コラム
公開 2021.03.10 更新 2022.03.14

介護をしたので寄与分を獲得したい!相続手続の方法を弁護士が解説

生前に被相続人の介護をしていたので、寄与分を獲得したい、という方もいるのではないでしょうか。寄与分は、被相続人の介護をしたからといって、自動的に認められるものではありません。このような場合には、どのように相続手続を進めれば良いのか、寄与分を獲得したい場合の準備や手続について、詳しく解説いたします。

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「寄与分」とは、どういう制度なの?

『相続』の手続において、「寄与分」という制度は、相続分に影響を与える非常に重要な制度になります。
ここでは、そもそも「寄与分」がどのような制度なのかを、解説いたします。

「寄与分」とは、共同相続人の中に、被相続人の財産の維持又は増加に特別の寄与をした者があるときに、①相続財産からその者の寄与分を控除したものを相続財産(※この計算上の相続財産を「みなし相続財産」といいます。)とみなして相続分を算定し、②その算定された相続分に寄与分を加えた額をその者の相続分とすることによって、その者に相続財産のうちから相当額の財産を取得させ、共同相続人間の公平を図る制度になります。

少し難しいため、例を使ってご説明いたします。

被相続人:A、相続人:BとC(それぞれ法定相続分は2分の1)

  • 被相続人:A、相続人:BとC(それぞれ法定相続分は2分の1)
  • Aの相続発生時の財産:現金1000万円
  • 寄与分:Bは、生前、施設入所資金として500万円をAに援助した。

B、Cのそれぞれが、Aの相続で取得する法定相続分の計算

(B、Cのそれぞれが、Aの相続で取得する法定相続分の計算)

  • ①相続人Cの相続分
    現金1000万円―寄与分500万円=500万円(みなし相続財産)
    500万円(みなし相続財産)×1/2(法定相続分)=250万円…Cの相続分
  • ②寄与者Bの相続分
    500万円(みなし相続財産)×1/2(法定相続分)+寄与分500万円=750万円…Bの相続分

以上より、Aの相続財産1000万円は、
Bが750万円、Cが250万円を取得することになります。

寄与分が認められる要件は、ⅰ:相続人による寄与があること、ⅱ:当該寄与行為が「特別の寄与」であること、ⅲ:被相続人の遺産の維持又は増加に寄与したことになります。

また、寄与に該当する行為の主な態様は、ⅰ:療養看護型、ⅱ:金銭出資型、ⅲ:家業従事型になります。
より簡単に表現しますと、ⅰ:被相続人の介護等をした相続人に対する寄与分、ⅱ:被相続人のために金銭を出資した相続人に対する寄与分、ⅲ:被相続人の事業を無償又は低い給与で手伝った相続人に対する寄与分となります。

以下ⅰ~ⅲの具体的な態様やどのように寄与分を獲得していくのかについて、詳しくみていきます。

介護をした相続人の「寄与分」は?

被相続人の介護をした相続人には、「寄与分」が認められる場合があります。
ただし、寄与分が認められるためには、「特別の寄与」が必要なため、単に同居をしていて家事の援助をしている場合や被相続人が入所している施設にお見舞いに行くのみでは、相続人として通常期待される程度を超える貢献とは言えず、寄与分が認められないことが多いです。

「寄与分」を獲得するには、被相続人の日常生活に支援が必要な状況(「療養看護」が必要な状態)であり、相続人が無償(又は有償でも非常に低い報酬)で療養看護を行っていたこと、相続人の療養看護により、被相続人の財産が維持又は増加したことを主張・立証する必要があります(具体的な主張方法は、後述の「寄与分」を獲得するための手順・方法)をご参照ください。

具体的には、被相続人の診断書/カルテ/要介護認定資料、相続人の日記、当時の被相続人の写真、被相続人の財産の家計簿、相続人の介護している状況を見ていた第三者の証言等の資料により、「寄与分」を主張していきます。

この場合の「寄与分」は、報酬相当額(日当)に看護日数を乗じ、裁量割合を乗じて算定することが一般的です。
報酬相当額は、介護保険における「介護報酬基準」を基準とすることが多いですが、具体的にどのような療養看護行為を行ったかによって決まります。
裁量割合は、相続人は、看護や介護の資格を有している者ではないことと第三者ではなく親族であることを考慮され、0.5~0.8程度とされることが多いです。

被相続人のために出費をしたり、事業を手伝った相続人の「寄与分」は?

被相続人のために出費をしたり、事業を手伝った相続人の「寄与分」は?

