遺言書を作成する際には、遺留分に注意が必要です。
では、遺留分を侵害したら、遺言書は無効になるのでしょうか?
今回は、遺言書と遺留分の関係や、遺留分トラブルを防ぐための遺言書作成のポイントなどについて、弁護士がくわしく解説します。
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遺言書とは
遺言書とは、自分の死後における自分の財産の行き先などについて、生前に指定しておくための書類のことです。
遺言書の種類や方式は民法で定められており、使用されている遺言書の形式としては、主に次の2つが挙げられます。
- 自筆証書遺言:遺言者が全文を自書する遺言書
- 公正証書遺言:公証人と2名の証人の面前で作成する遺言書
遺言書は、原則として遺言者の自由に作成することができ、親族以外に財産を渡す内容の遺言書などを作成することも可能です。
また、作成にあたって、亡くなった場合に相続人となる予定の人(「推定相続人」といいます)などの承諾を得る必要はありません。
遺言書と遺留分はどちらが優先?
遺留分とは、亡くなった人(「被相続人」といいます)の子や配偶者など一定の相続人に保証された、相続での取り分のことです。
では、遺留分を侵害した遺言書は無効となるのでしょうか?
遺言書と遺留分との関係について解説します。
遺留分を侵害した遺言書も有効
遺留分を侵害する内容であるからといって、遺言書が無効になるわけではありません。
たとえば、法定相続人である子がいるにもかかわらず、友人Aに全財産を遺贈する内容の遺言書を作成した場合であっても、遺言書に他の問題がない限り、この遺言書は有効です。
遺留分を侵害する遺言書は遺留分侵害額請求の対象になる
遺留分を侵害する内容の遺言書であっても有効であるとはいえ、このような遺言書は遺留分侵害額請求の対象となります。
遺留分侵害額請求とは、侵害された遺留分相当額の金銭を支払うよう、遺言などで財産を多く受け取った相手に対して請求することです。
上の例では、被相続人の子から友人Aに対して、遺留分侵害額請求がされる可能性があるでしょう。
遺留分侵害額請求がされると、友人Aは被相続人の子に対して、侵害した遺留分相当額の金銭を支払う必要が生じます。
なお、遺留分の権利は、遺留分侵害額請求がなされてはじめて発生するものです。
そのため、仮に被相続人の子が遺留分侵害額請求をしなければ、友人Aは被相続人の子に対して金銭を支払う必要はありません。
遺留分のある相続人は誰?
相続人であるからといって、すべての人に遺留分の権利があるわけではありません。
遺留分のない相続人と遺留分のある相続人は、それぞれ次のとおりです。
遺留分のない相続人
次の人は、たとえ相続人となる場合であっても、遺留分の権利がありません。
- 兄弟姉妹
- 甥姪
つまり、これらの人は、仮に自身が一切財産を受け取れないという内容の遺言書があったとしても、遺留分侵害額請求などをすることができないということです。
遺留分のある相続人
兄弟姉妹と甥姪以外の相続人は、遺留分の権利を有します。
相続人となった場合に遺留分の権利を持つ人は、次の人などです。
- 配偶者
- 子、孫
- 父母、祖父母
遺留分の割合を知ろう
各相続人が有する遺留分の割合を知るためには、まず、その相続全体の遺留分割合を知る必要があります。
遺留分のある相続人が複数いる場合には、その相続全体の遺留分割合に遺留分のある相続人の法定相続分を乗じることで、個々の相続人の遺留分割合が算定されます。
相続全体での遺留分割合は、次のとおりです。
遺留分の割合:原則として2分の1
遺留分の割合は、原則として2分の1です。
相続人が複数いる場合には、これに法定相続分を乗じて個々の遺留分割合を算定します。
たとえば、配偶者と3名の子が相続人となる場合における各相続人の遺留分割合は、次のとおりです。
- 配偶者:2分の1(全体の遺留分割合)×2分の1(法定相続分)=4分の1
- 子1:2分の1(全体の遺留分割合)×6分の1(法定相続分)=12分の1
- 子2:2分の1(全体の遺留分割合)×6分の1(法定相続分)=12分の1
- 子3:2分の1(全体の遺留分割合)×6分の1(法定相続分)=12分の1
直系尊属のみが相続人の場合:例外的に3分の1
被相続人の父母など、直系尊属のみが相続人である場合には、例外的に遺留分割合が3分の1となります。
たとえば、被相続人の父母のみが相続人である場合におけるそれぞれの遺留分割合は、次のとおりです。
- 父:3分の1(全体の遺留分割合)×2分の1(法定相続分)=6分の1
- 母:3分の1(全体の遺留分割合)×2分の1(法定相続分)=6分の1
遺留分を侵害する遺言書があった場合遺留分請求に時効はある?
遺留分を侵害する内容の遺言書があった場合において、遺留分侵害額請求はいつまでに行うべきなのでしょうか?
