新株予約権は、対価の払い込みを受けず、無償で割り当てることも可能です。
新株予約権を株主に対して無償で割り当てる場合は、どのような手続きをとればよいでしょうか?
また、どのような点に注意して手続きのスケジュールを設定する必要があるのでしょうか?
今回は、新株予約権の無償割当てに必要となる手続きやスケジュールについて、弁護士が詳しく解説します。
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新株予約権とは
新株予約権とは、その新株予約権の内容としてあらかじめ定めた条件で、その会社の株式を取得することができる権利です。
たとえば、新株予約権の内容としてその会社の株式を1株1,000円で購入できるとされている場合、仮にその時点における株式の市場価格が1株1,500円であったとしても、新株予約権を有する者(「新株予約権者」といいます)は、1株1,000円の対価で株式を取得することができます。
新株予約権者は権利を行使して取得した株式をそのまま保有することができる一方で、すぐに売却して差益で儲けることも可能です。
会社が新株予約権を活用する目的はさまざまですが、主に次の目的などで用いられることが多いでしょう。
- 従業員や役員へのインセンティブ(ストックオプション)として:新株予約権者は会社の株価が高くなるほど権利行使による利益を得やすくなるため、役員や従業員に新株予約権を付与することで、自身の貢献によって株価が向上した際の利益を得ることが可能となる
- 資金調達として:投資ファンドやエンジェル投資家に付与する対価として出資を受けるほか、増資の手段として用いられる
- 買収防衛策として:新株予約権の内容の設計により、敵対的買収者が現れた際に敵対的買収者以外が権利行使をすることで、相対的に敵対的買収者の保有株式割合を低下させ買収を防ぐ(ポイズンピル)
新株予約権は、その目的に応じてさまざまな制度設計が可能です。
目的に応じた適切な設計を行うため、新株予約権を発行しようとする際は、機関法務に詳しい弁護士へご相談ください。
新株予約権の無償割当ての概要
新株予約権の無償割当てとは、既存の株主に対して、無償で(払い込みを要することなく)新株予約権を割り当てることを指します。
これは、「ライツオファリング」や「ライツイシュー」などと呼ばれることもあります。
一般的な株主割当てでは株主からの払い込みを要するため、株主からの申込みが必要です。
一方、新株予約権無償割当ての場合は既存の株主に不利益がないため、株主からの申込みを経ることなく、保有株式数に応じて自動的に新株予約権を取得させることができます。
会社が新株予約権の無償割当てを行う主な目的は増資です。
新株予約権の無償割当てを受けた株主は、会社の株式を有利な条件(市場価格よりも低い価格)で購入できることが一般的です。
そのため、新株予約権の割当てを受けた株主に新株予約権を行使してもらうことで、増資をすることが可能となります。
また、自ら権利を行使しない株主は、割り当てられた新株予約権を市場で売却することによって売却対価を得ることも可能です。
なお、会社が自己株式を有している場合もありますが、自己株式について新株予約権の無償割当てを行うことはできません(会社法278条2項)。
新株予約権の無償割当ての手続きとスケジュール
新株予約権の無償割当てをするには、会社はどのような手続きをする必要があるのでしょうか?
