コラム
公開 2022.12.19

遺留分を渡さなくていい方法はある?遺留分を払わないとどうなるか弁護士が解説

遺留分を渡さなくていい方法や遺留分を減らす方法はあるのでしょうか?
今回は、遺留分を渡さずに済むための方法や相手の遺留分を減らす方法、遺留分侵害額請求がされた場合の対応方法などについて、弁護士がくわしく解説します。

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遺留分の基本

はじめに、遺留分の基本について解説します。

遺留分とは

遺留分とは、子や配偶者など一定の相続人に保証された、相続での取り分です。
遺留分の権利は遺言書や生前贈与に優先するため、遺留分を侵害するような遺言書や生前贈与があった場合には権利を主張することができます。

遺留分のある人・遺留分のない人

遺留分は、一部の相続人のみが持つ権利です。
次の人は、たとえ相続人となる場合であっても、遺留分の権利はありません。

  • 兄弟姉妹
  • 甥姪

一方、これら以外の人(配偶者や子、孫、父母など)が相続人となる場合には、遺留分の権利を有します。

遺留分割合

相続全体における遺留分の割合は、次のとおりです。

  • 原則:2分の1
  • 被相続人の父母など直系尊属のみが相続人である場合:3分の1

これら相続全体の遺留分に、それぞれの相続人の法定相続分を乗じた割合が、それぞれの相続人が主張できる遺留分の割合となります。

たとえば、配偶者と2名の子が相続人となる場合における各相続人の遺留分割合は、それぞれ次のとおりです。

  • 配偶者:2分の1(全体の遺留分割合)×2分の1(法定相続分)=4分の1
  • 子1:2分の1(全体の遺留分割合)×4分の1(法定相続分)=8分の1
  • 子2:2分の1(全体の遺留分割合)×4分の1(法定相続分)=8分の1

配偶者と2名の子が相続人となる場合における各相続人の遺留分割合

遺留分を侵害したらどうなる?

遺留分を侵害する内容の遺言を遺した場合には、どうなるのでしょうか?
法定相続人が長男と長女の2名であるケースにおいて、「長男には財産を相続させず、長女に全財産を相続させる」との内容の遺言書を遺した場合について解説していきましょう。

遺留分を侵害した遺言書も有効

遺留分を侵害する内容であるからといって、その遺言書が無効になるわけではありません。
長男の遺留分を侵害し、長女に全財産を相続させるとの遺言書も、他に問題がなければ有効です。

遺留分を侵害すると遺留分侵害額請求がされる可能性がある

遺留分を侵害する遺言書を遺した場合には、相続が起きた後に、遺留分侵害額請求がされる可能性があります。
遺留分侵害額請求とは、侵害された遺留分相当額の金銭を支払えという請求のことです。

例の場合には、長男から長女に対して、この遺留分侵害額請求がなされる可能性があるでしょう。
遺留分侵害額請求がなされると、長女は実際に長男に対して、遺留分侵害額相当分の金銭を支払わなければなりません。

遺留分侵害額請求の時効

遺留分侵害額請求をする権利は、相続の開始及び遺留分を侵害する遺贈などがあったことを知ったときから1年の間に行使しないと、時効によって消滅します。

また、仮に相続の開始などを知らないまま年月が過ぎた場合でも、相続開始から10年が経過した以後は、もはや遺留分侵害額請求をすることができません。

遺留分を渡さなくていい方法1:相続人から廃除する

ここからは、遺留分を渡さなくて済む方法を3つ紹介します。
まずは、相続人から排廃除する方法について解説していきましょう。

相続人から廃除をするとどうなるか

相続人からの廃除とは、相手から一方的に相続の権利を剥奪することです。
相続人からの廃除が認められると、相手は相続人としての権利を失います。

遺留分の権利は相続人であることを前提とした権利ですので、相続人から廃除されると、自動的に遺留分の権利も失うこととなります。
つまり、相続人から廃除をすれば、遺留分侵害額請求をする権利も剥奪できるということです。

