電子帳簿保存法は、国税関係の帳簿や書類などの電子保存を認める法律であり、電子データでの保存によって業務効率化やペーパーレス化を図ることが目的とされています。
しかし、電子帳簿保存法が紙での取り扱いが主流であった企業に混乱を生じさせることとなっています。
とはいえ、電子帳簿保存法を正しく理解しておけば、企業が過度に恐れるべきものではありません。
今回は、電子帳簿保存法について弁護士が詳しく解説します。
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電子帳簿保存法とは
電子帳簿保存法とは、正式名称を「電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律」といい、次の2点を趣旨とする法律です(電子帳簿保存法1条)。
- 国税の納税義務の適正な履行を確保すること
- 納税者等の国税関係帳簿書類の保存に係る負担を軽減すること
これまでは、国税関係書類は原則として紙で保存すべきとされていました。
電子取引が増えた昨今、電子で受け取ったデータをわざわざ紙で印刷すべきとなると非効率であるうえ、改ざんがしやすくなるリスクもあります。
そのため、電子で受け取った取引データは印刷して保存するのではなく、電子のまま保存すべきとされました。
電子帳簿保存法は本来企業を苦しめるような法律ではなく、むしろ企業の負担を軽減することを趣旨とするものです。
しかし、これまで紙の書類をメインに取り扱ってきた企業は何をすべきかわからず、混乱したり対応に追われたりしている現状が見受けられます。
電子帳簿保存法の対象者
電子帳簿保存法の適用対象者は、「国税に関する法律の規定により国税関係帳簿書類の保存をしなければならないこととされている者」であり、法人税や所得税を納めているすべての企業や個人事業主が対象とされています(同2条4号)。
電子帳簿保存法は、納税者である企業の負担を軽減するための法律です。
そのため、一定規模以下の企業を提供除外にするなどの規定はありません。
電子帳簿保存法はいつから始まる?
電子帳簿保存法自体は1998年3月31日に公付されたものであり、その後、複数回の改正がなされています。
2023年現在話題となっている電子取引の電子データの保存に関する規定は2022年の改正で設けられ、この猶予期間が2023年12月31日に終了します。
そのため、2024年1月1日以降はすべての企業が電子取引の電子データ保存に対応しなければなりません。
電子帳簿保存法が定める電子保存の3つの形式
電子帳簿保存法では、データの保存方法として次の3つが存在します。
それぞれの概要は次のとおりです。
- 電子帳簿等保存
- スキャナ保存
- 電子取引データの保存
電子帳簿等保存
電子帳簿等保存とは、会計ソフトなどで作成をした会計帳簿などを、印刷することなく会計ソフト上などでそのまま保存する方式です。
こちらは義務ではなく、「紙ではなく電子で保存しても構いません」という趣旨の規定です(同4条1項)。
会計帳簿などを電子で保存するには、これまで税務署長に届出をして事前承認を受ける必要がありました。
しかし、改正によって2022年1月1日以降は事前承認手続きが不要とされています。
スキャナ保存
スキャナ保存とは、自己が作成した一定の書類や取引先から紙で受け取った請求書などの書類をスキャナで読み取り、電子データとして保存する方式です。
こちらも義務ではなく、「紙ではなく電子で保存しても構いません」という趣旨の規定です(同4条2項3項)
ただし、紙で受け取った書類をスキャナ保存して紙の書類を破棄するには、紙の書類の受領後、または通常の事務処理期間経過後、速やかにスキャンしてタイムスタンプを付すことや、スキャンの解像度などの細かな要件を満たさなければなりません(電子帳簿保存法施行規則2条6項1号イ・ロ、同2号)。
なお、通常の事務処理期間は、最長2か月とされています(国税庁「電子帳簿保存法一問一答【スキャナ保存関係】」問10)。
スキャナ保存も、以前は税務署長に届出をして事前承認を受ける必要があったものの、2022年1月1日以降は事前承認手続きが不要となっています。
電子取引データの保存
電子取引データの保存とは、電子でやり取りされた取引データを電子のままで保存する方式です。
