成年後見や保佐、補助とは、いずれも判断能力が低下した本人の意思決定を支援する制度のことです。
本人の判断能力の程度に応じて3つの制度に分かれており、判断能力の低下度合いがもっとも重い場合は「成年後見」、判断能力の低下度合いがもっとも低い場合は「補助」が適用されます。
ここでは、成年後見と保佐、補助それぞれについて、制度の概要や主な違いなどについて弁護士が解説します。
成年後見・保佐・補助とは
成年後見や保佐、補助は、いずれも判断能力が低下した本人の意思決定を支援する制度です。
初めに、それぞれの概要を解説します。
なお、どの制度が適用されるのかは本人の判断能力の度合いに応じて裁判所が判断するものであり、申立人や本人が自由に選択できるものではありません。
成年後見とは
成年後見は、3つの中でもっとも判断能力の低下度合いが重い「精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者(つまり、判断能力が欠けているのが通常の状態の者)」を対象とする制度です(民法7条)。
家庭裁判所によって成年後見開始の審判がなされた場合は、本人を「成年被後見人」、本人を保護する立場の人を「成年後見人」といいます。
本人が法律上の意思決定をすることが困難であることから、財産に関するすべての法律行為について成年後見人が代理権を有し、日常生活に関する行為を除くすべての法律行為について成年後見人が同意権や取消権を有します。
保佐とは
保佐とは、3つの中間に位置する区分です。
保佐は、「精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分である者」について適用されます(同11条)。
家庭裁判所によって保佐開始の審判がなされた場合は、本人を「被保佐人」、本人を保護する立場の人を「保佐人」といいます。
被保佐人は判断能力が著しく不十分ではあるものの、成年被後見人のように判断能力が常に欠けているわけではありません。
そのため、成年後見人よりも保佐人の権限は限定されています。
補助とは
補助とは、「精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分である者」に適用される制度です(同15条)。
本人の事理弁識能力(判断能力)は十分ではないものの、複雑な財産上の行為等を除けば自分で意思決定ができないわけではありません。
そのため、できるだけ本人の意思を尊重しつつ、サポートをする制度設計となっています。
この場合は、本人を「被補助人」、本人を保護する立場の人を「補助人」といいます。
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成年後見・保佐・補助の違い
先ほど解説したように、成年後見、保佐、補助は本人の事理弁識能力(判断能力)の度合いによって区分されるものです。
本人の判断能力低下の程度が異なることから、主に次の点が異なります。
本人の判断能力が常に欠けている「成年後見」では成年後見人の権限が非常に強い一方で、判断能力低下の程度がもっとも低い「補助」では、できるだけ本人の意思が尊重されやすい設計となっています。
代理権の違い
3つの制度では、代理権の範囲が異なります。
代理権とは
代理権とは、成年後見人などが本人に代わって法律行為を行うことです。
本人の代わりに施設の入所契約をしたり、本人にとって必要な物品を本人のお金で代わりに購入したりすることなどがこれに該当します。
成年後見・保佐・補助での代理権の違い
成年後見、保佐、補助で成年後見人などが持つ代理権の範囲は、それぞれ次のとおりです。
- 成年後見:財産に関するすべての法律行為
- 保佐:家庭裁判所が審判によって定めた特定の法律行為(借金、訴訟行為、相続の承認・放棄、新築、増改築など)
- 補助:家庭裁判所が審判によって定めた特定の法律行為(借金、訴訟行為、相続の承認・放棄、新築、増改築など)
同意権の違い
3つの制度では、同意権の範囲が異なります。
同意権とは
同意権とは、本人が契約しようとするときに同意を与えたり、本人が行った契約に後から同意して有効にしたりする権利です。
同意が得られない場合は、取消しの対象となります。
成年後見・保佐・補助での同意権の違い
成年後見、保佐、補助で成年後見人などが持つ同意権の範囲は、それぞれ次のとおりです。
- 成年後見:なし(成年被後見人が日常生活に関する行為以外の法律行為を単独でした場合には、たとえ成年後見人の同意があったとしても、後で取り消すことが可能)
- 保佐:民法13条1項所定の行為(借金、訴訟行為、相続の承認・放棄、新築、増改築など)。これ以外の行為を審判で追加することも可能
