コラム
公開 2021.02.03 更新 2022.03.14

遺言書は親に書いてもらった方がよい?必要性や注意点について解説

将来の相続について心配になり、子の立場で不安を感じている人もいるのではないでしょうか。今回は、遺言書を親に書いてもらうことの必要性や、書いてもらわない場合のリスクについて解説します。合わせて親に遺言書を書いてもらう方法やその際の注意点についても説明します。

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遺言書を親に書いてもらう必要性はある?

自分が死んだ後に、財産を誰にどれだけ受け取ってほしいのか、財産を遺す人が自分なりの想いを実現するために作成するのが遺言書です。
遺言書を作成しておけば、法定相続分とは異なる割合で遺産の分け方を指定したり、法定相続人以外の人に遺産を渡したりすることができます。

このように、遺言書は財産を残す人にとって大きな意味を持つものと言えますが、一方で財産を相続する人にとっても重要な意味を持つものとも言えます。
遺言書があるかどうかで遺産の相続方法が変わることがあり、遺言書の有無が相続人に与える影響は小さくありません。

遺言書がある場合とない場合とで、一体どのような違いが生じるのか、この点をしっかりと理解した上で、相続開始前から早めに相続対策を講じるようにしましょう。

なお、相続対策では専門的な知識が必要になります。
よくわからず不安な場合には、弁護士などの専門家に相談するようにしてください。

遺言書がない場合:相続トラブルが起きる可能性が高くなる

たとえば、親が「遺産をどう分けるのかは相続人である子どもたちで話し合って決めてほしい」と考えて、生前に遺言書を作成せずに亡くなった場合を考えてみましょう。

相続が開始したときに遺言書が遺されていないケースでは、相続人が2人以上いれば遺産の分け方を相続人同士で話し合って決めることになります。
このとき、相続人による遺産分割協議がスムーズに進めば、遺言書を作らずに亡くなった親の希望どおり、子の意思を尊重した形で遺産相続が実現するため問題はありません。

しかし、実際には遺産分割協議で揉めずに終わるケースばかりではなく、相続トラブルが起きて相続を機に親族の仲が悪くなるケースもあります。

一方、財産を遺す人が生前に遺言書を作成して遺産の分割方法を指定しているケースでは、そもそも遺産分割協議が不要になり、遺留分を請求されるケース等を除き、揉める余地がなくなるため安心です。
親が遺言書を作っていない場合は、将来相続人になる子のほうから提案して、遺言書を書いてもらうことを検討してみてください。

遺言書がある場合:相続開始時の手続き負担が軽減される

遺言書がある場合とない場合の大きな違いとして挙げられるのが、実際に相続が開始した後の手続きの内容です。

遺言書が残されていない場合には、遺産分割協議を行って遺産の分け方を話しあわなければならず、遺産分割協議書を作成する手間もかかります。
相続人の中に未成年者がいるケースでは、遺産分割協議を行うにあたって特別代理人の選任手続きもしなければなりません。

また、遺産分割協議で合意できなかった場合には、裁判所を介した手続きである調停や審判に移行するケースもあり、遺産相続の手続きが完了するまでにさらに時間がかかります。

しかし、遺言書が遺されていて遺産の分け方が指定されていれば、遺産分割協議を行う必要がなくなり遺産分割協議書を作成する手間も省けます。
相続人の中に未成年者がいるケースでも、遺産分割協議自体を行わないため、特別代理人の選任手続きも不要になります。

遺言書があるケースはないケースに比べて相続人の手続き負担が軽くなる傾向にあるため、親に遺言書を書いてもらうようにしましょう。

遺言書を親に書いてもらうときのポイント

遺言書を親に書いてもらうときのポイント

将来の相続のことが気になっている場合でも、「親が死んだ場合」を想定して相続について家族で話しあうことに、抵抗感を覚える人は少なくないはずです。
財産を遺す人にとっても相続する人にとっても、そもそも相続は話題として切り出しにくいテーマであることは間違いないでしょう。