たとえば、取引先から電子メールに添付してPDFファイルでの請求書を受け取る場合、これまではこのPDFファイルを印刷してデータを削除していた場合もあるでしょう。
2024年1月1日以降は、たとえこれを印刷したとしても、データで受け取った請求書などのデータを消すことが認められなくなります。
保存はその改ざんを防ぐためタイムスタンプを付すなど、電子取引データを後ほど解説する要件を満たして行わなければなりません。
この点が、2024年1月1日から対応が必要となる最大のポイントです。
【形式別】電子帳簿保存法の対象書類
電子帳簿保存法の保存形式別の対象書類は、それぞれ次のとおりです。
電子帳簿等保存の対象書類
電子帳簿等保存の対象書類は、「自己が最初の記録段階から一貫して電子計算機を使用して作成をした国税関係帳簿のうち正規の簿記の原則に従って整然かつ明瞭に作成された一定のもの」です(電子帳簿保存法4条1項、電子帳簿保存法施行規則2条1項)。
つまり、自社が作成した会計書類などがこれに該当します。
たとえば次の書類などです。
- 仕訳帳
- 現金出納帳
- 売掛金元帳
- 売上帳
- 仕入帳
スキャナ保存の対象書類
スキャナ保存の対象書類は、次の国税関係書類などです。
- 棚卸表(※)
- 損益計算書(※)
- 貸借対照表(※)
- 注文書
- 契約書
- 領収書
ただし、これらのうち「※」を付した書類と整理または決算に関して作成されたその他の書類は、スキャナで保存したことを理由として書面の保存に変えることはできません(電子帳簿保存法4条3項、電子帳簿保存法施行規則2条4項)。
電子取引データの保存の対象書類
電子取引データの保存の対象となる書類は、電子メールやクラウドサービス上で受け取った次のデータなどです。
なお、これらのデータをPDFファイルなどで受け取った場合はそのPDFファイルが保存対象となり、電子メールに直接これらの内容が記載されている場合はその電子メール自体が保存対象となります。
- 注文書
- 契約書
- 送り状
- 領収書
- 見積書
- その他これらに準ずる書類に通常記載される事項
なお、誤解される場合が多い点ですが、はじめから紙で受け取った請求書などをPDFファイルなどに変換して電子保管する義務はありません。
紙で受け取った請求書などは要件を満たすことで、1つ上で解説した「スキャナ保存」をすることができるものの、従来どおり紙のままで保管することも可能です。
電子取引データの保存の4要件
電子取引データを保存するにあたっては、そのデータが改ざんされないよう所定の要件を満たさなければなりません。
電子取引データの保存で遵守すべき4つの要件は、次のとおりです(国税庁「電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】」問14)。
- システム概要に関する書類の備付け(自社開発のプログラムを使用する場合に限る。)
- 見読可能装置の備付け等
- 検索機能の確保
- データの真実性を担保する措置
システム概要に関する書類の備付け
1つ目の要件は、電子取引データの保存に自社開発のプログラムを使用する場合には、システム概要に関する書類を備え付けることです。
これがないと、そのシステムが取引データの保存に適したものであるかどうか判断することが難しいためです。
見読可能装置の備付け
2つ目の要件は、見読可能装置の備付けです。
見読可能装置とは、パソコンのモニターやプリンタなどパソコン内に格納された情報を表示するための装置を指します。
保存されてもその場で確認ができないと税務調査の際などに困るため、当然の要件といえるでしょう。
検索機能の確保
3つ目の要件は、検索機能の確保です。
パソコン内に取引データが格納されていたとしても、どこに何があるかわからずすぐに取り出すことができないと、税務調査などに支障をきたしかねないためです。
検索機能を備えるために特別なソフトウェアは必要なく、国税庁の資料では次の対応例が紹介されています。
- 請求書データ(PDF)のファイル名に、規則性をもって内容を表示する。
- a.例) 2022年10月31日に株式会社国税商事から受領した110,000円の請求書→「20221031_㈱国税商事_110000」
- 「取引の相手先」や「各月」など任意のフォルダに格納して保存する
