遺言書では、原則として遺言者がわたしたい相手に遺産をわたすことが可能です。
では、複数の相続人がいるのもかかわらず、遺言書で一人に単独相続させることはできるのでしょうか?
今回は、遺言書で一人に全財産を相続させることの可否や、単独相続させる内容の遺言を作成する際のポイントなどについて、弁護士がくわしく解説します。
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遺言書で一人に全財産を相続させる主な理由
遺言書ですべての遺産を一人に単独相続させることには、どのような理由があるのでしょうか?
考えられる主な理由は、次のとおりです。
事業を後継者に継がせたいなどの事情があるから
遺産を一人に単独相続させたいと考えるよくある理由の1つ目は、事業承継です。
事業承継を円滑に行うためには、事業用資産や自社株式を特定の相続人に集中させる必要があります。
また、事業に関連する以外の資産がある程度あれば、他の相続人にも一部の資産を遺す余地はあるものの、その他の資産がほとんどないという場合には、後継者に遺産を集中せざるを得ないでしょう。
他の相続人には十分な金銭援助をしたから
一部の相続人に十分な資金援助をしてきたことを理由に、他の相続人に遺産を単独相続させたいと考える場合もあります。
たとえば、相続人である子が長男と二男の2人いる場合において、二男のみが海外留学をしたり、二男が家を建てる際の費用を贈与したりした場合などです。
他の相続人と疎遠であるから
他の相続人と疎遠であったり折り合いが悪かったりすることを理由に、遺言書で一人に全財産を相続させたいと考える場合もあります。
たとえば、長女一家が近くに住み何かと世話をしてくれる一方で、二女はほとんど家に寄りつかないような場合です。
家督相続的な考えを持っているから
昭和22年に民法が改正される以前は、家を継ぐ長男などが遺産を単独相続する「家督相続」が原則とされていました。
現在の民法では、「家を継ぐ」という法的概念自体が存在せず、長男であるか二女であるかといったことなどで、相続権に違いはありません。
しかし、比較的伝統を重んじる家などでは、未だに家督相続的な考えを持つケースがあります。
そのため、たとえば「家を継ぐ長男に全財産を相続させたい」との考えから、一人に遺産を集中させる内容の遺言書を作成する場合があります。
相続税の負担が小さくなるから
相続税には、さまざまな特例が存在します。
この特例を最大限活用するために、一人の相続人に遺産を単独相続させる場合があります。
たとえば、「配偶者の税額軽減」を活用すれば、配偶者が受け取った遺産のうち1億6,000万円か配偶者の法定相続分のいずれか大きい額までは、相続税がかかりません。
つまり、そもそも遺産総額が1億6,000万円以下なのであれば、配偶者がすべて相続することで相続税をゼロにすることが可能です。
この特例を最大限活用するため、配偶者に全財産を相続させる内容の遺言書を作成することが考えられます。
なお、この場合にはその後配偶者が亡くなった際にかかる相続税も試算し、トータルでかかる相続税を踏まえて遺産の配分を検討する必要があるでしょう。
一人に全財産を相続させる遺言書の作成は可能?
遺言書で、一人の相続人に全財産を相続させることは可能なのでしょうか?
