学生時代に弁理士試験に合格。パナソニック株式会社の知財部門において商標・意匠・契約などを担当したのち、コミュニケーション部門のブランドマネジメントも担った西野 吉徳。
2017年に特許事務所に転職してからは外国商標業務にも従事し、国外の実務にも精通している。
そんな西野は「日本企業は商標を登録して終わりになっている」と語る。
これまでの経歴と共に日本企業が商標にどのように向き合うべきか聞いた。
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1.
直感にしたがって選んだ弁理士の道
弁理士を目指した経緯から教えてください。
「パンのための学問を」と思い、関西大学法学部に入学したのですが、司法試験に合格する平均年齢が28歳の時代です。
浪人生活まではできないので、司法試験ではなく、他の資格を取ろうと考えました。税理士、司法書士も選択肢にはありましたが、弁理士が面白そうだなと感じました。
それはどういった理由ですか?
法律の中でもイノベーションがある分野だなと思ったのです。特許は「無から有を生み出し」ます。デザインについての意匠も面白かったですね。
大学何年生の時にそのような思いを感じたのでしょうか?
大学2年生の秋です。学内に司法試験、公務員試験、弁理士試験の研究会がありまして、直感的に「弁理士だ」と。
勉強の末、大学院2年生の時に弁理士試験に合格しました。
2.
パナソニックで経験した商標とブランドの実務
資格取得後、1989年に松下電器産業株式会社(パナソニック株式会社)に入社されています。特許事務所は選択肢になかったですか?
当時、成功した弁理士の方を見ていると企業出身者の方が中心でした。成功するためには企業の経験が必要と考えたのです。
パナソニックに入社した当時はどういう雰囲気でしたか?
本社と事業部を含めて知財に関わる社員は200名いて、間接部門にも潤沢な投資をしていました。
弁理士資格を持っている方は10名程度いましたが、資格の有無に関わらず見識のある方が多かったです。
知財だけで200人とはすごいですね。
そうですね。ただ、私が退職する前は全体で1000名いました。
パナソニックに入社されてからはどのようなお仕事をされていましたか?
まず、商標・意匠管理の担当になり、7-8年経験しました。
商標調査と権利取得を担っていたのですが、商標調査の重要性を体感しました。
事件を未然に防ぐため、商標調査を徹底し、商標変更など依頼者の相談にのること、事前の使用許諾(今後は同意書)などの対策を取ることが大切です。
在職時代の思い出深いエピソードがあれば伺えますか?
入社早々、宣伝から依頼を受けた件で調査で問題がありました。
テレビの商品名と第三者の有名商標の類否の判断です。有名な商標には、通常の類否判断を超えて、最大限の配慮を払うべきでした。結局、広告代理店の仲介でテレビの商標が使えるようになりました。
その少し後、同じテレビの商標について、別の第三者が、(調査不能期間中に)先に出願していたことが分かりました。こちらは高額の損害賠償請求の警告を受けました。こちらは、本部長が相手の親会社と交渉してくれ、使えるようになりました。
これは入社して半年頃のことです。商標調査の恐ろしさを思い知らされました。
入社から間もないタイミングで大きな出来事があったのですね。その後はどのような経歴を歩まれたのでしょうか?
1996年に東京大学先端科学技術研究センターに協力研究員として派遣され、商標法や著作権法や情報通信法の研究を2年間行いました。
私と同じように4-5人の方が企業や研究員として派遣されていましたね。日本テレコム、CSKコンピューターサービス、特許事務所の方など30代前半の方々です。
この研究室での経験から、特許ではなく、商標、表示関係で生きていこう、という決心が固まりました。深い知識を使っていきたいと考えるようになったのです。
方向性を決める時期だったのですね。その後はまたパナソニックに戻られます。
大阪に戻って商標管理の課長職を務め、その後、2005年からブランドマネジメントの業務に12年取り組みました。商標規程の策定やブランドの使い方の指導、関係会社の社名のネーミング、適正使用管理の方針などを、ブランド部門で担当しました。
パナソニックではブランドをどのように築いていったのでしょうか?
ちょうど社名が松下電器からパナソニックに変わるタイミングに、ブランド部門に在籍していて「Panasonic ideas for life」というグローバルブランドスローガンの浸透に関わりました。このスローガンについては、共存契約や同意書取得交渉も大きな問題でした。
役員にスローガンの意味についてディスカッションをしてもらいました。このスローガンで良いか、いろんな意見もあり、決してスムーズではなかったですが、当時の中村 邦夫社長の肝入りで進めることができました。
ブランドは徹底が重要です。スローガンに込めた思いの社内浸透なども重要なのですが、プランドポリスも重要です。不適切使用には社内に対しても警告書を出して対処しました。
振り返ってみると、ちょうど社内でもブランドに対する関心が高まっているタイミングに在籍していて、いろいろな仕事を経験させていただきましたね。
3.
