コラム
公開 2021.04.07 更新 2022.03.14

遺言書を作成して「もめない相続」を実現するためのポイント

遺言書を遺せば相続でもめないで済みますが、実際に遺言書を書く際には注意すべき点があります。相続ではなぜもめやすいのか、遺言書にはどんなメリットがあり作成時に押さえるべきポイントは何か、これらを理解した上で遺言書を作ることが大切です。

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相続でもめる理由・遺言書があればもめない理由

生前に相続対策を行って将来相続トラブルが起きないようにするためには、まずは相続でもめる理由が何なのかを知るところから始める必要があります。
相続トラブルの原因になりやすいことが何かを理解すれば、ご自身のケースで起きる可能性がある問題を予測でき、相続対策の具体的な内容を決められるからです。

また、生前にできる相続対策にはさまざまな方法があるので、それぞれの方法の特徴を理解した上で、どんな対策を講じるのが最適なのかを決めることも重要です。
そして、相続対策として遺言書を書く場合には、遺言書が一体どのような効力を発揮するのか、遺言書の特徴やメリットを理解しておくことが大切です。

そこで、遺言書がないとどんな理由で相続トラブルになりやすいのか、遺言書があると何が変わるのか、遺言書がない場合とある場合を比較しながらまずは解説していきます。

遺言書がない場合

家族が亡くなり相続が開始したときに、遺言書が遺されていない場合、相続人が2人以上いるケースでは遺産の分け方を話し合う「遺産分割協議」を行う必要があります。
このとき、話し合いがスムーズに進んで何ら問題なく遺産を相続できる場合もありますが、遺産の分け方を巡って相続人同士がもめることも少なくありません。

たとえば、遺産に土地や家などが含まれる場合には、高額な資産である不動産を誰が相続するのかでもめる可能性が高くなります。
不動産は相続人の間で平等に分割することが難しく、土地や家を相続する人の相続額が他の相続人よりも多くなり、相続額が少ない相続人が不満を抱くことがあるからです。

また、相続人同士の人間関係が疎遠であまり話したことがない場合も、遺産分割協議が順調に進まないことがあります。
あまり知らない人に遺産を持っていかれたくないと考えてしまい、感情的に対立して遺産相続の話し合いがうまくいかないことがあるため注意が必要です。

遺言書がある場合

財産を遺す人が生前に遺言書を書いて遺産の分け方を決めておけば、そもそも相続人による遺産分割協議が不要になります。
遺産分割協議を行わないので相続人同士でもめる余地がなくなり安心ですし、遺産分割協議書の作成が不要になって相続人の負担を軽減できる点もメリットです。

なお、遺言書が残されている場合でも相続開始後に相続トラブルになるケースはあるため、遺言書を作成すれば絶対に相続トラブルを回避できるわけではありません。

たとえば、遺留分(一定の相続人に法律上保障されている遺産取得割合)を侵害しないように遺言者が細心の注意を払って遺言を書いた場合でも、相続開始後に特定の相続人が遺留分の算定基礎となる遺産額に異議を唱える可能性があります。
また、相続開始後に遺言書の効力を巡って争いになり、遺言書を作成した時点で十分な意思能力がなかったとして、遺言書の無効を主張する相続人が出てくるかもしれません。

ただ、このようなトラブルを完全に防ぐことはできませんが、遺言書が相続トラブル回避に役立つ有効な手段であることは間違いありません。
遺言書がある場合のほうがない場合に比べて相続トラブルになりにくいため、将来ご自身が亡くなったときに家族がもめそうであれば、遺言書を遺しておくほうが良いでしょう。

遺言書を書くときに押さえるべきポイント

遺言書を書くときに押さえるべきポイント

遺言書を書いておけば相続トラブルを回避できる可能性が高くなりますが、相続開始後に遺言書の無効が発覚したり、遺言の内容がむしろトラブルの原因になったりする場合もあるため注意が必要です。

まず、自筆証書遺言書を作成する場合には、法律で決められた要件が守られていなければ遺言書自体が無効になります。
遺言者が遺言の全文や日付、氏名を自書して押印をしなければならず、遺言者本人以外による代筆は認められていません。
また、遺言の内容が不明確だと、相続開始後に解釈を巡ってトラブルになる可能性がありますし、遺言では何でもできると勘違いして遺留分を侵害しないように注意が必要です。

この他にも、遺言執行者の指定や遺言書の形式の選択など、遺言書を書くときに押さえておくべき点があるので、これらのポイントを理解した上で遺言書を書くようにして下さい。

誰が何を相続するのかを明確に記載する

遺言書を書く際に注意しなければならないのが、誰が何を相続するのかを明確に記載する必要がある点です。
遺言書に記載された内容が不明確で何の財産なのか特定できないと、遺言そのものが成立せず意味をなさないことがあります。

