コラム

公開 2022.07.05

賃貸で瑕疵物件となった場合にオーナーが取るべき対応とは?

賃貸で瑕疵物件となった場合にオーナーが取るべき対応とは?

瑕疵物件の類型を紹介するとともに、瑕疵物件となった場合の対応方法などをわかりやすく解説します。
賃貸物件が瑕疵物件となると、賃料の下落などのリスクが生じます。
中でも、入居者の自殺など心的瑕疵物件への対応は、賃貸物件オーナーにとって悩みとなる問題でしょう。

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賃貸における瑕疵物件の4類型

賃貸物件がいわゆる「瑕疵物件」となってしまうと、次の入居者募集に際しての障害となる可能性があります。
「瑕疵物件」に明確な定義はありませんが、一般的には、何らかの問題や障害がある物件を指す場合が多いでしょう。

瑕疵物件は、瑕疵の種類によって主に次の4つに分類されます。

物理的瑕疵物件

物理的瑕疵物件とは、賃貸物件である建物自体やその敷地である土地自体に何らかの問題があるものを指します。

たとえば、次のような物件がこれに該当します。

  • 地盤沈下が起きて建物が傾いている
  • 土地が有害物質により汚染されている
  • 耐震強度が不足している
  • 雨漏りや水漏れが起きている
  • 外壁がひび割れている
  • 給排水管が詰まったり故障したりしている
  • シロアリの被害に遭っている
  • 建材にアスベストが使用されている

物件に物理的瑕疵が生じている場合には、相場どおりの賃料で賃貸することは困難でしょう。

問題を放置するとさらに被害が拡大しさらに入居者の募集が困難となるおそれがありますので、修繕をするなど早期の対応が不可欠です。

法的瑕疵物件

法的瑕疵物件とは、何らかの法的な不備を抱えている物件のことです。
たとえば、次のような物件がこれに該当すると考えられます。

  • 建築基準法に違反している:建築確認を行うことなく違法な増改築を行った物件など
  • 消防法に違反している:消防法で必要とされるスプリンクラーなどの設備を備えていない物件

仮に違法状態のままで物件を賃貸に供していた場合、地震による倒壊や火災による死傷事故などが起きてしまうと賃貸物件オーナーの責任が問われる可能性があります。

そのため、これらの瑕疵がある場合には、早期の改善が必要です。

心理的瑕疵物件

心理的瑕疵物件とは、何らかの事件や事故が起きたことにより、心理的に嫌忌されがちとなってしまった物件を指します。

何を忌み嫌うのかは人によって異なるため一概にいえるものではありませんが、一般的には次のようなものがこれに該当する可能性が高いといえます。

  • 自殺や他殺のあった物件
  • 室内で人が死亡してから発見までに時間を要した物件
  • 多くの人が知る事件の舞台となった物件

心理的瑕疵物件については、賃貸物件オーナー側には責任がない場合が大半です。
しかし、心理的瑕疵物件であると入居候補者が判断すれば賃料の下落は避けられず、賃貸物件オーナーにとって特に悩みとなる問題の一つでしょう。

心理的瑕疵物件の告知義務については、後ほど詳しく解説します。

環境的瑕疵物件

環境的瑕疵物件とは、多くの人が嫌悪する施設が近くにある物件です。
たとえば、次のような施設が嫌悪対象となることが多いでしょう。

  • 墓地や火葬場、葬儀場
  • 下水処理施設
  • 刑務所
  • 暴力団事務所
  • ガスタンクや原子力発電所
  • 風俗営業店や遊技施設

物件取得時には、周囲にこれらの施設がないかどうかを確認することが多いことでしょう。
しかし、物件取得時にはなかったこれらの施設が、後から出現してしまう可能性は否定できません。

これらすべての施設を避けることは困難ですが、たとえば遊技施設や風俗営業店などは建築してはならない地域が法令で定められています。
そのため、どうしても避けたい施設がある場合には、その施設が建つ可能性が低い地域で物件を取得することを検討するとよいでしょう。

心理的瑕疵物件であることは賃貸契約時に告知義務がある?

心理的瑕疵物件であることは賃貸契約時に告知義務がある?
所有している賃貸物件内で人が亡くなるなどして心理的瑕疵物件となってしまった場合、次の入居者候補者に告知する義務はあるのでしょうか?

