公開 2024.01.28BusinessTopics

新規_取締役の報酬等として募集株式を発行する手続きは?株式の無償発行について弁護士が解説

会社法

募集株式を発行して、これを取締役の報酬とすることが可能です。
取締役の報酬等として募集株式の発行等をするには、どのような手続きが必要となり、どのような点に注意してスケジュールを組み立てればよいのでしょうか?
今回は、取締役の報酬等として募集株式の発行等(無償発行)をするために必要となる手続きやスケジュールについて、弁護士が詳しく解説します。

目次
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募集株式の発行等とは

はじめに、募集株式の発行等の基本について解説します。

募集株式の発行等とは、新株の発行と自己株式の処分の両方を指すことばです。
新株の発行であるか自己株式の処分であるかによって、手続きには大きな違いはありません。

募集株式の発行は、「株主割当ての場合」と「株主割当て以外の場合」とに大別されます。
それぞれの概要は次のとおりです。

株主割当ての場合

株主割当ての場合とは、募集株式の発行等のうち、株主に対して株式の割当てを受ける権利を与えるものを指します。

株主割当て以外の場合

株主割当て以外の場合は、株主に対して株式割当てを受ける権利を与えないものを指します。
株主割当て以外の方式は、さらに「第三者割当て」と「公募」に区分できます。

  • 第三者割当て:特定の第三者に対してのみ募集株式の勧誘と割当てを行う方法
  • 公募:不特定多数に対して募集株式引受けの勧誘をする方法

ただし、第三者割当であるか公募であるかによって、会社法上の手続きに差異はありません。

取締役の報酬等として募集株式の発行等の基本

上場会社である場合、取締役の報酬等として、対価を得ることなく募集株式の発行等をすることが可能です。
取締役の報酬等として募集株式の発行等をしようとする際は、その募集株式の数の上限や法務省令で定める一定の事項を定款または株主総会決議によって定めなければなりません(会社法361条1項)。
この規定は、令和元年(2019年)の会社法改正によって新たに設けられたものです。

また、募集株式の発行等は引受人からの対価の払込みまたは現物出資財産の給付(以下、「金銭の払込み等」といいます)と引き換えに行うことが基本であるものの、取締役の報酬等として募集株式の発行等をする場合においては、金銭の払込み等は不要とされています(同202条の2 1項)

なお、非上場会社は募集株式の無償発行を行うことはできません。

取締役の報酬等として募集株式の発行等をする場合のスケジュール例

取締役の報酬等として募集株式の発行等をしようとする場合、どのような手続きをどのようなスケジュールで行えばよいのでしょうか?
ここでは、取締役設置会社である上場会社が、取締役の報酬等として、対価を得ることなく募集株式の発行等をする場合のスケジュールの例を紹介します。

日程 手続
9/28 報酬等の内容の決定(株主総会決議)
同日 募集事項の決定(取締役会決議)
同日 有価証券届出書等の提出(金融商品取引法上必要な場合)
同日 臨時報告書の提出(金融商品取引法上必要な場合)
同日 保振機構への通知
10/14 届出の効力発生
目論見書の交付(金融商品取引法上必要な場合)
申込みをしようとする者への通知(目論見書を交付等している場合は不要) 又は
総数引受契約の締結
申し込み
募集株式の割り当ての決定(取締役会決議等)
10/28 申込者への通知
11/1 割当日
11/13 変更の登記

ただし、必要な手続きやスケジュールは、会社の定款の規定など状況によって異なることがあります。
そのため、実際に取締役の報酬等として募集株式の発行等をしようとする際は弁護士などの専門家へ相談のうえ、必要な手続きの洗い出しやスケジュールの組み立てを行うようにしてください。

報酬等の内容の決定

はじめに、取締役の報酬等の内容を決定します。

先ほど触れたように、この報酬等の決定は、定款で定めるか株主総会決議によって定めなければなりません(同361条1項)。
また、監査等委員会設置会社である場合には、監査等委員である取締役とそれ以外の取締役とを区別してこれらの事項を定める必要があります(同2項)。