- 補助:民法13条1項所定の行為(借金、訴訟行為、相続の承認・放棄、新築、増改築など)のうち、家庭裁判所が審判で定めた一定の行為
取消権の違い
3つの制度では、取消権の範囲が異なります。
取消権とは
取消権とは、本来であれば保佐人などの同意を得る必要がある行為であるにもかかわらず、本人がこれを無断で行った場合において、その行為を取り消すことができる権利です。
つまり、1つ上で解説した同意権とこの取消権は表裏一体で機能します。
成年後見・保佐・補助での取消権の違い
成年後見、保佐、補助で取消権の対象となる行為の範囲は、それぞれ次のとおりです。
- 成年後見:日常生活に関する行為以外のすべての法律行為
- 保佐:同意権の対象とした行為
- 補助:同意権の対象とした行為
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成年後見・保佐・補助の利用・手続きの流れ
成年後見や保佐、補助制度を利用する際の手続きの基本的な流れは次のとおりです。
制度について理解する
成年後見や保佐、補助制度の利用には注意点が少なくありません。
そのため、まずは弁護士などの専門家へ相談の上、制度について十分理解を深めましょう。
医師の診断書を取得する
成年後見などの利用を申し立てる際は、医師の診断書が必要です。
そのため、申立てに先立って医師に診断書を作成してもらってください。
診断書では、医師が本人を問診などしたうえで本人の判断能力の程度を診断します。
別途鑑定が行われる場合もありますが、この診断書が成年後見・保佐・補助いずれに該当するのかを判断する1つの基準となります。
家庭裁判所に申し立てる
次に、書類を揃えて家庭裁判所に申し立てます。
必要書類の準備
必要となる書類は主に次のとおりです。
ただし、状況に応じて別の書類が求められることもあるため、その際は裁判所の指示に従ってください。
- 後見・保佐・補助開始等申立書
- 代理行為目録(保佐・補助用)
- 同意行為目録(補助用)
- 申立事情説明書
- 親族関係図
- 親族の意見書
- 後見人等候補者事情説明書
- 財産目録
- 収支予定表
- 本人の戸籍謄本(発行から3か月以内)
- 本人の住民票(発行から3か月以内)
- 成年後見人候補者の住民票(発行から3か月以内)
- 本人に関する医師の診断書(発行から3か月以内)
- 本人情報シートの写し(医師に診断書を作成してもらうにあたって医師に本人の生活状況を伝える「本人情報シート」の写し)
- 本人の健康状態に関する資料(介護保険認定書、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳、身体障害者手帳など)
- 本人の成年被後見人等の登記がされていないことの証明書
- 本人の財産に関する資料(預貯金通帳の写し、不動産登記事項証明書、ローン契約書の写しなど)
- 本人の収支に関する資料(年金額決定通知書、給与明細書、確定申告書、家賃や地代等の領収書、施設利用料、入院費、納税証明書、国民健康保険料等の決定通知書など)
成年後見・保佐・補助の利用には、非常に多くの書類が必要です。
そのため、申立て時には弁護士など専門家のサポートを受けることをおすすめします。
必要書類の提出
必要書類の準備ができたら、家庭裁判所に申し立てます。
申立て先の裁判所は、本人の住民票上の住所地を管轄する家庭裁判所です。
家庭裁判所によって審理がされる
申立て後は、家庭裁判所によって審理がなされます。
審理では、提出した書類の確認のほか次のことなどが行われます。
本人や候補者などとの面接
家庭裁判所が本人や申立人、後見人候補者などと面接を行い、意見を聞いたり本人の状態を確認したりします。
親族への意向確認
家庭裁判所から本人の親族への意向確認がなされます。
ただし、申立て段階で親族全員からの同意書が提出されている場合は、意向確認が省略されることもあります。
精神鑑定
申立て時に提出した医師の診断書や本人との面談、申立人からの聞き取りなどで本人の判断能力の程度について判断ができない場合は、別途医師の鑑定がなされることがあります。
家庭裁判所により審判がなされる
鑑定や調査が終了すると、家庭裁判所が成年後見等の開始の審判をおこないます。
これとともに、もっとも適任と思われる人が成年後見人等に選任されます。
審判の内容は、申立人と本人、選任された成年後見人等に書面で通知されます。
後見登記がされる
後見等開始の審判の確定後は、法務局で審判内容の登記がなされます。
この登記は裁判所が職権で行うため、申立人などが別途手続きをする必要はありません。
成年後見人等がその権限を証明するには、登記事項証明書を取得する必要です。