たとえば、「銀行口座の預金は相続人甲に相続させる」と書いた場合、どこの銀行の口座なのかがわかりません。
相続人甲に相続させる財産が何なのか明確に特定できないため、せっかく遺言書を書いたのに遺言が成立せず、遺産を渡せない可能性があります。

このようなことが起きないように、銀行口座の預金であれば銀行名や支店名、口座番号まで記載して、相続の対象である預金口座を特定できるように記載することが大切です。
また、土地や自宅などの不動産であれば、あらかじめ登記事項証明書を取り寄せて、所在地など証明書に記載された事項を遺言書に転記するようにして下さい。

遺言書の文言が少し違うだけで解釈が変わったり、遺言自体の有効・無効に影響したりすることも少なくありません。
記載方法がよくわからない場合や不安な場合には、相続の専門家である弁護士に早めに相談することをおすすめします。

遺留分を侵害しないように気を付ける

遺言書を書いておけば、財産を遺す側が遺産の分け方を決められますが、相続人の権利である遺留分は、遺言書によっても侵害することはできません。
遺留分は、一定の相続人が最低限取得できる遺産割合であり、仮に遺留分以下の遺産しか渡さない旨の遺言書が見つかった場合、相続人は侵害された分を請求することが可能です。

そして、請求手続きである遺留分侵害額請求を相続人が行った場合には、遺言書の内容とは違う形で遺産分割が行われる可能性があります。
また、請求手続きなどを通して相続人同士が対立することも考えられ、遺留分を侵害する内容の遺言書を書いたがために、逆に相続トラブルを引き起こすことにもなりかねません。

遺言書を書くにあたっては、誰が相続人なのかを正確に把握し、各相続人の遺留分についても事前にしっかりと確認してから遺言内容を決めるようにして下さい。

遺言執行者を決めておく

遺言執行者とは、遺言の内容を確実に実行するために相続手続きを行う権限を与えられた人です。
遺言書作成において遺言執行者の指定は必須ではありませんが、遺言執行者を決めておけば相続開始後の遺産相続手続きがスムーズに進むので、決めておいたほうが良いでしょう。

逆に、遺言書の中で遺言執行者を指定していない場合には、たとえば相続人の誰かが手続きに非協力的で、遺産相続の手続きが滞ってしまうことがあります。
つまり、遺言書では単に遺産の分け方だけを指定するのではなく、遺言の内容を確実に実行するために、遺言執行者まで含めて記載しておくことが大切です。

なお、遺言執行者には未成年者や破産者はなれませんが、それ以外の人であれば遺言執行者になれるため、相続人の中の誰かを指定しても問題ありません。
ただし、遺言執行者になった人はさまざまな相続手続きを行うことになり、実際に相続が開始した後の負担が大きくなる場合があります。
特定の相続人に負担をかけたくない場合には、弁護士などの専門家に依頼して遺言執行者になってもらうほうが良いでしょう。

遺言書の形式や保管場所も検討する

遺言書を作成する際には、どの形式で遺言書を作成するのかを検討して、複数ある遺言書の種類の中から、ご自身にとって最適なものを選択することが大切です。

一般的に使われることが多い遺言書には、「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」の2種類があります。
それぞれの遺言書の特徴を理解して、どちらにするかを選ぶようにして下さい。

まず、自筆証書遺言は手書きで簡単に作成でき、大きな費用をかけずに遺言書を作れる点がメリットです。
ただし、自宅などで保管する場合には紛失や偽造などのリスクがあるため、保管場所も検討する必要があります。
貸金庫に保管する場合や弁護士などの専門家に預ける場合など、保管方法は人によってさまざまですが、法務局で自筆証書遺言書を保管する制度を利用しても良いでしょう。

一方で、公正証書遺言は公証役場で作成するため作成に手間がかかりますが、公証人という専門の人が作成するため、形式不備が起きるリスクが基本的になく安心です。
作成費用がそれなりにかかる点がデメリットですが、作成した公正証書遺言書の原本は公証役場で保管されるため、紛失や偽造の心配はありません。

なお、自筆証書遺言の場合には、遺言書の作成時点で遺言者が認知症を発症していなかったかなど、遺言書の効力を巡って相続開始後に相続人の間で争いになる場合があります。
公証人や証人がいる状況で作成する公正証書遺言書ではこういったリスクは少ないため、遺言書の種類に迷った場合は、自筆証書ではなく公正証書で作成するほうが良いでしょう。

