コラム
公開 2025.08.23

単体1254_新規_遺産の使い込みに時効はある?使い込みに気づいた際の対処法を弁護士がわかりやすく解説

遺産の使い込みは、相続において生じやすいトラブルの1つです。
使い込みのパターンはさまざまであるものの、被相続人と近い位置で介護などを担っていた近親者が使い込みを疑われるケースが多いでしょう。
しかし、生前には財産の管理状況がブラックボックスとなりやすく、相続が起きてから遺産の使い込みに気付くことも多いと思います。

では、遺産の使い込みの追及に、時効はあるのでしょうか?
また、遺産が使い込みに気付いた場合、どのように対処すればよいのでしょうか?

今回は、遺産の使い込みの概要や使い込みへの対処法、遺産の使い込みの時効などについて弁護士がくわしく解説します。

なお、当事務所(Authense法律事務所)は遺産相続に特化した専門チームを設けており、遺産の使い込みへの対応実績も豊富です。
遺産の使い込みを時効前に追及したいとお考えの際は、Authense法律事務所までお気軽にご相談ください。

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遺産の使い込みとは

遺産の使い込みとは、故人(「被相続人」といいます)の財産を、一部の相続人などが自分や自分の家族などのために費消することです。
遺産の使い込みには、次の2つのパターンがあります。

  • 相続開始前の使い込み
  • 相続開始後の使い込み

相続開始前の使い込みは、被相続人の介護をしている人や、被相続人と同居している人などが疑われることが多いでしょう。

使い込みの方法はさまざまであり、被相続人のキャッシュカードを無断で使用して預金を引き出す手口のほか、被相続人の家賃収入などを着服する手口、被相続人の不動産などの財産を売却して対価を着服する手口などが挙げられます。

一方で、相続開始後の使い込みは、預金口座の凍結前に被相続人のキャッシュカードを使って預金を引き出す手口が基本といえます。

遺産の使い込みがなされると、他の相続人が本来受け取れたはずの遺産の額が減少する事態となります。
ただし、実際には使い込みではなく、被相続人から頼まれて預金を引き出した場合や被相続人の家のリフォームや入院費用の捻出のために引き出した場合、贈与である場合なども少なくありません。

そのため、想定した額よりも遺産が少ないからといって、はじめから遺産の使い込みであると決めつけて問い詰めるのではなく、まずは弁護士に相談をして必要な調査をしたうえで対処法を検討するとよいでしょう。
被相続人の介護などに尽力してきた相手を根拠もなく問い詰めてしまうと、相手が態度を硬化させ、無用な相続トラブルに発展するおそれがあるためです。

遺産の使い込みに関する相談先をお探しの際は、Authense法律事務所までお気軽にご連絡ください。

遺産の使い込みへの対処法

遺産の使い込みに対しては、どのような対処方法が検討できるのでしょうか?
ここでは、主な対処法を解説します。

  • 不当利得返還請求をする
  • 損害賠償請求をする
  • 遺産分割の中で解決をはかる

不当利得返還請求をする

1つ目は、不当利得返還請求です。
不当利得返還請求とは、法律上の根拠なくして利益を得た人に対して、これにより損害を受けた人が、その利益の返還を求めるものです(民法703条)。

遺産の使い込みの場合、まずはこの不当利得返還請求を検討することが多いでしょう。

損害賠償請求をする

2つ目は、不法行為にもとづく損害賠償請求です。
これは、故意または過失によって他者の権利や法律上保護される利益を侵害した場合に、これにより生じた損害の賠償を求めるものです(同709条)。

遺産の使い込みが不法行為にあたると判断できる場合には、この損害賠償請求も検討できます。

遺産分割の中で解決をはかる

3つ目は、遺産分割の中で解決をはかる方法です。
相手が遺産の使い込みを認めている場合、使い込んだ遺産相当額をその人の遺産の取り分から減らすことによって解決をはかるケースが散見されます。

たとえば、相続人が長女と二女の2人、長女が遺産4,000万円のうち1,000万円を使い込んだ場合において、残った3,000万円を長女が1,000万円、二女が2,000万円で分割をして解決とする場合などがこれに該当します。

また、相続開始後の使い込みの場合、遺産分割調停を申し立て、その調停の中で使い込みを考慮して遺産分割をすることもできます。
調停とは裁判所で行う話し合いであり、家庭裁判所の調停委員が両当事者から順に意見を聞く形で話し合いを調整する手続きです。

