合理な場合に生じる問題です。本来、相続直前あるいは直後に多額のお金を引き出した場合のことを指しますが、実務的には、相続人の一人が被相続人の預金を管理していた期間中に引き出した金額について追及することが多いです。
使途不明金に関する争い
相続前の使途不明金問題と、相続後の使途不明金問題があります。
相続前に被相続人の預金口座から多額のお金が引き出された場合で、被相続人からの贈与であると主張された場合には特別受益の問題になりますが、それ以外の場合には使途不明金の責任追及をすることとなります。
相続後に被相続人の預金口座から引き出された場合には、単独払戻制度の手続きで引き出されていれば、遺産の一部分割として処理されますが、そうでない場合には使途不明金の問題として責任追及されることになります。
死亡後の金融機関の凍結前の引き出しは、当然ですが、既に死んでいる被相続人の同意はありませんので、引き出した者は、不当利得返還義務を負います。しかし、相続人全員が負担すべき必要経費として引き出したものであれば、平等に遺産を分配して、平等に費用を負担しただけですので、返還義務を負いません。例えば、生前の入院費用の支払であれば、いつかは払うものを先に払っただけなので、問題となりません。
遺産である預貯金口座から使途不明金が発生し、その返還を求める場合、その証明は返還請求を求める側にあります。証明しなければならない事項は、①預貯金口座から多額の出金が存在すること、②ある相続人によって出金がなされたこと、③その相続人が出金した金員を自分のために使ったことです。証明するために、銀行の取引履歴を調査したり、口座を管理していた相続人に確認したりする必要があります。その際には、被相続人の当時の生活状況から、不自然な出費を一つ一つ特定し、それを追及することが必要です。
使途不明金の責任追及をする側に証明する責任があるので、それを否定するだけで足ります。実際に「使い込みはしていない」との説明にあたっては、被相続人の財産の使いみちの客観資料(主に領収書)が多いほど望ましいといえますが、客観的な資料がない場合には、できる限り具体的に事情を説明することになります。使途不明金の問題の根底は、「不信感」にありますので、単に否定するだけで終わらせるよりも、その根拠まで積極的に説明をしたほうが相手の矛が収まる可能性があります。
態様により異なります。責任追及の際に、相手方が被相続人からの贈与を主張したような特別受益の問題の場合には消滅時効は問題となりません。他方で、不法行為を請求原因にする場合や、不当利得を請求原因にする場合には、それぞれの消滅時効の規定に従うこととなります。
使途不明金は、相続税を不当に回避する目的でなされることも想定されるため、税務調査において引出者の確認や使途の確認がなされることもあります。もちろん、引出による使途不明金があることだけでの課税はなされませんが、その引出金の全部または一部が相続人や親族の口座に預け入れがなされていたりすれば預託金や不当利得返還請求権として相続税が課税されたり、贈与・みなし贈与として贈与税が課税されることもあります。