遺言書の作成手順

遺言書の作成手順

実際に遺言書を作成する際は、まずは誰が相続人で、相続の対象となる財産が何かを調べる必要があります。
その上で遺産の分け方を決め、自筆証書遺言の場合は自宅などにおいて手書きで、公正証書遺言の場合は公証役場において、それぞれ遺言書を作成するというのが大まかな流れです。

弁護士などに相談して遺言の内容を考えてもらう場合は別ですが、自分で遺言書を作成する場合は、自筆証書でも公正証書でも遺言の内容自体は自分で考えなければなりません。
公正証書遺言を作成する公証人は遺言書の内容に関する相談に乗ってくれるわけではないため、公正証書遺言を作成する場合も事前に自分で遺言内容を考える必要があります。

ここでは、法定相続人と対象財産を調べる際や、遺産の分け方を決める際に注意すべきポイントを紹介するので、実際にご自身で遺言書を作成する際の参考にして下さい。

法定相続人と対象財産を調べる

相続が開始したときに誰が相続人になるかは法律で決まっているため、家族であれば誰でも相続人になれるわけではありません。

相続人になるのは「配偶者」「子」「親」「兄弟姉妹」で、配偶者は相続開始時点で存命であれば相続人になります。
一方で、「子」「親」「兄弟姉妹」の間では相続人になる順位が決まっており、第一順位が子、第二順位が親、第三順位が兄弟姉妹です。

兄弟姉妹のみが相続人になる場合は遺留分の問題は生じませんが「配偶者」「子」「親」が相続人になる場合には遺留分があるため、注意しながら遺産の分け方を考える必要があります。

相続の対象となる財産についても正確に把握する必要があり、財産の総額が間違っていると遺留分の計算にも影響するため注意が必要です。
相続開始後にトラブルにならないように、財産目録(財産の一覧)を作成するときには相続の対象となる財産を漏れなく記載しなければなりません。

相続財産には、現預金や不動産などのプラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産も含まれます。
相続の対象になる財産が何かよくわからない場合には、相続に強い弁護士などに相談して確認したほうが良いでしょう。

遺産の分け方を決める

相続財産を把握したら、誰にどの財産を相続してほしいのか遺産の分け方を決めますが、基本的には遺言者自身の想いや希望をもとに遺産の分割方法を決めて問題ありません。
ただし、これまでに紹介したとおり、相続人の権利である遺留分には注意して下さい。

また、遺言書を作成する目的が相続トラブル回避の場合には、ご自身が決めた遺産の分け方で相続人が納得するかどうかも考えるようにしましょう。
たとえば、親が遺言書を書いて決めた遺産分割方法に子どもたちが内心では納得せず、相続を機に兄弟仲が悪くなるケースもあります。

遺言書を作成すれば遺産分割協議が不要になり、もめる可能性は低くなりますが、遺言の内容が原因で親族の仲が悪くなっては元も子もありません。

遺言の内容を家族には秘密にしておきたい場合などもあるとは思いますが、できることならば財産を遺す人・財産を相続する人全員で将来の相続について話し合い、家族全員が納得できる遺産分割方法を事前に決めた上で遺言書に記載するほうが良いでしょう。

遺言書を作成する

遺言の内容が決まったら、遺言書を作成します。
自筆証書遺言書であれば紙とペンなどを用意すれば簡単に作成できますが、日付と氏名の記載や押印は忘れずに行って下さい。
なお、法務局に保管申請をする場合は、形式面で不備がないか申請時に確認してもらえます。

公正証書遺言書を作成する場合は、公証人との事前の打ち合わせが必要になるため、まずは公証役場に問い合わせましょう。
事前の打ち合わせが終わり、遺言書を作成する日を予約して当日になったら公証役場に出向いて遺言書を作成します。

なお、病気で寝たきりの人や入院中の人など、自分では公証役場に行けない人でも、出張作成制度を利用すれば公正証書遺言書の作成が可能です。
公証役場で作成する場合に比べて料金は1.5倍になりますが、公証人に来てもらって遺言書を作成できる便利な制度です。

まとめ

相続が起きたときに遺産分割を巡って相続人の間でもめそうな場合でも、財産を遺す人が遺言書を書いて遺産分割方法を決めておけば、相続トラブルを回避できる場合があります。

ただし、遺言書の内容によっては、むしろ相続トラブルの原因になってしまうこともあるため注意が必要です。
相続でもめないためにも、遺言書には誰が何を相続するのか明確に記載し、相続人の権利である遺留分を侵害しない内容で遺言を考えるようにして下さい。

また、今回紹介した知識以外にも、遺言書を作成するときには相続に関するさまざまな知識が必要になります。
遺言書の書き方がよくわからないといった場合には、Authense法律事務所にぜひご相談ください。

記事を監修した弁護士
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