公開 2024.05.02Legal Trend

【2024年4月】労働基準法の改正に伴う労働条件明示のルール改正の解説と企業の対応

労務

2024年の4月に労働基準法が改正され、労働条件の明示のルールが変わりました。
この労働条件の明示は労働基準法によって義務付けられており、違反すると罰則が科される可能性があります。

今回の改正によって一体なにが変わったのか、企業の適切な対応方法にお悩みの方も多いのではないでしょうか。
本記事では、労働基準法の改正に伴う労働条件明示のルール変更について、具体的に解説します。

目次
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1.

本改正の背景と概要

もともと、労働者を採用する際には、労働基準法第15条第1項「労働条件の明示」によって「労働条件を明示しなければならない」と義務付けられています。
採用される労働者が、「自分はこのような条件で採用されるんだな」ということを事前に理解できるようにし、労働者の権利の予測可能性を高めるためです。

ここで明示された労働条件と実際の労働条件が異なる場合、労働者は労働契約を解除できます。
労働条件の明示は、書類による明示が必要な項目と、口頭による明示だけで問題がない項目に分類できます。

左右にスワイプできます
書面の交付が必要な明示事項 口頭での明示が認められている事項
労働契約の期間 昇給に関する事項
就業場所・従事する業務内容 退職手当の適用範囲に関する事項
始業・終業の時刻 退職手当の支払い方法・時期に関する事項
所定労働時間を超過した労働の有無 臨時で支払われる賃金・賞与に関する事項
休憩時間 労働者負担に関する事項
休日・休暇 衛生・安全に関する事項
交代制勤務の際の就業時転換に関する事項 職業訓練に関する事項
賃金の決定や計算・支払いの方法 災害補償・業務外傷病扶助に関する事項
賃金の締切・支払時期に関する事項 制裁・表彰に関する事項
解雇の理由を含む退職に関する事項 休職に関する事項

今回の改正によって、これらに加えて新たに4つの項目が追加されています。

2.

改正の内容

今回の労働条件明示の改正では、次の4項目が追加されました。

  1. 就業場所・業務の変更の範囲を明示
  2. 更新上限の明示
  3. 無期転換の申し込み機会の明示
  4. 無期転換後の労働条件の明示

それぞれの内容について見てみましょう。

2-1.

就業場所・業務の変更の範囲を明示

改正によって、すべての労働者に「就業場所・業務の変更の範囲」を明示することが求められるようになりました。
改正前、すでに「就業場所」「業務の内容」の明示は義務付けられていましたが、これらに「就業場所・業務の変更の範囲」が追加されています。

従来は「あなたは本社勤務で業務は経理です」という内容でも問題はありませんでした。
しかし、改正後は将来の配置転換によって勤務場所が異動する可能性がある場合、「全国の支社」など、変更可能性のある範囲を明示する必要があります。

2-2.

更新上限の明示

有期契約労働者に対する「更新上限の明示」も新たに追加された項目です。
有期労働契約を締結する、もしくは更新する場面で、更新上限の有無や内容について明示することが求められるようになりました。

2-3.

無期転換申し込み機会の明示

有期契約が5年を超えると、労働者は有期契約を無期契約に切り替えることができます。
しかし、自動的に切り替わるのではなく、労働者側が無期契約への切り替えを希望して初めて無期へと転換されます。

しかし、契約が5年経ったのか自身で把握していない労働者も珍しくありません。
気付かなかったがために有期契約から無期契約へと転換できなかったという事態を避けるために、企業は、無期転換権が発生しているタイミングでの更新時に、無期契約に切り替えられる旨を明示することが求められます。

2-4.

無期転換後の労働条件の明示

無期転換後にどのような労働条件になるのかの明示も必要になります。
無期転換申し込み機会の明示と同じく、無期転換の申し込み権が発生する時点で明示することが求められます。

3.

労働条件明示のルール改正に伴って企業に求められる対応

それぞれの変更について、企業はどのような対応が求められるのでしょうか。
改正に伴う企業に求められる対応についてまとめました。

3-1.

就業場所の変更についての企業の対応

就業場所と業務に関して、転勤の可能性があるのであれば契約書内に書き入れておく必要があるでしょう。
「就業場所と業務の変更は絶対にない」と言い切れる状況でない限り、就業場所については「全国の支社」など広めに書いておくのが無難かもしれません。

労働者の募集等を行う時点で想定され得る事業の方針変更などを踏まえた範囲で明示すれば足りますので、募集時点で全く想定されていないものを含める必要はありませんが、例えば「現在は東京にしかオフィスはないが、数年後には大阪にオフィスを出すかもしれない」といった状況であれば、それらも含めて広めに示しておくと、労働者のキャリアパスを明らかにするという観点からも良いでしょう。

一方で、どうしても採用したい優秀な応募者が「自分は東京以外で勤務するつもりはありません」と言っているケースなど、契約書上で就業場所を「全国の支社」と記してしまったら断られてしまう可能性がある場合には「就業場所は東京」と限定する書き方もあり得ます。
とはいえ、原則的には就業場所は広めに書いておくほうが問題となる可能性は低いでしょう。

3-2.

更新上限の明示についての企業の対応

有期契約労働者に対する更新上限の明示は、労働者に予測可能性を示すという観点からも重要ですが、他方、人材獲得競争が年々加熱していく中で、中小企業からは「期限なんて定めたら良い人材を採用できない」という声も聞かれます。

人手不足についてのクリティカルな解決策はいまだ見つからない状況です。
自社の状況や取り巻く環境を熟考したうえでの経営判断が求められます。

3-3.

無期転換ルールが適用される有期契約労働者の把握

無期転換申し込み権が発生するタイミングを把握するためには、有期契約労働者の契約状況を正確に掴んでおく必要があります。
有期契約労働者をリストアップし、管理できる体制を整えましょう。
また、無期転換後にどのような条件で働いてもらうのかの検討を進め、労働条件を明示する際に速やかに書面を交付できるように準備を整えておきましょう。

まとめ

会社として、有期労働契約を結んだ労働者の誰が勤続何年なのか、5年を超えるタイミングでしっかり明示義務に対応できるような環境を構築することをおすすめします。
人力で、または記憶で管理しようとしても限界があると考えられますので、ある程度オートマティックにシステムで対応できる環境の構築が重要になるでしょう。

本改正については厚生労働省がホームページで詳細を発表しているのと合わせて、労働条件通知書のひな型も公開されていますので、活用してください。

記事監修者

Authense法律事務所
弁護士

今津 行雄

(東京弁護士会)

東京弁護士会所属。慶應義塾大学法学部政治学科卒業、慶應義塾大学法科大学院法務研究科修了。企業法務の中でも学校法務を中心に、学校法人・企業側の代理人として、組合対応や訴訟を含む様々な案件を取り扱い、経営者側の労働問題・労使トラブルの解決実績を多く有する。また、複数の芸能プロダクションの顧問弁護士を務めた経験から、テレビ局や広告代理店といったエンタメ分野における実務にも精通しており、業界特有の慣習を踏まえた交渉に長けている。

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