「将来、父や母が認知症などで判断能力をなくしてしまったら…」今回は、「成年後見制度」「任意後見制度」「法定後見制度」の内容や手続きの流れや、親族が成年後見人になれるケース・なれないケースなどをお伝えします。また、「家族信託」にも触れるので参考にしてみてください。
目次
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法定相続人とは
法定相続人とは、文字通り「法律で規定された、遺産を相続する権利を持つ人」です。相続が起きたときに誰が遺産を相続するかは民法で規定されており、この後に紹介する「法定相続人の範囲と相続順位」のルールに従って、遺産を相続する法定相続人が決まります。
遺言書を生前に作成して法定相続人以外の人に財産を渡すことも可能ですが、遺言が残されていなければ遺産を相続するのは法定相続人です。法定相続人が1人であればその人が遺産をすべて相続し、複数の法定相続人がいる場合には、遺産の分け方を話しあう「遺産分割協議」を行います。
成年後見制度とは
成年後見制度とは、認知症や知的障害、精神障害などの精神上の障害により判断能力を欠く「成年(者)(20歳以上の者)」の身の回り世話や財産上の保護(後見)を行う制度のことを言います。
- ・ 成年被後見人:財産の管理や身の回りの世話を受けることとなった人のこと
- ・ 成年後見人:成年被後見人の財産の管理(たとえば、不動産や預貯金等の管理、年金の管理、税金や公共料金の支払い等が挙げられます。)および介護や生活面の手配(たとえば、医療契約の締結、入院の手続、入院費用の支払い、生活費を届けたり送金したりする行為、老人ホームへ入居する場合の体験入居の手配や入居契約を締結する行為等が挙げられます。)を行う人のこと
成年後見制度には、将来ご本人が判断能力を欠くこととなった場合に備えて、まだ判断能力が十分なときにご自身の意思で信頼できる人(親族など)に後見を委任する「任意後見制度」と、すでにご本人が判断能力を欠いている場合に、家庭裁判所が後見人を選ぶ「法定後見制度」とがあります。
親族やご友人等、成人であれば原則として誰でも成年後見人になれるのは「任意後見制度」
成年後見制度のうち、親族やご友人等を含め、成人であれば原則として誰でも成年後見人(「任意後見受任者」または「任意後見人」とも言います)になれるのが「任意後見制度」です。ここでは、任意後見制度で親族が成年後見人となるための条件や、成年後見人となるまでの流れについて解説します。
親族やご友人等が任意後見制度で成年後見人になるための条件
親族やご友人等が任意後見制度において成年後見人になる条件は、下記「親族が成年後見人になれないケース」において説明する場合以外は、特にありません(その意味で「原則として誰でも」成年後見人になれる、と表現しています)。ご本人から後見を委任され、それを受任すれば、原則としてどなたでも成年後見人になることができます。
なお、親族やご友人等以外であれば、司法書士や弁護士などの専門家が成年後見人となることが多いようです。
親族やご友人等が任意後見制度で成年後見人になるための流れ
では、親族やご友人等が任意後見制度によって成年後見人となるためにはどのようなステップを踏む必要があるでしょうか?親族やご友人等が任意後見制度で成年後見人となるまでの流れについて解説していきましょう。
- 1. 本人が、判断能力のあるうちに、「(親族やご友人等の)誰に」、「どんなこと」を委任するのか(契約内容)を決める
- 2. 契約内容をまとめたら、ご本人と後見を委任される方(親族やご友人等)とで公証役場へ行く
- 3. 公証役場で、任意後見契約公正証書を作成する(任意後見契約を締結する)
- 4. 法務局に成年後見人の氏名、委任の範囲等が登記(公に)される
- 本人の判断能力の低下
- 5. 家庭裁判所に対して任意後見監督人(成年後見人(親族)を監督する人)選任の申し立てを行う
- 6. 家庭裁判所が任意後見監督人を選任する
- 成年後見人(任意後見人)として委任を受けた業務ができるようになる
1.まず、本人が判断能力のあるうちに「(親族の)誰に」「どんなことを」委任するのか(契約内容)を決めます。契約内容や手続きでお困りの方は、あらかじめ各種相談先に相談するおくことをおすすめします。
任意後見契約も契約であるため、契約自由の原則に基づき、法律の趣旨に反しない限り契約内容を自由に決めることができます。
2.契約内容がまとまったらご本人と後見を委任される方(親族やご友人等)とで公証役場に行きます。
3.法律で規定されている任意後見契約公正証書を作成し、任意後見契約(委任契約の一種)を締結するためです。
任意後見契約を締結した後、4.成年後見人(後見を委任された親族)の氏名、委任された仕事の範囲等が登記(公に)されます。
その後の、ご本人の判断能力が低下してきたというタイミングで、5.家庭裁判所に対して「任意後見監督人を選んでください」という申し立てをします。任意後見監督人とは、成年後見人(親族)が契約の内容どおりきちんと仕事をしているかどうかを監督する人です。
