公開 2024.08.19Legal Trend

令和6年情報流通プラットフォーム対処法について、弁護士がわかりやすく解説

会社法

2024年5月17日、プロバイダ責任制限法が改正され、情報流通プラットフォーム対処法が交付されました。
本改正では、大規模なプラットフォーム事業者を対象に、削除申請の窓口設置や対応状況の公表などが義務付けられ、ネット上の誹謗中傷やプライバシー侵害に該当する情報に関して、通信事業者などが適切な対応を取れるように変更がなされました。
本記事では、情報流通プラットフォーム対処法について、弁護士がわかりやすく解説します。

目次
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情報流通プラットフォーム対処法とは

インターネット上における誹謗中傷が増え続けています。
この状況を踏まえて、情報流通プラットフォーム対処法では大規模プラットフォーム事業者に対して、各種の規制が盛り込まれました。
従来のプロバイダ責任制限法はこの改正で情報流通プラットフォーム対処法と名前が変わり、2024年の通常国会において成立しています。

この改正の目的は、インターネット上での誹謗中傷の被害を防止するために行われました。
インターネット上で行われている誹謗中傷の多くは、一部のSNSや匿名掲示板といった、いわゆる「大規模プラットフォーム」で行われています。
これらの行為を防止するためには、書き込まれた誹謗中傷に関する書き込みを迅速に削除する対応を大規模プラットフォームに義務付けることが効果的でしょう。
そこで、情報流通プラットフォーム対処法によって、これまでのプロバイダ責任制限法にはなかった規制を盛り込み、情報流通プラットフォーム対処法が成立しています。

大規模プラットフォーム業者に課される義務

今回の改正によって、大規模プラットフォームには8つの義務が課されることになりました。
大規模プラットフォームとは、大規模特定電気通信役務を提供する者として、総務大臣に指定された事業者を指します。

  1. 総務大臣に対する届出
  2. 被侵害者からの申出を受け付ける方法の公表
  3. 侵害情報に係る調査の実施
  4. 侵害情報調査専門員の選任・届出
  5. 送信防止措置の申出者に対する通知
  6. 送信防止措置の実施に関する基準等の公表
  7. 送信防止措置を講じた場合の発信者に対する通知等
  8. 送信防止措置の実施状況等の公表

それぞれの内容について詳しく見ていきましょう。

1.

総務大臣に対する届出

大規模プラットフォームは、総務大臣による指定を受けた日から3カ月以内に、所定の事項を総務大臣に届け出る義務があります。
届け出る内容の詳細については、今後制定される総務省令によって定められるとのことです。
また、大規模プラットフォームとしての届出事項に変更があった場合には、その旨を総務大臣に届け出る義務も負っています。

2.

被侵害者からの申出を受け付ける方法の公表

大規模プラットフォームは、総務省令で定めるところにより、情報の流通によって自己の権利を侵害された者が侵害情報送信防止措置を講じるように申し出を行うための方法を定め、これを公表する義務があります。
侵害情報送信防止措置の申し出方法は、以下の要件が付されています。

  • 電子的な方法(ウェブ上での申出など)を可能とすること
  • 申出者に過重な負担を課するものでないこと
  • 申出を受けた日時が申出者に明らかとなること

3.

侵害情報に係る調査の実施

大規模プラットフォームは、侵害を受けた者(被侵害者)から侵害情報送信防止措置を講じるように申し出があった場合、不当な権利侵害がなかったかについて、遅滞なく必要な調査を行なう必要があります。

4.

侵害情報調査専門員の選任・届出

大規模プラットフォームは、侵害情報送信防止措置の申し出を受けて調査を行う際、専門的な知識や経験を必要とする調査を適正に行うために、「侵害情報調査専門員」を選任する義務を負います。
侵害情報調査専門員は、SNSや匿名掲示板などで発生する誹謗中傷などの権利侵害への対処について、十分な知識や経験を持つ者から選任しなければなりません。
選任するべき人数は、大規模プラットフォームが運営するプラットフォームサービスにおける発信者数などに応じて、最低人数が総務省令によって定められるとされています。
また、大規模プラットフォームが侵害情報調査専門員を選任した場合は遅滞なく総務大臣に届け出る必要があります。侵害情報調査専門員を変更した場合にも届出が必要です。

5.

