遺言執行者が選任されていない場合、遺言の執行は相続人全員で行う必要があり、遺言の内容に不満を持っている相続人が、実印押印と印鑑証明書の提出を拒むと、遺言の執行ができなくなります。しかし、遺言執行者が選任されている場合、遺言執行者は凍結した預金口座の解約等を単独で行う権限があり、遺言執行手続きがスムーズにでき、相続人や受遺者の負担が軽減されます。
遺言執行者の選任
ベストは、遺言書を作成するときに決めることです。遺言執行者の選任方法は、①遺言で指定する、②遺言で「遺言執行者を指定する人」を指定する、③家庭裁判所に選任の申し立てをする、という3通りが考えられます。遺言で指定されていない場合や指定していた人が先に亡くなっていた場合、遺言執行者への就任を拒否する場合等は、相続人等が家庭裁判所に申し立てることになります。遺言執行者には自分より高齢の方を選任しない、指定する旨を伝えあらかじめ了解を得ておく等すると相続後もスムーズです。
遺言執行者は知人である必要はありません。遺言執行者は責任が重いため、身内や知人で引き受け手を探すことが難しいかもしれませんので、専門家を指定することが可能です。弁護士や司法書士等の身近な専門家に相談して、依頼するのがよいのではないでしょうか。
遺言執行者の仕事は多岐にわたる上、期限のある手続きもあり、多大な時間と労力がかかります。また、身内を亡くして気持ちの整理がつかない中での作業は余計に負担が大きいはずです。遺言内容に納得しない相続人がいる場合には、親族関係が悪化してしまうことも考えられます。そこで、遺言執行者を復任してもらうことが可能です。現行の民法では、やむを得ない事由がなくても、弁護士などに遺言執行の全てを委ねることができるようになっています。
遺言執行者が、被相続人よりも先に死亡している場合には、「遺言執行者がいないとき」として、家庭裁判所に遺言執行者の選任を申し立てることができます(民法1010条)。申立人は、候補者を指名することができるので、知り合いの弁護士や、自分自身も候補者として指定することが可能です。
遺言執行者になることができないのは、条文上、未成年と破産者のみとされています。こうしたことを考慮すると、役職での記載も有効になりうると考えることができます。仮に無効であるとしても、裁判所に遺言執行者の選任を申請すればよく、その際に役職にあった者の氏名を特定して推挙すれば、選任されることもあります。
遺言執行者は、遺言で指定されていたとしても、正当な事由があるときは家庭裁判所の許可を得れば辞任することができるため、まずは、遺言執行者に遺言執行の意思があるかを確認するべきです。遺言執行の意思があるにもかかわらず、遺言執行しないなど正当な事由があるときは、家庭裁判所に解任を請求し、新たに遺言執行者選任の申立てをするなどの対応が考えられます。
民法では、「遺言執行者は、遅滞なく、相続財産の目録を作成して、相続人に交付しなければならない。」と規定されており、これを根拠に遺言執行者に相続財産の目録の交付を求めることができます。但し、遺言執行者の作成すべき相続財産の目録は、遺言書に記載されている相続財産で足りるので、遺言書に記載されていない遺産の内容については相続人自身で(他の相続人の協力なしでも可)調べる必要があります。
遺言執行者の報酬は、遺言書に定める、家庭裁判所の審判で決めてもらう、遺言執行者と相続人間の話合いで決めるなどの方法があります。その際、遺言執行者と相続人との間でトラブルにならないよう、事前に遺言書に記載しておくのがよいでしょう。もちろん、無報酬で行うことも可能です。
相続人全員・受遺者・遺言執行者の全員の同意がある場合に、遺言と異なる遺産分割をすることができることに争いはありません。他方、遺言執行者の同意のみがない場合については争いがありますが、仮に、遺言執行者の同意を得ずに、遺言と異なる遺産分割をした場合、遺言執行者から遺言を執行したら得られたであろう報酬相当額について損害賠償請求を受ける可能性があります。そのため、三者全員の同意を得ておくのがよいでしょう。