公開 2024.02.16BusinessTopics

新規_自己新株予約権の処分・消却の手続きの方法は?弁護士がわかりやすく解説

会社法

自己新株予約権とは、会社が保有する、自社の新株予約権です。
会社は、取得した自己新株予約権をそのまま所有することもできますが、自己新株予約権を処分したり消却したりすることも可能です。

では、自己新株予約権の処分や消却には、どのような手続きが必要となるのでしょうか?
今回は、自己新株予約権の処分や消却などについて、弁護士が詳しく解説します。

目次
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新株予約権とは

新株予約権とは、その会社が発行する株式を、あらかじめ定められた一定の条件で取得することができる権利です。

たとえば、その会社の株式を1株1,000円で取得できることを内容とした新株予約権を有している場合、これを行使することで、その時点での株価にかかわらず1,000円を払い込むことで1株を取得することができます。
この時点での株価が1株5,000円となっている場合、新株予約権を行使して1株1,000円で株式を取得することで、すぐに株式を売却したとしても、1株あたり4,000円(=5,000円-1,000円)の利益を得ることができます。

ただし、新株予約権を行使することが、新株予約権を有している者(「新株予約権者」といいます)にとって必ずしも「得」であるとは限りません。
行使時点で会社の株価が下がっており1株800円である場合、新株予約権を行使するのではなく、市場で購入した方が株を安く買うことができ、有利です。

そのため、新株予約権を有している者は、原則として、その会社の業績が向上して株価が高くなることを望むこととなります。
会社の株価が高くなればなるほど、新株予約権者が得られる利益が大きくなるためです。

会社が新株予約権を発行する主な目的

会社は、新株予約権をどのような目的で発行するのでしょうか?
ここでは、会社が新株予約権を発行する主な目的について解説します。

なお、新株予約権は発行時にその内容を作り込むことで、目的に応じたさまざまな制度設計が可能です。
発行済の新株予約権の内容を変更するには新株予約権者全員の同意を得ることなどが必要であり、不利な内容への変更はほぼ不可能でしょう。

そのため、新株予約権を発行する際は機関法務に詳しい弁護士へ相談のうえ、目的に応じた制度を十分に作り込むことが必要です。

従業員や役員へのインセンティブのため

1つ目は、自社の従業員や役員へのインセンティブとしての活用です。

先ほど解説したように、新株予約権者としては、会社の業績が向上して株価が高くなるほど権利の行使によって大きな利益を得ることが可能となります。
そのため、従業員や役員に新株予約権を付与することで会社に業績向上に寄与したい(会社の株価を引き上げて、新株予約権の行使によって多くの利益を得たい)との意識が働き、モチベーションを高める効果が期待できるでしょう。

なお、このような目的で活用される新株予約権を、「ストックオプション」といいます。

買収防衛策とするため

2つ目は、買収防衛策としての活用です。

新株予約権は発行時にさまざまな制度設計が可能であり、「新株予約権の行使をすることができる者を、株式の保有割合が20%以下の者に限定する」などの定めもできます。
このような設計とすることで、敵対的買収者が株を買い集めた場合において、会社の株を20%以上有することとなった敵対的買収者以外の者が新株予約権を行使することで敵対的買収者の有する株の割合を相対的に引き下げることが可能となり、敵対的な買収を防ぐことが可能となります。
このような買収防衛策を、「ポイズンピル」といいます。

ただし、ポイズンピルの発動は買収をしようとする者にとって大きな不利益となるため、新株発行の差し止めを請求されるおそれなどがあります。
新株予約権さえ活用すれば絶対に敵対的買収を防げるということではないため、買収防衛策としての活用をご検討の際はあらかじめ弁護士へよくご相談ください。

資金調達のため

3つ目は、資金調達としての活用です。

投資ファンドやエンジェル投資家などに新株予約権を交付し、その対価として出資を受けることがこれに該当します。
新株予約権を対価とした資金調達は、融資などとは異なり、返済する必要がありません。

また、投資家としても出資先の企業が成長すれば新株予約権の行使によって大きな利益を得ることが可能であり、メリットを感じやすいでしょう。

会社が自己新株予約権を取得する2つの方法

会社は、自社が発行した新株予約権を取得することができます。
会社が有する自社の新株予約権を「自己新株予約権」といいます。

会社が自己新株予約権を取得する方法には、合意による任意取得と、取得条項による強制取得とが存在します。
それぞれの概要は次のとおりです。

新株予約権者との合意により任意取得する

会社は、新株予約権者との合意によって、自社が発行した新株予約権者を取得することが可能です。

自己株式の取得とは異なり、自己新株予約権の取得には財源規制などがありません。
そのため、新株予約権者との合意さえできれば、会社は自由に自己新株予約権を取得できます。

