コラム
公開 2016.09.01 更新 2021.10.04

親が認知症に…相続前に活用したい成年後見制度とは

ますます進行する高齢化社会で、認知症を患うお年寄りは増え続けています。
そこで浮上してくるのが「親が認知症を患った場合、相続に向けた財産の扱いをどうするか」という問題です。

こうした場合には家庭裁判所の選任を受けた「成年後見人」を立てることで、さまざまな手続きを進めることができます。

オペレーターが弁護士との
ご相談日程を調整いたします。

成年後見制度とは何か

認知症の患者数は増え続ける一方です。
また、それと歩調を合わせるように、医療や介護の現場ではさまざまな工夫と努力が払われています。

法の上でも、認知症の方にも関係する法整備が、少しずつですが進められてきました。
その中のひとつに、改正された「成年後見制度」があります。

ものごとの判断能力が著しく衰えている、あるいは欠いてしまった人の財産管理を可能にする法律は、禁治産制度という名で明治時代からありました。
ですが当時の制度は判断能力が衰えている人から財産の管理権を一方的に奪ってしまうという点で、高齢者にとっては非常に使い勝手が悪く、現代社会に対応しきれていない部分があることが指摘されていました。

そのために制度が見直され、平成12年に新しく「成年後見制度」がスタートしたのです。

この制度は、精神障害や認知症などによって財産の管理など法律行為をするための判断能力(法律上は行為能力といいます)が減退あるいは欠如している人について、裁判所が「成年後見人」を選任し、後見人の行為によって財産の管理や各種の手続き、契約等を可能にさせるというものです。

また、将来のために後見人を仮に選んでおくということもできます。
「今はまだ元気だけれど、呆けてしまった時に備えて、今のうちに後見人を選んでおこう」というわけです。

この場合には、のちのち自分の後見人となる人物と委任契約を結んでおき、将来、行為能力が亡くなった時点で、契約の効力が発生するという仕組みになります。

成年後見人を立てれば、財産分割の手続きもスムーズ

親が認知症になってしまった。
こんなとき、将来的にやってくるであろう遺産相続について、どのような手続きで進めればよいのかが問題になります。

生前に遺産分割についての話し合いをしようにも、当の親が認知症で判断能力が落ちてしまっていては、話し合いにもなりませんし、分割協議自体の効力が失われてしまいます。

ですが成年後見人制度を利用すれば、後見人が親の代理人となりますので、相続人間との話し合いや各種の手続きを進めることができるのです。
もちろん代理人は本人に代わり法律行為をする権限をもっているとはいえ、あくまで本人のために行動する立場ですから、本人を害し、代理人に有利になるような恣意的な行動は許されません。

認知症を患ってしまうと、法律上本人にできることは限られてしまいます。そのため、この制度は高齢の親御さんを持つ方にとっては非常に役に立つものといえるでしょう。

なお、本人が亡くなってしまえば、後見制度は終了します。そして生前本人が有していた権利義務関係は相続人に引き継がれることとなりますので、死後の財産管理については別途遺言などの手続きが必要な点に注意が必要です。

認知症でも遺言を残すことはできるか

民法では遺言をする者の条件として「遺言者は、遺言をする時においてその能力を有しなければならない」という、実にシンプルな規定を掲げています。
遺言者に遺言能力がなければその遺言は無効となるため、裁判上は、遺言者が遺言をした時に、この能力を有していたかどうかが争われるわけです。

認知症だった親が亡くなり、その後に遺言状が出てきたとしても、それが書かれた時点でどの程度の判断能力があったのか、それを明らかにすることは簡単ではありません。

ひとくちに認知症といっても、その症状の程度や現れ方にはかなりの差があります。
そのため、裁判にまで発展した場合には、病院のカルテや介護記録など、集められた多くの資料を参照しながら厳密な判断が下されます。

一方、成年被後見人であっても、一時的に「事理を弁識する能力」を回復した時には遺言をすることができ、その際には「医師二人以上の立ち会いがなければならない」という規定があります。

つまり、認知症とはいいながらも、時々健常な状態に戻る…いわゆる「まだらボケ」のような状態であれば、成年後見人を付けるとともに、医師の立ち会いのもとで遺言を残すことが法的には可能です。

ですが、そうした状況になる前に手を打っておけるならば、それが一番です。
認知症というものはなかなか自覚しにくいものですが、高齢者の方が「遺言を残しておきたい」と思い立ったら、判断能力について医師の診断を受けることも考えておくと良いでしょう。

診断書をもらっておけば、遺言能力を確認する客観的な証拠になりますし、その上で公正証書遺言を作成しておけば安心です。
公正証書遺言は、公証役場で公証人が記述し、さらに証人2人以上の立ち会いのもとで作成される遺言ですので、のちのちトラブルになることも少なく、信頼度の高い遺言といえます。

認知症になってしまうと多くの契約や手続きができなくなります。
また前述のとおり、遺言を残しておいたとしても、それが書かれたときに果たしてきちんと遺言能力を持っていたのかどうかが問題になります。そうしたことを考えると、判断能力が落ちる前に対処しておくことが非常に重要だといえるでしょう。

記事を監修した弁護士
authense
Authense法律事務所記事監修チーム
Authense法律事務所の弁護士が監修、法律問題や事例についてわかりやすく解説しています。Authense法律事務所は、「すべての依頼者に最良のサービスを」をミッションとして、ご依頼者の期待を超える弁護士サービスを追求いたします。どうぞお気軽にご相談ください。
<メディア関係者の方>取材等に関するお問合せはこちら

オペレーターが弁護士との
ご相談日程を調整いたします。

こんな記事も読まれています

コンテンツ

オペレーターが弁護士との
ご相談日程を調整いたします。