この登記事項証明書は、審判書が成年後見人等に届いてから1か月後を目途に法務局で取得できるようになります。
申立てから利用開始までの期間は、多くの場合早ければ1~2か月、長くても4か月以内です。
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成年後見・保佐・補助にかかる費用
成年後見や保佐、補助にかかる費用は、それぞれ次のとおりです。
ここでは、このうち成年後見を前提として解説します。
利用開始時にかかる費用
成年後見制度の利用を開始する際にかかる主な費用は次のとおりです。
- 家庭裁判所に支払う申立て費用:3,400円
- 家庭裁判所に納める予納郵便切手:3,270円分(東京家庭裁判所の場合)
- 鑑定費用(必要に応じて):10万円~20万円程度
- 必要書類の収集費用:数千円程度
申立て手続きのサポートを弁護士等の専門家へ依頼する場合は、専門家報酬が別途かかります。
継続的にかかる費用
弁護士などの専門家が成年後見人に選任された場合には、継続的に報酬が発生します。
成年後見人などの報酬額は裁判所が定めますが、おおむね次の程度が目安であるとされています。
- 原則:2万円程度
- 管理財産額1,000万超5,000万円以下:月額3万円~4万円程度
- 管理財産額5,000万円超:月額5万円~6万円程度
ただし、身上監護等に特別困難な事情があった場合は追加での報酬請求が認められます。
また、親族が成年後見人に選任された場合は、その成年後見人を監督する成年後見監督人として専門家が選任されることが一般的です。
この場合における成年後見監督人の報酬目安は次のとおりとされています。
- 管理財産額が5,000万円以下:月額1万円~2万円程度
- 管理財産額が5,000万円超:月額2万5,000円~3万円程度
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成年後見・保佐・補助を利用する際の注意点
成年後見や保佐、補助を利用する際は、次の点を理解しておいてください。
精度を十分に理解するため、利用の前には弁護士などの専門家へご相談ください。
途中で辞められるものではない
成年後見や保佐、補助は、本人や家族の意思で簡単にやめられるものではありません。
たとえば、本人が相続人となったことで遺産分けの話し合い(「遺産分割協議」といいます)をする必要性から成年後見制度の利用を始めるケースは多いでしょう。
しかし、この場合であっても「遺産分割協議が終わったから、選任された成年後見人を解任します」というわけにはいきません。
成年後見人や保佐人、補助人は、一度選任されたら本人の判断能力が回復するか、本人が亡くなるまで利用をやめられないことを理解しておいてください。
成年後見人や保佐人、補助人候補者が選任されるとは限らない
裁判所に制度の利用を申し立てる際は、成年後見人や保佐人、補助人の候補者を記載することが可能です。
しかし、申立て時に記載をした候補者が必ずしも選任されるとは限りません。
特に、本人の財産が多い場合や親族間で争いが予見される場合などは、弁護士や司法書士などの専門家が選任される傾向にあります。
成年後見人や保佐人、補助人の権限は限定されている
成年後見人や保佐人、補助人は、それぞれの権原の範囲内で本人の財産を管理します。
しかし、成年後見人などが行うことができるのは、あくまでも本人のための財産管理に限定されています。
そのため、たとえばリスクのある投資にお金を使ったり、本人名義で借金をしてアパート建築したりすることなどは、原則として許されません。
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成年後見や保佐、補助は、いずれも判断能力が低下した本人のために財産を管理したり法律行為を行ったりする制度です。
本人の判断能力の程度により、3つの制度に分かれています。
これらの制度を利用するには、医師の診断書を取得したうえで家庭裁判所に申立てなければなりません。
制度の利用は、一度始めたら家族などの都合でやめられないことや、候補者が必ずしも選任されるとは限らないことなど、多くの注意点があります。
そのため、制度の利用にあたっては、まずは弁護士などの専門家にご相談ください。
Authense法律事務所では、成年後見制度利用に関するサポートに力を入れています。
成年後見や保佐、補助の利用についてお悩みの際や、制度利用に関する手続きのサポートをご希望の際は、Authense法律事務所までご相談ください。
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