順を追って解説します。
遺言書で全財産を一人に相続させることは可能
まず、一人の相続人に遺産を単独相続させる内容の遺言書を作成することは可能です。
遺言書で誰にどれだけの遺産をわたすのかは遺言者の自由であり、何ら制限されるところではありません。
遺留分に注意が必要
遺言書を作成できるかどうかということと、その遺言書が将来トラブルの種にならないかどうかは別問題です。
仮に一人に全財産を相続させるとの遺言書を作成した結果、他の相続人の遺留分を侵害する事態となれば、遺留分侵害額請求がされてトラブルとなる可能性がありますので注意しましょう。
遺留分や遺留分侵害額請求については、次でくわしく解説します。
遺留分とは
一人に全財産を相続させる内容の遺言書を作成する際には、遺留分に注意しなければなりません。
遺留分とは、次のような制度です。
遺留分の基本
遺留分とは、亡くなった人(「被相続人」といいます)の子や配偶者など一定の相続人に保証された、相続での最低限の取り分です。
たとえば、一家の大黒柱である父が亡くなり妻と幼い子が残されたものの、全財産を友人に遺贈するとの内容の遺言書があり妻や子が一銭も手にできないとなれば、家族が路頭に迷ってしまうかもしれません。
また、妻には内助の功がありこれまで外で働く夫を支えてきたにも関わらず一切相続できないとなれば、あまりにも不合理でしょう。
このような考えをベースとして、一定の相続人には遺留分が保証されています。
遺留分のある相続人・ない相続人
遺留分は、すべての相続人にあるわけではありません。
遺留分がある相続人は、次のとおりです。
- 配偶者相続人:被相続人の法律上の配偶者
- 第一順位の相続人:被相続人の子や、子が被相続人より先に他界している場合の孫など
- 第二順位の相続人:被相続人の両親など
一方、被相続人の兄弟姉妹や甥姪はたとえ相続人となる場合であっても、遺留分はありません。
遺留分割合
遺留分割合は、原則として2分の1です。
これに各自の法定相続分を乗じた割合が、個々の遺留分となります。
たとえば、配偶者と長男、二男が相続人である場合、それぞれの遺留分割合は次のとおりです。
- 配偶者:2分の1(遺留分割合)×2分の1(法定相続分)=4分の1
- 長男:2分の1(遺留分割合)×4分の1(法定相続分)=8分の1
- 二男:2分の1(遺留分割合)×4分の1(法定相続分)=8分の1
ただし、第二順位の相続人のみが相続人である場合には、遺留分割合は3分の1となります。
遺留分を侵害するとどうなるか
遺留分を侵害したからといって、遺言書が無効になるわけではありません。
たとえば、相続人が長男と二男の2名であるにも関わらず「長男に全財産を相続させる」旨の遺言書があった場合には、実際に長男が全財産を相続することになります。
ただし、この場合、二男から長男に対して遺留分侵害額請求がなされる可能性があります。
遺留分侵害額請求とは、遺産を多く受け取った相手に対して侵害された遺留分相当の金銭を支払うよう請求することです。
遺留分侵害額請求がなされたら、実際に長男は二男に対して、侵害した遺留分相当額の金銭を支払わなければなりません。
遺留分を侵害した遺言書を作成することはできるものの、遺留分侵害額請求がなされて、トラブルとなる可能性があります。
一人に全財産を相続させる際の遺言書文例
一人に全財産を相続させる際の遺言書の文例は、次のとおりです。
遺言書
遺言者 遺言 太郎 は、本遺言書により次のとおり遺言する。
第1条 遺言者の有するすべての財産を、遺言者の長男である 遺言 一郎(昭和50年1月1日生)に包括して相続させる。
令和4年12月1日
東京都〇〇区〇〇一丁目1番1号
遺言 太郎 ㊞
なお、「次の財産を含む遺言者の有するすべての財産を、遺言者の長男である 遺言 一郎(昭和50年1月1日生)に包括して相続させる」などとしたうえで、一部の遺産を例示する書き方もあります。
一人に全財産を相続させる遺言書を作る際のポイント
一人に全財産を相続させる内容の遺言書を作成する際には、次の点に注意しましょう。
公正証書遺言とする
通常使用する遺言書の方式には、主に自筆証書遺言と公正証書遺言が存在します。
自筆証書遺言は手軽である一方で、書き損じなどにより無効となるリスクや、偽造されたり隠匿されたりするリスクが考えられます。
特に、一人の相続人に遺産を単独相続させたいなど偏った内容を記した遺言の場合には、他の相続人が遺言書を隠匿する可能性や、反対に遺言書で優遇されている相続人が偽造したのではないかとの疑義が生じる可能性があります。
