コラム
公開 2022.10.17

遺言書を「公正証書」で作成する費用は?どの公証役場へ行くべき?手続き方法を解説

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遺言書は、公正証書で作成しておくと安心です。
では、公正証書で遺言書を作成するにはどのような手順を踏めばよいのでしょうか?

今回は、公正証書で遺言書を作成するメリットや作成方法、かかる費用などについて、弁護士が詳しく解説します。

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遺言書には主に2つの種類がある

通常の場面で使われる遺言書の形態には、主に「公正証書遺言」と「自筆証書遺言」の2つが存在します。
まずは、これらそれぞれの概要について解説しましょう。

なお、これらの他にもう1つ、自分で作成した遺言書にあらかじめ封をした状態で公証役場へ提出する「秘密証書遺言」も存在しますが、ほとんど使われていないため、ここでは割愛します。

公正証書遺言

公正証書遺言とは、公証人の面前で作成する遺言書のことです。
遺言書を公正証書で作成するには、次の手順を踏む必要があります。

  1. 証人2人以上の立会いのもとで作成する
  2. 遺言者が遺言の趣旨を公証人に対して口授する
  3. 公証人が遺言の内容を筆記したうえで、遺言者と証人に読み聞かせるか閲覧させる
  4. 筆記が正確であることを遺言者と証人が確認し、公正証書遺言の原本に署名と捺印をする(遺言者が署名できない場合は、公証人がその事由を付記して署名に代えることができる)
  5. 公証人がここまでの方式に従って作ったものである旨を付記して、これに署名と捺印をする

なお、実務上はあらかじめ公証人と遺言書の内容についての打ち合わせを行い、既に公証人の手元に文案がある状態で作成当日を迎えることが多いでしょう。

自筆証書遺言

自筆証書遺言とは、遺言者が自書をして作成する遺言書のことです。
自筆証書遺言を有効なものとするためには、次の要件をすべて満たす必要があります。

  1. 遺言者が、その全文、日付及び氏名をすべて自書すること
  2. 遺言者が捺印すること
  3. 別紙として添付する財産目録は自書でなくてもよいが、その目録のすべてのページ(両面にある場合によっては、その両面)に遺言者が署名と捺印をすること
  4. 修正をする場合には遺言者がその場所を指示し、これを変更した旨を付記して署名と捺印をすること

これらの要件を1つでも満たさなければ無効となってしまうため、注意が必要です。

なお、2020年7月10日から、自筆証書遺言が法務局で保管してもらえる制度が始まりました。
この制度を使うことで、保管開始時に法務局で形式的なチェックをしてもらえる他、紛失などのリスクを防ぐことができます。
そのため、仮に公正証書遺言ではなく自筆証書遺言を選択する場合には保管制度を利用するとよいでしょう。

遺言書を公正証書で作成する主なメリット

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自筆証書ではなく、公正証書で遺言書を作成する主なメリットは次のとおりです。

偽造や変造の恐れがない

公正証書遺言を作成すると、その原本は作成をした公証役場で保管されます。
そのため、遺言書の偽造や変造を防ぐことが可能になります。

紛失する心配がない

先ほども解説したように、公正証書遺言の原本は作成した公証役場で保管がなされます。
作成後に手元に交付されるのは、その原本をもとに正式な手順で作成された写しである「正本」や「謄本」です。

仮にこの正本や謄本を紛失してしまったとしても、公証役場から再度謄本の交付を受けることができるため、紛失により遺言書が使えなくなってしまう心配がありません。
なお、謄本の交付請求ができるのは遺言者の存命中は遺言者のみであり、遺言者の死亡後は相続人など一定の人に限定されています。

自分で手書きをする必要がない

自筆証書遺言では、遺言書の全文を遺言者本人が手書きしなければなりません。
しかし、遺言書をきちんと作成しようとすると長い文章となることも多く、これをすべて手書きすることは非常に大変でしょう。
また、訂正方法にも厳格なルールが定められているため、訂正方法を誤れば意図とは異なる内容で遺言の執行(実現)がされてしまう可能性がある他、遺言書全体が無効となってしまうリスクもあります。

