残された3通の遺言書。確執のある兄との「争続」
- ご相談者A子さん
- 性別:女性
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ご相談までの経緯・背景
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依頼者のA子さんのお母さんが亡くなりました。
A子さんには兄がいるため、兄とA子さんとでお母さんの遺産を相続することになったのですが、A子さんと兄は長年不仲で話し合いが進まず、困っていました。
話し合いをさらに難しいものにしたのが、生前、お母さんが用意していた3通の遺言書でした。1通目は「遺産はすべて兄に相続する」という内容の遺言書。
2通目は「兄にすべて相続するという遺言書は取り消す」という内容のもの。
この2通は公正証書遺言として作成されていました。
最後の3通目は「すべてA子さんに相続する」という遺言書でしたが、いかんせん、法律の知識を持ち合わせていない母が書いたものだったため、不安の残る内容でした。3通目の自筆の遺言書には、「兄を相続の対象から外したい」とも読める内容の文章が認められていました。
兄を廃除する場合、法的な手続きが必要となりますが、その遺言書では有効性まではない、という状況です。
A子さんと兄との間で、どこまで遺言書の内容を共通認識として扱うか、整理が必要でした。依頼者にはいくつかの希望がありました。
- ・「兄に全額相続する」という内容の1通目の遺言書があることは知っている。すべて自分が相続するべきだとは思わないが、せめて適正額は欲しい
- ・3通目の遺言書で「兄を廃除する」と読める内容が書かれているが、兄の廃除までは望まない。あくまで、被相続人のひとりとして適正額が欲しい
残された財産に現金はほとんどなく、亡くなった母と兄が同居していた自宅が主な相続財産でした。
この不動産をどう処理するのか、解決が求められました。
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解決までの流れ
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まずは自宅の土地評価額がいくらなのかを決める必要がありました。
兄側は当然、不当に安い価格の評価額を出してきます。
そこで、複数の不動産業者に依頼し土地と建物の評価を行い、その平均額を算出して裁判所に提出しました。
こちらの希望金額全額とまではいきませんでしたが、やや欠ける程度でこちらの主張が認められました。土地と建物の評価額が決まったあと、その金額をどう分配するのか争われました。
兄は母の生前、同居している中で子どもの学費なども含めた金銭的な援助も得ていました。
いったい、いくらの金額にすると公平になるのか、何年もさかのぼって証明し合う必要がありました。遺産分割調停を申し立ててから解決まで1年半、時間は掛かりましたが、A子さんの要望に沿う結果を導き出すことができました。
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結果・解決ポイント
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A子さんの望み通り、兄の廃除は行いませんでした。
代わりに、そのまま同居していた実家に住み続けたいのであれば、相応の金額を支払ってほしいと要望しました。
こちらの主張を前提とした評価額の場合、受け取るべき最高額を提示したところ、そのうちの約9割がA子さんに支払われることになりました。A子さんと兄との間では、長年にわたる確執がありました。
心情では遺産分割の対象から兄を外したいという思いがありましたが、心情と主張は必ずしも連動しません。
兄には貯金がほとんどありませんでしたので、約800万円という金額を支払うためには、実家を抵当に入れて銀行から借り入れを行う必要がありました。
A子さんにとっては、遺産相続したものの、兄が毎月それなりの額を銀行に返済しなければならない状況にできたこと、これがひとつの「仕返し」でした。この案件を進めるにあたって、適正な額を勝ち取るのと同時に、依頼者であるA子さんの気持ちも晴れる結論に落とし込んでいくハンドリングが求められました。
円満に相続についての話し合いを進められる状況なら問題はありませんが、互いに弁護士を立てて争う「争続」に発展してしまった場合、この気持ちの部分での落とし所も大切なポイントになります。
ドライに法律に則って進めるだけではなく、依頼者の気持ちに寄り添って解決へと導いていくこともまた、弁護士の仕事のひとつなのだと思っています。
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