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故人が遺言書を遺していたものの、その遺言書の内容に納得がいかないということもあるでしょう。
では、遺言書が遺っていた以上、必ずしもその遺言に従わなければならないのでしょうか?
確かに、その遺言書が有効なものあれば、原則としてその遺言に従って遺産の分配などを行います。
一方、仮に遺言書が無効であれば、その遺言に従う必要はありません。
では、遺言書が無効になるのはどのようなケースなのでしょうか?
今回は、遺言書が無効になるケースや無効にする方法などについて、弁護士がくわしく解説します。
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遺言書の内容に納得できない場合は変更できる?
亡くなった人(「被相続人」といいます)が遺していた遺言の内容に、納得がいかない場合もあるでしょう。
では、納得のいかない遺言書があった場合、その遺言の内容を変更することはできるのでしょうか?
結論をお伝えすると、一部の相続人にとって都合の悪い内容であったからといって、遺言の内容を変更することはできません。
そもそも、すべての関係者が納得のいく内容の遺言書を遺すことは容易ではなく、遺言書が遺っている以上、誰かにとっては都合の悪いものであることが大半です。
そのため、一部の相続人に納得がいかないからといって遺言書の内容を変更できてしまうようでは、遺言書の意味をなさなくなってしまうでしょう。
ただし、遺言書が法律で定められた方式に従っていないなど無効なものである場合には、その遺言書に従う必要はありません。
遺言書が有効か無効か判断する方法
被相続人が遺していた遺言書が有効か無効か判断するためには、どうすればよいのでしょうか?
その遺言書が有効なものか無効なものか関係者間で意見が対立した場合において、最終的に判断をするのは裁判所です。
裁判所が判断する以上は、当然ながら何らかの法的根拠が必要となります。
そのため、まずは遺言書の形式や遺言書策作成時の本人の状況などを確認して、被相続人の日記や診断記録など証拠となりそうなものがあれば、保存しておくとよいでしょう。
遺言書が無効となるケースは、次で解説します。
遺言書が無効になるのはこんな場合
遺言書には、次の3種類があります。
- 自筆証書遺言
- 秘密証書遺言
- 公正証書遺言
いずれの遺言書も、作成の方式が民法で定められています。
民法の方式が守られていない遺言書は、それだけで無効となります。
自筆証書遺言と秘密証書遺言は、遺言者が自分で作成するため、民法に定められた方式が守られていないことがよくあります。
特に、自筆証書遺言は遺言者ご本人以外の方の関与なく作成されるので、民法上の方式が守られていないことが多いです。
こうした、民法上の方式が守られていない遺言書は無効となります。
また、法務局の保管制度を利用していない自筆証書遺言、秘密証書遺言は、家庭裁判所で内容の確認を行わなければなりません。
この手続を「検認」と呼びます。
さらに、認知症の方が作成された遺言書など、遺言能力を欠いた状態で作成された遺言書も無効となります。
その他にも、遺産に含まれない財産が遺言書に含まれていたり、他にも遺言書が存在したりした場合には、遺言書が無効となることもあります。
方式が守られていない
先ほど紹介したように、遺言書には、自筆証書遺言、秘密証書遺言、公正証書遺言の3種類があり、それぞれ作成方式が異なります。
それぞれにどのような特徴や方式があるのか把握し、どのような場合に無効となってしまうのかを理解しておく必要があります。
自筆証書遺言
自筆証書遺言は、その全文、日付、氏名を自書し、押印しなければなりません(民法968条1項)。
自書、つまり、自分で手書きすることが必要です。
遺言書の中に加除その他の変更箇所があれば、その部分について変更の旨の記載と押印が必要です(同条3項)。
これらが守られていない遺言書は、それだけで無効となります。
たとえば、全文と氏名の自書があっても、日付の記載漏れがあれば無効です。
日付については「〇月吉日」という記載の仕方も無効であるとされています。
また、全文がワープロで作成され、署名だけが自書であっても無効となります(ただし、財産目録だけならばワープロでも可能とされています、同条2項)。
自筆証書遺言は遺言者が一人で作成するため、方式が守られていないことも多々あります。
秘密証書遺言
秘密証書遺言は、以下の方式が定められています(民法970条)
- 遺言者が遺言者に署名、押印すること
- 遺言者が遺言書を封じ、遺言書と同じ印章で封印すること
- 遺言者が公証人及び証人2名以上の前に封書を提出し、自己の遺言書である旨並びにその筆者の氏名及び住所を申述すること
- 公証人が、その証書を提出した日付、及び遺言者の申述を封紙に記載した後、遺言者及び証人とともに署名し、押印すること
これらが一つでも守られていなければ、その遺言書は無効です。
また、証人については、未成年者や、遺言者の相続人やその配偶者、公証人の配偶者、4親等内の親族等の欠格事由があります(民法974条)。