ここでは、新株予約権の無償割当てを行う際に必要となる一般的な手続きと、スケジュールの例を解説します。
日程 | 手続 |
9/28 | 取締役会決議(新株予約権無償割当てに関する事項の決定、基準日の設定) |
同日 | 有価証券届出書の提出(金融商品取引法上必要な場合) |
同日 | 適時開示 |
同日 | 保振機構への通知 |
10/15 | 基準日公告 |
10/31 | 基準日 |
11/1 | 効力発生日 株主・登録株式質権者への通知 新株予約権原簿の作成 (新株予約権証券の発行) |
11/14 | 変更の登記 |
12/20 | 行使期間末日 |
なお、具体的なスケジュールや必要となる手続きは、会社の状態などによって異なる可能性があります。
そのため、実際に新株予約権の無償割当てをしようとする際は、機関法務に詳しい弁護士へ相談し、個別的な事情に応じてスケジュールを設定してください。
取締役会決議
はじめに、次の事項を定めます(同278条1項)。
- 株主に割り当てる新株予約権の内容と数またはその算定方法
- その新株予約権が新株予約権付社債に付されたものであるときは、その新株予約権付社債についての社債の種類と各社債の金額の合計額またはその算定方法
- 新株予約権無償割当てがその効力を生ずる日(「効力発生日」といいます)
- 株式会社が種類株式発行会社である場合は、その新株予約権無償割当てを受ける株主の有する株式の種類
これらの事項の決定機関は原則として取締役会(取締役会非設置会社の場合は、株主総会の普通決議)ですが、定款に別段の定めがある場合は、その定めに従います。
会社法では、新株予約権無償割当ての効力発生日について何ら規定がないことから、取締役会決議の日をそのまま効力発生日とすることも可能です。
ただし、会社が振替株式を発行している場合、どの時点での株主に対して新株予約権を割り当てるのかを明確にする必要があることから、基準日を設定しなければなりません。
そのため、取締役会では先ほど紹介した事項とともに、基準日を定めることが一般的です。
基準日を定める場合は、基準日の翌日を効力発生日とすることが多いでしょう。
なお、会社が種類株式を発行している場合において、新株予約権の無償割当てが一定の種類株主に損害を及ぼすおそれがあるときは、新株予約権無償割当ての効力を発生させるために、原則としてその種類株主総会の特別決議を経なければなりません(同322条1項)。
ただし、種類株主総会の特別決議を不要とする旨を定款で定めることができ、このような定めがある場合、種類株主総会は不要となります(同2項、3項)。
有価証券届出書の提出
新株予約権の無償割当てが金融商品取引法の「有価証券の募集」にあたる場合は、原則として内閣総理大臣(財務局長等)への有価証券届出書の提出や目論見書の作成・交付などを行わなければなりません。
ただし、会社が行おうとする新株予約権の無償割当てが一定の条件を満たす場合は、通常の株主割当てとは異なり、次のような特則が適用されます。
届出期限の緩和
1つ目は、届出期限の緩和です。
通常の株主割当ての場合は、基準日の25日前までに提出しなければなりません(金商法4条4項)。
ただし、新株予約権の無償割当てであり、かつ証券取引所で売買ができる新株予約権の募集を行う場合は、この期限が撤廃されます(同項ただし書)。
届出の効力発生までの期間の短縮
2つ目は、届出の効力発生までの期間の短縮です。
有価証券届出書の効力は、届出から15日を経過した日に生じるのが原則です(同8条3項)。
ただし、新株予約権の無償割当てであり、かつ無償割当てによる希薄化率が20%以下であることなど一定の要件を満たす場合は、届出の効力が直ちに発生するとの取り扱いを受けることが可能となります。
目論見書の作成・交付義務の免除
3つ目は、目論見書の作成や交付義務の免除です。
新株予約権を募集する場合において、有価証券届出書の提出が必要となる場合は、原則として目論見書を作成し交付等しなければなりません。
ただし、新株予約権の無償割当てであり、その新株予約権が発効後に遅滞なく上場されていることが予定されていることや、一定の事項を日刊新聞に掲載することなどすべての要件を満たす場合は、目論見書の作成や交付義務が免除されます(同13条1項)。
適時開示
上場会社が取締役会などにおいて新株予約権の無償割当てをすることを決定したら、直ちにその内容を開示するとともに、証券取引所に所定の書類を提出しなければなりません(上場規程402条1項f、同421条)。
また、上場会社は基準日を設定した場合にも、証券取引所に所定の書類を提出することが必要です(同421条)。