一方、公正証書遺言は自分で手書きをする必要はありませんので、手書きのために大変な思いをせずに済むうえ、書き損じて無効となってしまうリスクを防ぐことが可能になります。

本人が本人の意思で作成したことが疑われにくい

公正証書遺言は、本人確認を行った上で、公証人と証人2名の立ち合いのもと作成するものです。遺言者の意思に合致していることを確認して作成する文章のため、高い証拠力が認められることから、本人の遺言かどうか疑われにくいといえるでしょう。
一方、自筆証書遺言は自分一人で作成でき、作成時の様子が誰にもわからないことも少なくないため、本当に本人が作成したのか、また誰かに無理やり書かされたのではないかなどの疑義が生じやすいリスクがあります。

相続開始後の検認が不要である

検認とは、一定の遺言書につき、家庭裁判所で行う開封式のような手続きのことです。
検認は、相続人に対し遺言の存在及びその内容を知らせるとともに、検認の日現在における遺言書の内容を明確にすることで、その後の遺言書の偽造・変造を防止するために必要とされています。

遺言書を公正証書で作成した場合には、この検認手続きは必要ありません。
なぜなら、検認は以後の偽造や変造を防ぐ目的で行う手続きであるところ、原本が公証役場で保管される公正証書遺言は偽造や変造のリスクが限りなく低いためです。

なお、自筆証書遺言であっても、法務局での保管制度を利用した場合には、検認手続きが不要であるとされています。

遺言書を公正証書で作成する主なデメリット

一方、遺言書を公正証書で作成することには、デメリットも存在します。
主なデメリットは次のとおりです。

費用がかかる

1つ目のデメリットは、公証役場に支払う手数料がかかる点です。
かかる手数料については、後ほど詳しく解説します。

作成までに時間と手間がかかりやすい

2つ目のデメリットは、思い立ったその日にすぐに作成することができず、作成までに時間がかかりやすい点です。

公証役場は予約優先であることが多く、作成には戸籍謄本などの書類を公証役場へ提示する必要があるためです。

初回の相談から作成完了までにかかる期間については、遺言書の内容や集めるべき資料のボリューム、公証役場の混み具合などによって異なります。

2名以上の証人が必要となる

公正証書で遺言書を作成するためには、公証人の他2名の証人に立ち会ってもらう必要があります。
また、この証人には要件があり、たとえば推定相続人(遺言者が亡くなったときに相続人になる予定の人)や受遺者(遺言書で財産を渡す相手)、これらの人の配偶者や直系血族(子や親など)は証人となることができません。

そうなると、身近に証人としての適任者がいない場合も少なくないでしょう。

ただし、遺言書の作成サポートを専門家に依頼した場合には、専門家側で証人を手配してくれることが一般的であり、多少の費用はかかるものの公証役場で証人のあっせんを受けることも可能です。
そのため、現実的には証人の人選が問題となることはさほど多くないと思われます。

公正証書遺言はどこの公認役場で作成する?

公正証書遺言は、原則として公証役場で作成します。
では、どこの公証役場で作成すればよいのでしょうか?

