コラム
公開 2023.07.10

単体1253_新規_公正証書遺言があってももめる?もめるケースと対処法を弁護士がわかりやすく解説

公正証書遺言に対して、より確実な遺言であるとのイメージを持っている方は少なくないでしょう。
公正証書遺言さえ作成すれば、相続争いとは無縁になると考えている人もいるかもしれません。

確かに、公正証書遺言は他の遺言方式と比較して、もっとも確実で無効となるリスクの少ない遺言方式です。
しかし、公正証書遺言があってももめるケースはゼロではありません。

そこで今回は、公正証書遺言があってももめるケースを紹介するとともに、もめないための対策も弁護士が詳しく解説します。

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公正証書遺言とは

遺言とは、自分の死後における財産の行き先などを生前に指定しておく手続きです。

有効な遺言書を遺しておくことは、相続争いを防ぐことへとつながります。
なぜなら、有効な遺言書があることで、相続人同士で遺産分けの話し合い(「遺産分割協議」といいます)をすることなく、遺産の帰属先を決めることが可能となるためです。

遺言はどのような方式でしてもよいわけではなく、民法に定める方式に従って行わなければなりません。
なぜなら、遺言の効力が生じるのは遺言者の死後であり、仮にある書類が遺言書かどうか判断に迷ったとしても、本人にその意図を尋ねることができないためです。

そして、公正証書遺言とは、民法で定められた遺言方式の一つです。
公証人が関与して遺言をする方式であり、もっとも確実で無効になりにくい遺言方式であるといえるでしょう。

公正証書遺言の主な特長

よく活用されている遺言方式には、公正証書遺言のほか、遺言者が全文を自書する「自筆証書遺言」が存在します。
この自筆証書遺言と比較した公正証書遺言の主な特長は次のとおりです。

遺言者が自書する必要がない

公正証書遺言は、自分で文章を組み立てたり自書したりする必要がありません。
そのため、誤った表現をしたことで遺言内容が実現されないリスクや、書き損じのリスクなどを避けることが可能です。

公証人が関与して作成するため無効になりづらい

公正証書遺言は、公証人が関与して作成します。
そのため、無効な遺言書を遺してしまうリスクを最小限に抑えることが可能です。

原本が公証役場で保管されるため紛失や隠匿の心配がない

公正証書遺言を作成すると、その原本は公証役場に保管されます。
そのため、遺言書を紛失したり隠されたりする心配がありません。

なお、遺言者の手元には原本を元に作成した「謄本」や「正本」が交付され、実際の相続手続きではこの謄本や正本を使います。

相続開始後に検認が不要である

検認とは、その時点における遺言書の状態を保存する手続きであり、家庭裁判所で行います。
自筆証書遺言であれば原則としてこの検認手続きが必須であり、検認を経なければ相続手続きに遺言書を使うことができません。

一方、公正証書遺言は検認が不要です

公正証書遺言でもめるケース

多くの相続争いは、公正証書遺言があることで予防できます。
しかし、公正証書遺言があってももめてしまうケースは、ゼロではありません

公正証書遺言があってももめる主なケースは次のとおりです。

有効性に疑いがある場合

公正証書遺言は公証人が関与して作成されるため、一目見て無効である遺言が作成されるケースはほとんどありません。
しかし、中には有効性に疑問が持たれてしまうケースも存在します。

公正証書遺言の有効性に疑問が持たれてしまうと、遺言書を無効にしたいと考える相続人などから「遺言無効確認訴訟」が申し立てられるなどしてトラブルとなる可能性があるでしょう。
遺言無効確認訴訟とは、その遺言が無効であることを裁判所に確認してもらう手続きです。

公正証書遺言の有効性に疑いが生じる主なケースとしては、次のものが挙げられます。

遺言能力がなかった疑いがある

遺言能力がなければ有効に遺言をすることはできず、仮に遺言能力がない状態で作成された公正証書遺言は無効です(民法963条)。
遺言能力とは、自分がした遺言の内容や遺言の結果を理解する能力です。

遺言書作成時において遺言者に遺言能力がなかったと疑われる場合には、他の相続人などから無効を主張される可能性があるでしょう。

証人が欠格事由の該当者であった

公正証書遺言を作成するには、証人2名以上の立会いが必要です。
証人には欠格事由が定められており、次の者は証人になることができません(同974条)。

  1. 未成年者
  2. 推定相続人(遺言者が亡くなったときに相続人になる予定の人)と受遺者(遺言書で財産を渡す相手)、これらの者の配偶者と直系血族
  3. 公証人の配偶者、四親等内の親族、書記及び使用人