6.家庭裁判所が任意後見監督人を選んではじめて、成年後見人として委任を受けた業務ができるようになります。なお、任意後見監督人の選任の申し立てをすることができるのは次の人です。
- ・ 本人
- ・ 配偶者
- ・ 四親等内の親族(※)
- ・ 任意後見受任者
※四親等内の親族
- ・ 本人の親、祖父母、子、孫、兄弟、おじ、おば など
- ・ 配偶者の親、祖父母、兄弟、おじ、おば など
また、任意後見監督人として選ばれる人は、本人の親族ではなく、
- ・ 弁護士
- ・ 司法書士
- ・ 社会福祉士
- ・ 税理士
などの専門知識を有した第三者の場合が多いです。
成年後見人を自由に選ぶことができず、親族が成年後見人になれない可能性があるのは「法定後見制度」
成年後見制度のうち、成年後見人を自由に選ぶことができないのが「法定後見制度」です。ここでは、親族が法定後見制度で成年後見人となるまでの流れと親族が成年後見人(法定後見人)になれないケースについて解説します。
親族が法定後見制度で成年後見人となるまでの流れ
親族が法定後見制度で成年後見人となるまでの流れは次のとおりです。
- 1. 本人の判断能力が欠けている
- 2. 申立人が自分以外の親族に成年後見人となることを頼む場合は、その親族に事情を話し、了解を得ておく
- 3. 申立人、申し立て先の確認
- 4. 本人情報シート、診断書を取得する
- 5. 申し立てに必要な書類、費用を準備する
- 6. 面接日を予約する
- 7. 家庭裁判所に対して、本人の後見を開始するための審判(後見開始の審判)を申し立てる
- 8. 審理を開始する
- ・ 書類審査
- ・ 申立人、成年後見人候補者との面接
- ・ 本人、成年後見人の調査
- ・ 親族への意向照会
- ・ 医師による鑑定
- 9. 審判(成年後見人が選ばれる。必要によっては成年後見監督人が選ばれる)
- 10. 後見を登記する
- 11. 成年後見人(法定後見人)の仕事を開始する
法定後見制度は「本人の判断能力が欠けている場合」に利用できる制度です。親族が成年後見人となるためには、7.家庭裁判所に対して「親族が本人の成年後見人となるための審判を開始してください」という申し立てを行う必要があります。
1.申立人が自分以外の親族に成年後見人となることを頼む場合は、あらかじめその親族に事情を話し、了解を得ておく必要があるでしょう。
3.「申立人(申し立てできる人)」は、本人、配偶者、四親等内の親族などです。「申し立て先」は、本人の住所地(住民登録をしている場所)を管轄する家庭裁判所です。
4.法定後見制度は、本人の判断能力の程度に応じて「後見」のほかにも「保佐」「補助」の制度が用意されています。本人情報シート、診断書は、本人にいずれの制度を適用するのが適当かを判断するために用いられます。本人情報シートは福祉関係者(ケアマネージャー、ケースワーカーなど)、診断書は医師に作成してもらいます。
5.申し立てに必要な書類、費用は次のとおりです。
申し立てに必要な書類
- ・成年後見開始申立書
※申立書内に成年後見人になって欲しい親族(成年後見人候補者)の氏名等を記入します。
※後述のとおり、成年後見人候補者に親族を指定したとしても、必ずしもその親族が成年後見人になれるわけではありません。 - ・ 親族関係図
- ・ 本人の財産目録及びその資料
- ・ 本人の収支予定表及びその資料
- ・ 後見人候補者事情説明書
- ・ 親族の意見書
- ・ 本人の戸籍
- ・ 本人の住民票又は戸籍の附票
- ・ 成年後見人候補者の戸籍
- ・ 成年後見人候補者の住民票又は戸籍の附票
- ・ 本人が後見登記されていないことの証明書
- ・ 本人の診断書
- ・ 愛の手帳の写し(※本人が知的障害者の場合)
- ・ 申し立て手数料(800円分の収入印紙)
- ・ 登記手数料(2,600円分の収入印紙)
- ・ 郵便切手代(申立てをされる家庭裁判所によって異なります。) など
6.家庭裁判所によっては、申立人や成年後見人候補者である親族から申し立てに至る事情などの聴き取りのため面接を実施しています。申し立てに必要な書類・費用を準備し、書類に必要事項を記入して申し立ての準備が整った段階で家庭裁判所に電話し、面接日の予約を入れます。
その後、予約時に職員から伝えられた面接日時と予約番号を書類に記入し、7.必要書類、費用を家庭裁判所に提出して申し立てをします。提出方法は、家庭裁判所に直接持参する方法と郵送による方法があります。
8.家庭裁判所の審理では、提出された書類に不備がないかどうか(書類審査)、親族(成年後見人候補者)の成年後見人としての適格性の有無(面接、調査、意向照会)、本人の判断能力の程度(鑑定)などが調べられます。
