コラム
公開 2020.10.05 更新 2022.03.14

成年後見の申立は本人でもできる?

認知症などの影響で判断能力が欠けてしまったら、家庭裁判所で「成年後見開始審判の申立」をして成年後見人を選任してもらう必要があります。法律上は、本人も申立をすることが可能となっていますが、判断能力に問題のある本人が、適切に申立てを行うことが可能でしょうか。

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1.成年後見制度には3種類がある

成年後見制度とは、本人の判断能力が低下して財産管理などが難しくなったときに、後見人等を選任して財産管理や身上監護を任せる制度です。
家庭裁判所で後見人等が選任されると、本人の財産を預かって管理したり、本人の行う法律行為を代理したり取り消したりします。成年後見制度は、適切な後見人等が、本人の財産管理や身上監護を行うことにより、本人を保護・支援するための制度です。

成年後見制度には、以下の3種類があります。

1-1.成年後見人

成年後見人は、判断能力が欠けているのが通常の状態になった場合に選任される後見人です。
法律的には「事理を弁識する能力を欠く常況にある場合」になれば、後見人が必要と判断されます。事理弁識能力とは、自己の行為の結果について合意理的な判断をする能力です。

1-2.保佐人

保佐人は、本人の事理弁識能力が著しく不十分な場合に選任されます。
判断能力が完全には失われていないけれど、一定の重要な法律行為について自分一人ではこれを適切に行うことができず、つねに他人の援助を受ける必要がある状態です。保佐人は、一定の重要な法律行為について「同意権」や「取消権」を行使し、本人の利益を守ります。

1-3.補助人

補助人は、本人の事理弁識能力が不十分な場合に選任されます。家庭裁判所で定めた特定の行為についてのみ、同意権と取消権を有します。

本人の判断能力低下の程度に応じて上記の3種類のいずれかの者が選任されます。本人の判断能力低下の程度に応じて、どの制度の利用が必要なのか、検討することが必要です。

2.本人も成年後見の申立ができる

成年後見制度を利用する必要がある本人は、通常判断能力が低下しています。そうであれば、自分で後見人選任の申立をするのは難しく、申立の権限が認められないのではないでしょうか?

実は法律は「本人」による後見人選任の申し立て(後見開始審判申し立て)を認めています(民法7条)。後見開始審判とは、後見人を選任して財産管理や身上監護を開始する決定です。判断能力低下の程度が軽度な補助人だけではなく、保佐人や成年後見人でも本人による申立が可能です。

民法により、後見開始審判の申立権が認められるのは以下の人です(民法7条)。

  • ・ 本人
  • ・ 配偶者
  • ・ 4親等内の親族
  • ・ 未成年後見人、未成年後見監督人
  • ・ 保佐人、保佐監督人
  • ・ 補助人、補助監督人
  • ・ 検察官

申立をする親族がおらず、本人に申立をするだけの判断能力が残っていない場合、一定の条件を満たせば市町村長も申立が可能です。
このように、条文上は本人にも申立ができるとされています。ただし、あくまで意思能力を回復していることが前提ですので、意思能力のない本人は申立てを行うことはできませんので、ご注意ください。

3.本人申立の注意点

法律上、本人による申立が認められているとしても、以下のような問題があるので注意してください。

3-1.申立をするだけの判断能力がない場合

認知症などが進行すると、本人が成年後見制度の意味を理解できず、申立をするだけの判断能力を失ってしまうケースも考えられます。そうなったら、もはや自分での申立はできません。

一般的に「保佐人」「補助人」が必要な状態であれば、本人による申立が問題視される可能性は低いと考えられます。
一方、「成年後見人」選任の申立の場合には、「判断能力が常に欠けている状態」なので、本人の意思をどこまで尊重できるのか問題視されるケースがあるでしょう。

3-2.専門家に依頼しないと対応が難しい

後見開始審判の申立は、必ず専門家に依頼しなければならないものではありません。親族が、専門家の手を借りずに申立をするケースも多々あります。
ただご本人が申立をする場合には、専門家への依頼は十分に検討した方がよいでしょう。家庭裁判所への申立には、さまざまな資料集めや書類作成が必要とされるので、対応が困難なことが想定されます。
ご本人が補助人や保佐人、後見人をつけたい場合、弁護士や司法書士などの専門家に相談しましょう。

4.補助人の場合「本人の同意」が必要

判断能力低下の程度が軽い「補助人」の選任の請求を本人以外がするには、必ず「本人の同意」が必要です。
補助人を必要とする人は、まだまだ自分で身の回りのことを決定できる能力を残しています。親族などが、本人の意思に反して勝手に補助人に就任して本人の利益を害するというようなことのないよう、本人の同意を要件としているのです。

5.任意後見について

判断能力が完全に残っているうちは、法定の成年後見制度は必要がなく、利用することはできません。
そうはいっても、現在や将来の財産管理に不安を感じる方も少なくないかと思います。「オレオレ詐欺」のニュースを聞くたびに、漠然と不安を感じる方もいらっしゃるのではないでしょうか。

もしも判断能力がしっかりしている状態で、判断能力が低下した後のことを対策しておきたい場合には、「任意後見契約制度」がお勧めです。
任意後見契約制度とは、本人の判断能力がしているうちに、信頼できる相手(将来の後見人)を選び、将来の財産管理や身上監護を依頼しておくという制度です。
任意後見契約制度であれば、任意後見人に与える権限の内容を事前に決めておけます。たとえば入所したい介護施設を決めておいたり、財産の処分方法や使い方を指定したりできます。
万が一の場合に、本人の希望することを実現するための備えになります。

例えば、弁護士と任意後見契約を締結しておけば、将来認知症等になり、いよいよ財産管理が厳しくなったとき、弁護士が任意後見人として財産管理や身上監護を行います。

「今はまだ大丈夫だけど、将来が不安」「今のうちから対策しておきたい」という方は、ぜひ任意後見制度の利用を検討してみてください。任意後見契約は、公正証書で作成しなければならないなど、注意点もありますので、気になった方は是非、弁護士などの専門家にご相談してみてください。

まとめ

「自分には財産管理をする人が必要ではないか?」「将来認知症になった場合、漠然と不安だ」など、様々な悩みや不安をお持ちの方もいらっしゃるかと思います。
弁護士が、お客様個人の状況に応じて、状況に合った最適なアドバイスをいたします。一度お気軽にご相談ください。

記事を監修した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(大阪弁護士会)
同志社大学法学部法律学科卒業、立命館大学法科大学院修了。離婚、相続問題を中心に、一般民事から企業法務まで幅広い分野を取り扱う。なかでも遺産分割協議や遺言書作成などの相続案件を得意とする。
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