日本企業は商標を出願して終わりになっている
パナソニックを退職されてから、Authense弁理士法人に参画された理由を教えてください。
パナソニック退職後は、虎ノ門のきさ特許商標事務所に勤めました。外国商標に強い事務所です。5年半ほど勤務して特許事務所の外国商標業務も体得できました。
ご縁があり、2022年に五味さんが代表をされていた、はつな弁理士法人に入所し、Authense弁理士法人に参画することとなりました。
いままで、企業において商標やブランドについての仕事をし、特許事務所では外国商標の仕事をしてきました。あとやっていないのは、特許事務所での国内商標の仕事です。国内商標の仕事が圧倒的に多いところは、はつな弁理士法人でした。
Authense弁理士法人として、1年で約7,000件もの出願件数がありますが、これは所長の五味さんの合理的な思考とCotoboxという商標管理システム・コミュニケーションツールがあるからこそ実現できる件数なんです。
はつな弁理士法人がAuthenseグループに入ると聞いた時の印象を教えてください。
特許事務所だけではできないことができそうだな、と感じました。会社での最後の仕事はブランドライセンス契約の仕組みの再構築だったのですが、移転価格税制の考え方の重要性を感じました。
このあたり、弁護士法人、税理士事務所と一緒になると解決できる可能性があるなと。
現在注力されていること、大切にされていることについても伺えますか。
商標出願は本当に大切で、商標出願しないと商売が始められないという面があります。商標出願をしないとビジネスの土俵にあがることもできません。商標出願数はその企業が活発にビジネスを展開しているかどうかのバロメーターでもあります。
しかし、中小企業以下の会社は「商標を出願し、登録」すれば良いという意向が強く、商標管理までは目が向きません。ここを変えていきたいです。
「商標登録」ではなく「商標管理」の方向性でアプローチしたいと考えています。
「商標登録」と「商標管理」は、どう違うのでしょうか?
「商標管理」はアメリカで進化した概念で、商標管理から派生してマーケティング領域で発達した考え方がブランディングともいえます。
日本の大企業は、戦後、アメリカから「商標管理」を学びました。しかし、中小企業以下では「商標管理」を理解している企業は少ないようです。
なぜうまく行かなくないのでしょうか?
商標管理の原点は1940-50年代のアメリカに遡ります。元々はアメリカの法務部長(Legal Counsel)達によって議論されてきた考え方です。アメリカ商標法はご存じのように「使用主義」に立っています。商標の使用に重点があります。そのため、オーナーシップやライセンスの考え方が厳格です。日本の場合は「登録主義」であり、出願して登録を取ることが目的になりがちです。
使用主義的な発想をとると、名義人のあり方、ライセンス、出願する商標、ロゴの表現、使用証拠の保管など様々な分野に差が出てきます。そしてこれがマーケティングに影響します。実は、日本の大企業の実務は使用主義の考え方を取り入れて、商標管理をしています。やはり参考になるのは、IBM、3M、P&Gなどのアメリカ企業ですね。
アメリカの商標管理の考え方を知ると「日本企業は商標を出願、登録して終わりではなく、もっと熱い気持ちで商標管理をしてもいいのでは?」と思うんです。
企業の場合、権利を取るのは知財の仕事、模倣品対策や契約は法務の仕事、広告はマーケティング部門の仕事と分断、細分化されている。
法務や知財部門の人は、商標・ブランドのコーディネーターとして、登録や模倣品やライセンス契約だけではなく、ブランドの使い方や認知のされ方にも意識を持ってほしいと思います。
大企業の法務・知財は、なかなか変えるのは難しいですが、中小企業であれば柔軟に対応が可能です。
商標管理の考え方を経営者に届けていきたいですね。
4.
海外にも強いAuthense弁理士法人へ
今後の展望について教えてください。
Authense弁理士法人は国内では日本一の商標出願件数を誇ります。2024年も十分に狙えるでしょう。
一方、外国商標はこれからです。真にグローバル対応ができるようになって、国内だけでなく海外にも強いAuthense弁理士法人と言われるようにしたいですね。
そして、商標だけでなく、意匠や特許にも広げていきたい。他事務所とも連携して幅広い分野に対応できる総合的な事務所にしたいと思っています。
また、Cotoboxが円滑な知財情報のコミュニケーションに役立ってほしいですね。国内に止まらず、グローバルなサービスになる可能性もあります。
日本企業の商標出願件数は最近は韓国に負けてしまっていて、アグレッシブさが足りない状況です。この状況も変えていきたいですね。
Professional Voice
西野 吉徳
学生時代に弁理士試験に合格。大手電機メーカーに勤務し、知財部門において商標・意匠・契約などを担当したのち、コミュニケーション部門のブランドマネジメントに異動。 2017年、特許事務所に転職し、外国商標業務を担当。2022年、はつな弁理士法人へ入所。 特許事務所での商標権利取得経験、企業の知財部門及びコミュニケーション部門での経験から、商標権利取得、企業内商標管理及びブランディングという3つの分野に精通。総合力を生かして、クライアントのブランド構築を強力にサポートします。
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