あらかじめ定めた事由の発生時に強制的に取得する

新株予約権は、発行時にさまざまな制度設計が可能です。
そのうちの一つに、取得条項の設定があります。

取得条項とは、あらかじめ定めた一定の事由が発生した際などに、会社が強制的に新株予約権を取得できる旨の条項です。
このような条項が付いた新株予約権を「取得条項付新株予約権」といいます。

たとえば、ストックオプションとして新株予約権を活用する場合において、新株予約権を付与した役員や従業員の退職時に会社が強制的に新株予約権を取得する旨の条項を定めることなどが考えられます。

新株予約権の内容としてあらかじめ取得条項を定めておくことで、新株予約権者の意思に関わらず、取得条項に定めた取得事由が発生した際に会社が強制的に新株予約権を取得することが可能となります。

会社が取得した自己新株予約権はどうなる?

会社が自己新株予約権を取得した場合、取得した自己新株予約権はその後どうなるのでしょうか?
ここでは、自己新株予約権の取り扱いについて3つのパターンを紹介します。

そのまま自己新株予約権として保有する

1つ目は、会社がそのまま自己新株予約権として保有し続けることです。
自己新株予約権の保有期間に制限はなく、いつまでに処分や消却をしなければならないなどの規制はありません。

処分する

2つ目は、自己新株予約権を処分することです。
処分とは、自己新株予約権を他者に売却することを指します。
いったん取得した新株予約権を、再利用するイメージです。

消却する

3つ目は、自己新株予約権を消却することです。
消却とは、自己新株予約権として取得した新株予約権を消滅させることを指します。

自己新株予約権の処分手続き

自己新株予約権の処分は、どのように行えばよいのでしょうか?
ここでは、自己新株予約権を処分する手続きについて解説します。

自己新株予約権の処分の基本

会社は、自己新株予約権を自由に処分することができます。
自己新株予約権の譲渡先や価格の設定も自由であり、他の財産などと同様に他者に譲渡(売却)することが可能です。

自己新株予約権を処分する場合の手続きの概要

原則として、自己新株予約権の処分は相手方と契約を交わすだけで手続きが完了します。

ただし、発行会社が上場会社である場合は、自己新株予約権を引き受ける者の募集をすることについて取締役会などが決定したら、軽微基準に該当する一定の場合を除き、直ちにその内容を開示しなければなりません(上場規程402条1項a)。

また、その新株予約権について新株予約権証券が発行されている場合は、原則として自己新株予約権の処分後に遅滞なくその新株予約権証券を交付することが必要です(会社法256条1項)。

自己新株予約権の消却手続き

自己新株予約権を消却するには、自己新株予約権の処分とは異なる手続きが必要です。
ここでは、会社が自社の有する自己新株予約権を消却する場合の手続きの概要について解説します。

自己新株予約権消却の基本

自己新株予約権は、会社が自由に消却することが可能です。
自己新株予約権を消却することで、その新株予約権は消滅することとなります。

自己新株予約権の消却は、取締役会決議によって消却する自己新株予約権の内容と数を定めることによって行います(同276条1項)。
また、消却によって発行済の新株予約権の数に変更が生じることとなるため、取締役会決議から2週間以内に変更登記の申請をしなければなりません(同915条1項)。
登記の期限が短いため、あらかじめ申請の準備をしておくとスムーズでしょう。

自己新株予約権が振替新株予約権である場合の手続き

自己新株予約権が振替新株予約権である場合は、その自己新株予約権を消却するにあたって、振替新株予約権の抹消申請をしなければなりません(振替法187条1項)。
また、消却に関する取締役会決議の後は、速やかに、保振機構に対して自己新株予約権の消却が決定した旨を通知する必要があります。

まとめ

自己新株予約権の処分と消却の手続きについて解説しました。

会社は、新株予約権者との合意や取得条項の発動によって、自社が発行した新株予約権を取得することが可能です。
会社が取得した自己新株予約権はそのまま保有を続けることもできますが、処分や消却をすることもできます。

自己株式の処分や消却に必要な手続きは、会社が上場しているかどうかやその新株予約権が振替新株予約権であるかどうかなどによって異なります。
そのため、機関法務に詳しい弁護士などの専門家へ相談のうえ、必要な手続きを漏れなく行うようにしてください。

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