いずれの形での解決が適切であるかは、状況によって異なります。
そのため、まずは弁護士へ相談したうえで解決策の見通しを立てるとよいでしょう。

お困りの際は、Authense法律事務所へご相談ください。

(参考)刑事罰に問うのは難しい

預かっている他人の財産を使い込む行為は横領にあたり、これは本来、刑法上の罪にあたる行為です(刑法252条)。

しかし、遺産の使い込みで横領罪に問えるケースはほとんどありません。
なぜなら、刑法において、配偶者と直系血族、同居の親族による横領は刑を免除すると規定されているためです(同255条、244条)。

遺産の使い込みはこれらの人によってなされるケースが大半であるため、刑事罰に問うことは困難でしょう。

【対処法別】遺産の使い込みの時効

遺産の使い込みの追及には、時効があります。
ここでは、さきほど紹介をした対処法ごとに、時効を解説します。

時効にかかって遺産の使い込みを追及できなくなる事態を避けるため、遺産の使い込みに気付いたら、早期に対応に取り掛かることをおすすめします。
遺産の使い込みでお困りの際は、Authense法律事務所までご相談ください。

不当利得返還請求をする場合

不当利得返還請求によって遺産の使い込みを請求する際の時効は、次の両方を満たす期間内です(民法166条1項)。

  1. 権利行使が可能であることを知ってから(使い込みが発覚してから)5年間
  2. 権利行使が可能となってから(使い込みがされてから)10年間

そのため、相続開始後すぐに使い込みに気付いて請求したとしても、10年以上前に使い込まれた部分については請求できない可能性があります。

なお、2020年4月1日の民法改正前における不当利得返還請求の時効は、「2」の、権利行使が可能となってから(使い込みがされてから)10年間だけでした。
改正後は、「1」の規定が追加されているため、遺産の使い込みに気付いたら早期に対応に取り掛かることをおすすめします。

損害賠償請求をする場合

不法行為に基づく損害賠償請求によって遺産の使い込みを追及する際の時効は、次の両方を満たす期間内です(同724条)。

  1. 被害者などが損害と加害者を知ってから(使い込みが発覚してから)3年間
  2. 不法行為から(使い込みから)20年間

使い込みを知ってからの請求期限は、不当利得返還請求より短い一方で、使い込みからカウントする時効は不当利得返還請求よりも長く設定されています。
この点も踏まえて、不当利得返還請求で追及するか不法行為に基づく損害賠償請求で追及するかなどを検討するとよいでしょう。

遺産分割の中で解決をはかる場合

相続開始前の使い込みについて遺産分割で解決をはかる場合、厳密には時効などの制限はありません。
なぜなら、この場合は強制的な請求ではなく、使い込みをした人を含む相続人全員の合意があることが前提であるためです。

合意がない場合、そもそも相続開始前の使い込みを遺産分割の中で解決することはできず、不当利得返還請求など他の方法を検討することとなります。

一方で、相続開始後の使い込みについて遺産分割調停や遺産分割審判などでの解決を図る場合において、使い込みを特別受益(一部の相続人が特別に得た利益)と捉えるのであれば、これを考慮した遺産分割の時効は相続開始から10年間です(同904条の3)。

遺産の使い込みの発覚から時間が経ってしまうと、とれる対応が限られるため、時効を待たず早期の対応をおすすめします。
遺産の使い込みが発覚して対応に苦慮している場合には、Authense法律事務所までお早めにご相談ください。

遺産の使い込みへの解決手段

遺産の使い込みは、どのような手順で解決をはかればよいのでしょうか?
ここでは、一般的な対応の流れを解説します。

  • 直接的な話し合いで解決をはかる
  • 弁護士を介した話し合いで解決をはかる
  • 遺産分割調停で解決をはかる
  • 訴訟を提起して解決をはかる

直接的な話し合いで解決をはかる

遺産の使い込みに関するトラブルの当事者は、親族など近しい関係にあることが少なくありません。
そのため、いきなり訴訟を申し立てるのではなく、まずは当事者間の話し合いによって解決をはかることが一般的です。

