公開 2024.01.09BusinessTopics

逆パワハラとは?上司が取るべき対応を弁護士がわかりやすく解説

パワハラ

パワハラというと、上司から部下に対するものとのイメージが強いことでしょう。しかし、部下から上司への「逆パワハラ」が発生する可能性もあります。これは、価値観の変化や逆パワハラ被害を訴えにくい社内の雰囲気、経験値の逆転などによるものです。

では、逆パワハラに対し上司はどのような対応をとればよいのでしょうか?今回は、逆パワハラに対して上司や企業がとるべき対応などについて弁護士が詳しく解説します。

目次
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パワハラの定義

パワハラについては、「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(以下「パワハラ防止法」といいます。)」32条の2に次のように記載されています。

事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。

これはパワハラへの事業主の義務を記載した条文ですが、ここからパワハラ防止法上のパワハラの定義が読み取れます。
すなわち、次の3つの要件を満たすものがパワハラに該当します。

  1. 「職場において行われる優越的な関係を背景とした言動」であること
  2. 「業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの」であること
  3. これにより「雇用する労働者の就業環境が害される」こと

それぞれの概要について解説します。

優越的な関係を背景とした言動

厚生労働省によると、優越的な関係を背景とした言動とは「業務を遂行するに当たって、当該言動を受ける労働者が行為者に対して抵抗や拒絶することができない蓋然性が高い関係を背景として行われるもの」であるとされています。

典型的には上司から部下に対する言動がこれに該当するものの、部下や同僚からの言動であっても一定の場合にはこれに該当する可能性があります。

業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの

ある言動をパワハラであると判断するには、その言動が業務上必要かつ相当な範囲を超えたものであることが必要です。
裏返すと、業務上必要かつ相当な範囲を超えない叱責や指導などはパワハラではありません。
パワハラであると主張されることを恐れるあまり部下を適切に指導できないケースもあるようですが、過度に恐れる必要はないでしょう。

業務上必要かつ相当であるかどうかの判断では、次の事項などから総合的に判断されます。

  • その言動の目的
  • その言動を受けた労働者の問題行動の有無や内容・程度などその言動が行われた経緯や状況
  • 業種・業態
  • 業務の内容・性質
  • その言動の態様・頻度・継続性
  • 労働者の属性や心身の状況
  • 行為者の関係性

なお、労働者の属性とは経験年数や年齢、障害の有無などを指し、心身の状況とは精神的・身体的な状況や疾患の有無等を指します。

労働者の就業環境が害されるもの

ある言動がパワハラに該当するためには、その言動によって言動の受け手である労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じることを指します。

たとえば、労働者が身体的・精神的に苦痛を与えられて就業環境が不快なものとなったために、能力の発揮に重大な悪影響が生じた場合などが挙げられます。

この判断にあたっては、個々の受け取り方のみで判断するのではなく、平均的な労働者の感じ方を基準に判断することとされています。

部下から上司に対して行われる「逆パワハラ」とは

「逆パワハラ」について、法律の定義があるわけではありません。
一般的には部下から上司へのパワハラを「逆パワハラ」と呼称することが多いでしょう。

パワハラ防止法では、上司から部下に対するパワハラと、部下から上司に対するパワハラは区別しておらず、いずれも同一に取り扱っています。

厚生労働省は、逆パワハラに該当し得る事例として次のものを掲載しています。

  • 同僚または部下による言動で、その言動を行う者が業務上必要な知識や豊富な経験を有しており、その者の協力を得なければ業務の円滑な遂行を行うことが困難であるもの
  • 同僚または部下からの集団による行為で、これに抵抗・拒絶することが困難であるもの

逆パワハラが起きる主な理由

逆パワハラが発生する主な理由は次のとおりです。

  • 価値観の変化
  • 経験値や能力の逆転
  • 賃金体系や職制などへの不満
  • 管理職による指導能力の不足
  • 逆パワハラ被害を訴えにくい社内の雰囲気

ただし、実際には職場環境や個人の特性など個別事情によるものが多く、一概に理由が断定し得るものではありません。
そのため、職場で実際に逆パワハラと思われる事案が発生した際は、原因を分析のうえ再発防止策を講じる必要があるでしょう。