従来は、この告知義務が比較的広く解釈されており、その場で人が亡くなった物件であれば、原則として告知が必要であると捉えられてきました。
しかし、特に事件性がない死亡についてまで告知義務が生じるとなれば、高齢者の入居が賃貸物件オーナーから避けられてしまい、住まい選びの障害となってしまう問題があります。

そこで、「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」が、令和3年10月に国土交通省の不動産・建設経済局、不動産業課より公表されました。

このガイドラインでは、宅建業者が告知すべき死と必ずしも告知を要しない死が、次のように整理されています。

自然死や日常生活での不慮の死は原則として告知不要

ガイドラインによれば、老衰や持病によるものなどいわゆる自然死については、原則として告知義務がないこととされました。
また、事故死に相当するものであったとしても、自宅の階段からの転落や入浴中の溺死、転倒事故、食事中の誤嚥など、日常生活の中で生じた不慮の事故によるものも原則として告知義務がないとされています。

人が生活をする以上、これらの死は日常生活の中で当然に予想されるものであり、さほど特別の事情によるものではないと考えられるためです。

特殊清掃がおこなわれた場合は3年間告知義務あり

たとえ自然死や日常生活による不慮の死であったとしても、特殊清掃などの対象となった場合には、死の発覚後おおむね3年間は告知義務があるとされています。

特殊清掃とは、死亡から長期間発見されなかったなどの理由から汚れが床や壁に付着していたり、害虫が発生していたりする部屋に必要となる特別な清掃です。

自然死や日常生活での不慮の死以外の死は3年間告知義務あり

自殺による死や事件による死など、自然死や日常生活での不慮の死以外の死亡があった場合には、その後3年間は告知義務があるとされています。

これらの死は、その物件で今後生活することとなる入居者にとって、入居を決めるかどうかの大きな判断材料となる可能性が高いためです。

これらの死であっても、死亡からおおむね3年間を経過した後は告知義務がありません。
ただし、事件性や周知性、社会に与えた影響などが特に高い事案については3年という期間のみで区切るのではなく、個別事案に応じた判断や対応が必要です。

隣接住戸などでの死は原則として告知不要

たとえ特殊清掃が行われた死や事件性のある死であったとしても、賃貸の対象となる住戸そのものではなく隣接住戸で起きたものである場合や、入居者が日常生活において通常使用しない集合住宅の共用部分で起きたものである場合には、原則として告知義務はありません。

ただし、事件性や周知性、社会に与えた影響などが特に高い事案については、個別事案に応じた判断や対応が必要とされます。

告知不要とされた賃貸物件の心理的瑕疵でも告知すべきケース

上で整理とした告知義務の有無は、あくまでも原則的な場合です。

上の例で告知不要とされたものであっても、次の場合には告知する必要があります。

借主から質問された場合

たとえ告知不要とされた内容であったとしても、入居希望者からその物件での人の死の有無などを問われた場合には、宅建業者は入居者に対して知っている情報を告げなければなりません。

ただし、賃貸物件オーナーが宅建業者に対して無回答である場合や不明であると回答した場合には、宅建業者はその回答を入居候補者に告げればよいこととなっています。

そうであるとはいえ、賃貸物件オーナーは実際には死亡事案を知っているにもかかわらず死亡事案は無いと嘘をついたり、無理に隠したりすることは避けましょう。

嘘を信じて入居をした入居者がのちに死亡事案があった事実を知った際に、トラブルの原因となる可能性があるためです。

社会的影響の大きさなど特段の事情がある場合

借主から特に質問をされなかったとしても、社会的影響の大きさから入居者が把握しておくべき特段の事情があると宅建業者が認識した場合などには、告知をする必要があります。

この場合も、賃貸物件オーナーが宅建業者に対して無回答である場合や不明であると回答した場合には宅建業者はその回答を入居候補者に告げればよいこととなっていますが、上記の場合と同様、無理に隠したり嘘をついたりすることは避けましょう。

瑕疵物件になってしまった賃貸物件への対応策

所有する物件が瑕疵物件になってしまった場合、物件オーナーはその物件に対してどのような対応を取ればよいのでしょうか?
3つの対応策と、1つの予防策を紹介します。

家賃を下げる

瑕疵物件となってしまった場合には、相場どおりの賃料では入居者が集まらない可能性が高いでしょう。
そのため、一時的に家賃を下げるなどの対応が必要となります。

リフォームをする

設備や建物自体に瑕疵がある場合には、修繕やリフォームにより瑕疵が消滅することで、通常どおりの賃貸が可能となります。
修繕やリフォームには費用はかかるものの、長期的に見れば入居者募集への障害がなくなりプラスとなる可能性があるため、総合的に判断をするとよいでしょう。

また、心理的瑕疵物件となってしまった場合や環境的瑕疵物件である場合であっても、リフォームによりおしゃれな内装としたりコンセプトを打ち出したりすることで、瑕疵への嫌忌よりも内装のおしゃれさや自身に合うコンセプトを重視する層を呼び込むことができる可能性が高くなります。

