コラム
公開 2020.06.24 更新 2021.10.04

現金を相続する際の注意事項と必要な手続きについて解説します

長い人生のなかでも、遺産相続は何回も経験するものではありません。そのため、「いざ、自分が相続するとなると不安なことや分からないことがたくさん出てくる。」というのは、珍しいことではありません。

相続が初めての方であっても、亡くなった方の銀行口座のお金は引き出すことができない、引き出してはいけないということをご存じの方は多いかと思います。しかし、自宅に多額の現金が置いてあったなど、現金で相続する場合にはどのように手続を進めれば良いでしょうか。今回は、「現金を相続する際の取扱いや注意事項」、「現金を相続するメリットとデメリット」と「現金を含めた遺産を相続する場合の4つの分割方法と手続」について解説します。

オペレーターが弁護士との
ご相談日程を調整いたします。

現金を相続する際の取扱いや注意事項

ここでは、現金を相続する際の取扱いや注意事項を解説します。

預金と現金の相続での違いとは?

相続における預金と現金の違いは、「権利」であるか「実物」であるかの違いです。相続の対象となっている預金は、「被相続人の口座から現金を引き出す権利」であると考えると想像しやすいかと思います。

以前は、預金と現金とでは相続分の決め方が違いましたので、これらを分けて考えなければいけませんでしたが、現在ではどちらも遺産分割の対象となったため、取扱いとしてはほとんど同じだと思っていただいて問題ありません。

現金は遺産分割協議で分配される

被相続人(亡くなった方)の財産は、通常、「遺産分割協議」において、誰がどのくらいの財産を相続するかが決められて分配されます。この遺産分割協議は、相続人全員が参加し、合意によって相続財産の分配を決めるものです。現金も相続財産ですので、遺産分割協議の対象になります。そのため、現金は、この協議を経て相続されるまで、相続人全員の財産ということになり、全員の合意が得られるまでは、相続財産である現金を手にすることはできません。

平成28年12月からは預金も遺産分割協議の対象に

平成28年12月以前、預金を引き出せる金額は、法定相続分に従って定められていました。例えば、相続人が被相続人の妻と子のみという場合には、法定相続分は、それぞれ、2分の1となりますから、被相続人の妻は預金額の半分、その子どもも半分を引き出すことができました。このように、各相続人は、それぞれの金額を被相続人の口座から引き出す権利を得ていたのです。

しかし、平成28年12月、最高裁において、「預貯金も遺産分割の対象となる。」という判決がくだされました。それまでは、被相続人との関係性に応じた法定相続分の金額を引き出すことができる金融機関もありましたが、上記の判例以降、相続人全員の合意がない限り、法定相続分であっても、口座から預金を引き出すことが難しくなりました。

もしも相続対象の現金を隠蔽したら?

まず、相続対象となる現金を隠蔽する行為は、最悪の場合、刑事罰に処される可能性もあります。相続の手続のときに隠すことはもちろん、後からタンス預金が見つかった場合なども、速やかに申告しなければ、財産を隠蔽したとされてしまう可能性があります。

相続対象の現金を隠していた場合、税務調査が入って指摘されると、ペナルティが課されます。延滞税や過少申告加算税のほか、財産隠しとみなされると重加算税も徴収されます。税務署からの指摘の前に修正申告を行った場合には過少申告加算税が免除されますので、隠さずに必ず申告するようにしましょう。

現金を相続するメリットとデメリット

現金を相続するメリットとデメリット

相続財産は「現金が多いほうが良い。」、「現金でなく不動産などが良い。」など、どちらの意見も耳にしたことがあるかと思います。
これらはどちらも正しく、当然のことながら現金を相続する際にはメリットとデメリットがどちらも存在します。これらはいわば表裏一体のものですので、メリットだけを得ることはできません。両者を良く理解して、対策を練るのが良いでしょう。ここでは、現金を相続するときにはどういったメリットとデメリットがあるのか、それぞれ解説します。

現金を相続するメリット

現金を相続するメリットには、以下の2つが挙げられます。

複数の相続人がいても公平に分配できる

相続人が少ない場合や遺言書などで明確に相続分が決められている場合は問題ありませんが、そうでない場合は、公平に分配しなければ相続人同士でトラブルが起こってしまう可能性もあります。

現金は、不動産等の評価が必要な相続財産に比べて分配しやすく、1円単位での分割も可能です。相続人全員に均等に財産を分けることができるため、相続人同士でのトラブルも起こりにくいと言えます。

相続後すぐに利用できる

現金で相続すると、手続が完了すればすぐに使うことができます。不動産等の場合は、売却して現金化したものを分けるという取決めをしたとしても、すぐに売却できるとは限りませんし、売却できたとしても思ったほど値が付かないといった場合も考えられます。

また、不動産等では相続税の納税には利用できませんが、現金であればそのまま納税に回すこともできます。

現金を相続するデメリット

現金を相続するデメリットは、主に税金に関することです。現金の相続においても相続人同士のトラブルの可能性はありますが、公平に分けられるという点ではトラブルは起こりにくいでしょう。