証人も運転免許証などを提示するため、「1」についてはあらかじめ気付いて阻止されることとなるでしょう。
また、「3」も公証人にとって明らかであることが多く、通常はこれらの者を誤って証人とすることはありません。

一方、「2」のケースは範囲も広く、公証人が必ずしも続柄を正式に把握できないこともあるでしょう。
たとえば、次の者は原則として「2」の欠格事由に該当します。

  • 遺言者の父母、祖父母
  • 遺言者の配偶者、子、孫、ひ孫
  • 受遺者である友人の子や孫、父母
  • 推定相続人である兄弟の配偶者

遺言者に対して「証人は親族ではありませんか?」など口頭での確認などはなされるものの、遺言者の誤解などによって欠格事由の該当者を証人としてしまうケースはゼロではありません。
欠格要件への該当者を証人としてしまった場合には、その公正証書遺言は無効となります。

口授要件を欠いていた疑いがある

公正証書遺言の要件は、法律に定められています(同969条)。
これによれば、公正証書遺言は次の手順で作成しなければなりません(口がきけない者や耳が聞こえない者には例外があります)。

  1. 証人2人以上が立ち会う
  2. 遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授する
  3. 公証人が遺言者の口述を筆記し、これを遺言者及び証人に読み聞かせるか閲覧させる
  4. 遺言者と証人が、筆記の正確なことを承認した後、各自これに署名押印する(遺言者が署名できない場合には、公証人がその事由を付記して代わりに署名できる)
  5. 公証人が、その証書は前各号に掲げる方式に従って作ったものである旨を付記し、これに署名押印する

このうち、しばしば問題となるのが「2」の口授要件です。
口授とは、言語をもって申述することを指します。
つまり、公正証書遺言を有効に作成するためには、遺言者が「私の自宅の土地建物は長男の一郎に相続させます。A銀行の預金は妻に相続させます」などと、遺言の趣旨を口頭で述べる必要があるということです。

しかし、実務上は遺言書の作成日に公証人が初めて遺言内容を知ることは稀であり、これに先立って行う打ち合わせなどによって公証人は遺言内容を知り、文案まで作成していることがほとんどでしょう。
この打ち合わせも本人が直接行うのではなく、親族や弁護士などの専門家が代わりに行っているケースも少なくありません。

このような背景から、公正証書遺言の作成当日に公証人が先回りをして、「自宅の土地建物は長男の一郎さんにあげるということでよいですか?」「A銀行の預金は奥様に即属させるということでよいですか?」などと尋ね、遺言者が頷くのみというケースもあったようです。
このような場合には「口授」があったとは判断しづらく、公正証書遺言の有効性に疑いが生じてトラブルとなる可能性があるでしょう。

遺留分を侵害している場合

遺留分とは、子や配偶者など一定の相続人に保証された、相続での最低限の取り分です。
遺留分割合はそれぞれ次のとおりです。

  • 原則:法定相続分の2分の1
  • 直系尊属(父母や祖父母)のみが相続人である場合:法定相続分の3分の1
  • 兄弟姉妹や甥姪:遺留分なし

遺留分を侵害した遺言書も有効であり、遺留分を侵害する内容の遺言を公正証書で作成することもできます。
たとえば、長男と二男がいるにもかかわらず、長男に全財産を相続させる内容の遺言を作成することもできるということです。

しかし、この場合には相続が起きた後で、二男から長男に対して「遺留分侵害額請求」がなされる可能性があります。
遺留分侵害額請求とは、侵害した遺留分相当額を金銭で支払うよう請求することです。
この請求がされると、実際に長男は二男に対して、侵害額相当分の金銭を支払わなければなりません。

そのため、仮に遺留分を侵害する遺言書を作成するのであれば、将来遺留分侵害額請求がなされる可能性を十分に考慮したうえで作成する必要があるでしょう。

使途不明金がある場合

相続が起きた後、使途不明金にまつわるトラブルが発生するケースは少なくありません。
たとえば、母が亡くなった後に母の預金口座を調べたところ、生活費を上回る多額の引き出しがなされていた場合などが挙げられます。
また、相続が起きた後でキャッシュカードを使って預金が引き出されるケースもあります。

