2011年からAuthsense法律事務所の成長を牽引してきた西尾 公伸弁護士。2016年7月からは弁護士統括として所属弁護士を統括する傍ら、ボードメンバーとして事務所経営にも参画している。
西尾弁護士が今注力しているサービスがALS(法務機能アウトソーシングサービス)だ。西尾弁護士は、このサービスを通じて「日本企業のリーガルプラットフォーム」を目指すと語る。
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法務部門の人材不足を解決 即戦力人材を提供する法務機能アウトソーシングサービス
西尾先生のオーセンスにおける役割について教えてください。
弁護士統括という立場です。いわゆるボードメンバーとして経営会議に参加します。
弁護士統括は6名いて、それぞれ管掌している領域があるのですが、私の場合は企業法務です。企業のクライアント様に対するサービス提供、企画、商談、受注後のクオリティについて責任を持っています。
特に注力されている領域はありますか。
ALS(法務機能アウトソーシングサービス)に注力しています。
どのような経緯で開始されたのですか?
2013年頃から大手上場企業の法務部に、当事務所の弁護士が出向したことが最初の経緯です。
一般的には、大手の企業法務事務所から顧問先の企業に出向する形がよく見られます。ところが、我々はその企業の顧問でもなかったですし、他に大手法律事務所から出向されている弁護士の方もいました。
他の事務所の方が出向されている中で、ご依頼があったのはどういう背景があったのでしょうか?
今も変わらない問題なのですが、法務部に人材が定着しない、採用が難しいということに尽きます。即戦力の人材がほしい、現場の泥臭い仕事も含めて担える戦力として来てほしいというニーズでした。
人材不足や採用の難しさ、定着しないという課題は上場企業や、ある程度売上規模がある企業でも同様なのでしょうか?
企業によって様々なケースはありますが、上場企業であっても採用や定着については非常に大きな課題を抱えています。
原因はどこにあるのでしょう?
まず、新司法試験制度が始まり、ロースクールの開設によって法曹人口が増加し、ある程度企業内に人材が供給されている状態がありました。
ところが、ロースクールの入学者や新司法試験の受験者数は減少傾向に転じて人材供給も減っていきました。
また、経済産業省「国際競争力強化に向けた日本企業の法務機能の在り方研究会」の報告にもある通り、米国と比較して日本国内ではCLOやGCというポジションがほぼ設置されていません。
法務にアサインされた人材がキャリアを描きづらいのです。
法務人材がキャリアアップしていく道がないにも関わらず、企業内での法務案件は増えている。複雑化しているようにも思います。
おっしゃる通り、コンプライアンス、ガバナンス体制の強化は求められ続けていますし、最近は人的資本情報開示の義務化の動きもあります。法務のタスクは増える一方です。
需給のギャップがある状況なのですね。
はい。このギャップを埋めるサービスとしてALSがあると考えています。
専門性の高い人材が現場に入り込む
ALSの具体的なサービスについて教えてください。
当事務所で経験を通じた弁護士が、即戦力人材として現場に入り込み課題を解決する点は大きな特徴です。法務部門の一員として契約審査を担当し、事業部やすでに契約している外部専門家とのやり取りに介在していきます。
従来、外部の弁護士はアドホックな課題解決に関わる立場でしたが、日常業務に入っていくことが一番のサービスの売りです。
特にこういう企業の方に活用されている、という特徴はありますか。
上場企業でtoBのビジネスを行われてる企業の方には活用いただけています。契約審査のボリュームが多いからです。
あとは、急激に事業拡大をされている企業からもお引き合いをいただいています。ある意味緊急での手当としてリソースを求められています。
どういった種類の契約書に関わることが多いですか?
業務委託契約書、建物賃貸借契約書、店舗契約書、投資契約書あたりが多いですね。
店舗経営している企業は契約の更新がある度に、お声掛けをいただきます。そういう細かいタスクまでお引き受けできる体制にしています。
お客様の声はいかがですか?
好評に尽きます。事業部への返事に2週間かかっていたものが2、3営業日で返せるようになり、事業がどんどん進むという声も寄せられています。
そこまでのバリューを発揮できる人材を社内で育成するのは難しいです。
企業内に入られるときはどのように進められているのですか?