現金は全てが課税の対象となる

現金を相続するデメリットには、「節税対策のしづらさ」が挙げられます。相続税は基本的に、それぞれの財産に対して時価で評価されます。

しかし、現金や預貯金はそのままの金額が課税対象となりますので、現金や預貯金が多ければ多いほど、相続税の負担額が多くなるということになります。

取り分の差によって相続人同士のトラブルが起こることも

メリットのところでお伝えしたように、現金で相続するとより細かく、公平に分配することができるため、トラブルは起こりにくいと言えます。
しかし、現金や預貯金は、価値が分かりやすい分、少しの取り分の差でも争いに発展してしまう可能性もゼロではありません。

現金を含めた遺産を相続する場合の4つの分割方法と手続について

「現金を相続する際の取扱いや注意事項」の項目でも解説したように、現金や預貯金は遺産分割の対象となり、相続人の合意によって分割されます。
ただし、遺産分割協議は遺言書がない場合に行われるもので、遺言書がある場合はその内容が優先されることになります。ここでは、遺言書のない場合の遺産分割の方法を解説します。

遺産分割には4つの方法がある

現金を含めた相続財産を遺産分割する場合、以下の4つの方法があります。
なお、相続財産が現金のみである場合は、現物分割しかできません。

現物分割

相続人それぞれが、相続財産をそのままのかたちで相続する方法です。例えば、被相続人の財産に、現金の他にも、預貯金、自宅やアパートの不動産と株式があったとします。
このとき、被相続人の妻は預貯金と自宅、長男はアパート、長女は株式と現金というように、相続財産をそのままのかたちで相続人を決めていくのが「現物分割」です。

換価分割

不動産等の金銭以外の相続財産を売却し、現金にしてから分配する方法です。現物分割よりも公平に分配できるため、相続人同士のトラブル回避につながりますが、その一方で、売却しようとしても、買い手が見つからなかったり、満足できる金額で売却ができなかったりという事態が生じる可能性もあります。

代償分割

不動産等の財産を相続する代わりに、他の相続人に対して代償として自分の財産を支払う方法が「代償分割」です。分配できる財産があまりなく、換価分割を行わない場合にも、各相続人に対してある程度公平に財産を分割できる方法です。

共有分割

相続人同士で持ち分を決め、不動産等の財産の一部又は全てを共有にする方法です。これまで説明した分割方法で合意が難しい場合などに用いられる分割方法ですが、不動産を売却する場合や、不動産の解体を行う場合などには、共有者全員の合意が必要となります。
そのため、相続が行われた後でも、相続人間でトラブルになる可能性が高いです。

現金を相続した場合の手続方法

ここでは、現金を相続する場合に必要になる手続を解説します。現金だから特別にしなくてはならない手続があるわけではないので、全般的な相続の際に必要な手続ということになります。

遺言書の確認~相続人・財産の調査、遺産分割協議

相続することになったときには、まず遺言書があるかどうかを確認します。遺言書がない場合は、相続人が誰か、現金を含めた相続財産は何があるかを明らかにし、遺産分割協議をして財産の分配をする必要があります。
相続放棄や限定承認をする場合には、相続の開始があったことを知った日から3か月という期限がありますので、できる限り速やかに調査を行うのが良いでしょう。

遺産分割協議書の作成、相続手続

遺産分割協議が終わり、財産の分配の仕方が決まれば、遺産分割協議書を作成し、内容を明記します。そして、遺産分割協議書の内容に従って、各種相続手続を進めていきます。
現金の場合は、ここでは相続手続の必要はありません。預貯金は払戻し、不動産等は名義変更といった手続をします。

相続税申告、納付手続き

相続財産が基礎控除額を超える場合は、相続税申告が必要です。申告と納税の期限は、相続人が死亡したことを知った翌日から10か月以内となっています。これを過ぎると延滞税などが課せられるため、注意しておきましょう。

また、この時点で遺産分割協議が終わっていない場合も期限は変わらないので、法定相続分を取得したものとして申告と納税を行います。遺産分割協議が終わった後に改めて相続税の計算を行い、還付や追加納税をします。

まとめ

現金を相続するときには、相続した全てが課税対象となるため、節税対策が行いにくいというデメリットがあります。しかし一方で、不動産等の財産とは異なり、価値が分かり易いことから、複数の相続人がいても遺産分割が容易であるというメリットもあります。

現金は、遺産分割協議が終われば手続なしに使うことができますが、手続が不要だからと言って相続税の申告をせずにいると、延滞税や過少申告加算税などを課されてしまうこともありますし、財産隠しとみなされると重加算税がかかってしまう可能性がありますので、きちんと相続手続を完了させ、相続税の申告と納税を行いましょう。

記事を監修した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
日本大学法学部卒業、日本大学大学院法務研究科修了。個人法務及び企業法務の民事事件から刑事事件まで、幅広い分野で実績を持つ。離婚や相続などの家事事件、不動産法務を中心に取り扱う一方、新規分野についても、これまでの実践経験を活かし、柔軟な早期解決を目指す。弁護士会では、人権擁護委員会と司法修習委員会で活動している。
<メディア関係者の方>取材等に関するお問合せはこちら

オペレーターが弁護士との
ご相談日程を調整いたします。

こんな記事も読まれています

コンテンツ

オペレーターが弁護士との
ご相談日程を調整いたします。