報酬等の内容として定めるべき事項は次のとおりです(同361条1項、会社法施行規則98条の2)。

  1. 報酬等のうち額が確定しているものについては、その額
  2. 報酬等のうち額が確定していないものについては、その具体的な算定方法
  3. 報酬等のうちその株式会社の募集株式については、募集株式の数(種類株式発行会社にあっては、募集株式の種類及び種類ごとの数)の上限
  4. 一定の事由が生ずるまでその募集株式を他人に譲り渡さないことを取締役に約させることとするときは、その旨とその一定の事由の概要
  5. 一定の事由が生じたことを条件としてその募集株式を株式会社に無償で譲り渡すことを取締役に約させることとするときは、その旨とその一定の事由の概要
  6. その他、取締役に対してその募集株式を割り当てる条件を定めるときは、その条件の概要

なお、これらの事項を定めたりこれらの事項を改定したりする議案を株主総会に提出した取締役は、その株主総会において、その事項を相当とする理由を説明しなければならないとされています(会社法361条4項)。

募集事項の決定

会社が募集株式の発行等をしようとする際は、原則として一定の募集事項を定めなければなりません(同199条1項)。
この募集事項として、「募集株式の払込金額またはその算定方法」や、「払込期日(払込期間)」が挙げられています。

ただし、上場会社が取締役の報酬等として募集株式の発行等を行う際は、無償で募集株式を発行することが可能です。
これを、「募集株式の無償発行」などといいます。

募集株式の無償発行の場合には、一定の事項(「募集株式の払込金額またはその算定方法」や、「払込期日(払込期間)」)の定めは不要となります(同202条の2 1項)。
一方で、次の事項を定めなければなりません。

  • 取締役の報酬等として募集株式の発行等をするものであり、募集株式と引換えにする金銭の払込みや現物出資財産の給付を要しない旨
  • 募集株式を割り当てる日(「割当日」)

上場会社(公開会社)の場合、この募集事項の決定は取締役会の決議によって行います(同201条1項、199条2項)。

また、募集株式等の発行では原則として「払込金額の下限が募集株式を引き受ける者に特に有利な金額である場合には、取締役は、同項の株主総会において、当該払込金額でその者の募集をすることを必要とする理由を説明しなければならない」とされていますが、募集株式の無償発行の場合はこの規定の適用はありません(同199条3項、201条1項)。

有価証券届出書の提出等

公開会社が募集株式の無償発行をする場合は、金融証券取引法(以下「金商法」といいます)の規定により「有価証券届出書」の提出や「臨時報告書」の提出などが必要となることがあります。
それぞれの概要について解説します。

有価証券届出書の提出

会社が募集株式等の発行をする場合は、発行価額の総額が1億円未満であり一定の要件を満たす場合を除き、有価証券届出書を内閣総理大臣(財務局長等)に提出しなければなりません(金商法5条1項)。
有価証券届出書の提出が必要となる場合であり、かつEDINET(金融証券取引法に基づく有価証券報告書等の開示書類に関する電子開示システム)を通さずに届出を行った場合は、提出した有価証券届出書の写しを証券取引所に提出することも必要となります(同6条1項、同27条の30の6)。

ただし、取締役等に対して募集株式の無償発行を行う場合であり、かつその株式に一定期間譲渡を禁止する旨の転売制限が付されている場合は、有価証券届出書の提出が不要となります。

なお、この届出の効力発生日は提出後15日(一定の場合は提出後おおむね7日)が経過したときです。

臨時報告書の提出

先ほど解説したように、募集株式の割当人が取締役のみであり、かつ転売制限が付されている場合、有価証券届出書の提出は必要ありません。
ただし、この場合であっても発行価額の総額が1億円以上となる場合は、遅滞なく臨時報告書を提出する必要があります(同24条の5 4項)。