ただし、この戦略が成功するかどうかはその物件のある地域の地域性などに左右される可能性が高いため、専門のコンサルタントやデザイナーなどに相談するとよいでしょう。

遺族に損害賠償請求をする

入居者の自殺により心理的瑕疵物件となってしまった場合には、遺族に対して損害賠償請求ができる可能性があります。
請求できる内容は、特殊清掃など物件の原状回復に要した費用のほか、一定期間の賃料が下落することによる逸失利益相当分となる場合が多いでしょう。

請求の可否や請求できる金額は個別事案によって異なりますので、心理的瑕疵物件となってお困りの際には、早期に弁護士へ相談するようにしてください。

保険を活用する

事前にできる心理的瑕疵物件への対策として、保険の活用が挙げられます。

保険会社によっては、賃貸住宅内で死亡事故が起きたことなどにより入居者を入れることができない空室期間や家賃を下げる必要が生じた場合に、家賃の損失を補償してくれる商品を取り扱っている場合があります。

補償内容や保険料などは保険会社によって異なりますので、損害保険会社へ相談してみるとよいでしょう。

瑕疵のある賃貸物件に関してトラブルにならないための対策

心理的瑕疵物件であることは賃貸契約時に告知義務がある?
所有する賃貸用物件が瑕疵物件となってしまった場合、後のトラブルを防ぐにはどのような対策を取るべきなのでしょうか?
最後に、トラブルを未然に防ぐためのポイントを3つ解説します。

物件についての情報を正しく告知する

告知すべき瑕疵は、すべて入居前にきちんと告知しましょう。
また、人の死など入居者が特に気にしている内容については、たとえ国土交通省のガイドライン上では告知義務がないとされるものであっても、きちんと告知することをおすすめします。

隠していればバレないと考えるかもしれませんが、住んでいるうちに近隣の情報などから事実を知る可能性は決して低くありません。

特に、入居者が気にしている内容であれば、隠して契約した場合は大きなトラブルに発展する可能性があります。
内容によっては、賃貸物件オーナーに対して損害賠償請求がなされる可能性もあるでしょう。

法律やガイドラインを遵守すべきことは大前提として、入居者に対し誠実な対応をすることがトラブルを防ぐ大きなポイントです。

設備の瑕疵などは契約書に明記する

設備が故障しているなど物件に物理的な瑕疵がある場合には、きちんとその旨を告知したうえで契約書に明記しておきましょう。
アスベストなど、入居者が一見してわからない内容であったとしても、健康被害が生じれば大きなトラブルとなってしまいかねません。

相談できる弁護士を探しておく

トラブルに発展してしまった場合やトラブルに発展しそうな事態が生じた場合には、早期の対応がカギとなります。

しかし、すぐに弁護士を探そうにも弁護士の得意分野は事務所によって異なるうえ、自身と相性の合う弁護士は一朝一夕で探せるものでもありません。

そのため、いざというときに相談できる弁護士をあらかじめ探しておくとよいでしょう。

まとめ

所有する賃貸物件が心理的瑕疵物件となってしまうことは、賃貸物件オーナーにとって非常に悩ましい問題の一つでしょう。
国土交通省のガイドラインが告知すべきかどうかの重要な判断基準となりますので、一読しておくことをおすすめします。
また、後のトラブルを避けるためには、ガイドライン以上に誠実な対応を心掛けることが重要です。

Authense法律事務所には不動産法務に詳しい弁護士が多数在籍しており、瑕疵物件についての相談を数多くお受けしております。
瑕疵物件となってしまったなど賃貸物件についてお困りの際には、ぜひAuthense法律事務所までご相談ください。

Authense法律事務所の弁護士が、お役に立てること

所有している賃貸物件が瑕疵物件となってしまった場合に、どのような初期対応をとるかが非常に重要となります。
特に心理的瑕疵物件となった場合には、新しい入居者への告知や、相続人等への損害賠償請求など、対応すべきことが多くあります。
お困りになられた場合には、一度弊所までご相談ください。

記事を監修した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
第二東京弁護士会所属。大阪市立大学法学部卒業、大阪市立大学法科大学院法曹養成専攻修了(法務博士)。企業法務に注力し、スタートアップや新規事業の立ち上げにおいて法律上何が問題となりうるかの検証・法的アドバイスの提供など、企業 のサポートに精力的に取り組む。また、労働問題(使用者側)も取り扱うほか、不動産法務を軸とした相続案件などにも強い意欲を有する。
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