このようなトラブルは、公正証書遺言があっても防ぐことは困難です。
公正証書遺言を作成したからといって、その後預金の引き出しなどが制限されるわけではないためです。

相続にまつわる使途不明金トラブルが発生した際には、弁護士へご相談ください。

公正証書遺言でもめないための対策

せっかく作成した公正証書遺言をもめごとの原因としないためには、どのような対策を講じればよいのでしょうか?
主な対策は次のとおりです。

弁護士などの専門家に作成サポートを依頼する

公正証書遺言は、弁護士などの専門家を介さずに直接公証役場へ行って作成することが可能です。
しかし、公証役場は原則としてすでに決まった内容を公正証書とする場所であり、公正証書遺言の内容を一から相談する場所ではありません。
そのため、弁護士を介さない場合には、遺留分など遺言内容から生じるリスクを自分で判断し、内容を検討する必要があります。

しかし、将来のリスクを自分ですべて洗い出して検討することは、容易ではないでしょう。
せっかく作成した公正証書遺言で家族がもめる事態を避けるため、公正証書遺言を作成する際には弁護士などの専門家へご相談ください。

遺留分に配慮する

先ほど解説したように、配偶者や子など一部の相続人には遺留分が存在します。
遺留分を侵害する内容の公正証書遺言も作成できるものの、後に遺留分侵害額請求がなされてトラブルとなるかもしれません。

そのため、公正証書遺言を作成する際には遺留分制度についてよく理解をしたうえで、内容を検討する必要があるでしょう。
そのうえで、遺留分を侵害する内容の遺言書を作成するのであれば将来の遺留分侵害額請求に備え、請求額を支払う原資についてまで検討しておくことをおすすめします。

証人をよく確認する

欠格要件への該当者を誤って証人にしてしまうと、せっかく作成した公正証書遺言が無効となってしまいます。
そのため、自分で証人を手配するのであれば、その証人との関係性を弁護士などの専門家へよく説明したうえで、欠格要件に該当しないことをよく確認しておくことが必要です。

なお、公正証書遺言の作成に関して専門家へサポートを依頼した場合には、証人も専門家側で手配してくれることが多いでしょう。
そのため、欠格要件該当者を証人としてしまうリスクを最小限に抑えることが可能となります。

医師の診断書をとっておく

遺言作成当時に遺言能力がなかったなどと主張されトラブルになる事態を避けるため、少しでも不安な兆候があれば医師の診断書をとっておくとよいでしょう。
たとえば、簡単な質問に回答することで認知症傾向を調べる「長谷川式認知症スケール」などがよく活用されています。

あらかじめ推定相続人と話し合う

遺言は遺言者が単独でできるものであり、遺言書を作成するにあたって推定相続人などの承諾を取り付ける必要はありません。
家族が「そのような内容の遺言を作るなんて許さない」などと主張したとしても、遺言者が望む内容の遺言書を作成できるということです。

しかし、将来のもめごとが予見されるのであれば、遺言の内容についてあらかじめ推定相続人などと話し合っておくことも一つの手でしょう。
家族が集まった場で予定している遺言の内容を直接口頭で伝えることで、遺言者の想いが伝わり家族の納得を得やすくなります。

付言事項を活用する

公正証書遺言には本文のほかに、付言事項を記載することができます。

付言事項とは、その遺言に付け加える言葉です。
たとえば、「これからも家族皆で仲良く暮らしてください」といった内容や、「これまでありがとう」といった内容などを、ある程度自由に書き添えることができます。

付言事項には、法的な拘束力はありません。
しかし、遺言を遺す理由や家族への想いなどを付言事項として記すことで、争いの抑止力となる効果が期待できます。

まとめ

公正証書遺言は、もっとも確実で無効になるリスクの低い遺言方式です。
しかし、公正証書遺言が原因でもめるケースは、ゼロではありません。

たとえば、遺言能力や証人の欠格事由が問題となるケースや、遺留分を侵害して遺留分侵害額請求がなされるケースなどが挙げられます。
せっかく作成した公正証書遺言がもめごとの原因となる事態を防ぐため、遺言書の作成は弁護士などの専門家へご相談ください。

Authense法律事務所では、公正証書遺言の作成サポートに力を入れており、初回のご相談は60分間無料でお受けしています。
公正証書遺言の作成をご検討の際には、Authense法律事務所までお気軽にご相談ください。

記事を監修した弁護士
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Authense法律事務所記事監修チーム
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