コラム

公開 2021.12.13

不動産を親子間で安く賃貸する場合の相続税や贈与税は?

不動産を親子間で安く賃貸する場合の相続税や贈与税は?

親子間における無償や低額での賃貸に関する所得税や贈与税、相続税それぞれの取り扱いをわかりやすく解説します。

マンションの1室などの不動産を親子間で無償や低額で賃貸した場合、税務上の取り扱いはどうなるのでしょうか?

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親名義のマンションに子が無償で住んでも良い?

たとえば、親がマンションなど複数の不動産を所有している場合に、
そのうちの1部屋に子などの親族が住んでいるケースは少なくないでしょう。
このような場合では、正規の賃料を支払っているほうが珍しく、
多くの場合は無償か、固定資産税相当額程度の低い賃料で賃貸しているものと思われます。

このような、無償や固定資産税相当程度の対価での賃貸を、「使用貸借」といいます。

子などの親族との間で不動産を使用貸借すること自体は、法律上何ら制限されるものではありません。
ただし、所得税や贈与税、相続税など税務上の取り扱いについては、確認しておいた方がよいでしょう。

不動産を親子間で無償で賃貸する場合の「所得税」への影響

はじめに、マンションの1部屋などの不動産を親子間で無償で賃貸している場合の、所得税への影響をみていきましょう。

所得税とは

所得税とは、毎年1月1日から12月31日までの「儲け」に対してかかる税金です。
1年間のすべての所得から制度上認められた一定の所得控除を差し引いた残りの課税所得に税率を適用し、税額を計算します。

所得税の計算上、所得の種類は「給与所得」や「事業所得」、「不動産所得」、「一時所得」など、
その所得の性質に応じて10種類に分類されており、それぞれその性質に応じて異なる計算方法が定められています。

不動産賃貸による収入は、このうち「不動産所得」に該当します。
不動産所得の計算方法は、次のとおりです。

  • 動産所得金額=総収入金額-必要経費

必要経費には、たとえば次のようなものが該当します。

  • 固定資産税
  • 損害保険料
  • 減価償却費
  • 修繕費

なお、総収入金額よりも必要経費が多くかかったことによりその年の不動産所得が赤字になった場合には、
その赤字金額は、他の所得の黒字から差し引くことが可能です。
これを、「損益通算」といいます。

ただし、不動産所得の金額の損失のうち、次に掲げる損失の金額は損益通算の対象とならないとされています。

  • 別荘などのように主として趣味や娯楽、保養、鑑賞の目的で所有する不動産の貸付けに係るもの
  • 不動産所得の金額の計算上、必要経費に算入した土地等を取得するために要した負債の利子に相当する部分の金額

こうしたものについてまで損益通算を認めてしまえば、
たとえば自分や家族が使うために買った別荘を年に数回程度のみ人に貸して不動産所得とすることで、
減価償却費や維持管理費などを経費とし、これを他の所得から差し引くなどの不当な課税逃れができてしまうためです。

無償での親子間賃貸は所得税には影響しない

子に無償や低額で不動産を賃貸した場合には、その不動産に係る不動産所得は赤字になることが多いでしょう。
そのため、親が不動産を購入してその不動産を子に通常よりもかなり安く賃貸することでわざと赤字を発生させ、
その赤字を他の所得と損益通算することで節税ができると考える方もいるかもしれません。

しかし、子など生計を同じくする親族へ不動産を貸した場合にかかった費用は「家事費」に該当するとされ、
原則として必要経費に算入することは認められません。
購入した不動産を無償で子に貸したからといって、節税になるわけではないと考えておきましょう。

一方、親から無償や低額で不動産を借りたからといって、子に所得税が発生することはありません。

なお、子がその借りた物件を自分の居住用ではなく事務所や店舗など事業をする目的で利用していた場合には、
親との生計が同一である以上、その親に支払った賃料は原則としてその事業の必要経費とすることができません。
その代わりに、親が支払った固定資産税や物件の減価償却費などを経費に算入できる場合があります。