保振機構への通知
会社が振替株式等を発行している場合は、新株予約権の無償割当てを決定した後、速やかにその旨を保振機構に通知しなければなりません。
また、基準日を定めた場合にも、その旨を速やかに、かつ基準日の2週間前までに保振機構に通知することが必要です。
基準日公告
新株予約権無償割当てについて基準日を設定した場合は、その基準日の2週間前までに次の事項を公告しなければなりません(会社法124条3項)。
- 基準日
- 基準日時点の株主に対して新株予約権の無償割当てをする旨
効力発生日
あらかじめ定めた効力発生日が到来します。
基準日を定める場合、効力発生日は基準日の翌日に設定することが一般的です。
基準日時点の株主は、効力発生日の到来とともに自動的に新株予約権者となります(同279条1項)。
株主・登録質権者への通知
会社は、効力発生日の後遅滞なく、株主とその登録株式質権者に対して、その株主が割当てを受けた新株予約権の内容と数を通知しなければなりません(同2項)。
なお、新株予約権の行使期間の末日がこの通知の日から2週間を経過する日より前に到来する場合には、行使期間はこの通知の日から2週間を経過する日まで延長されます(同3項)。
新株予約権原簿の作成
会社は、新株予約権の無償割当て後、遅滞なく新株予約権原簿を作成して一定の事項を記載しなければなりません(同249条)。
新株予約権証券が発行されていない場合、新株予約原簿に記載すべき事項は次のものなどです。
- 新株予約権者の氏名または名称と、住所
- 各新株予約権者の有する新株予約権の内容と数
- 各新株予約権者が新株予約権を取得した日
この登録予約権簿原簿は、会社の本店(株主名簿管理人がいる場合は、その営業所)に備え置くことが求められます(同252条1項)。
新株予約権証券の発行
会社は、新株予約権の内容として定めることで、新株予約権証券を発行することができます。
ただし、振替新株予約権である場合は、原則として新株予約権証券を発行することができません。
そのため、上場会社が新株予約権の無償割当てを行う場合、新株予約権証券を発行するケースは非常に限定的でしょう。
新株予約権証券を発行することとした場合は、会社は効力発生日後遅滞なく新株予約権証券を発行しなければなりません(同288条1項)。
ただし、新株予約権者からの請求があるまで、その発行や交付をしないことができます(同2項)。
新株予約権証券には、記名式のものと無記名式のものが存在します。
記名式の場合は新株予約権簿に新株予約権者の氏名や名称、住所などが記載される一方で、無記名式の場合はこれらの記載はありません。
新株予約権者は、新株予約権の内容に転換できない旨の定めなどがない限り、いつでも記名式と無記名式の転換を請求することが可能です(同290条)。
変更登記
新株予約権に関する事項は、登記事項とされています(同911条3項12号)。
新株予約権無償割当てを行うと登記事項に変更が生じることとなることから、変更から2週間以内に変更登記を行わなければなりません(同915条1項)。
変更登記は、会社の本店所在地において行います。
登記期限が短いため、あらかじめ専門家へ相談のうえ変更登記を申請する準備を整えておくとスムーズです。
まとめ
新株予約権の無償割当ての概要や、無償割当てをするために必要な手続きとスケジュールについて解説しました。
会社は、既存の株主に対して無償で(対価を得ることなく)新株予約権を割り当てることが可能です。
新株予約権無償割当ては、一般的に、増資を目的として行われることが多いでしょう。
新株予約権無償割当ては、株主による対価の支払いは不要であり、申込期間を設ける必要もありません。
そのため、通常の株主割当てと比較して必要な手続きは少なくなり、スケジュールも短縮できます。
ただし、上場会社などでは基準日を定める必要があり、基準日を定めた場合には基準日公告が必要となることから、この公告期間を踏まえてスケジュールを設定することが必要です。
なお、本文ではスケジュールの一例を紹介しましたが、新株予約権無償割当てを行うために必要な具体的な手続きやスケジュールは、会社が上場しているかどうかや定款の定めなど、会社の状態などによって大きく異なります。
そのため、実際に新株予約権の無償割当てを行いたい場合は、機関法務に詳しい弁護士へ相談したうえで、必要な手続きの洗い出しをすることをおすすめします。
そのうえで、状況に応じた最適なスケジュールを設定してください。
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