公正証書遺言
公正証書遺言には、以下の方式が定められています(民法969条)。
これらが一つでも守られていなければ、その遺言書は無効です。
- 証人2人以上の立会いがあること
- 遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授すること
- 公証人が、遺言者の口述を筆記し、これを遺言者及び証人に読み聞かせ、または閲覧させること
- 遺言者及び証人が、各自これに署名し、押印すること(ただし、遺言者が署名することができない場合は、公証人がその事由を付記して署名に代えることができる)
- 公証人が、その証書は上記の方式に従って作成されたものである旨を付記して、署名、押印すること
手続きが守られていない
3種類の遺言のうち、自筆証書遺言、秘密証書遺言については、遺言を執行するためには、家庭裁判所での検認という手続きが必要です(民法1004条)。
この検認という手続きは、相続人に対し遺言の存在及びその内容を知らせるとともに、遺言書の形状、加除訂正の状態、日付、署名など検認の日現在における遺言書の内容を明確にして、遺言書の偽造・変造を防止するための手続です。
ただし、検認は遺言書を有効とするものではなく、検認の手続きを経たから有効というわけではありません。
自筆証書遺言、秘密証書遺言については、法律上は保管者の定めがなく、遺言者がご自身で保管されていることがあります。
そのため、遺言者が亡くなられた後、遺産を整理する中で、突如として遺言書が発見される場合があります。
秘密証書遺言は当然封印されていますし、自筆証書遺言でも封がされていることがあります。
その場合、家庭裁判所での検認において、相続人の立ち会いのもとで開封されなければなりません。
被相続人に遺言能力がない
法律上、遺言書は15歳以上の者が作成できると定められています(民法961条)。
これは、遺言書を作成するには、15歳程度以上の判断能力が必要とされているということです。
法律上は、遺言能力と呼びます。
この遺言能力を欠いて作成された遺言書は無効です。
遺言能力がなく無効であるとされる典型例は、認知症を発症している方が作成した遺言書の場合です。
公正証書遺言であっても無効とされることがあります。
遺言書の内容が現状と合致しない
遺言書の内容が遺産の内容と合致していない場合、遺言の内容無効とされることがあります。
遺言者が死亡した際に、存在しない財産について遺贈する旨を定めている場合(民法996条)や、遺言により遺贈を受ける人が遺言者よりも先に死亡している場合です(民法994条)。
他にも遺言書がある
遺言書は、生前はいつでも撤回できますし、何通でも作成することができます。
遺言書が複数ある場合、最新の日付のものが有効とされ、前の日付の遺言書は、最新の遺言書と抵触する部分は撤回したものとみなされます(民法1023条)。
納得できない場合に遺言を無効にする方法
内容に納得のできない遺言書があったとしても、相続人の1人が勝手に内容を変更したり遺言書を無視して手続きを進めたりすることはできません。
では、遺言書を無効にするためには、どうすればよいのでしょうか?
具体的な方法は、次のとおりです。
相続人全員で話し合う
有効な遺言書であったとしても、法定相続人全員が合意をすれば、遺言書に従わずに遺産を分けることが可能です。
たとえば、遺言書どおりに分けてしまうと相続税が高額となるケースや、いわゆるワンマンであった被相続人の指定どおりではなく自分たちで話し合って遺産を分けたいと考えているケースなどが考えられます。
ただし、あくまでも法定相続人の全員が合意をした場合のみのことであり、1人でも遺言書どおりに手続きをしたいと希望する人がいれば、無効にすることはできません。
たとえば、法定相続人が5人の子である場合において長男に全財産を相続させるという遺言が遺っていた場合には、他の4人の合意のみでは足りず、長男の合意も必要になるということです。
多数決などではないことに注意しましょう。
また、遺言書の内容に相続人以外の人が関係する場合には、その相手の合意も得なければなりません。
たとえば、法定相続人ではない人や団体(「受遺者」といいます)に一部でも遺贈をする内容が書かれているのであれば、その受遺者の合意も必要になるということです。
他にも、遺言執行者として法定相続人以外の人が指定されている場合には、その遺言執行者の合意も必要となります。
弁護士へ相談する
遺言を無効にしたい場合において、相続人全員が合意するケースは、現実的にはさほど多くないでしょう。
なぜなら、たとえば長男に全財産を相続させるという内容の遺言書が遺っていた場合においては、長女と二男が「無効にしたい」と考える一方で、遺産を多く受け取れる長男はその遺言のとおり手続きをしたいと考えることが多いためです。
この場合には、単に内容に納得がいかないというのみでは、長女と二男がいくら結託をしたところで、遺言書を無効にすることはできません。
遺言書の無効を主張するためには、たとえば次のような事情が必要です。
- 自筆証書遺言が遺っていたが、被相続人の印鑑が押されていないなど形式的な不備がある