しかし、遺言書がある場合とない場合の違いはすでに紹介したとおりです。
遺言書がないと相続トラブルになる可能性が高くなるなど、多くのデメリットが生じます。
親が遺言書を書いていない場合には、子から親に対して相続の話を切り出して、遺言書を書いてもらうことも大事な選択肢の一つです。

もちろん、単に「死んだ場合に備えて遺言書を書いておいて」などと唐突に依頼しても、親が気分を害して書いてくれない可能性はあります。
しかし、手順を踏んでしっかりと説明すれば、親も納得して遺言書を書いてくれるはずです。
ここでは、遺言書を親に書いてもらう際のポイントを紹介します。

相続について家族で話し合う

実際の相続でありがちなのが「遺産の分け方について相続人同士で全く違う考え方をしていることに、相続が開始した後になってから初めて気づいた」というケースです。

そして、相続が開始してから遺産分割について協議しても、相続人の間で意見の隔たりが大きく、話し合いがまとまらないケースも少なくありません。
相続手続きなどで忙しいときに遺産分割協議を行うのは精神的負担が大きく、イライラして感情的になって対立し、合意できたはずの協議さえ揉めてしまうケースもあります。

一方、相続開始前であれば相続手続きなどで忙しいわけではなく、時間的にも精神的にも余裕があるため、冷静に話し合うことが可能です。

そこで、まずは相続開始前から相続について家族で話しあうメリット、相続の話題を相続開始後まで先送りするデメリット、これらを家族で共有するところから始めてみてください。

相続について家族で話すことの大切さを理解すれば、親も子も納得感をもって相続の話し合いを始められます。
遺産の分け方など、実際に相続が起きたときのことを一体どう考えているのか、互いの考え方を知ることで将来相続トラブルが起きる確率を下げられるでしょう。

相続の知識を家族で共有する

実際に相続が起きたときに、どのような手続きが必要になるのか、また相続トラブルになりやすい場合とは一体どんなケースで相続対策として何が有効なのか、相続に関する知識をあらかじめ調べて家族で共有することが大切です。

たとえば、遺産に土地や家のような分割しにくい財産が含まれる場合には、高額な資産である不動産を誰が相続するのかを巡って、相続人の間で揉めることがあります。
争いを回避するためにも、遺産分割の方法を早めに検討して親に遺言書を書いてもらうほうが良いでしょう。

なお、遺産分割の方法には、現物分割や代償分割、換価分割などさまざまな方法があります。
それぞれの分割方法にはメリットとデメリットがあり、一概にどの方法が良いとは言えませんが、財産の状況などから適切な遺産分割方法を検討することが大切です。

正しい相続の知識を身につけた上で相続について家族で話し合い、どのような方法で遺産分割を行うのかを決めておくことで、後悔のない相続を実現できるでしょう。

作成する遺言書の種類を決める

家族で話し合って決めた遺産分割方法について、遺言書という形で親に書いてもらえば、実際に相続が起きたときに確実にその内容で遺産を相続できるため安心です。

ただし、遺言書にはいくつかの種類があります。
親に遺言書を書いてもらうときには、どの形式で遺言書を書いてもらうのか決めなければなりません。

遺言書には「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」の3種類があり、このうち一般的に使われることが多いのは自筆証書遺言と公正証書遺言の2つです。
この2つの遺言書については後ほど詳しく解説しますが、それぞれの遺言書の特徴やメリット・デメリットを理解した上で形式を選択するようにしてください。

なお、自筆証書遺言を法務局で保管する制度が2020年7月から開始されるなど、遺言書に関する制度は近年改正が行われているため注意が必要です。
遺言書について詳しく知りたい場合には、相続の専門家である弁護士に最初から相談しても良いでしょう。

遺言書を親に書いてもらう際の注意点

遺言書を親に書いてもらう際の注意点

遺言書には守るべき一定の要件があり、要件が満たされていないと遺言書そのものが無効になることがあります。
遺言書を親に書いてもらう際には、どのような点に注意すべきなのかを、親も子も理解しておくことが大切です。
せっかく遺言書を親に書いてもらっても、実際に相続が開始したときになって遺言書の無効が発覚すると、遺言書を作成した意味がなくなってしまうからです。