ただし、相続人からの廃除は、代襲相続の原因となる点に注意しなければなりません。
たとえば、二男を相続人から廃除したとしても、二男に子(被相続人の孫)がいる場合には、二男に代わって孫が相続人となります。

また、孫が相続人となる場合、孫には遺留分の権利も発生します。
そのため、相手に代襲相続人となる人がいる場合には、相続人からの廃除の効力は限定的なものとなるので、その点に注意しましょう。

さらに、相続人からの廃除は、遺留分のない相続人(兄弟姉妹や甥姪)についてはすることができません。
そもそも遺留分の権利がないのであれば、その相手に財産を渡さない内容の遺言書を作成しておけば足りるためです。

相続人からの廃除が認められるための要件

廃除は、相続の権利を剥奪するという非常に強い効力を持つ手続きです。
そのため、廃除が認められるためには、次のような事情の存在が必要とされます。

  • 被相続人に対して虐待をしている
  • 被相続人に重大な侮辱を加えた
  • その他の著しい非行があった

相続人からの廃除にはこのような強い理由が必要であり、単に相性が悪くて会うたびに口論になるとか、疎遠であるからといった程度の理由で認められるものではありません。

相続人から廃除をする方法

相続人から廃除をするためには、家庭裁判所へ廃除の請求をする必要があります。
この請求は、被相続人本人が生前に行うことも、遺言に記載して死後に行ってもらうことも可能です。

なお、生前に相続人からの廃除を請求することができるのは、被相続人本人のみとされています。
たとえ親族であったとしても、本人以外がこの請求を行うことはできません。

一方で、死後に行う場合であっても、被相続人本人による有効な遺言があることが必要です。
被相続人が遺言書で廃除を求めていることが読み取れないにもかかわらず、遺言で財産を受け取る人などが、勝手に廃除を申し立てることはできません。
廃除をする旨が遺言に記載されていた場合には、遺言執行者が廃除の請求手続きを行うこととなります。

家庭裁判所へ申し立てた結果、廃除が相当であると判断されれば、廃除がなされます。

遺留分を渡さなくていい方法2:生前に遺留分放棄をしてもらう

遺留分を渡さなくて済むための2つ目の方法は、生前に遺留分放棄をしてもらうことです。
では、遺留分放棄とはどのようなものなのでしょうか?

生前に遺留分放棄をするとどうなるか

生前に遺留分放棄をしてもらうことで、その人は遺留分侵害額請求をする権利を失います。
つまり、遺留分放棄をした人は、自分にとって不利な内容の遺言書や生前贈与があったとしても、もはや遺留分侵害額請求をすることはできないということです。

ただし、遺留分放棄で放棄をするのは「遺留分」のみであり、相続人でなくなるわけではありません。
そのため、たとえば遺言に書かれていない財産が遺っていた場合、その財産について相続権を主張することは可能です。

また、相続人からの廃除とは異なり、代襲の原因とはなりません。

生前に遺留分放棄をする方法

被相続人の生前に遺留分放棄をするためには、遺留分放棄をする本人が家庭裁判所へ申し立て、認められなければなりません。※1

相続人からの廃除とは異なり、一方的に相手の権利を剥奪できるものではありませんので、誤解のないよう注意しましょう。
つまり、いくら被相続人や他の推定相続人(被相続人が亡くなった際に相続人となる予定の人を指します)が遺留分を放棄してほしいと望んだとしても、本人にその気がなければ、無理やり遺留分の放棄をさせることはできないということです。

遺留分放棄を申し立てるためには、戸籍謄本や申立人の戸籍謄本などの書類が必要です。
申し立て後、審査の結果、遺留分の放棄が相当であると判断されれば、家庭裁判所から遺留分放棄の許可がなされます。