全国どこの公証役場でも作成できる

公正証書遺言を公証役場へ出向いて作成する場合には、全国どこの公証役場で作成をしても構いません。
一般的には、住所地に近く出向くのに便利な公証役場で作成することが多いでしょう。

公証人の出張を受ける場合は管轄に制限がある

遺言者が入院中である場合や施設へ入所中であるなど公証役場へ出向くことが難しい場合には、費用が加算されるものの、公証人の出張を受けて遺言書を作成することも可能です。

この場合に出張を依頼できる公証人は、出張を受ける場所と同一都道府県内の公証役場に所属する公証人に限られています。

遺言書を公正証書で作成するまでの流れ

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遺言書を公正証書で作成する場合の一般的な流れは、次のとおりです。

必要書類を準備する

はじめに、遺言書を作成するのに必要となる書類を準備しましょう。
一般的に必要となる書類は、次のとおりです。

  • 遺言者の戸籍謄本
  • 遺言者の住民票
  • 遺言者と財産を渡す相手との関係性がわかる戸籍謄本
  • 財産を渡す相手が推定相続人でない場合には、相手の住民票
  • 財産の内容がわかる資料(不動産の全部事項証明書や預貯金通帳など)

必要書類は、遺言書の内容などによって大きく異なります。
そのため、作成したい遺言書の内容に応じて、作成の支援を受ける専門家や公証役場へ確認しつつ資料を集めるとよいでしょう。

遺言書の内容を検討する

資料の収集と並行して、遺言書の内容を検討します。

なお、公証役場は原則として、遺言書の内容についての相談には乗ってくれません。
そのため、これは自分で検討をするか、遺言書作成のサポートを依頼した弁護士などの専門家に相談しながら検討することになります。

公証役場で事前相談を行う

専門家の支援を受けずに公正証書遺言を作成する場合には、公証役場で事前相談を行います。
相談の際には、希望する遺言書の内容を記したメモと、事前に収集した資料を持っていくことをおすすめします。
公証役場へ出向く際には、あらかじめ予約してから出向くとスムーズになります。

作成日程を調整して予約する

遺言書の内容が固まって公証人に作成してもらった文案の確認ができたら、日程調整をして、最終的に遺言書を作成する日時を決めて予約しましょう。

予約した日時には、公証人の他、証人2名の予定も合わせることになりますので、やむを得ない事情が生じた場合を除いて一度決めた日程を直前で変更することは避けてください。

予約した当日に公証役場へ出向く

予約をした日程に、公証役場へ出向きます。
当日に必要となる持ち物は、原則として次のものです。

  • 実印
  • 印鑑証明書
  • 公証役場へ支払う手数料

ただし、状況によってはこれら以外のものが必要となる場合もありますので、あらかじめ公証役場へ確認のうえ、忘れずに持っていくことをおすすめします。

遺言書を公正証書で作成する場合にかかる費用はどれくらい?

遺言書を公正証書で作成する場合、一般的に必要となる費用は次のとおりです。

なお、「公証人へ支払う手数料」と「必要書類の取得費用」は専門家のサポートを受けない場合であってもかかる費用である一方で、「専門家のサポート報酬」は専門家にサポートを受けた場合にのみかかる費用です。

公証人へ支払う手数料

公証役場へ支払う費用は、全国一律で次のとおり定められています。

目的の価額 手数料
100万円以下 5,000円
100万円を超え200万円以下 7,000円
200万円を超え500万円以下 11,000円
500万円を超え1,000万円以下 17,000円
1,000万円を超え3,000万円以下 23,000円
3,000万円を超え5,000万円以下 29,000円
5,000万円を超え1億円以下 43,000円
1億円を超え3億円以下 4万3,000円に超過額5,000万円までごとに1万3,000円を加算した額
3億円を超え10億円以下 9万5,000円に超過額5,000万円までごとに1万1,000円を加算した額
10億円を超える場合 24万9,000円に超過額5,000万円までごとに8,000円を加算した額

表中の「目的の価額」は、遺言者の財産総額ではなく、遺言書で財産を渡す相手ごとの金額です。
たとえば、長男に6,000万円相当の財産を渡し、長女に4,500万円相当の財産を渡すという内容の遺言書を作成する場合の手数料は、それぞれを表に当てはめて次のように計算されます。