このあたりは判断が難しい場合が多いため、個別の事情に応じて税理士などの専門家へ相談すると良いでしょう。

不動産を親子間で無償や低額で賃貸する場合の「贈与税」への影響

不動産を親子間で無償や低額で賃貸する場合の「贈与税」への影響

贈与税とは、お金やモノなど金銭的な価値があるものをもらった場合に、受け取った人が支払うべき税金です。
また、無償で受け取った場合のみならず、本来の価額よりも安い価額でモノを購入した場合などにも、
本来の価値と対価との差額に対して贈与税がかかる場合があります。

贈与税は、家族間のやり取りだからといって免除されるものではありません。
親子間での贈与あっても、原則として贈与税の対象となります。

それでは、マンションの1室などの不動産を親子間で無償賃貸した場合であっても、贈与税の対象になるのでしょうか?

無償や低額の利益供与は原則として贈与税の対象となる

贈与税は、お金やモノをもらったときにだけ課税されるわけではありません。
無償で利益の供与を受けた場合などにも、贈与税がかかります。

無償や低額での不動産賃貸は無償や低額での利益供与に該当すると考えられるため、原則として贈与税の対象になります。
このことは、次のように、相続税法基本通達にも明記されています。

  • 夫と妻、親と子、祖父母と孫等特殊の関係がある者相互間で、無利子の金銭の貸与等があった場合には、
    それが事実上贈与であるのにかかわらず貸与の形式をとったものであるかどうかについて念査を要するのであるが、
    これらの特殊関係のある者間において、無償又は無利子で土地、家屋、金銭等の貸与があった場合には、
    法第9条に規定する利益を受けた場合に該当するものとして取り扱うものとする。

まずは、無償や低額での不動産賃貸は贈与税の対象になり得るという原則を知っておいてください。

親子間の無償や低額での不動産賃貸は「課税上弊害がない」場合に該当する可能性がある

無償や低額での不動産賃貸は贈与税の対象になることが原則とはいえ、
実際に無償での賃貸を理由に贈与税を支払っているケースは、それほど多くないのではないでしょうか。

これは、上で紹介した相続税法基本通達の続きとして、次の一文があることによるものと考えられています。

  • ただし、その利益を受ける金額が少額である場合又は課税上弊害がないと認められる場合には、強いてこの取扱いをしなくても妨げないものとする。

不動産の無償や低額での親子間賃貸は、この「課税上弊害がない」場合に該当すると考えられる場合が多いため、
現実的には贈与税の対象になっていないケースが多いと言えます。

ただし、これはあくまでも例外的な措置です。
「課税上弊害がある」と税務署側に判断されれば、原則どおり贈与税の課税対象となる可能性があるため注意が必要です。
心配な場合には、申告を依頼している税理士へ相談することをおすすめします。

贈与税非課税枠内なら問題なし

贈与税の計算期間は、その年1月1日から12月31日までです。
この期間分に受けた贈与の額を合算して贈与税を計算しますが、
贈与税の納税義務者である贈与を受けた人には、原則として年110万円の基礎控除額(非課税枠)が存在します

そのため、たとえばその年中に他の贈与を受けていないのであれば、
その年に本来支払うべきであった賃料(無償や低額で賃借したことにより利益を受けた額)の合計が110万円以下である限り、
贈与税は課税されません。

こうしたことからも、贈与税を申告していなくても結果的に問題となっていないケースが多いと考えられます。

賃貸住宅は「相続税」の評価が軽減される

次に、不動産の無償での賃貸の相続税への影響について解説していきましょう。

親子間の無償での賃貸について解説する前に、
まずは相続税の計算における、自分で使うための不動産と賃貸用不動産との評価方法の違いを解説します。

自用のマンションと賃貸マンションの相続税評価の違い

相続税の計算においては、自分で使っている自用マンションと賃貸に出している賃貸用マンションとでは、
賃貸用マンションのほうが安く評価されます。
これは、他者に貸しているためにある日突然大家さんの一方的な都合のみで出て行ってもらうことは難しく、
不動産の自由な利用に制限がかかっているためです。