遺留分侵害額請求の時効は、次のとおりです。
なお、遺留分侵害額請求をする方法は、法律では特に定められていません。
しかし、期限内に請求したことの証拠を残すため、実務では内容証明郵便で行うことが一般的です。
遺留分侵害額請求の時効は原則として1年
遺留分侵害額請求をする権利は、次の事実を両方知った時点から1年が経過すると、時効によって消滅します。
- 相続が開始したこと(=被相続人が亡くなったこと)
- 遺留分を侵害する遺贈(遺言書)などがあったこと
亡くなった時点から1年ではなく、これらの事実を知ってから1年とされていますので、誤解のないように注意しましょう。
たとえば、亡くなってから5年後に亡くなったことや遺留分を侵害する遺言書の存在を知った場合には、そこから1年間は遺留分侵害額請求をすることができるということです。
相続開始から10年経つと請求権が消滅する
相続が起きたことや遺言書の存在を知らないままであったとしても、相続開始から10年が経過すると、もはや遺留分侵害額請求をすることはできません。
亡くなってからあまりにも時間が経ってからの遺留分侵害額請求を認めてしまうと、経済的な安定性が損なわれてしまいかねないためです。
遺留分トラブルを避ける遺言書作成のポイント
遺言書を作成する際には、後の遺留分トラブルを避けるよう注意する必要があります。
遺留分トラブルを避けるための遺言書作成のポイントは、次のとおりです。
遺留分を侵害しない内容で作成する
遺留分トラブルを避けるためにもっとも効果的な方法は、そもそも遺留分を侵害する内容の遺言書を作成しないことです。
2019年7月1日に施行された改正民法により、2022年8月現在、遺留分請求は金銭請求が原則とされています。
そのため、自社株や不動産など容易に換金できない財産が大半を占める場合には、特に注意しなければなりません。
なぜなら、この場合において遺留分を侵害する内容の遺言書を遺してしまうと、遺留分侵害額請求されても支払うべき金銭がすぐに用意できず、財産を多く渡した相手をむしろ困らせてしまう可能性があるためです。
したがって、安易に遺留分を侵害した遺言書を作成するのではなく、遺留分を侵害しない内容で目的を達成できないかどうか、あらかじめ検討することをおすすめします。
たとえば、遺産の大半が自社株である場合には、議決権を制限した種類株式を活用することなどで、会社の運営へ影響なく、遺留分相当の一部の株式を後継者に渡すなどの対策を検討できるでしょう。
また、信託を活用する方法も検討できます。
しかし、このような対策をご自身のみで検討することは、容易ではありません。
あらかじめ弁護士へ相談をして、事情に合った最適な対策を練ったうえで遺言書を作成することをおすすめします。
遺留分を侵害する場合には遺留分侵害額請求時の支払原資を確保する
検討をした結果、遺留分を侵害する内容の遺言書を作成する場合もあることでしょう。
ただし、この場合には、仮に遺留分侵害額請求がされた場合に備えた資金繰りの対策をセットで行っておく必要があります。
この対策をしておかなければ、請求された遺留分相当の金銭を支払えず、遺産を多く取得した人を困った立場に置いてしまう可能性が高いためです。
支払原資の確保としては、たとえば資産の一部を生前に売却して現金化しておくことなどのほか、後ほど解説をする生命保険の活用などが検討できます。
いずれにしても、「遺留分請求なんてされないだろう」などと考えて遺留分を侵害する内容の遺言書を安易に残すことは、最も避けるべきでしょう。
あらかじめ意向を伝えておく
冒頭で触れたように、遺言書を作成するにあたって、推定相続人に同意を得る必要などはありません。
しかし、後のトラブルを避けるためには、遺言書を作成する段階で、遺言書の内容やそのような遺言書を遺す理由などを推定相続人に伝えて理解を得ておくことも一つでしょう。
遺留分を侵害する内容の遺言書を作ることには、何らかの理由があることかと思います。
たとえば、「二男には海外留学や自宅の建築などで十分なお金をかけてきたから、相続では長男に多く残したい」といったことや、「同居をしてくれた長男に財産の大半を占める自宅を渡してあげたい」といったこと、「会社を継ぐ長男に自社株を集約して承継させたい」といったことなどです。
こうした事情をあらかじめ本人から話しておくことによって、取り分の少ない推定相続人の理解が得られ、将来の遺留分侵害額請求の抑止力となる効果が期待できます。
遺言書の付言事項を活用する
遺言書には、「付言事項」を記載することができます。
付言事項とは、遺言書についての補足事項のようなものです。
一般的には、その遺言書を遺した理由や、「これからも家族仲良く暮らしてください」など将来遺言書を見ることとなる人へのメッセージなどを記載することが多いでしょう。
付言事項に書いた内容には、法的拘束力はありません。
しかし、ここに遺留分を侵害した遺言書を作成せざるを得なかった理由や、遺留分侵害額請求をしないでほしい旨などを書いておくことで、遺留分侵害額請求の抑止力となる効果が期待できます。
