遺言の種類とメリット・デメリット

遺言には主に、「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」の3種類が存在します。
中でも実務上よく使用されているのは、「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」の2つですが、今回は、「秘密証書遺言」も含めて、それぞれどのような特徴やメリット・デメリットがあるのか、また、状況ごとにおすすめする遺言の種類などについて、弁護士がくわしく解説します。

遺言とは

遺言とは、死後の財産の行き先などについて生前に決めておくものです。

複数の相続人がいる場合、遺言書がなければ、相続発生後に相続人全員による遺産分けの話し合い(「遺産分割協議」といいます)を経て遺産を分割しなければなりません。
遺産分割協議の成立には相続人全員による合意が必要であり、一人でも納得しない相続人がいる場合には協議を成立させることは困難です。
当事者間での話合いがまとまらない場合には、裁判所に舞台を移して解決を図ることとなります。

一方、亡くなった人(「被相続人」といいます)が生前に遺言を遺しており、その遺言ですべての遺産の行き先が決められていれば、そもそも遺産分割協議は必要ありません。
そのため、有効な遺言書を遺しておくことは、「相続争い」の予防へとつながります。

普通方式の遺言には3種類が存在する

遺言の種類には、「普通方式」と「特別方式」が存在します。

特別方式とは、死亡の危急に迫った者の遺言や伝染病隔離者の遺言など、その名称どおり「特別の」場合に使用する遺言方式です。
一方、平常時に使用する普通方式の遺言は次の3種類です。

自筆証書遺言

自筆証書遺言とは、遺言者が全文を自書して作成する遺言方式です。
自筆証書遺言の作成方法は、次のとおりです(民法968条)。

  1. 遺言者が、その全文、日付、氏名を自書する
  2. 遺言者がこれに押印する

なお、本文とは別に財産目録を作成する場合、財産目録については自書が必要なく、パソコン等での作成も認められます。
ただし、財産目録のすべてのページ(用紙の両面に記載する場合には、両面とも)に遺言者が署名と押印をする必要があります。

公正証書遺言

公正証書遺言とは、公証人の関与のもとで作成する遺言方式です。
公正証書遺言の作成方法は、次のとおりです(同法969条)。

  1. 証人2人以上の立ち会いのもと、遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授する
  2. 公証人が遺言者の口述を筆記する
  3. 公証人が、筆記を遺言者と証人に読み聞かせるか、閲覧させる
  4. 遺言者と証人が、筆記の正確なことを承認した後、各自これに署名し印を押す(遺言者が署名できない場合は、公証人がその事由を付記して、署名に代えることができる)
  5. 公証人が署名し、印を押す

秘密証書遺言

秘密証書遺言とは、遺言者があらかじめ記載した遺言書を公証役場に提出した上で一定の手続きを経て完成させる遺言方式です。
秘密証書遺言の作成方法は次のとおりです(同法970条)。

  1. 遺言者が、遺言を筆記した証書に署名し、印を押す
  2. 遺言者が、遺言を筆記した証書を封じ、証書に用いた印でこれに封印する
  3. 遺言者が、公証人1人と証人2人以上の前に封書を提出して、自己の遺言書である旨と、自己の氏名、住所を申述する
  4. 公証人が、その証書を提出した日付と遺言者の申述を封紙に記載した後、遺言者と証人がともにこれに署名し、印を押す

遺言書のメリット・デメリット総まとめ

3種類の遺言には、それぞれ一長一短が存在します。
主な違いは次の表のとおりです。
なお、自筆証書遺言には、法務局で保管してもらえる制度が存在しますが、ここでは保管制度を使用しない前提で解説します。

自筆証書遺言 公正証書遺言 秘密証書遺言
費用 不要 必要 必要
証人 不要 2名以上必要 2名以上必要
他者に遺言の内容を知られるか 知られない 公証人と証人に知られる 知られない
偽造・隠匿リスク あり なし なし
検認 必要 不要 必要

