合併や分割などの組織再編をしなくても、重要な事業の譲渡や子会社の譲渡等により、これと同等の効果を得られる場合があります。
では、会社が重要な事業を譲渡したり子会社を譲渡したりするためには、どのような手続きが必要なのでしょうか?
また、事業譲渡や子会社譲渡では、どのような点に注意してスケジュールを設定すればよいのでしょうか?
今回は、事業の譲渡や子会社譲渡に必要となる主な手続きや、スケジュール設定のポイントについて弁護士がくわしく解説します。
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事業譲渡・子会社譲渡の概要
はじめに、事業譲渡と子会社譲渡の概要について解説します。
事業譲渡とは
事業譲渡とは、会社が自社の営む事業の全部または一部を、他の会社に譲渡する行為です。
中でも次の事業譲渡は、会社の株主などに重要な影響を及ぼすため、あらかじめ株主総会の特別決議で承認を受けなければなりません(会社法467条1項、309条2項11号)。
- 事業の全部の譲渡
- 事業の重要な一部の譲渡
なお、「事業の重要な一部」とは、その譲渡によって譲り渡す資産の帳簿価額がその株式会社の総資産額の5分の1(これを下回る割合を定款で定めた場合は、その割合)を超えるものを指します。
子会社譲渡とは
子会社譲渡とは、自社が有する子会社の株式を譲渡する行為です。
次の2つに該当する子会社譲渡は会社の株主などに重要な影響を及ぼす可能性が高いことから、あらかじめ株主総会の特別決議で承認を受けなければなりません(会社法467条1項、309条2項11号)。
- 譲渡しようとする子会社株式の帳簿価額が、その株式会社(親会社)の総資産額の5分の1(これを下回る割合を定款で定めた場合は、その割合)を超えること
- その株式会社(親会社)が、効力発生日において、その子会社の議決権の総数の過半数の議決権を有しないこと
これらの要件をいずれも満たす子会社譲渡は、先ほど解説した重要な事業譲渡と同視されることから、株主総会の特別決議が必要となります。
事業譲渡や子会社譲渡に必要な手続きとスケジュール例
事業譲渡や子会社譲渡をするには、どのような手続きが必要となるのでしょうか?
ここでは、取締役会設置会社である上場会社が自社の事業の重要な一部を譲渡する場合を前提として、必要となる主な手続きとスケジュールの例を紹介します。
日程 | 譲渡会社 |
秘密保持契約書の締結、デューデリジェンスの実施 | |
12/1 | 基本合意書の締結 |
1/15 | 取締役会決議(譲渡承認、株主総会招集) |
証券取引所における適時開示等 | |
保振機構に対する基準日等の通知 | |
基準日公告 | |
買取口座の開設 | |
事業譲渡契約の締結 | |
臨時報告書の提出 | |
1/30 | 基準日 |
3/8 | 電子提供措置の開始 |
3/15 | 株主総会招集通知の発送 |
~3/29 | 反対株主の通知受付 |
3/30 | 株主総会の開催、承認決議 |
臨時報告書の提出 | |
5/11 | 事業譲渡をする旨の通知又は公告 |
5/12 | 反対株主による株式買取請求 |
6/1 | 譲渡の効力発生日 |
なお、実際に必要となる手続きや適切なスケジュールは、会社状況などによって異なる可能性があります。
そのため、実際に事業譲渡をしようとする際は、事業譲渡などの手続きにくわしい弁護士へご相談ください。
秘密保持契約の締結
事業譲渡をする際は、譲受会社があらかじめデューデリジェンスをすることが一般的です。
デューデリジェンスにあたっては譲渡会社の機密情報を譲受会社へ開示することとなるため、開示に先立って秘密保持契約を締結します。
デューデリジェンスの実施
秘密保持契約を締結したうえで、譲受会社に必要な情報を開示して、デューデリジェンスが実施されます。
デューデリジェンスとは、最終的に事業の譲受け(購入)をするか否かや譲渡対価の額を決めるため、さまざまな角度から会社の状態をチェックする手続きです。
一般的には、経営状況や財務状況、簿外資産や負債の内容、法的リスクなどがデューデリジェンスの対象となります。
基本合意書の締結
デューデリジェンスを経たうえで、事業譲渡に関する基本事項について合意ができたら、譲渡会社と譲受会社とで基本合意書を締結します。
基本合意書の作成は法律上の義務ではなく、記載事項はさまざまです。