価値観の変化

以前は、目上の人には従うべきであるとの社会の風潮がありました。
しかし、価値観の変化が変化したことで「目上であっても尊敬できない人の指示には従わない」「年齢や入社年次が上というだけで指示をされたくない」などと感じる人も増えているようです。

このような価値観の変化から上司との軋轢が生じ、逆パワハラが起きる可能性があります。

経験値や能力の逆転

1つの企業で定年まで勤めあげることが当たり前であった時代とは異なり、近年多様なバックグラウンドを持つ人材が入社するケースも多いでしょう。
そのため、その職種での経験値や能力が上司を上回っている(または、上回っていると自己認識をしている)人物が部下となる可能性も低くありません。

新たな価値観を持った部下が「自分より能力や経験の劣った人から指示を受けたくない」などと考え、逆パワハラに至る場合があります。

賃金体系や職制などへの不満

企業の賃金体系や職制などへの不満から逆パワハラに発展するケースもあります。

上記の事項とも関連しますが、「経験値や能力が上である自分(達)が上司より給与や職位が高いことに納得がいかない」と考えることによるものです。

管理職による指導能力の不足

部下が多少問題のある言動をしたとしても、上司がこれを諫めることができれば逆パワハラには至りません。
しかし、上司側の指導力不足から適切な指導が行われず、逆パワハラが横行したりエスカレートしたりする可能性があります。

これは、上司が部下を厳しく叱責した場合に「パワハラだ」と主張されるリスクを過度に恐れていることや、「部下に嫌われたくない」「出世に響きかねない」などの理由から事なかれ主義に陥っていることなどが根底にある場合が多いでしょう。

逆パワハラ被害を訴えにくい社内の雰囲気

逆パワハラを社内に訴えにくい雰囲気が社内に蔓延していると、被害に遭っている上司側が上長などに助けを求めづらくなります。
特に上長が古い考え方を持っていると、相談したところで「情けない」などと一蹴され、相談をした上司側の立場が悪くなる可能性もあるでしょう。

これを懸念した被害者が悩みを抱え込むことで、逆パワハラがエスカレートする可能性があります。

部下からの逆パワハラに対して上司が取るべき対応

部下から逆パワハラの被害に遭った場合、上司がとるべき基本の対応は次のとおりです。

  • 毅然とした態度で対応する
  • 部下への注意や指導の記録を残す
  • 組織として対応するよう上長へ相談する

毅然とした態度で対応する

部下から逆パワハラであると思われる言動を受けた場合は、過度に恐れず毅然とした態度で対応しましょう。
上司が毅然と対応したり態度を叱責したりすることに対し、逆パワハラを行っている部下から「パワハラだ」などと主張されるかもしれません。

しかし、上司から部下への指導であっても、業務上必要かつ相当な範囲内のものであればパワハラに該当しないことは明らかです。

部下への注意や指導の記録を残す

逆パワハラを行う部下へ注意や指導をした際には、部下側がした言動とともに、注意や指導の記録を残します。
なぜなら、態度の改善が見られないと減給や解雇などの対象となる可能性があるものの、懲戒処分を行う際には指導履歴の有無がポイントとなることが多いためです。

また、上長への相談の際にも、この指導記録が参考となります。

組織として対応するよう上長へ相談する

上司による直接の指導で改善が見られない場合は、上長や企業が設置しているハラスメント相談窓口に相談しましょう。
これ以後は、組織として逆パワハラに対応する必要が生じます。

社内で起きた逆パワハラへの企業としての対応策

社内で逆パワハラが発生した場合における企業としての対応策は次のとおりです。

  • 相談窓口で相談に応じる
  • 事実関係を調査する
  • パワハラ加害者に指導・注意をして記録を残す
  • パワハラ加害者の配置転換や懲戒処分を検討する
  • 労使問題に強い弁護士に相談する
  • 相談を理由に不利益な取り扱いをしないよう徹底する
  • 再発防止策を講じる

相談窓口で相談に応じる

社内でパワハラや逆パワハラが発生した場合、企業は被害者である労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備を講じなければなりません(パワハラ防止法
30条の2)。