ただし、基準期間(法人:前々事業年度、個人:前々年)の売上高が1,000万円以下であり、税務調査の際に税務職員からダウンロードの求目に応じてデータのダウンロードができるようにしている場合は、ファイル名を規則性のある表示とすることまでは求められません。
データの真実性を担保する措置
3つ目は、データの真実性を担保する措置を講じることです。
たとえば、Wordファイルで請求書を受け取ってそのまま保存していては、簡単に中身を書き換えることができてしまいます。
また、近年PDFファイルの数字などを書き換えることも難しくありません。
このように、紙の書類の改ざんよりも電子データの改ざんのほうが容易でしょう。
そのため、電子取引データの保存においては、改ざんを防ぐ措置が求められます。
具体的には、次のいずれかの措置を講じなければなりません。
- あらかじめタイムスタンプが付された状態でデータを授受する
- データの授受後速やかに(※)タイムスタンプを付す
- データの訂正削除を行った場合にその記録が残るシステムまたは訂正削除ができないシステムを利用して、授受及び保存を行う
- 訂正削除の防止に関する事務処理規程を備え付ける
※取引情報の授受から当該記録事項にタイムスタンプを付すまでの各事務の処理に関する規程を定めている場合は、「その業務の処理に係る通常の期間を経過した後速やかに」行えば差し支えない。
電子帳簿保存法への対応に特別なシステムが必要であると考えている企業も少なくないようですが、これは誤解です。
システムの活用は、データの真実性を担保する措置のうち選択肢の1つでしかありません。
ただし、タイムスタンプを付すこと自体は無料の「Adobe Acrobat Reader DC」などからできるものの、タイムスタンプの前提となる電子証明書の発行は原則として有料です。
そのため、業務フローや自社の予算などから、負担の少ない方法を検討するとよいでしょう。
電子帳簿保存法に対応するため企業が行うべき対応の流れ
2024年12月31日の猶予期間満了に備え、すべての企業で電子帳簿保存法(主に、取引データの電子保存)に対応する体制を整えておかなければなりません。
対応への基本的な流れは次のとおりです。
- 現在の業務フローを確認する
- データの保存方法や保存場所を検討する
- 弁護士などの専門家へ相談する
- 業務フローを改訂し社内へ周知する
現在の業務フローを確認する
はじめに、現在の業務フローや電子保存の対象となる取引データの有無や量を確認します。
併せて、現在活用している業務ソフトで電子帳簿保存法に対応可能かどうかも確認してください。
データの保存方法や保存場所を検討する
確認した事項を踏まえ、2024年1月1日以降のデータ保存方法や保存場所(クラウド上に保存するのか所定のパソコンに保存するのかなど)を検討します。
実際に検討や洗い出しをする中で不明点が生じることが多いため、これをまとめておきましょう。
なお、検討の際には国税庁が公表しているQ&Aの一読をおすすめします。
弁護士などの専門家へ相談する
自社で今後の対応について検討したら、対応に問題がないか弁護士などの専門家へ相談してください。
併せて、具体的な不明点についても相談しておくとよいでしょう。
業務フローを改訂し社内へ周知する
専門家への相談結果を踏まえ、業務フローを改訂します。
また、必要に応じて業務ソフトを導入します。
業務フローを改訂したら、社内で周知してください。
まとめ
電子帳簿保存法は、規模を問わずすべての企業に関連する法律です。
中でも、取引データの電子保存は2024年1月1日までに実施体制を整えておかなければなりません。
また、対応できていない企業は改めて自社の業務フローを洗い出し、早めの対策を進めてください。
自社のみでの対応が難しい場合は、弁護士など外部の専門家へご相談ください。
記事監修者
櫛田 翔
(大阪弁護士会)立命館大学法学部法学科卒業、神戸大学法科大学院修了。不動産法務(建物明け渡し請求、立ち退き請求など)を中心に、交渉や出廷など、数多くの訴訟を経験。刑事事件では、被疑者の身体拘束からの早期釈放や不起訴を獲得するため、迅速な対応を心掛けるとともに、被害者側の支援活動にも積極的に取り組む。
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