最初に会社に伺って事業部の方や法務部内の方に社内ご挨拶することが多いです。
契約審査のフローとしては、Slackチャンネルを設けてもらい、メンションをつけて審査質問いただき、速やかに弁護士の方で対応する形が例としてありますね。
セキュリティの関係もあって、その企業様のデバイスをお借りして業務を行うことにも対応しています。
基本的には現在運用されている社内フローをベースとして、タスク処理の部分を引き受ける構造です。
ビジネスを理解できる組織形態と人材育成に注力
他の事務所にないALSの強みがあれば伺えますか?
当事務所の人数規模に加えて、優秀なリソースをしっかり確保する、人材育成の体制を整えていることが強みです。
一般的に、法律家や法務担当は法律の専門家としての側面が強すぎるあまり、ビジネスに寄り添わない、事業部の立場を無視したコメントをするのではないか、といった懸念が示されることもあります。
しかし、私たちの組織には事業サイドの意図を汲み取る文化があります。
上場企業である弁護士ドットコムと共に歩み、成長してきた経緯があるのです。事業部が抱えている事情、悩みにも直面してきました。
そういったアウトプットができる人材の育成もしっかり行ってきているので、インハウス適性のある人材の供給ができています。
事業サイドの意図を汲み取る文化を醸成、定着させるために取り組まれてることはありますか?
非常にシンプルで、我々が事業会社の組織形態をとっていることです。
例えば、経営会議という会議体を設け、弁護士ではない、コーポレート部門やマーケティング部門などの人材もアサインしています。
パートナーシップをとっている伝統的な法律事務所とは異なる組織体制です。
当事務所の弁護士にとって、事業会社の仕事の仕方は当たり前のものとして理解しているので、企業内でもフィットしやすいのです。
ALSをさらに発展させる方策はどのように考えられていますか?
テクノロジーと優秀な人材のハイブリッドがポイントと考えています。
AI契約書レビューサービスや生成AIが注目を浴びていますが、現時点では内容の正確性をきちんと確認し担保することが必要です。
優秀な弁護士が責任を持って判断していくことに価値があると思っていますし、その判断をテクノロジーによって効率化することが、お客様にとっても価値を感じていただける部分だと考えています。
現状はどのようなツールを活用されているのでしょうか?
自社ひな型との差分抽出や、弁護士が責任を持ってアウトプットした過去の類似契約書との差分を検出・検索できるサービスを活用しています。
リーガルリサーチツールも活用していますが、もっと多くの書籍が電子化してほしいですね。判例データベースもより多くのデータが蓄積されるようになってほしいです。
これによって契約書審査にも生きてきます。より活用できるサービスができれば、ALSもさらに成長できると考えています。
日本企業のリーガルプラットフォームを目指して
今後の展望についてお聞かせください。
契約審査に課題を抱えている日本企業のリーガルプラットフォームになりたいと思っています。
これを実現するには人材開発とテクノロジーの掛け合わせが必要と捉えています。
我々は弁護士ドットコムと一緒に歩んできた事務所です。私自身、弁護士ドットコムが創業から何十倍も成長するプロセスを見て来ました。
企業の創業から大きく成長する中で体験したことを組織内に還元し、若いメンバーの育成に注力をしていきたいと考えています。
また、法律事務所以外に、弁理士、税理士、社労士、コンサルティング会社、さらにはエージェント会社も含む、ワンストップで価値提供できるプロフェッショナルファームを志向しています。
自分自身、弁護士の枠にとどまらず活躍できる場所を見出して行きたいですね。
これまで成長を経験されてきて、どこかで独立を考えられたことはないですか?
選択肢として常に存在することは間違いないです。それを理解をした上で独立しないという選択を続けています。
取り扱っている領域も増えていく中で、やろうと思えばどんなチャレンジもできるのがAuthenseです。
最近では韓国の法律事務所、法務法人 麟(LIN)との業務提携も行い、グローバルの連携も進んでいます。
法律事務所として、グループとして常に新しいオプションが示されているので、外に出て行くモチベーションが生じにくいのですよね(笑)
Professional Voice
西尾 公伸
(第二東京弁護士会)中央大学法学部法律学科卒業、大阪市立大学法科大学院修了。法律事務所オーセンス入所から、ベンチャー法務を担当し、現在では、HRTech(HRテック)ベンチャー法務、芸能・エンタメ・インフルエンサー法務、スポーツ団体法務等を中心に担当。上場企業をはじめとした日本国内外に成長を求める企業のM&A支援にも積極的に取り組む。
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