検察官として6年間、数多くの刑事事件の捜査・公判を担当した高橋 麻理弁護士。
弁護士登録後は検察官時代に培った経験を活かし、刑事事件の弁護をはじめ、企業不祥事・社内不正における社内調査のアドバイスや複数の企業で社外役員を務めるなど、企業法務にも精力的に取り組んでいる。
順風満帆なキャリアを歩んできたように見えるが、検察官に任官された当初は悩むことも多かったという。
Appleの創業者スティーブ・ジョブズ氏が、スタンフォード大学の卒業式で行ったスピーチ「connecting the dots(点と点を繋ぐ)」が信条と語る高橋弁護士。
今に至るまで、高橋弁護士はどのような「点」を打ってきたのだろうか。
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1.
社外役員には「空気を読まずに発言する力」が必要
まずはAuthenseでの役割について教えてください。
弁護士統括として経営に関与しています。
刑事事件に関わるメンバーのマネジメントも行っており、相談が寄せられた際には、担当弁護士をアサインしたり、メンバーからの相談に乗ったりしています。
個人としても刑事、企業法務の案件を担当しており、最近は社外役員としての活動にも力を入れています。
事務所内の広報活動にも携わり、コラムの執筆やテレビ、ラジオへの出演も行っています。
また、法務教育にも関心を寄せており、保護者や子供たちを対象にした講演も実施しています。百人規模の方に向けてお話する機会もあります。
講演で同じ話をしても、聴講された方の受け取り方は様々です。皆様の声を伺うことで、自分自身のあり方や人生への向き合い方を改めて考える貴重な機会ですね。
社外役員としての業務内容を教えてください。
シダックスグループでは社外監査役に加えて調査委員会の委員も務めました。
調査委員会に入られたのは具体的にどういった案件だったのでしょうか。
TOBを巡る情報漏えいの事案です。
社内の情報管理などの調査と原因分析、再発防止策を検討するための調査委員会の委員を務めました。※1
通常の社外役員としての活動についても教えてください。
監査役会(監査等委員会)と取締役会に毎月出席しています。常勤監査役をはじめとする社内の方々から得た情報を元に、会社にとってリスクとなる事項がないか検証します。
また、取締役会での議論を通じて、取締役が職務執行を正しく行っているかチェックします。取締役会で問題と感じたこと、理解できないことがあれば、そこで質問をしっかりと行うことが主な業務です。
社外役員という立場だと社内の情報を取りに行くことが難しい場面もあると思います。
そうですね。ただ待っているだけでは都合の良い情報しか上がってこないため、資料などを見て、現場の様子を想像しながら質問するよう心がけています。
例えば、契約の稟議が上がってきたときに、関わっているのはどのような人々か、現在の社内の状況から契約が必要な理由を想像し、違和感があれば質問します。
地道かつ基本的なアプローチですが、質問を繰り返すことで役員の皆様にも私のスタンスが伝わり、報告の内容は要点を押さえたものや詳細なものになっていきます。
質問される側は「面倒だな」と感じるかもしれませんが、重要なのは「企業価値を高める」という共通の目標を共有することです。
社外役員の責任を務めるにあたって心がけていることを教えてください。
「空気を読まずに発言する力」が必要と考えています。
特に議論がなく終わりに向かっている会議や、結論が見えているような会議の中でも、「これはどういう意味ですか?」と切り込む力が必要です。
もともと会議で発言することはそんなに得意ではなく、正解じゃないことを言ったら他の人からどう思われるかな・・・と考えることもあります。
ただ、何よりも私が嫌なことは、自分が「おかしいのではないか」と思ったことを飲み込んでしまうことです。
会議の発言で無知をさらけ出すことになったとしても、フラットに疑問を呈することは、事情をよく知らない社外の人間だからこそできること、自分が求められている役割だと思います。
社外監査役として関与されるようになって社内に変化は起きていますか?
社内の方から法律に絡むような悩みや直面しているトラブルを気軽に相談していただいています。
取締役会や監査役会に「こんな相談が寄せられているので議題として取り上げましょう」と伝えると、「今まで上がってこなかった問題が明るみに出ている」と、他の社外役員からの声が寄せられることがあります。
私が元検察官の女性弁護士という立場なので、これまでとは異なる視点で相談が寄せられるようになりました。
2.
検察官時代に直面した壁 乗り越えた先に繋がった点と点
ファーストキャリアでは検察官を選んでいます。検察官時代はどのように過ごされていたのでしょうか?