一般的には、次の事項を定めることが多いでしょう。
- 事業譲渡を行う旨
- 事業譲渡の対象となる事業の範囲
- 譲渡対価
- 事業譲渡の時期
- 競業避止義務
基本合意書で定めるべき事項は状況によって異なるため、締結の前に弁護士へご相談ください。
基本合意書を締結したうえで、譲渡会社と譲受会社とでより細かな事項について協議や調査などを行います。
取締役会決議
譲渡会社と譲受会社との間で事業譲渡に関する詳細な内容が固まったら、取締役会で事業譲渡契約を承認します。
事業譲渡は会社法上の「重要な財産の処分及び譲受け」に該当することが一般的です。
そのため、この承認を個々の取締役(代表取締役など)に委任することはできません(同362条4項)。
この取締役会では、事業譲渡契約の承認と併せて株主総会の招集決議も行うことが一般的です(同298条4項)。
また、定時株主総会ではなく臨時株主総会を開催する場合は、基準日についても定めます。
適時開示等
上場会社が事業譲渡をする場合、その旨を取締役会が決定したら、直ちにその内容を開示しなければなりません(上場規程402条1項m)。
併せて、証券取引所に対し、所定の時期に所定の書類を提出することも必要です(同421条1項)。
基準日公告
臨時株主総会によって事業譲渡の承認を受けようとする場合は、議決権を行使できる株主を確定するため、基準日を定めることが原則です。
基準日を定めたら、基準日の2週間前までに基準日を公告しなければなりません(会社法124条)。
ただし、定時株主総会で事業譲渡の承認を受けようとする場合は、基準日について定款で定められていることが一般的であることから、原則として基準日公告は不要です(同3項)。
上場会社である場合、基準日を定めたら、証券取引所へ所定の時期に所定の書類を提出しなければなりません(上場規程421条1項)。
また、取締役会決議の後、速やかに(かつ、基準日の2週間前までに)保振機構へ通知することも必要です。
事業譲渡契約の締結
取締役決議の後、譲渡会社と譲受会社との間で事業譲渡契約を締結します。
事業譲渡契約では、次の事項などを定めることが一般的です。
- 契約の目的
- 譲渡対象となる事業の範囲
- 譲渡対価と対価の支払い方法
- 効力発生日
- 引渡し方法
- 従業員の取り扱い
- 株主総会による承認を停止条件とする旨
後のトラブルを避けるため、事情譲渡契約書を作成する際は弁護士のサポートを受けることをおすすめします。
臨時報告書の提出
会社が有価証券報告書提出会社である場合、行おうとする事業譲渡が一定の要件に該当する場合は、臨時報告書を提出しなければなりません(金商法24条の5 4項)。
臨時報告書の提出は、取締役会による決定後遅滞なく、内閣総理大臣(財務局長等)に対して行います。
株主総会招集通知の発送
株主総会の2週間前までに、株主に対して招集通知を発送します(会社法299条1項)。
なお、株主総会資料の電子提供措置をとる旨の定款の定めがある場合、次のうちいずれか早い日から株主総会の日後3か月を経過する日までの期間、株主総会資料を継続して電子提供する措置をとらなければなりません(同325条の3)。
- 株主総会の3週間前の日
- 株主総会招集通知の発送日
反対株主の通知受付
次の要件をいずれも満たした株主は、自己の有する株式を正当な価格で買い取るよう会社に対して請求できます(同469条1項)。
- 株主総会に先立って、事業譲渡に反対する旨を会社に対して通知したこと
- 株主総会で事業譲渡に反対したこと
そのため、株主総会に先立って反対株主からの通知を受け付けることとなります。
株主総会の開催
事業譲渡の効力発生日の前日までに株主総会を開催し、特別決議による承認を得なければなりません(同467条1項、309条2項11号)。
また、上場会社である場合、株主総会で事業譲渡が決議されたら、遅滞なく臨時報告書を内閣総理大臣(財務局長等)に提出することも必要です(金商法24条の5 4項)。
公正取引委員会への届出・届出受理書の受領
独占禁止法の規定により、一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる事業譲受けは禁じられています(独禁法10条1項)。
これを担保するため、譲受会社とその親子会社等の国内売上高の合計が200憶円を超え、かつ一定の要件に該当する事業譲受けをしようとする際は、譲受会社はあらかじめ公正取引委員会へ届出なければなりません(同16条2項)。
