コラム
公開 2021.03.03 更新 2022.01.13

弁護士が解説!生前贈与された不動産の評価方法

被相続人から生前に不動産の贈与を受けた場合、特別受益の問題や遺留分の問題、または贈与税(相続税)の問題など、様々な場面で不動産の「評価額」を算定する必要が出てきます。しかし、一口に「評価額」とはいっても、路線価や固定資産税評価額など様々あるため、「どれを基礎として評価額を算定すればいいのかよくわからない!」と困ってしまう方も少なくないのではないでしょうか。今回は生前贈与された不動産の評価方法について詳しく解説します。ポイントは、法律上と税制上で評価方法が異なることです。

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1.生前贈与された不動産の評価方法が問題となる場面

被相続人から生前に不動産の贈与を受けた場合に、不動産の評価方法が問題となる場面としては、①遺産分割時に「特別受益」の持ち戻し計算をする場合、②「遺留分侵害」が問題となる場合、③贈与税(相続税)を計算する場合などが考えられます。

1-1.特別受益の持ち戻し計算をする

相続人の中に(婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として)不動産の生前贈与を受けた者がいる場合には、他の相続人との公平を図るため、当該贈与を「相続分の前渡し」とみて相続財産に持戻して各々の相続分を算定することになります(いわゆる「特別受益」の問題です)。

特別受益の持戻し計算を行うためには、贈与された不動産が「いくらの価値を有しているのか」を評価しなければなりません。

1-2.遺留分侵害額請求をする

法定相続人は、遺産の一定の割合については必ず相続できるよう法律上保障されています(保障された相続分を「遺留分」といいます)。一部の相続人が生前に不動産の贈与を受けた結果、他の相続人が受け取れる遺産がほとんど残っていないような場合には、他の相続人は「遺留分」を侵害されたとして、生前贈与を受けた相続人に対して侵害された遺留分に相当する金額を請求することができます。
このとき侵害された遺留分額を計算するために、贈与された不動産が「いくらの価値を有しているのか」を評価する必要があります。

1-3.贈与税や相続税を計算する

不動産を生前贈与すると、基本的に「贈与税」が発生します。
また、相続開始前3年以内に贈与された財産については相続財産に加算され、「相続税」の課税対象になります。
これらの税金を計算するときにも、やはり不動産が「いくらの価値を有しているのか」を評価しなければなりません。

このように不動産の評価額は様々な場面で問題となってきます。
それではそれぞれの場面について、どのように不動産を評価すればいいのか、その評価方法について引き続きご説明いたします。

2.特別受益を算定するときの不動産評価方法

特別受益を算定するときの不動産評価方法

まずは特別受益を算定するときの不動産評価方法をみてみましょう。

2-1.不動産の評価方法

不動産の価値を指し示す公的指標としては、主に以下の4種類があります。

  • ・公示価格・・・土地産売買の目安となる価格(国土交通省が発表)
  • ・地価調査標準価格・・・土地売買の目安となる価格(都道府県が発表)
  • ・固定資産税評価額・・・地方自治体が固定資産税を計算するための不動産評価額
  • ・路線価・・・相続税や贈与税の基準となる土地価格(国税庁が発表)

上記4つの公的指標のほか「実勢価格」という表現を用いる場合がありますが、これは実際にその不動産を売買したときの市場価格を指します。

2-2.特別受益には「実勢価格」を適用

特別受益を計算するときには、原則として「実勢価格」を基準にします。不動産を実際に処分する場合には実勢価格によるので、相続人が得た利益を計算するには実勢価格で評価することが適切であると考えられているためです。もっとも、相続人全員が合意しているのであれば、実勢価格以外の方法で評価することも差し支えありません。

実勢価格の調べ方

実勢価格を調べたいときには、一般の不動産会社へ「簡易査定」を依頼してください。
実際に現地に来てもらわなくても、登記情報などを提供すれば無料でおよその価値を算出してもらえます。
不動産会社によって査定額が異なるケースが多いので、いくつかの会社へ依頼を出して平均値をとっても構いません。
簡易査定を依頼する以外にも、公示価格や固定資産税評価額、路線価をベースに実勢価格のおおよその金額を算定することができます。
上記いずれの方法で実勢価格を計算しても構いません。要は「相続人全員が納得する金額」を定めることが重要です。

