コラム
公開 2021.03.01 更新 2022.03.14

事業承継における株式の承継方法とは?弁護士が詳しく解説!

中小企業の事業承継にとって、次期経営者にどのように株式の承継をさせるかは、非常に重要な問題となります。生前に株式を継承させるのか、相続時にさせるのかでは、方法が異なります。
今回は、どのタイミングで承継させるかなど、承継させる場合の注意点を解説させていただきます。

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事業承継における株式の承継について

「事業承継」において、次期経営者に株式を承継させることはとても重要なこととなります。
例えば、自社株式100%を所有している社長が亡くなり、相続人が子ども3名で、遺言書がない場合を想定しましょう。
このような場合、遺産の分け方が決定するまで、株主の権利については、相続人の準共有状態となります。
また、遺産分割協議が未了の場合は、株式の権利を行使する者1名を定めて、会社に対してその者の氏名を通知し、その定められた権利行使者が、株主としての権利行使を行うこととなります(会社法106条1項本文)。
準共有者(相続人3名)の仲が悪いなどの理由で、株式の権利を行使する者1名を定められない場合は、権利行使者の指定は、持分価格に従い、その過半数で決せられます(最高裁第三小法廷平成9年1月28日判決)。
そのため、次期経営者以外の2名の相続人が結託して、次期経営者以外の者が株式の権利を行使する者と決せられた場合は、次期経営者以外の者が、株主として議決権を有することとなり、会社の代表取締役の変更や会社の解散等の判断を下すことができるようになってしまいます。

また、このようなクーデターのようなことが起きなくても、自社株式の評価は、予想外に高いことも多く、多額の代償金を準備しなければならないこともあります。

したがって、株式の承継は、失敗してしまうと、会社の経営を危うくしてしまう、非常に大事なことといえます。
株式の承継の主な方法としては、被相続人の生前に承継する方法と被相続人の相続発生時に承継する方法がございますので、以下、詳しくご説明いたします。

生前に株式を承継させる場合

生前に株式を承継させる場合

被相続人の生前に、次期経営者に株式を承継させる方法としては、主に①贈与と②売買の2種類があります。
中小企業の株式は配当が出ないことも多く、あまり価値がなさそうに思えるのですが、実際に評価額を算定すると金額が大きくなることが多いです。
したがって、①贈与を選択する場合は、贈与税の問題が、②売買の場合は、取得代金をどう準備するかという問題が、それぞれ生じてきます。
この辺りについては、税理士や公認会計士に、株式の評価額を算出してもらい、それぞれの問題について検討することが良いでしょう。

また、①贈与を選択する場合は、「特別受益」の問題も出てきます。自社株の価値が大きく、「特別受益」とみなされた場合は、相続発生時に持戻し計算をされてしまいます。
さらに、自社株について、贈与税の算定には、贈与時の評価で計算されますが、特別受益の算定には、相続発生時の評価で計算されてしまいます。
そのため、贈与時の評価額が低くても、その後、会社の業績が伸びた場合には、相続発生時の評価額が大きくなってしまい、次期経営者が被相続人の相続にて多額の特別受益を受けたとして何も取得できないということになる場合があります。
このような点も踏まえて、①贈与と②売買のいずれかを選択するようにしましょう。

①贈与と②売買のいずれを選択する場合も、贈与契約書や売買契約書の準備は必要になりますし、譲渡制限のついている株式の場合には、譲渡承認の手続をとることが必要となってきます。この辺りについては、弁護士等の専門家に依頼して、法的手続に漏れがないようにしましょう。

相続時に株式を承継させる場合

被相続人の相続時に、次期経営者に株式を承継させる方法としては、主に、①遺言と②遺産分割協議があります。
上述のとおり、②遺産分割協議ですと、次期経営者に敵対する相続人がいる場合に、株主の権利を主張できなくなるおそれがありますので、①遺言を作成することを強くお勧めします。

