コラム
公開 2021.09.30 更新 2021.11.12

先代名義のままの「未登記土地」がある場合の相続時の注意点

先代名義のままの「未登記土地」がある場合の相続時の注意点

未登記土地を相続する方法や手順、未登記のままにしておく問題点を解説します。

2021年5月時点では、相続が起きた後に相続登記が行われず亡くなった人の名義のままで放置された「未登記土地」や「所有者不明土地」に相続登記の義務はありません。

ただし、2021年4月21日に相続登記を義務化するための民法や不動産登記法などの改正法が成立しました。

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未登記土地が生まれる理由

「未登記土地」や「所有者不明土地」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?
これは、相続が起きた後に相続登記が行われず、亡くなった人の名義のままで長年放置されてしまった土地を指します。

土地が故人名義のままであれば、仮にその土地を行政などが活用しようとしても、誰に許可を取ればよいのかわかりません。
その結果、どうすることもできない「死んだ」土地となってしまうことが、社会問題となっているのです。

では、なぜこうした未登記の土地が生まれてしまうのでしょうか?
その理由にはその土地ごとにさまざまなものがあると考えられますが、主な理由としては次のようなものが考えられます。

相続登記が義務ではなかったため

未登記の土地が生まれてしまう最大の理由として考えられるのは、相続登記が義務ではなかったことです。
義務ではない以上、名義変更を放置したところで、法的に罰せられることもありません。

相続人にとって実害がなかったため

相続登記をしなければ、後述するように、その不動産を売却したり担保に入れたりすることはできません。
そのため、利用価値の高い都会の不動産であれば、きちんと相続登記をする人が多いのです。

しかし、比較的辺鄙な場所にある田舎の土地などであれば、売っても大きなお金にはならないばかりか、売り手さえもつかない場合もあるでしょう。
そのため、名義をそのまま放置したところで、相続人にとって実害はないのです。
これも、未登記の土地が生まれてしまう理由の一つだといえます。

問題を先送りにするため

価値を生んでくれるどころか面倒でしかない田舎の土地の場合、相続人が誰も引き受けたがらない場合もあります。
財産の取り合いではなく、押し付け合いです。
そうした中で問題を先送りにするため、あえて故人名義のまま放置をする場合もあります。

使わない土地に手間や費用をかけたくないため

相続登記をするには、ある程度の費用や手間が掛かります。
それでも、価値のある不動産や現在使用している自宅の不動産などであれば、ほとんどの場合、きちんと登記をするのです。

しかし、特に利用価値がないと感じている土地であれば、あえて手間や費用をかけてまで相続登記をしようとしない人がいるのも頷けます。
これも、土地が未登記のままとされてしまう理由の一つでしょう。

未登記土地に罰則はある?

未登記土地に罰則はある?

ここでは、未登記土地の罰則について解説していきましょう。
相続登記を行わず土地の名義を故人のままとすることに、罰則などはあるのでしょうか?
これについては各種法令の改正があり、今後施行される予定ですので、改正後の内容も踏まえて解説します。

2021年6月現在罰則はない

2021年6月の執筆時点では、土地の相続登記は義務ではありません。
義務でない以上、土地の名義を故人のまま放置したとしても、罰則もないのが現状です。

改正で罰則ができる

前述のとおり、未登記土地が社会問題となっていることから、相続登記を義務化するため、2021年4月21日に民法や不動産登記法などの改正法が成立しました。
この改正により、相続登記が義務づけられます。

そして、相続登記に期限も設けられました。
その期限は、その取得を知った日から3年以内です。
正当な理由なくその期限内に申請をしなかった場合には、10万円以下の過料に処される旨も定められました。

この改正法は、2024年度中までに施行される予定です。
改正法施行後は期限も意識しつつ、速やかに相続登記を行うようにしましょう。

未登記土地を相続する方法・手順

すでに未登記となっている土地を登記するには、どうすれば良いのでしょうか?