詳細な内容については、次で一つずつ解説します。

自筆証書遺言のメリット

自筆証書遺言の主なメリットは、次のとおりです。

費用がかからない

自筆証書遺言を自分で作成する場合には、費用は掛かりません。
紙とペンと印鑑さえあれば作成することが可能です。

他者に遺言内容を知られない

自筆証書遺言を自分で作成した場合には、遺言内容を誰にも知られずに済みます。

思い立ってすぐに作成できる

自筆証書遺言の作成に、特別な準備は必要ありません。
そのため、思い立ってすぐに作成することが可能です。

公正証書遺言のメリット

公正証書遺言の主なメリットは次のとおりです。

無効になりづらい

公正証書遺言は、公証人が関与して作成します。
そのため、様式の要件を満たしていなかったり、記載内容があいまいだったりして遺言が無効となってしまうというリスクはほとんどありません。

自書ができなくても作成できる

公正証書遺言は、遺言者が本文を自書する必要がありません。
そのため、自分の手で遺言書を書くことが難しい状態であっても作成することが可能です。

自分で文章を組み立てる必要がない

公正証書遺言は、遺言者が希望する遺言内容を、公証人が法的な文章にしてくれるものです。
そのため、遺言書に適した法的な言い回しを自分で検討する必要はありません。

偽造・隠匿・紛失の可能性がほとんどない

公正証書遺言を作成すると、原本は公証役場で保管されます。
そのため、偽造や隠匿、紛失などのリスクがほとんどありません。

なお、遺言者の手元には原本をもとに正式な手続きを踏んで作成した写しである「正本」や「謄本」が交付され、相続発生後の手続きもこの正本や謄本を使って行います。

相続開始後に検認が不要である

検認とは、遺言書の偽造や変造を防ぐため、相続発生後に家庭裁判所で行う手続きのことです。
公正証書遺言の場合には、この検認は必要ありません。
そのため、相続が起きた後で速やかに遺産の解約や名義変更などの手続きに進むことができます。

秘密証書遺言のメリット

秘密証書遺言の主なメリットは、次のとおりです。

他者に遺言内容を知られない

秘密証書遺言も公証役場で手続きをする必要があるものの、公証役場に差し出す時点では、すでに遺言書が封印された状態です。
そのため、公証人や証人にも内容を知られることはありません。

自筆証書遺言のデメリット

ここからは、それぞれの遺言のデメリットについて解説していきます。
まず、自筆証書遺言の主なデメリットは次のとおりです。

無効となる可能性がある

自筆証書遺言を自分で作成した場合には、誰かに内容のチェックを受けられるわけではありません。
そのため、要件を満たさず無効となるリスクが低くありません。
また、記載内容があいまいである場合には、遺産の解約や名義変更の手続きに使用できないリスクもあります。

全文を自書する必要があり大変

自筆証書遺言は、遺言者が全文を自書しなければなりません。
そのため、高齢者や手が不自由な人などにとっては、作成が大変な場合があるでしょう。。

本人が作成したものであるとの証拠が残りにくい

自筆証書遺言は自分一人で作成できる反面、作成時の証拠も残りません。
そのため、たとえば遺言内容に不満を持つ相続人などが「これは本人が書いたものではない」などと主張してトラブルとなる可能性があります。

偽造・隠匿・紛失のリスクがある

作成した自筆証書遺言は、原則として遺言を書いた本人が保管します。
そのため、第三者に遺言を発見された場合に、偽造や隠匿をされたり紛失したりするリスクがあります。

相続開始後に検認が必要である

相続開始後、自筆証書遺言を遺産の解約や名義変更に使うにあたっては、これに先立って家庭裁判所で検認を受けなければなりません。
そのため、遺産の解約等の手続きを開始するまでには時間がかかります。

公正証書遺言のデメリット

公正証書遺言の主なデメリットは次のとおりです。

費用がかかる

公正証書遺言を作成するには、公証役場に手数料を支払わなければなりません。
手数料の額は遺産の額などによって異なりますが、おおむね数万円から十数万円となることが多いでしょう。

2名以上の証人を手配する必要がある

公正証書遺言を作成するには、公証人のほか、2名以上の証人の立ち合いが必要です。
また、次の者は証人になることができず、適任者が見つからない場合もあるでしょう。

  • 未成年者
  • 推定相続人(遺言者が亡くなったときに相続人になる予定の人)と、その配偶者、直系血族
  • 受遺者(その遺言書で遺産を渡す相手)と、その配偶者、直系血族
  • 公証人の配偶者、四親等内の親族、書記、使用人