生前の遺留分放棄を活用する
被相続人の生前に、遺留分放棄をする制度が存在します。
ただし、生前に遺留分放棄をするためには、家庭裁判所の許可が必要です。
許可を得るためには、原則として次の要件をすべて満たさなければなりません。
- 遺留分放棄をしようとしている本人の自由意思によること
- 遺留分放棄に必要性や合理性が認められること
- 遺留分権利者が充分な代償を受け取っていること
そのため、被相続人や他の推定相続人などの要請で無理に遺留分放棄させることなどはできません。
また、いくら遺留分放棄をする人が協力的であったとしても、十分な代償がないと判断されれば許可されない可能性が高いでしょう。
このように、生前に遺留分放棄をしてもらうハードルは、決して低いものではありません。
しかし、仮にこれらの要件をクリアできそうな場合には、ぜひ活用したい制度の一つです。
遺留分の権利を持つ推定相続人に遺留分放棄をしておいてもらえば、遺留分侵害額請求の心配をすることなく遺言書を作成することが可能となります。
なお、被相続人が亡くなってからの遺留分放棄には特に方式などの制限はなく、遺留分侵害額請求はしない旨の意思表示を、遺産を多く受け取った相手に対してするのみで構いません。
生命保険を活用する
生命保険は、遺留分対策としてしばしば用いられています。
その理由は、主に次のとおりです。
遺留分侵害額請求に備えた資金準備ができるため
一部の相続人の遺留分を侵害する内容の遺言書を作る場合には、将来の遺留分侵害額請求に備えた資金繰り対策が必要となることは、先ほど解説したとおりです。
この資金繰り対策として、生命保険がしばしば活用されます。
なぜなら、被相続人を被保険者とした生命保険金は、被相続人の死亡により受取人に対して直接支払われるためです。
遺留分侵害額請求をされる可能性のある人を生命保険金の受取人に指定しておくことによって、遺留分侵害額請求がされた場合には、受け取った生命保険金を原資として請求された遺留分侵害額を支払うことが可能となります。
遺留分算定の基礎となる金額を減らす効果があるため
遺留分算定の基礎となる財産は、次のとおりです。
- 遺言書の対象となった財産など、被相続人が相続開始のときにおいて有していた財産
- 相続開始前の1年間に、被相続人が相続人ではない人に対して贈与した財産
- 相続開始前の10年間に、被相続人が相続人に対して贈与した財産
- 2や3以前であっても、当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をした財産
実は、この中に生命保険金は含まれていません。
生命保険金は受取人の固有財産であり、遺産とは異なる性質を持っているためです。
そのため、たとえば相続開始時に被相続人が有していた2,000万円の預貯金は遺留分算定の基礎に含まれる一方で、この2,000万円を被相続人が生前に保険料として払い込み、被相続人の死亡によって支払われた2,000万円の生命保険金は、遺留分算定の基礎に含まれません。
この性質を利用して、遺留分の金額を下げるために生命保険がしばしば使われています。
ただし、遺産の大半を生命保険とするなど、遺産総額などから見て看過できないほどの不公平が生じている場合には、例外的に生命保険が遺留分算定の基礎に含まれることとされています。
「いくら以上の生命保険金であれば遺留分算定の基礎に含まれる」というような明確な線引きはありませんので、あらかじめ弁護士へ相談のうえ、個別の状況に応じて慎重に検討する必要があるでしょう。
専門家のサポートを受けて遺言書を作成する
問題のない遺言書を作成することは、実はそれほど容易なことではありません。
遺言書の作成は、遺留分などについて十分考慮をしたうえで行うべきものです。
検討不足のまま安易な内容で遺言書を作成してしまえば、将来の争いの種となってしまう可能性があるでしょう。
そのため、遺言書を作成する際には、弁護士など専門家のサポートを受けることをおすすめします。
専門家のサポートを受けることで、自分では気づきにくいリスクや検討が漏れている点などに気がついてもらいやすくなり、将来のトラブルリスクを下げることが可能となります。
まとめ
遺留分を侵害したからといって、遺言書が無効になるわけではありません。
しかし、遺留分を侵害した遺言書を作成すれば、将来遺留分侵害額請求がされ、トラブルとなる可能性があります。
遺言書作成時には、遺留分について理解したうえで、可能な対策を講じておくべきでしょう。
遺留分についてお困りの際や、遺言書の作成についてお悩みの際などには、ぜひAuthense法律事務所までご相談ください。
Authense法律事務所には遺言書や遺留分に詳しい弁護士が多数在籍しており、親身になって解決へ向けたサポートをしております。
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