マンションは相続税の計算上、建物と敷地となっている土地とに分けて計算されます。
それぞれ、自用の場合と賃貸用の場合の評価の違いは、次のとおりです。

貸家の評価額

賃貸している建物(貸家)の相続税評価額は、原則として自用の場合の評価額から借家権割合を控除して計算します。
計算式は、次のとおりです。

  • 貸家の相続税評価額=自用建物の評価額×(1-借家権割合)

計算式内の「借家権割合」は、原則として30%です。
たとえば、自用とした場合の評価額が2,000万円である建物を賃貸した場合、その評価額は次のようになります。

貸家の相続税評価額=2,000万円×(1-0.3)=1,400万円

貸家建付地の評価額

賃貸している建物の敷地となっている土地を、「貸家建付地(かしやたてつけち)」といいます。
相続税の計算上、貸家建付地の評価方法は次のとおりです。

  • 貸家建付地の相続税評価額=自用地評価額-自用地評価額×借地権割合×借家権割合

借家権割合は、上で記載したとおり、原則として30%です。
借地権割合は地域により異なり、30から90%の間(10%刻み)で定められており、
国税庁が公表している路線価図などを見ることで確認することができます。

たとえば、借地権割合60%の地域に存在し、自用とした場合の土地の評価額が3,000万円である貸家建付地の評価額は、
次のとおりです。

貸家建付地の相続税評価額=3,000万円-3,000万円×0.6×0.3=2,460万円

無償や低額で賃貸されていた不動産の相続税の計算上の評価は?

無償や低額で賃貸されていた不動産の相続税の計算上の評価は?

上で解説したとおり、他者に貸している不動産の相続税評価額は、自用の不動産よりも低くなります。
それでは、親子間で無償や低額で賃貸をしている不動産の相続税評価額は、どのようになるのでしょうか?

自用のものとして評価される

親子間で無償や低額で賃貸をしている不動産は、自用のものとして評価されます。
つまり、上で解説したような減額計算をおこなうことはできません。

そもそも、賃貸不動産を安く評価することができる理由は、他者に貸しているために自由な利用に制限がかかっているためです。
一方、親子間で無償や低額で不動産を貸している場合には、
返してほしくなったときにはいつでも返してもらうことができ、他者に貸している場合のような制限はありません。
そのため、相続税の計算上減額もされないのです。

なお、親が10室あるアパート1棟をまるごと保有しており、そのうち1室を子が無償で使用しており、
残りの9室を他人に賃貸している場合には、子に貸している部屋部分のみが自用として評価されます。

このアパートを自用とした場合の建物部分の評価額が8,000万円、敷地となっている土地の評価額が1億円であり、
この地域の借地権割合が50%である場合の相続税評価額は、次のとおりです。


建物:8,000万円×(1-0.3×9室/10室)=5,840万円
土地:1億円-1億円×0.5×0.3×9室/10室=8,650万円
(9室/10室は、床面積で計算します。)

このように、自用として評価される子への無償賃貸部分以外についてのみ、賃貸による減額が適用されることとなります。

まとめ

親子間で不動産を無償や低額で賃貸する場合には、このような税金の取り扱いにも注意しましょう。
また、子が複数いるにもかかわらず一部の子のみが無償で建物を借りるなどの利益を受けていた場合には、
その不公平感から相続の際にトラブルの原因となってしまう可能性も否定できません。

無償での賃貸についての取り扱いに迷ったら、税理士や弁護士などの専門家へご相談ください。
オーセンスでは税理士とのネットワークも持っているため、総合的なアドバイスをすることが可能です。

Authense法律事務所の弁護士が、お役に立てること

・親子間での不動産の貸し借りが、賃貸借にあたるのか使用貸借にあたるのかについて、
ご事情を聴き取った上で、法的な取り扱いについてご回答いたします。

・提携先の税理士と協力して、相続税・贈与税の計算など適切な税務処理にあたらせていただきます。

記事を監修した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(神奈川県弁護士会)
神奈川県弁護士会所属。明治大学法学部法律学科卒業、慶應義塾大学法科大学院を修了(法務博士)。相続分野を中心に多くの案件を取り扱うほか、離婚や刑事事件など、様々な案件に意欲的に対応している。多量の資料であっても隅々まで精査し、証拠として重要なポイントを抽出することを得意としている。
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