  • 手数料=43,000円+29,000円=72,000円

そのうえで、仮に遺言書に記載をする財産総額が1億円以下であれば、上で算定をした報酬額にさらに11,000円の「遺言加算」が追加されます。
例の場合には、遺言書に記載をする財産総額が1億円超(6,000万円+4,500万円=1億1,000万円)であるため、遺言加算はなされません。

これに、遺言書の枚数に応じた用紙代として数千円程度が加算されます。

なお、入院中の病院などへ公証人の出張を受けて公正証書遺言を作成する場合には、上で算定をした手数料に次の3つの金額が加算されます。

  • 基本報酬(例でいえば72,000円)×50%の金額
  • 公証人の日当(1日2万円、4時間まで1万円)
  • 公証役場から現地までの交通費実費

必要書類の取得費用

公正証書で遺言書を作成する場合には、遺言書の文案を正しく作成するため、さまざまな書類が必要となります。
必要書類は希望する遺言の内容によって大きく異なり、取得する書類の種類や数によってかかる費用も異なることもあります。

ただし、よほど不動産の数が多い場合や財産を渡す相手の数が多い場合でない限り、一般的には、5,000円から1万円程度で収まることが多いでしょう。

専門家のサポート報酬

公正証書遺言の作成にあたって専門家のサポートを受ける場合には、専門家の報酬が発生します。
専門家のサポート報酬は、おおむね10万円から30万円程度であることが多いでしょう。
ただし、希望をする遺言書の内容が複雑である場合などには報酬が加算となる場合もあります。

専門家のサポート報酬はその専門家の事務所によって異なりますので、あらかじめ見積もりをとって、かかる報酬を個別で確認することをおすすめします。

遺言書を公正証書で作成する場合のポイント

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遺言書を公正証書で作成する場合のポイントは、次のとおりです。

遺言書の文案は専門家へ相談がベター

遺言書の文案を、自分一人で検討することは容易ではありません。
問題のない遺言書を作るためには、実際に相続がおきた後の状況を踏まえ、さまざまな角度から検討をする必要があるためです。

せっかく作成した遺言書が後のトラブルのもととなってしまうことのないよう、専門家へ依頼をして内容を慎重に検討することをおすすめします。

遺言執行者を検討しておく

遺言執行者とは、相続が起きた後で遺言書の内容を実現する責任者のことです。
スムーズに遺言の内容を実現するため、遺言執行者は遺言書のなかであらかじめ定めておくようにしましょう。

遺言執行者は家族などに依頼することもできますし、弁護士などの専門家へ依頼することも可能です。
特に、争いが予見される場合には、弁護士へ遺言執行者を依頼したうえで遺言書内に定めておくとよいでしょう。

早いうちに作成する

判断能力が衰えてしまってからでは、有効な遺言書を作成することは困難です。
また、仮にその状態で作成をした場合には、相続が起きてから相続人や第三者から無効であるとの主張をされてしまうリスクが生じます。

そのため、遺言書の作成はできるだけ早く、判断能力に問題がないうちに行うようにしましょう。

まとめ

遺言書を公正証書で作成することには、自筆証書遺言と比較してさまざまなメリットが存在します。
そのため、遺言書を作成する際には自筆証書遺言ではなく、できるだけ公正証書遺言で作成することを検討するとよいでしょう。
また、遺言書を作成する際には後のトラブルを防ぐため、弁護士など専門家のサポートを受けることをおすすめします。

Authense法律事務所には、遺言書や相続問題に詳しい専門家が数多く在籍しております。
公正証書遺言の作成をご検討の際や、故人がのこした公正証書遺言についてお困りの際などには、ぜひAuthense法律事務所までご相談ください。

記事を監修した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(神奈川県弁護士会)
早稲田大学法学部卒業、早稲田大学法学部法務研究科を修了。これまで離婚、相続など個人の法律問題に関する案件を数多く取り扱い、依頼者の気持ちに寄り添った解決を目指すことを信条としている。複数当事者の利益が関わる調整や交渉を得意とする。現在は不動産法務に注力。
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