生前の遺留分放棄が認められるための要件

生前の遺留分放棄は、本人からの申し立てさえあれば、常に認められるわけではありません。
たとえば、被相続人や他の推定相続人から遺留分放棄を強要されている可能性や、よくわからないままに遺留分放棄をしようとしている可能性などが考えられるためです。

そのため、生前の遺留分放棄が許可されるためには、原則として次の3つの要件をすべて満たしていることが求められます。

  1. 遺留分放棄をしようとしている本人の自由な意思によること
  2. 遺留分放棄に必要性や合理性があること
  3. 遺留分権利者が充分な代償を受け取っていること

生前に遺留分放棄をしてもらうためのハードルは、決して低くないことに注意しましょう。
遺留分放棄をご検討の際には、弁護士への相談をおすすめします。

遺留分を渡さなくていい方法3:遺留分侵害額請求を思い留まらせる

ここまでで解説してきたように、相手から強制的に遺留分を取り上げることができるケースはほとんどありません。
そこで、相手に遺留分侵害額請求を思い留まらせるための対策も、検討するべきでしょう。

ここで紹介する2つの方法は、あくまでも遺留分権利者の自由意思によるものであり、法的な拘束力はありません。
しかし、遺留分侵害額請求は単なる金銭の問題ではなく、家族間の感情的な問題であるケースも少なくないでしょう。
そのため、このような対策が効果を発揮する可能性が期待できます。

生前によく話をする

被相続人が亡くなった後に遺言書が見つかり、その遺言書に長男がすべてを相続すると書かれていたら、二男はどう感じるでしょうか?

特に理由もわからないまま不公平な遺言書を遺されてしまえば、被相続人や長男に対してマイナスの感情を抱いてしまいかねません。
このような感情が、長男への遺留分侵害額請求に発展する可能性があるでしょう。

そこで、遺言書を作成するにあたって、被相続人が二男と生前によく話をしておくことが一つの対策となります。
被相続人としては、長男に全財産を相続させるとの遺言書を遺すことについて、何らかの理由があることが一般的です。

たとえば、長男は被相続人と同居して献身的に被相続人の世話をしており、長男に多く財産を残したいと考えている場合や、二男には生前に十分な援助をしてきたような場合、財産のほとんどが自社株でありその会社を長男に継がせたい場合など、さまざまな理由があることでしょう。

この理由を、生前にしっかり二男に話して理解を得ておくことで、遺留分侵害額請求を思い留まらせられることができる可能性がでてきます。

遺言書の付言事項を活用する

遺言書には、本文のほかに「付言事項」を記載することができます。

「付言事項」とは、遺言書について補足的に記載する事項のことです。
たとえば、その遺言書を作成した理由や、「今までありがとう」などのメッセージを記載することが多いでしょう。

付言事項に書いた内容には、法的拘束力はありません。
その反面、ある程度自由な内容を記載することが可能です。

たとえば、長男に財産の大半を相続させる内容の遺言書である場合には、なぜそのような遺言書を作成するに至ったのか、その理由を記載したり、遺留分侵害額請求をしないでほしいとの想いを記載したりすることが考えられます。

付言には法的拘束力がない以上、遺留分侵害額請求をしないでほしいと書いたところで、遺留分侵害額請求ができなくなるわけではありません。
しかし、付言事項で想いを記載しておくことで、遺留分侵害額請求を思い留まらせることができる可能性があるでしょう。

遺留分を減らす方法

遺留分を一切渡さないことはできないまでも、次の方法を活用することで、相手の遺留分を減らすことが可能となります。

ただし、これらの方法にはデメリットや注意点も存在します。
実行する際には安易に行うのではなく、あらかじめ弁護士へご相談ください。

養子縁組をして法定相続人を増やす

養子の法定相続分や遺留分は、実の子とまったく同じです。
そのため、子である相続人の遺留分を減らしたい場合には、養子をとって子を増やす対策が考えられます。

たとえば、長男にできるだけ多くの財産を渡したい一方で、二男の遺留分を減らしたい場合には、長男の子である孫や長男の配偶者を養子に入れることなどが考えられるでしょう。
法定相続人が増えた結果、二男の遺留分を減らすことが可能となります。