送信防止措置の申出者に対する通知

大規模プラットフォームは、侵害情報送信防止措置の申し出を受けて行った調査の結果に基づいて措置を講じるかどうかを判断し、原則として申し出を受けた日から14日以内の総務省令で定める期間内に、所定の事項を申出者に通知する義務を負います。

6.

送信防止措置の実施に関する基準等の公表

大規模プラットフォームが情報の送信防止措置を講じることができるのは、原則として事前に公表している削除基準などに従う場合のみです。
この削除基準では、どのような情報が送信防止措置の対象になるかを具体的に定めるなど、一定の基準に適合させるよう努める必要があります。
例外的に、法令上の義務に基づく場合や、予測不能な侵害情報を緊急に削除する必要がある場合などには、削除基準の対象外であっても送信防止措置が認められます。

7.

送信防止措置を講じた場合の発信者に対する通知等

大規模プラットフォームが運営するプラットフォーム上において送信防止措置を講じたときは、原則として遅滞なく、措置を講じた旨とその理由を申し出た発信者に知らせる必要があり、その情報は簡単に知り得る状態にする措置が求められます。
また、自社の削除基準などに基づいて送信防止措置を講じた場合は、削除基準のどの規定に基づいて送信防止措置を講じたのかを明らかにする必要もあります。

8.

送信防止措置の実施状況等の公表

大規模プラットフォームは、自らが運営するプラットフォームに関して、毎年1回、次の事項を公表する義務を負います。

  • 侵害情報送信防止措置の申出の受付の状況
  • 侵害情報送信防止措置を講ずるかどうかに関する、申出者への通知の実施状況
  • 送信防止措置を講じた場合における、発信者に対する通知等の措置の実施状況
  • そのほか、総務省令で定める事項

改正の影響

これまで削除申請の窓口の設置などは義務化されていませんでした。
そのため、どのような内容の書き込みについてどこにどのように連絡をすれば書き込みを削除してもらえるのか、ユーザーとしては必ずしも明確とはいえませんでした。
この課題が解決される展望がみえたことは大きな一歩と言えるかもしれません。
一般ユーザーが誹謗中傷などの被害を受けた場合、迅速に行動に移すことができる、しやすくなった、その結果、従来よりも誹謗中傷などの被害が減少するといった効果は見込める可能性があります。

一方で、企業が「すぐさま削除して欲しい」といった書き込みの場合、多くは企業業績に影響を及ぼすような誹謗中傷や、営業秘密の暴露といった、より深刻な書き込みではないかと想像されます。
このケースの場合、ただ削除するだけでは終わらず、書き込んだ者を特定して発信者情報開示請求まで行うことが多いのではないでしょうか。
となると、ただ窓口に当該の書き込みを削除することを申し出るだけにとどまらず、弁護士に依頼して開示請求を行い、場合によっては裁判で損害賠償請求まで行うことになるでしょう。
そういったことを想定すると、企業にとってこの改正がどれほど大きな意味を持つのかというのは未知数ですが、企業担当者により削除請求がしやすくなるという意味では、影響の大小の問題はあれど、少なからずプラスの意味を持つことになるようには思われます。

とりわけ、タレント事務所やYouTuber、VTuberの事務所などで、誹謗中傷被害に困っていたような企業にとっては喜ばしい改正と言える場合もあるかもしれません。
権利の性質上誹謗中傷は被害者本人にしか法的な権利の行使はできませんが、被害者の所属事務所が情報提供や違反報告にて削除依頼を出す実態もあるように思います。
そのため、今回の改正に基づき設定される削除のルールの内容次第では、所属事務所としては、削除依頼を出しやすくなり、これまでよりも早期に削除がなされるという効果が期待できるかもしれません。

主に一般ユーザーが削除依頼を出しやすくなるといった内容の改正ですが、誹謗中傷を防止するための大きな一歩と言える改正です。
企業のご担当者で誹謗中傷や営業秘密の書き込みなどにお悩みの方は、早めに法律事務所にご相談されるのが良いかと思います。

記事監修者

Authense法律事務所
弁護士

高橋 直

(千葉県弁護士会)

早稲田大学法学部卒業。早稲田大学大学院法務研究科修了。企業法務を中心に活動。離婚・相続問題、刑事事件、交通事故被害などの一般民事案件の実績も数多く有し、インターネット上の誹謗中傷問題にも積極的に取り組んでいる。

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