こうした調査、鑑定などが終了した後、9.家庭裁判所が、最も適任と思われる成年後見人を選びます(審判をします)。この際、家庭裁判所が、必要があると認めたときは、成年後見人を監督する成年後見監督人が選ばれることがあります。
なお、繰り返しになりますが、親族を成年後見人候補者に指定したとしても、次の場合は親族が成年後見人に選ばれないこともあります。
- ・ 成年被後見人が有している財産が高額な場合
- ・ 親族間に意見の対立がある場合
- ・ 成年後見人候補者が成年後見人から借金しているなど、両者が利害関係にある場合
- ・ 本人と成年後見人候補者との関係が疎遠であった場合
- ・ 親族が成年後見人の不動産を売買する予定があるなど、申し立てとなった動機に重大な法律行為が含まれている場合
- ・ 本人と成年後見人候補者との生活費等が十分に分離されていない場合
- ・ 申し立て時に提出された財産目録や収支予定表の記載が十分でないことから、成年後見人としての適格性を見極める必要があると判断された場合
- ・ 成年後見人候補者が後見事務に自信がない、相談できる人を希望した場合
- ・ 親族が下記の「親族が成年後見人になれないケース」にあたる場合 など
また、親族以外の方が成年後見人に選ばれても、あくまで家庭裁判所が後見の審判をしたことに対して不服申し立てができるのであって、誰を選んだかについての不服申し立てはできません。
一方で、家庭裁判所の審判で、親族が成年後見人に選ばれた場合には、10.家庭裁判所から法務局へ親族が成年後見人になった旨の登記がなされます。登記された後、法務局から成年後見人である親族のもとへ登記番号が通知されます。
親族は、この登記番号をもとに法務局で登記事項証明書を取得します。登記事項証明書を取得した後、本格的に成年後見人としての仕事を開始できます。
親族が成年後見人になれないケース(欠格事由に当たるケース)
親族が次の人にあたる場合は、成年後見人になれません。これは任意後見制度、法定後見制度、双方に共通しています。
- ・ 未成年者
- ・ 家庭裁判所で成年後見人、保佐人、補助人等を解任されたことがある人
- ・ 破産開始決定を受けたものの、免責許可決定を受けていないなどで復権していない人
- ・ 現在、成年被後見人に対して訴訟をしている人、又は過去にしたことがある人並びにその配偶者及び親又は子など
- ・ 行方不明の人
親族が法定後見制度で成年後見人になるために必要な2つのこと
親族が法定後見制度で成年後見人になるためには次の2つのことを実践してみましょう。
推定相続人から成年後見人になることについての同意を取る
推定相続人とは、現時点で成年被後見人がお亡くなりになり、相続が開始された場合に相続人となると推定される人のことです。たとえば、成年被後見人に配偶者と子がいる場合は、配偶者と子が推定相続人です。
このとき、成年被後見人の兄弟を成年後見人候補者に指定する場合には、配偶者及び子から同意を取っておくと良いでしょう。同意は「同意書」という適宜作成した書面で形に残しておき、申し立てと同時に家庭裁判所に提出します。
家庭裁判所での面接に備える
前述のように、法定後見制度では申立人や成年後見候補者に対する面接が行われます。成年後見候補者に対しては、欠格事由の有無、成年後見人としての適格性、後見事務に関する方針等が尋ねられます。
ここで、成年後見人としての適格性等に疑問符を付けられないよう、面接にはしっかり対応できるよう準備しておかなければなりません。
親族が成年後見制度以外に利用を検討すべき「家族信託」
家族信託とは、本人が有している財産を信頼できる家族に託し(信じて託し(信託し))、財産を託された(信託された)家族(親族等も含む)が、契約や遺言で定めた信託目的に即して当該財産の管理・運用・処分を行うものです。家族信託は、将来、判断能力が欠けるおそれがある本人のため、という意味では、任意後見制度と共通しています。
一方、次のような点で任意後見制度とは大きく異なります。
- ・ 家庭裁判所を通す必要がない
- ・ 信託契約の場合は契約時から仕事ができる(遺言信託の場合は、本人が亡くなってから)
- ・ 信託財産を比較的自由に管理・運用・処分できる
- ・ 監督人がつくか否かは本人の意思次第
家族信託は、任意後見制度に比べて使い勝手の良い制度として注目を集めています。成年後見制度と併せて活用を検討してみても良いでしょう。
まとめ
成年後見制度には、「任意後見制度」「法定後見制度」の2種類があります。まずは、ご本人の現在の状態によっていずれを選択すべきかが決まります。
すなわち、ご本人の判断能力がしっかりしている場合は「任意後見制度」を活用できますし、すでに判断能力を欠いている場合は「法定後見制度」を活用することとなります。
また、成年後見制度のほかにも「家族信託」という選択肢もあります。それぞれの特徴を押さえた上で、ベストな選択をしましょう。
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