有価証券通知書の提出

有価証券届出書の届出が不要な場合であっても、金商法に定める「特定募集等」に該当する場合は、内閣総理大臣(財務局長等)に対して事前に有価証券通知書を提出しなければなりません(同4条6項)。
特定募集等とは、発行価額または売出価額の総額が1億円未満の有価証券の募集などのうち、内閣府令で定めるものを指します。

なお、募集株式の割当先人が取締役のみであり、かつ転売制限が付されている場合には特定募集等に当たらないため、有価証券通知書の提出は不要です。

目論見書の作成・交付

会社が有価証券届出書を提出すべき場合には、目論見書の作成が必要となります(同13条1項、2項、15条2項)。
そのうえで、遅くとも募集により募集株式を取得させるのと同時までに目論見書を交付するか、電磁的方法によって提供しなければなりません(同15条2項)。

保振機構への通知

会社が株式等振替制度(ほふり)を利用している場合には、募集事項等を決定した後、速やかにその内容を保振機構に対して通知しなければなりません。
株式等振替制度とは、保振機構や証券会社に開設された口座によって株主等の権利の管理する制度であり、上場会社であれば利用していることが一般的です。

申込みしようとする者に対する通知

募集株式の引受けの申込みをしようとする者に対して、会社は一定の事項を通知しなければならないとされています(同203条1項、会社法施行規則41条)。
ただし、金商法に規定された目論見書を交付等した場合など一定の場合には、この通知は不要です(同203条4項)。

通知すべき内容は、次のとおりです。

  1. 会社の商号
  2. 募集事項
  3. 金銭の払込みをすべきときは、払込みの取扱いの場所
  4. 発行可能株式総数(種類株式発行会社の場合は、各種類の株式の発行可能種類株式総数を含む)
  5. 株式会社(種類株式発行会社を除く)が発行する株式の内容として法第107条第1項各号に掲げる事項(株式の譲渡制限、取得請求権、取得条項)を定めているときは、その株式の内容
  6. 会社が種類株式発行会社であり、法第108条第1項各号に掲げる事項(剰余金の分配や議決権行使など)について内容の異なる株式を発行することとしているときは、各種類の株式の内容など
  7. 単元株式数についての定款の定めがあるときは、その単元株式数(種類株式発行会社である場合は、各種類の株式の単元株式数)
  8. 次の定款の定めがある場合は、その内容
    • 譲渡承認機関、指定買取人の指定、会社が譲渡を承認したとみなされる場合の期間短縮
    • 特定の株主からの取得について売主追加請求権を排除する旨
    • 取得請求権付株式の対価として交付する他の株式の数に端数が生じたときの交付金額
    • 取得条項付株式の取得日または一部取得の決定機関
    • 相続人等への売渡請求
    • 役員選任権付種類株式発行会社における、取締役や監査役の選任手続き
  9. 株主名簿管理人を置く旨の定款の定めがあるときは、その氏名または名称と住所、営業所
  10. 電子提供措置をとる旨の定款の定めがあるときは、その規定
  11. 定款に定められた事項のうち、その他株式会社に対して募集株式の引受けの申込みをしようとする者が当該者に対して通知することを請求した事項

なお、この通知後に通知事項に変更が生じた場合には、会社は直ちにその変更内容を募集株式の引受けの申込みをした者に対して通知しなければなりません。

申込み

募集株式の引受けの申込みをする者は、所定の申込期日までに、次の事項を記載した書面を株式会社に対して交付します(同203条3項)。

  1. 申込みを希望する者の氏名及び住所
  2. 引き受けようとする募集株式の数

なお、募集株式の無償発行について申込みをすることができるのは、定款や会社法に規定された取締役に限られます(同205条3項)。

募集株式の割当ての決定

取締役からなされた募集株式引受けの申込みを受け、会社は次の事項を定めます(同204条1項)。

  • 募集株式の割当てを受ける者
  • その者に割り当てる募集株式の数

なお、その者に割り当てる募集株式の数は、その者が申し込んだ株式数よりも少なくすることが可能です。

申込者への通知

会社は、割当日までに、申込者に対してその者に割り当てる株式数を通知しなければなりません(同205条4項、204条3項)。

(総数引受契約)