2-3.評価基準時は「相続開始時」

不動産の場合、時々刻々と評価額が変動するので「いつの時点の評価額を用いるか」も問題となってきます。特に不動産の価値が大幅に増減した場合には、重要な問題となります。
この点、遺産分割の場合には「遺産分割時」の評価額を基準に考えるのが通常です。
ところが、特別受益の評価においては「相続開始時(=被相続人が死亡した日)」の評価額を用いるのが法律実務の通常となっています。
「遺産分割時」ではないので、注意しましょう。

2-4.具体例

たとえば生前贈与時に2,000万円、相続開始時に2,500万円、遺産分割時に2,700万円の不動産が生前贈与されたとしましょう。
この場合には相続開始時の時価である2,500万円を基準として評価します。

3.遺留分侵害額を算定するときの不動産評価方法

次に「遺留分侵害額請求」をするときの不動産評価方法をご説明します。

3-1.「実勢価格」を用いる

侵害された遺留分額を計算するときにも、「実勢価格」を用いるのが通常です。

3-2.評価基準時は「相続発生時」

評価基準時も特別受益のときと同様に「相続開始時」を基準に考えます。
「遺留分侵害額請求をした時点」ではないので、注意しましょう。

3-3.具体例

生前贈与時の時価が3,000万円、相続開始時の時価が2,800万円、遺留分侵害額請求時の時価が3,200万円だったとしましょう。
この場合、不動産の評価額は基本的に2,800万円となります。

4.贈与税や相続税を算定するときの不動産評価方法

贈与税や相続税を算定するときの不動産評価方法

贈与税や相続税を計算するときの不動産評価方法は、特別受益や遺留分の計算時とは大きく異なります。

4-1.土地は路線価

税制上の評価方法は、土地と建物で異なります。
土地の場合には基本的に「路線価」を適用します。

路線価の金額は、実勢価格の8割程度となるケースが多数です。

路線価が設定されていない場所

田舎や田畑、山林などの場合「路線価」が設定されていない場所もあります。
そういったケースでは「評価倍率方式」という方法で土地価格を算定します。
評価倍率方式とは、土地の「固定資産税評価額」に「評価倍率」という一定の数字をかけ算して土地の評価額を求める方法のことです。

たとえば固定資産税評価額が100万円、評価倍率が1.2の場所であれば、土地の評価額は「100万円×1.2=120万円」となります。

路線価、評価倍率の調べ方

全国の路線価や評価倍率は、こちらの国税庁のサイトから確認できます。
該当する年度を選択して調べてみてください。

4-2.建物は固定資産税評価額

建物の場合には「固定資産税評価額」を基準として用います。

固定資産税評価額の場合、実勢価額の7割程度となる例が多数です。

固定資産評価額の調べ方

毎年自治体から送られてくる「固定資産税の納付書」などに固定資産評価額が書いてあります。
手元に納付書がない場合には各地方自治体へ申請することで「固定資産評価証明書」という書類を入手することが可能です。

4-3.評価基準時は相続開始時

贈与税や相続税を計算するときの評価基準時は基本的に「財産取得時」です。相続であれば相続開始時に財産を取得するため「相続開始時」が基準となります。
贈与税や相続税の申告が遅れる場合でも財産取得時の路線価や固定資産税評価額を適用しましょう。

5.場面ごとに評価方法が異なるので要注意

以上のように、生前贈与されたときの不動産評価方法は「特別受益の額や遺留分侵害額を計算する場合」と「贈与税や相続税を計算する場合」とで大きく異なります。
間違えるとトラブルのもとになるので、正しい評価方法を適用しましょう。

まとめ

不動産が生前贈与された場合、特別受益や遺留分侵害額を計算するなら「相続開始時」の「実勢価格」を基準とします。
一方、贈与税や相続税の評価の際には「財産取得時」の「路線価」や「固定資産税評価額」を適用します。

このように不動産の評価方法は状況によって異なります。
自信がないときには、弁護士や税理士に相談しながら進めると良いでしょう。
生前贈与された不動産があって評価方法がわからない場合には、お早めにオーセンスの弁護士までご相談ください。

記事を監修した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
大阪大学法学部法学科卒業、神戸大学大学院法学研究科実務法律専攻修了。企業法務としては、債権回収、労働問題(使用者側)、倒産を中心に、個人法務としては、相続、過払金返還、個人破産、発信者情報開示などの解決実績を持つ。
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