なお、相談窓口は社内に設置するほか、次のような社外の相談窓口を設ける対応も可能です。

  • 弁護士や社会保険労務士の事務所
  • ハラスメント対策のコンサルティング会社
  • メンタルヘルス、健康相談、ハラスメントなど相談窓口の代行を専門に行っている企業

事実関係を調査する

企業が逆パワハラの相談を受けたら、事実関係の調査をしなければなりません。
これは、厚生労働省の「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和2年厚生労働省告示第5号)【令和2年6月1日適用】(パワハラ防止指針)にも明記されています。

事実関係の調査にあたっては、相談窓口の担当者や人事部門などが相談者と行為者の双方から事実関係を確認することが必要です。

ただし、その際は相談者の心身の状況やその言動が行われた際の受け止めなど、その認識にも適切に配慮しなければなりません。
また、相談者と行為者との間で事実関係に関する主張に不一致があり、事実の確認が十分にできないと認められる場合は、第三者から事実関係を聴取することなども求められます。

パワハラ加害者に指導・注意をして記録を残す

企業が逆パワハラの相談を受けたら、パワハラの加害者に指導や注意を行い、記録を残します。
減給や解雇などの懲戒処分を下し、これが不当であるなどと主張された場合は、指導履歴の有無が重要なポイントとなるためです。

パワハラ加害者の配置転換や懲戒処分を検討する

逆パワハラが事実である場合、加害者の配置転換や懲戒処分を検討します。
労働安全衛生法上、「企業は快適な職場環境の実現と労働条件の改善を通じて職場における労働者の安全と健康を確保するようにしなければ」なりません(労働安全衛生法3条)。

逆パワハラの事実を知りながらこの状況を放置した場合、企業に対して責任が問われる可能性があります。

労使問題に強い弁護士に相談する

逆パワハラを理由に加害者とされる人に懲戒処分や配置転換をした場合、加害者側から処分が不当であるとして企業側に処分の取消しや損害賠償請求がなされる可能性があります。

懲戒処分が有効とされるためは、就業規則への明記のほか、対象者がした行為と処分の重さのバランスが取れていることなどが必要です。
後のトラブルを避けるため、処分を下す前に労使問題に詳しい弁護士へご相談ください。

相談を理由に不利益な取り扱いをしないよう徹底する

企業は、パワハラの相談をしたことなどを理由とて、相談者である労働者に対して解雇など不利益な取扱いをしてはなりません(パワハラ防止法30条の2 2項)。

企業が自ら不利益な取り扱いをしないことはもちろん、相談に対応する従業員などに対しても相談者を不利益に取り扱うことのないよう周知徹底することが必要です。

再発防止策を講じる

企業はパワハラに関する研修を実施するなど、従業員がパワハラへの理解を深めるための
対策を講じるよう努めなければなりません(同30条の3 3項)。
特に社内で逆パワハラが発生した場合には改めて研修を実施するなど、再発防止策を講じることが必要です。

まとめ

パワハラは上司から部下に対してなされるのみならず、部下から上司への「逆パワハラ」がなされる場合も存在します。
逆パワハラの被害に遭った上司は部下を適切に指導し記録を残すなど、毅然とした対応を行うことがポイントです。

また、企業としてはパワハラに関する相談窓口を設けて対応するほか、事実関係の調査などを行わなければなりません。
自社での対応に不安がある場合や社内でのパワハラ・逆パワハラ対策を講じたい際には、労使問題に詳しい弁護士に相談し、サポートを受けるようにしてください。

記事監修者

Authense法律事務所
弁護士

伊藤 新

(第二東京弁護士会)

第二東京弁護士会所属。大阪市立大学法学部卒業、大阪市立大学法科大学院法曹養成専攻修了(法務博士)。企業法務に注力し、スタートアップや新規事業の立ち上げにおいて法律上何が問題となりうるかの検証・法的アドバイスの提供など、企業 のサポートに精力的に取り組む。また、労働問題(使用者側)も取り扱うほか、不動産法務を軸とした相続案件などにも強い意欲を有する。

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