例えば、元々父の実家があった田舎に、10年以上も前に亡くなった祖父の名義のままの土地がある場合をイメージしてください。
父も2年前に他界し、その子である太郎さんが未登記土地の手続きをしようとしている状況を例として考えてみましょう。

相続人を探す

このような土地の相続登記をするためには、まずは祖父の相続人を探さなければなりません。
祖父の元々の相続人であった父が亡くなり、太郎さんが相続人になっているのと同じように、他の相続人も亡くなって代が変わっている可能性があるためです。

例えば、祖父には元々3名の子がいたとしましょう。
そのうちの1人が、太郎さんの父です。

太郎さんの叔父や叔母にあたる祖父の他の子が存命であれば、その叔父や叔母が相続人となります。
しかし、祖父の死亡後、叔父や叔母もすでに亡くなっていた場合、その叔父や叔母の配偶者と子が相続人になるのです。

被相続人の死亡よりも前に子などが亡くなっていた場合の代襲相続とは異なり、被相続人が亡くなった後で子などが亡くなった場合には、その配偶者も相続人となることに注意しましょう。

なぜなら、「祖父の財産を相続する権利」を持った叔父や叔母が亡くなったことで、この権利がそのまま相続財産として、その叔父や叔母の相続人へと移転したためです。
なお、このような相続を、「数次相続」といいます。

さて、相続人の所在がわかり連絡が取れればよいのですが、所在がわからない場合には、ここに一つ目のハードルがあります。
祖父の戸籍謄本や除籍謄本などを辿って、現在の住所を特定していく作業が必要となるためです。

例えば、元々祖父の戸籍に入っていた叔父や叔母を探し、その叔父や叔母の戸籍の中からその子などを探し、現在の所在を探していきます。
この作業は慣れていないと非常に手間がかかるため、難航してしまうケースもあるでしょう。
自分で探すことが難しい場合には、弁護士などの専門家へ依頼することも検討してください。

遺産分割協議をする

祖父の相続人が判明したら、相続人全員と連絡を取り、その土地について遺産分協議を行います。

例えば、その土地を太郎さんが取得しようとしているのであれば、太郎さんが取得することについて同意をもらう形です。

これが、2つ目のハードルとなります。
なぜなら、太郎さんが取得することに同意をせず、相続分に当たる金銭を要求される可能性や、面倒だからといって連絡を無視し続ける人などがいる可能性もあるためです。
無理な要求をされるなどして話し合いが難航してしまった場合には、弁護士へ相談してください。

無事に話し合いがまとまったら、話し合いの結果を記した遺産分割協議書を作成し、全員に実印での押印をもらいます。
相続登記を申請するのに必要となるため、併せて全員の印鑑証明書をもらいましょう。

登記をする

遺産分割協議がまとまり無事に遺産分割協議書の作成も完了したら、必要書類を揃えて相続登記をします。
これでようやく、未登記土地の相続手続きが完了します。

土地を未登記のままにしておく問題点

土地を未登記のままにしておく問題点

それでは、土地を未登記のままにしておく場合、どのような問題があるのでしょうか?
ここでは、土地を未登記のまま放置するデメリットについてお伝えします。

売却などができない

故人名義の土地は、そのままでは売却することや賃貸すること、担保に入れることはできません。
そのため、仮に現在すぐに売却などをする予定がなかったとしても、相続登記をしておかなければ、将来いざ売却しようとした際に大変な手間がかかってしまう可能性があるのです。

故人名義のままの土地は、相続登記をしなければ権利を動かすことができない旨を知っておいてください。

第三者に権利が主張できない

第三者に対して権利が主張できない点も、相続登記をしないデメリットの一つです。

例えば、遺産分割協議でその土地を自分が取得することに決まっていたにも関わらず、登記をしないままとしているうちに、相続人の一人がその人の相続分だけを登記して、その分を第三者に売却してしまうかもしれません。

この場合、登記をしていなければ第三者に権利を主張することは困難となります。
土地の名義変更を放置すると、このようなトラブルが生じる可能性があります。

年月の経過にともない権利関係が複雑になる

長年名義変更をしないままで、その後いざ相続登記をしようとした際には、権利関係が複雑になってしまう可能性がある点も、大きなデメリットの一つです。

前述の例でも解説した通り、年月が経過すると相続人の中にも亡くなってしまう人が生じ、代替わりが起こります。
そうなると、縁の遠い人と話し合いをしなければならないどころか、まず所在を調べるだけでも大変な思いをしてしまうことでしょう。