被相続人の生活や事業のために、金銭等の出資をした相続人にも、当該出資が通常期待される程度を超えるものであれば「寄与分」が認められます。
最近ですと、被相続人の自宅のリフォーム代を援助したり、施設入所費用を負担した場合等が多いです。

この場合の「寄与分」は、出資した財産の相続開始時における価額に裁量割合を乗じて算定することが一般的です。
裁量割合は、被相続人と相続人の身分関係や出資した財産の種類、価額等の事情を考慮して、個別の事案ごとに判断されます。

被相続人の事業に関する労務の提供をした相続人についても、当該労務の提供が「特別の寄与」と認められ、他の要件をみたす場合には、「寄与分」が認められます。

この場合の「寄与分」は、寄与をした相続人が通常得られたであろう給与額から生活費相当額を控除し、それに寄与をした期間を乗じることによって算定いたします。

「寄与分」を獲得するための手順・方法

それでは、どうやって「寄与分」を獲得していけばいいのでしょうか。
まずは、相続人間の話合いにおいて、寄与行為があったことと寄与分としての金額を主張します。
相続人全員が、寄与行為及び寄与分としての金額を認めた場合は、当該金額を寄与をした相続人に取得させるように、遺産分割協議書を作成します。

相続人間の話合いでは、寄与行為や寄与分としての金額が決まらない場合は、弁護士を代理人とするなどして、寄与行為及び寄与分としての金額を主張・立証していきます。
また、交渉で解決できない場合は、家庭裁判所にて、寄与分の有無・金額を判断してもらいます。

家庭裁判所にて遺産分割調停が申し立てられている場合は、当該調停内で寄与分を主張することも可能ですが、他の相続人が寄与分を認めない場合は、家庭裁判所に対し、寄与分を定める処分調停・審判を申し立てます。

家庭裁判所で、「寄与分」が認められるためには、証拠となる資料が必要となるため、証拠となる資料を収集し、裁判所に提出すると良いでしょう。

寄与分を獲得したい場合は、裁判所の手続を用いることも見据えて、相続案件の経験が豊富な弁護士に早めに相談することをお勧めいたします。

相続人の配偶者や被相続人の甥・姪などによる「寄与分」は?

相続人の配偶者や被相続人の甥・姪などによる「寄与分」は?

相続人の配偶者や被相続人の甥・姪が、上述のような「寄与行為」を行った場合は、「寄与分」を獲得することができるのでしょうか。

相続人の配偶者や被相続人の甥・姪は、被相続人の相続人ではないため、原則として、「寄与分」を獲得することができません。
しかし、例外的に、①相続人の行為と同視できる場合、②「特別の寄与」と認められる場合は、「寄与分」を獲得することが可能となります。

①相続人の行為と同視できる場合

例えば、被相続人の療養看護を相続人の配偶者が行っていた場合、当該配偶者の行為を相続人の行為と同視した上で、「寄与分」を獲得することができる場合があります。
この場合は、当該配偶者ではなく、当該相続人が「寄与分」を獲得することとなります。

②「特別の寄与」と認められる場合

2019年7月1日の相続法改正により、相続人以外の親族にも「特別の寄与」が認められる場合には、「特別寄与料」が認められることとなりました。
この「特別の寄与」は、療養看護その他の労務の提供をしたことにより認められるものとなりますので、上述の「金銭出資型」は主張できないものとなります。

また、通常の「寄与分」と異なり、相続人との話合いで特別の寄与及び特別寄与料が決まらない場合は、相続の開始及び相続人を知った時から6カ月以内又は相続開始の時から1年以内のいずれか早い日までに、家庭裁判所に対し、協議に代わる処分を請求しなければならないとされています。

この「特別の寄与」は、2019年にできた新しい制度ですし、相続人の「寄与分」と同様、資料の収集や証拠の提供等が必要となりますので、主張をしたい方は、弁護士に相談されることを強くお勧めいたします。

まとめ

以上のとおり、寄与分を獲得するためには、資料の収集や証拠の提出が必要になりますので、早い段階で、「寄与分」を獲得するための準備をして、被相続人の財産の維持や増加に貢献したところは、しっかりと「寄与分」として主張するようにしましょう。

また、療養看護型の「寄与分」は、立証が難しいことも多いです。
なるべく早く弁護士等に相談をして、生前の対策をとることができるのであれば、療養看護を行う相続人に寄与分相当の金額を取得させるよう、遺言書を作成すること等も検討しましょう。

記事を監修した弁護士
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