20代半ばで検察官になりましたが、被疑者は私よりも年上の方が多く、自分の人間力の不足を感じることもありました。
人間力の不足とは?
被疑者の方は、皆必死に罪を免れようとします。検察官として自白を得るために、怒ったり、下手に出てみたりしましたが、うまくいきませんでした。
その状態をどのように乗り越えたのでしょうか。
本人よりも相手のことを理解する努力をしました。徹夜で書類を読み、本人も忘れているような事実を記憶し、誰よりも本人のことを理解できるようにしました。
その上で、背伸びせず、何も取り繕わずに正面から被疑者と向き合うようにしました。そこまで調べたなら…ということで、本当のことを話していただけることも増えていきました。
なぜそのような考えに至ったのですか?
自白が取れず悩んでいる時、居酒屋でお酒を飲みながら先輩に相談したところ、「今、この瞬間に被疑者は自白を逃れようとしている。その状況を想像できている?相手の気持ちになれている?」という一言をもらいました。
ハッとしました。今でもその時の光景が浮かびます。
先輩の一言が決め手になったのですね。
そうなんです。
突き詰めると、『HERO』というドラマで木村拓哉さんが演じていた久利生検事が理想なんだなと思いました。被疑者がどう生きてきたかを理解し、心情を想像できないと検察官としての責任を果たせません。自分が納得できるまでイメージを膨らませることが大切だと気づいたのです。
その考えは今でも生きていますか?
生きていますね。想像力は私にとって強みかもしれません。弁護士としてクライアントのことを知るようにしていますし、クライアントが不安に思うだろうな、ということを先回りするようにしています。
例えば、土日は法律事務所が休みになるので、木曜日に「不安な点はありませんか?」と伺うようにしています。そうすると、クライアントは何かあれば金曜日のうちに連絡するでしょうから、週末を安心して過ごしていただけるんじゃないかなと想像しています。
相談する方も安心しますね。検察官としてのご経験は、企業の案件に取り組まれる時にも役立ちますか?
検察で扱っていた刑事事件と同様、企業不祥事の案件も「事実の認定と評価」を行います。その点では通じるものも多いですが、企業不祥事は個人の刑事事件よりも事実認定が複雑です。企業の歴史、企業を構成する人たちの歴史も見なければいけません。誰がいつ入社し、そこから何が起きたのか、という細かい歴史も関係するのです。
検察官時代に悩まれた経験も今につながっているのですね。
私はスティーブ・ジョブズの「connecting the dots(点と点を繋ぐ)」という言葉を信条にしています。
点を打っていくと、後から振り返れば点が線になっていきます。目の前に起きているひとつひとつの経験は、必ずその意味を後で見出すことができる日がやってくると信じています。
3.
高橋弁護士が将来に向かって打つ「点」は
Authenseに入所してどのような印象を持ちましたか?
やりたいことをやらせてくれる、手を挙げることを歓迎してくれる事務所だな、という印象を持ちました。
これまでに、ホームページでのコラム執筆や、コロナ禍における持続化給付金の不正受給に対する自首同行プランの策定、離婚に関するオンラインセミナーも企画しました。
心理的安全性が確保されているので手を挙げやすいのでしょうか。
間違いありませんね。提案しても「リスクがある」と言われるような環境でしたら手を挙げにくいと思いますが、「その積極性、いいね!」と言ってもらえる安心感があります。
今後の展望について聞かせてください。
社外役員としての仕事と、企業法務と刑事分野が接する案件に注力したいです。
ひとつひとつ事実を見極め、評価し、戦略を立てて遂行する力を身につけて行きたいと考えています。
戦略を遂行するためには、社内の役員やクライアントを巻き込む力も必要です。そこには表現力、きちんとプレゼンする力も求められます。
仕事をする上での基本的な力を磨いていきたいですね。
自分が力を身につけていくことで社外役員として自分に求められている役割、例えば女性として期待されている部分にも応えたいですし、同じ立場の人の力になれたら嬉しいです。
突き詰めると地道にこれまでやってきたことを続けていきたい、本当にそれだけです。
Professional Voice
高橋 麻理
(第二東京弁護士会)慶應義塾大学法学部法律学科卒業。司法試験に合格後、検察官任官。約6年間にわたり、東京地検、大阪地検、千葉地検、静岡地検などで捜査、公判を数多く担当。検察官退官後は、弁護士にキャリアチェンジ。現在は、刑事事件、離婚等家事事件、一般民事事件を担当するとともに、刑事分野の責任者として指導にあたる。令和2年3月には、CFE(公認不正検査士)に認定。メディア取材にも積極的に対応している。
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