- 遺言書を作成した日付では被相続人は重度の認知症と診断されており、長男が遺言書を偽造した可能性が高いと考えている
- 遺言書の筆跡が被相続人のものと違い、長男が偽造した可能性が高いと考えている
確かにこのような事情があると裁判所に認定されれば、遺言書は無効となります。
遺言書の形式不備や偽造・変造が疑われる場合には、弁護士へご相談ください。
弁護士へ相談することで、遺言書を無効とする余地があるかどうか見通しを立てることが可能となるでしょう。
そのうえで、遺言書を無効としたい側の主張にある程度正当性が見込まれるのであれば、弁護士が代理して長男側と交渉し、解決を図ることとなります。
遺言無効の調停を申し立てる
当事者間の話し合いでは解決が見込めない場合には、遺言無効調停へ移行します。
調停とは、家庭裁判所で行う話し合いです。
調停では、裁判所の調停委員が双方の意見を聞いて、話し合いを調整します。
なお、あくまでも話し合いの場であるため、裁判所が決断を下すものではありません。
弁護士へ依頼した場合には、弁護士が調停に代理で出席をしたり、調停に同行したりすることが可能です。
遺言無効確認訴訟を提起する
調停での解決ができない場合には、遺言無効確認訴訟へと移行します。
遺言無効確認訴訟では、裁判所が双方から提出された証拠などを確認のうえ、遺言書が有効か無効かを判断します。
遺言無効確認訴訟の結果をもって、その遺言書が有効であるのか無効であるのか、最終的な決着がつくことになります。
遺言書の効力に関してよくある質問
最後に、遺言書の効力に関するよくある質問とその回答を3つ紹介します。
遺言書を勝手に開封したら無効になる?
民法1004条3項において、「封印のある遺言書は、家庭裁判所において相続人又はその代理人の立会いがなければ、開封することができない」とされています。
つまり、封のしてある遺言書は、勝手に開けてはならないということです。
では、封のある遺言書を勝手に開封したら、その遺言書は無効となってしまうのでしょうか?
結論をお伝えすると、無断で開封したからといって、遺言書が無効になるわけではありません。
遺言書の開封と、遺言書の有効・無効とは別の問題です。
ただし、この規定に反して勝手に遺言書を開封してしまうと、5万円以下の過料に処される可能性があるほか、他の相続人から偽造や差し替えなどを疑われてトラブルとなる可能性があります。
検認を受けた遺言書は有効とのお墨付き?
被相続人が遺していた遺言書が自筆証書遺言であり、また法務局での保管制度を利用していなかった場合には、相続が起きた後ですみやかに検認手続きをしなければなりません。
検認とは、その時点での遺言書の状態を保存することで以後の偽造や変造などを防ぐ手続きであり、家庭裁判所で行います。
検認が済むと、遺言書に裁判所の印が押された「検認済証明書」が添付されます。
では、無事に検認を終え検認済証明書が添付されたことは、その遺言書が有効であるとのお墨付きなのでしょうか?
結論をお伝えすると、検認を受けたからといって、遺言書が有効であることが確約されたわけではありません。
なぜなら、検認の場では被相続人の筆跡との整合性が確認されるわけでも、遺言書作成時の被相続人の健康状態などが確認されるわけでもないためです。
遺言の無効を主張したい場合には、検認とは別途、調停や訴訟を申し立てることが必要です。
受遺者がいても相続人全員が合意すれば無効にできる?
遺言書では、法定相続人以外の第三者に遺産を渡すことも可能です。
では、この場合であっても、法定相続人全員さえ合意をすれば、遺言書をなかったことにして手続きを進めることができるのでしょうか?
結論をお伝えすると、法定相続人以外の人(受遺者)に遺産を渡す内容となっている場合、法定相続人のみの合意では遺言書を無効にすることはできません。
この場合には、その受遺者の合意も得る必要があることには注意してください。
まとめ
遺言書の内容が自分にとって納得できないものであるからといって、一方的に遺言書を無効にすることはできません。
遺言書においてもっとも重要なものは遺言者である被相続人の遺志であり、一部の人の納得がいかないからと言って遺言書が無効となってしまっては、遺言書の意味をなさないためです。
しかし、遺言が実際には本人の手によって作成されたものでない場合や作成後に誰かに偽造をされた場合、また法律上の要件を満たしていない場合などには、遺言書を無効にすることが可能です。
内容の遺言書が出てきたからといって、慌てる必要ありません。
まずは、遺言書の方式、手続が法律上の要件を満たしているか確認しましょう。
遺言書について疑問に感じることがあったら、まずは弁護士にご相談ください。
弁護士に相談することで、解決への糸口が見つかるはずです。
Authense法律事務所には遺言や相続にくわしい弁護士が多数在籍しており、これまでも多くのトラブルを解決してきました。
遺っていた遺言書の効力に疑問がある場合や遺言書の偽造が疑わしい場合などには、ぜひAuthense法律事務所までご相談ください。
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