土地の相続登記は放置すればするほど問題が複雑になり、いざ解消しようとした際の費用や手間がかさんでしまうのです。
放置することで問題が解決するケースは、ほとんどないと思っておいてください。

固定資産税がかかり続ける

相続登記をしなかったからといって、固定資産税の納付を逃れることはできない点もデメリットです。
この場合、固定資産税は故人名義のままや、相続人様宛という形で課税されます。

当然のことながら、この固定資産税も支払わなければ滞納扱いとなり、滞納が続けば資産に対する差し押さえがなされるかもしれません。

改正後は違法な状態となる

前述のとおり、改正後はそもそも3年以内の相続登記が義務付けられるため、これを過ぎてしまうと違法の状態となります。
罰則が課される可能性もありますので、注意しましょう。

要らない土地の放棄は可能?

とはいえ、自宅から遠く売却も容易ではないような土地など要らないという場合もあるでしょう。
そうした場合、不要な土地だけを相続放棄することはできるのでしょうか?

要らない土地だけの放棄は難しい

現存する相続放棄の制度では、要らない土地だけを放棄することはできません。
なぜなら、この相続放棄の手続きをする効果として、始めから相続人ではなかったこととなるためです。

そのため、相続放棄すると、プラスの財産もマイナスの財産も一切相続できなくなってしまいます。
相続放棄の制度では、要らないものだけを選んで放棄できるわけではないことを覚えておいてください。

また、要らない土地をその土地の所在する市町村などに寄付したり、遺言書で遺贈したりすればよいと考える人もいることでしょう。
この方法で解決ができる可能性はゼロではありませんので、市町村へ問い合わせてみる価値はあります。

しかし、この場合にも、受け取ってもらえる可能性は決して高くないと考えられます。
相続人が誰も要らないような土地は価値が低いことが多く、また地理的にも使い勝手がよいケースは稀でしょう。
そのため、管理費がかさんでしまうだけという場合も多いはずです。

市町村としても、寄付や遺贈をされたからといって受け取る義務があるわけではありません。
要らないからといって、市町村に無理やり押し付けるようなことはできないと思っておいてください。

このように、要らない土地だけを放棄するようなことはほとんど不可能だったのです。

要らない土地だけ放棄ができる法律が制定された

しかし、前述した相続登記の義務化に伴い、要らない土地だけを放棄するための法律が新たに制定されました。
その名称は、「相続土地国庫帰属法」といいます。
その名の通り、相続をした土地を国にもらってもらえる制度です。

しかし、これは決してバラ色の制度ではありません。
なぜなら、この制度で国にもらってもらえる土地には、権利関係に争いがないことや土壌汚染がないこと、更地であることなどといった制限があるほか、10年分の土地管理費相当額の負担金をおさめることが要件とされているためです。

とはいえ、要件を満たすのであれば、不要な土地の扱いに頭を悩ませるより、この制度を使った国への寄付を検討することも1つの手でしょう。

まとめ

相続登記は面倒に感じるかもしれませんが、故人名義のまま放置して未登記土地となってしまうと、いざ名義を変えようとした際の手続きが非常に煩雑となってしまいます。
時間の経過とともに問題が解決するどころか、問題はより複雑になってしまう可能性が高いのです。

相続登記が義務化された改正法の施行も間近に控えていますので、相続が起きた際には速やかに名義変更を行い、未登記のままとしないようにしましょう。

また、土地の相続にあたり、相続人同士の話し合いがまとまらず困っている場合や、未登記土地の相続において相続人の捜索や他の相続人との交渉に困った際には、ぜひ弁護士へご相談ください。

オーセンスの弁護士が、お役に立てること

・未登記の土地については何十年も前の相続から放置されてしまっているものも多く、相続人を確定するための資料を収集することだけでも非常に手間がかかります。そのうえ、会ったことも聞いたこともない多数の相続人と遺産分割協議を行うことは労力がかかるうえ、精神的な負担も大きくなります。その場合、専門家である弁護士であれば資料収集の上、各相続人との協議も任せることができ、スムーズに進めることができます。

記事を監修した弁護士
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