もっとも、証人を自分で用意することができない場合には、公証役場の方で手配をしてもらうことも可能です。

予約や書類の準備などが必要なためすぐには作成できない

公正証書遺言は、いきなり公証役場へ出向いてすぐに作成できるものではありません。
作成に先立って事前相談をしたり、戸籍謄本などの必要書類を集めたりすることが必要です。

そのため、作成までに数週間程度の時間を要することが多いでしょう。

秘密証書遺言のデメリット

秘密証書遺言の主なデメリットは次のとおりです。

無効となる可能性がある

秘密証書遺言は、その内容について公証人が関与するわけではありません。
そのため、自筆証書遺言と同じく無効となるリスクや、記載内容があいまいで手続きに使用できないリスクなどがあります。

費用がかかる

秘密証書遺言を作成するには、公証役場に対する費用がかかります。
秘密証書遺言の作成にかかる公証役場手数料は一律11,000円です。

2名以上の証人を手配する必要がある

秘密証書遺言の作成には、公証人のほか、証人2名以上の立ち会いが必要です。
そのため、公正証書遺言の場合と同じく証人を手配しなければなりません。

偽造・隠匿・紛失のリスクがある

秘密証書遺言を完成させる手続きは公証役場で行うものの、公正証書遺言のように公証役場で原本が保管されるわけではありません。
作成後は、自分で保管することが必要です。
そのため、自筆証書遺言と同じく、偽造や隠匿、紛失などのリスクがあります。

予約や書類の準備などが必要なためすぐには作成できない

秘密証書遺言の手続きは、いきなり公証役場に出向いて行えるものではありません。
公証人と証人の日程を調整する必要があるためです。

遺言種類の選び方総まとめ

最後に、状況やニーズごとにおすすめの遺言の方式を紹介します。

有効な遺言を確実に遺したい場合:公正証書遺言

有効な遺言書を確実に残したい場合には、公正証書遺言を選択するとよいでしょう。
なぜなら、公正証書遺言は公証人が関与して作成するため、無効となるリスクが格段に低いためです。

争いの可能性が少しでもある場合:公正証書遺言

相続争いが少しでも予見される場合にも、公正証書遺言がおすすめです。

公正証書遺言は無効となるリスクが低いことに加え、偽造や変造などをされるリスクも非常に低いためです。
また、公証人と証人が立ち会うため、「本人が作成したものではない」などと主張される余地はほとんどありません。

費用をかけたくない場合:自筆証書遺言

遺言書の作成にできるだけ費用をかけたくない場合には、自筆証書遺言をおすすめします。
紙とペンと印鑑さえあれば作ることができるので、費用をほとんどかけずに作成することも可能であるためです。

ただし、自分一人で自筆証書遺言を作成した場合には、遺言自体が無効となる可能性もあり、将来に問題を残すリスクがあります。
遺言書が担う役割の重大性を踏まえ、作成にあたっては、弁護士などの専門家に相談すると安心です。

相続人の手間を軽減したい場合:公正証書遺言

相続発生後、相続人の手間をできるだけ軽減したい場合には、公正証書遺言がおすすめです。
なぜなら、公正証書遺言は「検認」が不要であり、すぐに遺産の解約や名義変更などの手続きへと入ることができるためです。

また、他の相続人などから無効を主張されるリスクも低いため、この点からも負担の軽減につながるでしょう。

遺言書の作成サポートはAuthense法律事務所へお任せください

「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」のそれぞれの方式に一長一短があるため、状況に応じて、自身に合った方法を選択するとよいでしょう。
どの種類の遺言を選択すべきか判断に迷う場合には、弁護士などの専門家にご相談ください。

また、遺言書の作成には、注意点が少なくありません。
十分に内容を検討せずに遺言書を遺してしまうと、相続トラブルの原因となるなど、相続人に負担をかけてしまいかねません。
そのため、遺言書の作成は一人で行うのではなく、弁護士などの専門家のサポートを受けることをおすすめします。

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