生命保険を活用する

受取人が指定された生命保険金は相続財産ではなく、その受取人固有の権利であるとされています。
相続財産ではない以上、遺留分の対象ともなりません。

たとえば二男の遺留分を減らしたい場合において、被相続人が自身を契約者(資金の拠出者)かつ被保険者とし、長男を保険金受取人とする生命保険へ加入すれば、相続発生時の総財産が減少し、その結果として二男の遺留分を減らすことができます。

ただし、遺産の大半を生命保険とするなど看過できないほどの不公平が生じた場合には、例外的に、生命保険金が遺留分算定の基礎に含まれると判断される可能性があります。

「いくら以上の生命保険金であれば遺留分の対象となる」、といった明確な線引きがあるわけではないため、対策を実行する前に弁護士へ相談するとよいでしょう。

遺留分侵害額請求を受けた場合に取るべき対処方法

相続が起きた後、遺留分侵害額請求をされた場合には、次のように対応するとよいでしょう。

誠実に対応する

遺留分は、一定の相続人に保証された法律上の権利です。
そのため、遺留分侵害額請求がされたら、放置することなく誠実に対応しましょう。

仮に相手からの請求を放置して遺留分を支払わない場合には、相手から調停や訴訟を提起される可能性があります。
そうなれば、問題が長期化してしまう可能性が高いでしょう。

相手の言い値で遺留分を支払わない

相手からされた遺留分侵害額請求には誠実に対応すべきとはいえ、相手が主張する金額をそのまま支払ってしまうことはおすすめできません。
なぜなら、遺留分侵害額を現実に算定することは容易ではなく、相手にとって都合のよい高めの金額で、取りあえず請求している可能性があるからです。

遺留分侵害額を正確に算定するためには、被相続人が過去にした贈与なども含めて計算しなければなりません。
また、遺産に含まれる不動産の評価方法についても、意見が食い違いやすいポイントです。

いずれにしても、最初の請求額はあくまでも相手の主張額であり、ここから交渉ができる余地は充分に存在します。
そのため、相手の言い値をそのまま支払うことは避けた方がよいでしょう。

弁護士へ相談する

遺留分侵害額請求をされたら、早期に弁護士へ相談してください。

先ほど解説したように、遺留分侵害額を正確に算定することは、現実的には容易ではありません。
それゆえ、自己に有利となる証拠を集めて減額の交渉ができる余地が大きいためです。

また、遺留分侵害額請求は調停や訴訟へ発展する可能性もあります。
そのため、遺留分侵害額請求をされたら、無理にご自身のみで対応しようとせず、早期に弁護士へ相談することをおすすめします。

まとめ

遺留分は相続人に保証された最低限の権利であり、まったく渡さずに済むケースはほとんどありません。
遺留分を減らす対策を講じるなどしたうえで、相手の遺留分は最低限保証する内容で遺言書を作成することも検討するとよいでしょう。
遺留分さえも渡さない内容の遺言書を遺すなどすれば、遺留分侵害額請求がされてトラブルになる可能性が高いためです。

遺留分侵害額請求をされてお困りの際や、遺留分をできるだけ渡さないための対策を講じたい場合などには、ぜひAuthense法律事務所までご相談ください。
Authense法律事務所には遺留分侵害などの相続問題にくわしい弁護士が多数在籍しており、これまでも多くの案件を解決へと導いています。

参考文献
※1 家庭裁判所:遺留分放棄の許可

記事を監修した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(大阪弁護士会)
同志社大学法学部法律学科卒業、立命館大学法科大学院修了。離婚、相続問題を中心に、一般民事から企業法務まで幅広い分野を取り扱う。なかでも遺産分割協議や遺言書作成などの相続案件を得意とする。
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