募集株式の無償発行の場合であっても、総数引受契約をすることが可能です。

総数引受契約とは、募集株式を引き受けようとする者が、その募集株式のすべての引き受ける旨の契約です。
総数引受契約によって募集株式の発行等をする場合には、「申込みしようとする者に対する通知」から「申込者への通知」までのステップが不要となります。

なお、募集株式の無償発行の場合に総数引受契約をすることができるのは、定款や会社法に規定された取締役に限定されます(同205条3項)。

支配株主の異動を伴う募集株式の発行

取締役が募集株式の引き受けをした結果、公開会社の総株主の議決権の過半数を有することとなる(つまり、支配株主の異動を生じる)場合には、次の対応が必要となります(同206条の2)。

  1. 株式に対して、議決権の過半数を有することとなる引受人(「特定引受人」といいます)の情報を開示する
  2. 総株主の議決権の10分の1以上の議決権を有する株主から反対の通知があった場合は、特定引受人に対する募集株式の無償割当てについて株主総会の承認が必要となる

それぞれの概要は次のとおりです。

引受人の情報開示

募集株主の引き受けによって支配株主に異動を生じる際は、割当日の2週間前までに、株主に対して次の事項を通知または公告をしなければなりません(同206条の2 1項、205条の4、会社法施行規則42の2)。
ただし、会社が割当日の2週間前までに有価証券届出書を提出し、その届出内容に次の事項が含まれている場合には、一定の条件を満たすことで通知や公告は不要となります(同206条の2 3項)。

  1. 特定引受人の氏名及び住所
  2. 特定引受人が募集株式を引き受けた場合に有することとなる議決権の数
  3. その募集株式にかかる議決権の数
  4. 募集株式の引受人の全員がその引き受けた募集株式の株主となった場合における総株主の議決権の数
  5. 特定引受人に対する募集株式の割当てまたは特定引受人との間の総数引受契約の締結に関する取締役会の判断とその理由
  6. 社外取締役を置く株式会社において、取締役会の判断が社外取締役の意見と異なる場合には、その意見
  7. 特定引受人に対する募集株式の割当てまたは特定引受人との間の総数引受契約の締結に関する監査役、監査等委員会または監査委員会の意見

株主総会の承認

総株主の議決権の10分の1(これを下回る割合を定款で定めた場合は、その割合)以上の議決権を有する株主が特定引受人に対する募集株式の引き受けに反対の通知をしたときは、会社は株主総会決議によって、その特定引受人への募集株式割当てや総数引受契約の締結についての承認を得なければなりません(同206条の2 4項)。
この承認は、割当日の前日までに行う必要があります。

この場合には通常以上に複雑な手続きが必要となることから、弁護士のサポートを受けつつ手続きを進めることを特におすすめします。

割当日

あらかじめ定めた割当日において、引受人は引き受けた募集株式の株主となります。
募集株式の無償発行では、払込みが不要であるためです。

変更登記

新株の発行により募集株式の発行等をする場合、募集株式発行の効力が生じることによって資本金の額や発行済み株式総数などに変更が生じます。
これらは登記事項とされており、変更から2週間以内に変更登記をしなければなりません(同915条1項)。

一方で、自己株式の処分によって募集株式の発行等をした場合は、資本金の額や発行済み株式総数などに変更が生じません。
そのため、原則として変更登記は不要となります。

まとめ

取締役の報酬等として募集株式の発行等をする場合に必要となる手続きやスケジュールの例について解説しました。

取締役の報酬等としての募集株式の無償発行は、上場会社のみが行える手続きです。
会社法上の手続きのほか金商法上の手続きなども必要となるため、漏れのないよう慎重にスケジュールを設定しなければなりません。

実際に取締役の報酬等として募集株式の発行等をしようとする際は、機関法務に詳しい弁護士のサポートを受けて手続きを進めるようにしてください。

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