ただし、譲渡会社と譲受会社とが同一の企業結合集団に属する場合には、公正取引委員会への届出は不要です。
この届出が必要な場合、届出受理の日から30日を経過するまでは、原則として事業の譲受けができません(同3項、10条8項)。
そのため、原則として効力発生日の30日前までには、届出の受理が済むようスケジュールを設定する必要があります。
ただし、公正取引委員会が必要があると認める場合には、この期間を短縮できます。
届出が受理されると、公正取引委員会から届出受理書が交付されます。
譲渡の通知または公告
先ほど解説したように、事業譲渡に反対する株主は、会社に対して公正な価格での株式の買い取りを請求できます(会社法469条1項)。
株主に買取請求の機会を確保するため、譲渡会社は効力発生日の20日前までに、事業譲渡をする旨などを株主に対して通知しなければなりません(同3項)。
ただし、次の場合には、通知に代えて公告することもできます(同4項)。
- 事業譲渡する会社が公開会社である場合
- 事業譲渡をする会社が、株主総会決議によって事業譲渡契約の承認を受けた場合
また、振替株式を発行している場合は、通知ではなく公告をしなければなりません(振替法161条2項)。
反対株主による株式買取請求
反対株主による株式買取請求ができる期間は、効力発生日の20日前の日から効力発生日の前日までです(会社法5項)。
買取請求をする株主は、この期間内に買取を希望する株式の数を明らかにして会社に対して買い取りを請求します。
ただし、買い取りを希望する株式が振替株式である場合、買取請求ができる期間は振替機関から株式会社に対して個別株主通知がなされてから4週間を経過するまでの間とされています。
効力発生日
事業譲渡の効力は、原則としてあらかじめ譲渡会社と譲受会社が契約で定めた日に発生します。
効力発生日には、譲渡契約の内容に従い、各財産の引き渡しなどを行います。
なお、事業譲渡では包括承継である合併や会社分割などとは異なり、債権者としての地位や債務者としての地位、各契約の当事者としての地位などが自動的に移転するわけではありません。
債権や債務、契約上の地位などを移転させるには、相手方の個別の同意が必要です。
スムーズな事業譲渡を実現するためには、あらかじめ個々の関係者と契約や債権債務の承継について交渉し合意をまとめておく必要があります。
反対株主への金銭支払い期限
事業譲渡に反対する株主から買取請求をされた場合、この株式買取りの効力は事業譲渡の効力発生日に生じます(同470条6項)。
会社は、効力発生日から60日以内にその対価を支払わなければなりません(同1項)。
買取価格は、原則として、会社と買取請求をした株主との協議によって定めます。
しかし、中には価格についての協議がまとまらない場合もあるでしょう。
効力発生日から30日以内に価格の協議が整わない場合、会社または株主は、その日から30日以内に裁判所に対して価格決定の申立てをすることが可能です(同2項)。
裁判所に価格決定の申立てがされた場合、本来の支払期限(効力発生日から60日)までに結論が出ない可能性があります。
この場合、会社は本来の支払期限以後の利息を支払う必要が生じます(同4項)。
ただし、最終的な価格が決まる前であっても会社は公正な価格と認める額を株主に対して支払うことができ、これによりこれに係る分の利息の支払いを避けることが可能となります(同5項)。
まとめ
事業譲渡や子会社譲渡の概要を解説するとともに、上場会社が重要な事業を譲渡する場合のスケジュールの例を紹介しました。
重要な事業譲渡や一定の子会社譲渡をしようとする際は、株主総会の特別決議で承認を受けなければなりません。
ほかにも、状況に応じて、公告や通知、適時開示などさまざまな手続きが必要です。
中には、手続きを踏んでから一定期間を経過するまで事業譲渡などが実現できない手続きもあるため、スケジュール設定は慎重に行ってください。
今回紹介したのは、代表的な手続きとスケジュールの一例です。
必要な手続きや適切なスケジュールは状況によって異なる可能性があります。
そのため、事業譲渡や子会社譲渡をしようとする際は、あらかじめ弁護士へ相談したうえでスケジュールを設定することをおすすめします。
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