とはいえ、冒頭で解説したように、使い込みが「勘違い」である可能性もあります。
また、早期に追及することで、相手が証拠隠滅などをはかるかもしれません。

そのため、相手を追及する前にまずは弁護士へ相談し、使い込みの実態を把握したうえで交渉に臨むことをおすすめします。

弁護士を介した話し合いで解決をはかる

遺産が使い込まれた可能性が高いにもかかわらず、当事者間の話し合いによる解決が困難である場合には、弁護士を介した話し合いで解決をはかることとなります。

近しい間柄であるがゆえに、直接の話し合いでは冷静な話し合いが難しい場合もあるでしょう。
そのような場合であっても、弁護士が間に入ることでお互いに冷静になり、解決できる可能性が生じます。

また、相手が訴訟などに発展する事態を避けたいと考え、この時点での話し合いに合意する可能性も期待できます。

遺産分割調停で解決をはかる

相続開始後の使い込みである場合、遺産分割調停を申し立てることによって解決をはかります。

なお、遺産の使い込みがなされてもなお他の遺産が残っている場合、「遺産の使い込みだけは未解決で、残った遺産についてはスムーズに合意がまとまる」ようなケースは多くないでしょう。
そのため、遺産の使い込みが相続開始前である場合、使い込まれた部分については訴訟を提起する一方で残っている遺産について調停を提起し、並行して進めることもあります。

具体的な進行方法は状況によって異なるため、個別の事案に応じてAuthense法律事務所までご相談ください。

訴訟を提起して解決をはかる

遺産の使い込みが相続開始前になされた場合、訴訟を提起して解決をはかります。
訴訟では、証拠などを踏まえて裁判所が使い込みの事実などを認定します。

なお、遺産の使い込みに関する訴訟は、和解による解決となることも少なくありません。

遺産の使い込みで泣き寝入りをしないポイント

遺産が使い込まれた場合、泣き寝入りとなる事態は避けたいことでしょう。
最後に、遺産が使い込まれた場合において泣き寝入りしないためのポイントを2つ解説します。

相手から差し出された書面への押印は慎重に行う

1つ目は、相手から差し出された書面への押印は、慎重に行うことです。

先ほど解説したように、相手が相続開始後に遺産を使い込んだ場合には、遺産分割の中で解決をはかる方法があります。
しかし、相手がこれを阻止するために先行して遺産分割協議書(遺産分けの話し合いの結果をまとめた書類)などを作成して押印を求めてきた場合、これに押印してしまえば、遺産分割による解決は困難となるでしょう。
他にも、遺産の使い込みの追及が困難となる内容の書面を差し出されるおそれもあります。

そのため、使い込みの疑義が生じている場合には相手方から差し出された書面に安易に押印することは避け、まずは弁護士へご相談ください。

相手を問い詰める前に相続問題に強い弁護士へ相談する

2つ目は、相手を問い詰める前に弁護士に相談することです。

使い込みの証拠を十分に集める前に相手を追及してしまうと、相手に証拠隠滅や言い逃れの機会を与えることとなりかねません。
また、相手の介護などへの苦労を労うことなく使い込みであると決めつけて追及し、結果的に実際には使い込みではなかったことが判明すれば、相手との関係性に取り返しのつかない亀裂が生じるおそれもあるでしょう。

遺産の使い込みであるか否かは、預金通帳の残高などだけで簡単に判断できるものではありません。
そのため、相手を追及する前にまずは弁護士へ相談して証拠を集め、使い込みであるとの確証が持てた段階で交渉を始めることをおすすめします。

相続が発生し、遺産の使い込まれた可能性がある場合には、Authense法律事務所までお早めにご相談ください。

まとめ

遺産の使い込みの概要や遺産の使い込みを追及する方法、遺産の使い込みを追及する時効などを解説しました。

遺産の使い込みの追及方法には、不当利得返還請求と不法行為に基づく損害賠償請求が挙げられます。
これらに加え、相続発生後の使い込みの場合には、遺産分割による解決も選択肢に入ります。

遺産の使い込みの時効は請求手段によって異なっており、不当利得返還請求の場合は使い込みを知ってから5年間(使い込みから10年間)、不法行為に基づく損害賠償請求の場合には使い込みを知ってから5年間(使い込みから20年間)です。
時効にかかって請求できなくなる事態を避けるため、遺産の使い込みに気付いたら、早期に対応に取り掛かることをおすすめします。

Authense法律事務所は遺産相続に特化した専門チームを設けており、遺産の使い込みへの対応実績も豊富です。
遺産の使い込みを時効前に追及したいとお考えの際は、Authense法律事務所までお気軽にご相談ください。

記事を監修した弁護士
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