そもそも遺言書とは、たとえば単にメモ用紙に「私の所有している土地と家は息子に相続させます」などと書いただけで、正式な遺言書として認められるものではありません。
また、親に遺言書を書いてもらうときに、子が色々と手伝うことはあるかもしれませんが、実質的に子が遺言書を作成して捏造を疑われることがないように注意が必要です。

ここでは、遺言書を親に書いてもらう上で、子の立場から気を付けるべき点について紹介します。

形式の不備は無効になる場合がある

親に作ってもらう遺言書が自筆証書遺言の場合には、作成した遺言書に形式上の不備がないかどうか、細心の注意を払う必要があります。
自筆証書遺言では「遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない」と法律で決まっているため、この要件を満たさない遺言書は無効です(ただし、財産目録については要件を満たせば例外的に自書することを要しないとされています)。

たとえば、日付や氏名が記載されていない場合や押印がされていない場合は無効ですし、「2020年12月吉日」など日付を特定できない場合も無効になります。

なお、自筆証書遺言を法務局で保管する制度を利用する場合は、形式が守られているかを保管申請時にチェックしてもらえるため、形式的不備が起きる心配は基本的にありません。

ただし、法務局で保管する制度を利用した場合、確認してもらえるのは形式面のみです。
遺言の内容が適切かどうか、将来相続トラブルを起こすような内容になっていないか、これらの点を確認してもらえるわけではありません。

形式面・内容面ともに適切な形で自筆証書遺言を親に書いてもらうためには、相続に強い弁護士に相談することをおすすめします。

親の意思に基づいた作成が大前提

言うまでもありませんが、遺言書は作成者本人の意思に基づいて作ることが大前提です。
作成者である親の意思を無視するようなことは決してあってはなりません。
もちろん、遺言書を親に書いてもらうにあたって、子が親の相談に乗ったり、適切な助言をしたりするなど、遺言書の作成を間接的な形で手伝うことは可能です。

しかし、たとえば、遺言書の作成を手助けするつもりで子が親に代わって自筆証書遺言を書いてしまうと、そもそも法律的に代筆が認められていないため無効になります。
また、相続人である子が親を脅迫して書かせた遺言書と見なされれば無効になるため、遺言書を親に書いてもらうときや子が相談に乗るときには注意が必要です。

詐欺や脅迫によって被相続人に遺言書を作成させた場合には、相続人としての欠格事由に該当して相続人の地位そのものを子が失うことにもなりかねません。

遺言書の作成にあたっては、相続の当事者である子だけでなく、第三者であり専門家でもある弁護士も交えて、親の遺言書作成をサポートしたほうが良い場合があります。
後悔しない相続を実現するためにも、相続に強い弁護士などの専門家に相談するようにしてください。

遺言書の種類別のメリット・デメリット

遺言書の種類別のメリット・デメリット

遺言書を親に書いてもらうにあたっては、遺言書そのものに関する知識も必要になります。
一般的に使われることが多い遺言書は「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」の2種類なので、この2種類の遺言書についてメリットやデメリットを確認しておきましょう。

なお、各遺言書の作成方法や作成時の注意点を子が理解しておけば、親が遺言書を作成する際のサポートが可能になり、遺言書作成時に親にかかる負担を軽減できる場合があります。
遺言書を作成することを単に面倒に感じて親が作成を拒むケースもありますが、子ができる限りのサポートをすることで、親も納得して遺言書を書いてくれるはずです。

自筆証書遺言と公正証書遺言それぞれの特徴を子が理解して、どちらの遺言書が親により適切なのかを判断して提案すれば、親子ともに納得のいく形の相続を実現できるでしょう。

自筆証書遺言

遺言の全文を自筆、つまり手書きで作成するタイプの遺言が自筆証書遺言です。
公正証書遺言のように公証役場に行く手間はかからず、筆記用具や印鑑などを用意すれば簡単に作成できる点がメリットと言えます。