①遺言にて、次期経営者に自社株の全部を相続させる旨を定めておくと、次期経営者は、被相続人が亡くなった後、すぐに株主の権利を主張することができ、会社の経営に支障をきたすということはなくなります。
遺言の内容や作成方法については、株式の承継がスムーズに進むよう、万全の準備をするためにも、弁護士や司法書士等の専門家に相談し、公正証書遺言を作成すると良いでしょう。

遺言を作成していても、「遺留分」の問題は残るため、自社株の評価額が高く、遺留分が発生しそうな場合は、遺留分に相当する金額を準備することも忘れずに検討しておきましょう。

現経営者に経営権を残しつつ、承継する場合(応用編)

現経営者に経営権を残しつつ、承継する場合(応用編)

それでは、現経営者が、何らかの理由でまだ次期経営者に経営権を渡したくないという場合、株式を承継することができるのでしょうか。
ここは、応用編になりますので、方法について、簡単にご紹介いたします。

①黄金株(種類株式を用いる場合)

黄金株とは、株主総会決議事項又は取締役会決議事項について拒否権をもつ株式のこと(会社法108条1項8号)をいいます。
株式会社で発行できる種類株式の1つで、事業承継の場面でよく活用されます。
事業承継では、黄金株を現経営者、他の株式を次期経営者に贈与や売買で承継させるなどの方法が用いられます。

②属人的株式を用いる場合

属人的株式とは、非公開会社に認められる、剰余金の配当を受ける権利、残余財産の分配を受ける権利と株主総会における議決権に関する事項について、株主ごとに異なる取り扱いを行う旨を定款で定め、発行できるもの(会社法109条2項)をいいます。
事業承継では、現経営者の株式の議決権を1株あたり100議決権とするなどという方法が用いられます。

③株式信託を用いる場合

株式信託とは、株式の所有者(委託者)が、信託行為によって、受託者に対して当該株式を託(信託的に譲渡)し、受託者が、その定められた目的にしたがって、託された財産の管理や処分をし、その財産から生ずる利益を委託者から指定された者(受益者)に与えるものになります。
事業承継では、現経営者が受託者となり、経営権を維持しつつ、受益権を次期経営者に移すなどという方法が用いられます。

①②③については、応用編ではありますが、事業承継の株式の承継について、柔軟に対応ができるものとなっております。
具体的な手続や方法、メリットやデメリット、その使い方等については、事業承継の専門家に相談されることをお勧めいたします。

事業承継税制特例について

最後に、株式の承継に関する税金の特例(事業承継税制特例)をご紹介いたします。
事業承継税制特例とは、事業承継に関する納税(次期経営者が現経営者から株式等を贈与又は相続によって取得した場合の税金)が猶予される制度のことで、平成21年税制改正にて創設され、平成30年税制改正にて、大幅に要件が緩和されました。
こちらの制度については、細かい要件が定められており、平成30年4月1日から令和5年3月31日までに、認定経営革新等支援機関の指導及び助言を受けた旨を記載した特例承継計画の提出が必要となります(参考:-経営承継円滑化法-申請マニュアル【相続税、贈与税の納税猶予制度の特例】)。

そのため、事業承継税制の特例を使いたいと思われる方は、すぐに税理士等の専門家に相談をして、メリットとデメリットを吟味しながら、活用するかのご判断をされると良いかと思います。

まとめ

最初にも申し上げましたが、株式の承継は、事業承継にとって非常に大事なものとなります。そのため、被相続人の生前にしっかりと対策を採らなければなりませんので、早めに専門家に相談をして、準備を進めていくことをお勧めいたします。

記事を監修した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
日本大学法学部卒業、日本大学大学院法務研究科修了。個人法務及び企業法務の民事事件から刑事事件まで、幅広い分野で実績を持つ。離婚や相続などの家事事件、不動産法務を中心に取り扱う一方、新規分野についても、これまでの実践経験を活かし、柔軟な早期解決を目指す。弁護士会では、人権擁護委員会と司法修習委員会で活動している。
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