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ダイハツ衝突試験の認証申請における不正と内部通報制度
先日、ダイハツ工業株式会社における車両衝突試験の認証申請における不正行為に関し行われた第三者委員会による調査の結果をまとめた調査報告書が開示されました。
本件問題の発生原因を検討する過程で、なぜ、現場の実情を管理職や経営幹部が把握できなかったかということについて触れられていました。
そして、管理職や経営幹部が現場の実情を把握できなかった要因のひとつとして、内部通報制度の運用に問題があったとの指摘がありました。
調査報告書によれば、このたびの不正については、内部通報が端緒となって発覚したのではなく、外部機関への通報が契機となって発覚したとのこと。
ということは、ダイハツでは、内部通報窓口が全く機能していなかったのか?
この点、ダイハツにおける内部通報制度は2011年1月から2023年6月までの間に合計1968件の利用実績があるとのこと。
1年あたりの件数で考えると、平均約160件。
窓口を利用できる従業員数との比較をしないと、この数字だけで、利用が多いとも少ないとも評価することは難しいと思いますが、少なくとも、調査報告書では、この点「一定程度機能しており、制度として形骸化しているような状況はない」と認めているようです。
窓口利用実績はあったというのに、肝心の不正につながる本件情報があがってこなかったとすれば、いったいどこに問題があったのか?
調査報告書では、肝心の情報が内部通報でなく外部への告発となって発覚したのは、ダイハツの自浄作用に従業員が期待や信頼を寄せていなかったことの証左であるとしています。
では、なぜ、従業員は、会社の自浄作用を信用できていなかったのか?
その答えは、受けた通報への対応に問題があったとされています。
具体的には次のような問題点が挙げられています。
1点目として、通報後調査相当となった案件の6割で、事案が発生しているまさにその部署に調査依頼がされていたこと。
詳細はわかりませんが、つまり、A部署で起きた疑いのある不正に関し、その不正が起きていると疑われるA部署に調査せよ、という指示がされていたということです。
A部署に所属するメンバーの人数、人間関係、当該部署に、当該通報内容と一線を引いて中立な立場で調査できる人間がいたかなどという事情によって、その当否はかわってくるとは思いますが、本来は、当該部署から独立した立場で、当該部署の抱える課題や利害関係などと無関係な立場の人が調査にあたる必要があるはずです。
2点目として、匿名通報者の場合は、連絡先を把握している場合でも、匿名通報自体信ぴょう性が低いという考え方から、結果通知を行わない運用が行われていたということ。
匿名通報については、公益通報に関してではありますが、「公益通報者保護法に基づく指針の解説」(令和3年10月消費者庁)において、「内部公益通報対応の実効性を確保するため、匿名の内部公益通報も受け付けることが必要である。」とした上、匿名の公益通報者との連絡をとる方法として、例えば、受け付けた際に個人が特定できないメールアドレスを利用して連絡するよう伝えたりするなどの方法が考えられるとするなど、単に匿名通報であるというだけでその通報自体の信ぴょう性を評価するのでなく、匿名通報とも真摯に向き合う姿勢がむしろ求められていたといえるでしょう。
さらにいえば、通報が匿名で寄せられているという事実自体から、「実名を明かせば不利益な取扱いを受けるのではないか」などという不安も垣間見えるのであり、その時点で、内部通報制度の周知方法や通報への対応状況につき見直すべき事態だったともいえるかもしれません。
このような指摘をもとに、再発防止策のひとつとして、内部通報制度に関し、客観性のある十分な調査とその「見える化」をすることが挙げられています。
もちろん、この不正に関する調査から見えてくる課題は、内部通報制度のみではありません。
本来的に働く必要があったレポーティングラインの機能不全、コンプライアンス意識の鈍麻、現場任せで管理職が関与しない態勢など、複数の要因が絡み合って起きたことと捉えられます。
先日、社内不正を早期に発見するためのポイントに関するセミナー講師を務めました。
セミナー後も、ご参加者のかたから、法務・コンプライアンス部門のお立場のかたにおいて、内部通報制度の運用面にご不安があったり、内部通報に限らず、通常のレポートラインの機能不全、従業員のコンプライアンス意識の不十分さなどにご不安があったりしながら、いったいどこから手をつけていってよいのかわからないといったお声を聴きました。
会社によっては、顧問弁護士がいるものの、顧問弁護士は本業に関して相談できる存在として契約しており、不正に関わる相談はしにくいといったお声も聴きます。
ぜひ一度、お気軽にご連絡ください。
会社様の課題をおうかがいした上で、優先して着手すべき一歩をサポートさせていただきます。
記事執筆者
高橋 麻理
(第二東京弁護士会)慶應義塾大学法学部法律学科卒業。司法試験に合格後、検察官任官。約6年間にわたり、東京地検、大阪地検、千葉地検、静岡地検などで捜査、公判を数多く担当。検察官退官後は、弁護士にキャリアチェンジ。現在は、刑事事件、離婚等家事事件、一般民事事件を担当するとともに、刑事分野の責任者として指導にあたる。令和2年3月には、CFE(公認不正検査士)に認定。メディア取材にも積極的に対応している。
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