遺言を書く際には、対象となる財産について正確に記載する必要があり、たとえば「不動産を子に相続させる」といった書き方では、どの不動産なのか特定できないため不適切です。
事前に不動産の登記簿謄本を取得して所在地など不動産に関する情報を正確に記載します。

なお、自筆証書遺言では代筆が不可で本人が自書して作成する必要があり、自分で字を書ける状態にない人は作成できない点がデメリットです。
日付の記入や自署、押印といった要件が守られていないと、遺言書が無効になるリスクがある点もデメリットと言えます。

以前は作成した自筆証書遺言を自宅などで保管することが一般的で、遺言書を紛失する可能性がある点及びあり、また、被相続人が亡くなった後に裁判所で検認をする必要がある点がデメリットでした。
しかし、現在では法務局で自筆証書遺言を保管する制度があり、この制度を使えば遺言書紛失のリスクが解消されるだけでなく、検認も不要となります。

法務局で保管する制度の利用料は3,900円で、自宅で保管する場合と違って盗難や紛失、偽造の心配がないため安心です。ただし、法務局で保管する制度を利用するためには代理人での対応が認められておらず、本人が法務局に赴く必要があるため、外出が可能な人でなければ利用はできませんので注意が必要です。

公正証書遺言

公正証書遺言は公証役場で作成する遺言書で、公文書である公正証書の形式で作成するタイプの遺言書です。
公証人という専門の人が遺言者から遺言内容を聞き取って作成するため、自筆証書遺言のように形式上の不備で無効になるリスクは基本的にありません。

作成にある程度の費用がかかる点はデメリットですが、作成した公正証書遺言の原本は公証役場で保管されるため、紛失のリスクもなく安心です。
作成日当日に公証役場に出向くだけでなく、事前の打ち合わせなども必要で手間がかかりますが、弁護士に依頼した場合は公証人との打ち合わせ等を任せることができ、親の手続き負担を軽減できます。

また、自筆証書遺言を自宅で保管した場合には相続開始後に検認の手続きが必要になりますが、公正証書遺言であれば検認の手続きは必要ありません。
つまり、相続開始後の相続人の手続き負担を軽減できる点がメリットです。

さらに、文字が書けず自筆証書遺言を作成できない人でも、公証人に口述して作成する公正証書遺言であれば作成できます。

遺言の内容自体は公証人が考えるわけではなく自分で考える必要がありますが、遺言書を親に書いてもらう場合には、メリットの多い公正証書遺言にしてもらうと良いでしょう。

まとめ

遺言書を親に書いてもらうことで、親が亡くなって相続が開始したときに相続トラブルが起きるリスクを抑えられます。
遺言書が遺されていれば相続人の相続手続き負担が軽減されることが多く、遺産相続手続きをスムーズに進めるためにも、遺言書を親に書いてもらったほうが良いでしょう。

ただし、遺言書を書く親の立場からすれば、自分が死んだときのことなど考えたくないと思うかもしれません。
遺言書を親に書いてもらうためには、そもそも親に納得してもらうことが大切なので、まずは遺言書を書くことのメリットを家族で共有するところから始めましょう。

なお、遺言書の種類や自筆証書遺言・公正証書遺言のメリットとデメリットは今回解説したとおりですが、実際に遺言書を作る上では専門的な知識がどうしても必要になります。
相続に馴染みのない一般の方が自分だけで遺言書を書こうとしても、わからないことが多くて迷うことも少なくありません。

わからないまま適当な内容で遺言書を作ると、かえって遺言書がトラブルの原因になることもあります。
親にとっても子にとっても後悔のない相続を実現することが大切です。
相続のことは、Authense法律事務所にぜひご相談ください。

記事を監修した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
早稲田大学法学部卒業、早稲田大学大学院法務研究科修了。相続に関する相談会や、労働問題のセミナーなどにも取り組んでいる。
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