そのため、一人の相続人に遺産を集中させる内容の遺言書は、公正証書遺言で作成した方がよいでしょう。
公正証書遺言とは、証人2名の立ち会いのもと、公証人が関与して作成する遺言書です。
遺留分について理解しておく
上で解説したとおり、一部の相続人には遺留分があります。
遺留分を侵害した遺言書を遺してしまえば、トラブルの原因となるかもしれません。
そのため、まずは自分に遺留分のある相続人がいるかどうか確認する必要があります。
遺留分のある相続人がいる場合には、本当に一人に遺産を単独相続させる遺言書を遺してよいかどうか慎重に検討するとよいでしょう。
遺留分のある相続人がいる場合には対策を検討しておく
遺留分のある相続人がいるにもかかわらず、一人に相続人に遺産を集中させる遺言書を作りたい場合には、遺留分侵害額請求に備えた対策を検討しておきましょう。
検討すべき対策には、たとえば次のものなどが挙げられます。
遺留分侵害額請求がされた場合の支払い原資の確保
遺留分侵害額請求がなされたとしても、遺産の大半が預貯金などであれば大きな問題とはならないかもしれません。
なぜなら、たとえ遺留分侵害額請求がなされても、受け取った遺産の中から容易に支払いができるためです。
一方、遺産の大半が不動産や自社株など換価の難しいものである場合には、遺留分を支払おうにも支払うだけの金銭が用意できず、困った事態となりかねません。
そのため、遺留分を侵害する遺言書を作成する場合には、あらかじめ遺留分額の試算を行い、遺留分侵害額請求に備えて支払い原資を確保しておく対策が必要です。
たとえば、被保険者を被相続人、保険金受取人を遺言書で単独相続させたい長男とする生命保険契約を締結しておくことなどが考えられます。
このような対策をしておけば、仮に長男が他の相続人から遺留分侵害額請求をされたとしても、受け取った生命保険金を原資として遺留分の支払いをすることが可能となるためです。
生前の遺留分放棄
また、生前の遺留分の放棄という制度も存在します。
これは、遺留分のある相続人が被相続人の存命中に自ら家庭裁判所に申し立て、遺留分を放棄する手続きです。
たとえば、長男と二男の2人が相続人であるにも関わらず遺言書で長男に遺産を単独相続させたい場合において、二男に生前の遺留分放棄をしてもらうことがありえます。
ただし、遺留分の放棄は、放棄する本人以外は申し立てられるず、第三者が強制できるものでもありません。
二男が遺留分放棄をするためには、二男が自らの意思で行う必要があり、遺言書を遺す被相続人や遺産を多く受け取ることとなる長男が、二男の遺留分放棄を勝手に申し立てることはできないということです。
また、遺留分放棄を申し立てたからといって、必ずしも許可がされるわけではありません。
家庭裁判所が遺留分放棄を許可するためには、次の要件をすべて満たす必要があるとされています。
- 遺留分放棄が、本人の自由な意思によるものであること
- 遺留分放棄に合理性と必要性があること
- 放棄に見合うだけの見返りが存在すること
そのため、たとえ本人にその気があったとしても、合理性がない場合や見返りが不十分であると裁判所が判断すれば、許可を受けることはできません。
弁護士へ相談する
一人に全財産を相続させる内容の遺言書を作成する際には、弁護士へ相談することをおすすめします。
遺言書の文面はシンプルであるため、作成自体は簡単であると感じるかもしれません。
しかし、偏った内容の遺言書は、遺留分などさまざまなトラブルの原因となる可能性があるためです。
弁護士へあらかじめ相談しておくことで、そのケースに応じたリスクを把握することができるほか、リスクへの対策を講じることも可能となるでしょう。
まとめ
相続人の一人に全財産を相続させる内容の遺言書を作成することは可能です。
しかし、このような偏った内容の遺言書は、後のトラブルの原因となる可能性があります。
そのため、作成にあたってはあらかじめ弁護士へ相談するとよいでしょう。
Authense法律事務所では、遺言書の作成や遺産相続にまつわるトラブル解決などに力を入れております。
一人に相続人に単独相続させる遺言書を作成したい場合など遺言書や相続についてお困りの際には、ぜひAuthense法律事務所までご相談ください。
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