公開 2023.11.27BusinessTopics

新規_株式の無償割当てとは?手続きの方法・スケジュール例を弁護士がわかりやすく解説

会社法

株式の無償割当ては、株主総会の普通決議(取締役会設置会社では、取締役会決議)によって行うことが可能です。
ただし、これだけで手続きが完了するのではなく、他にも公告などさまざまな手続きをとらなければなりません。

また、上場企業であっても株式無償割当てを行うことはできるものの、適時開示などの手続きが別途必要となります。
今回は、株式の無償割当て手続きを行うにあたって必要となる手続きを紹介するとともに、スケジュールの例を弁護士が詳しく解説します。

目次
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株式無償割当てとは

株式無償割当てとは、株主から対価の払い込みを受けることなく、基準日時点における株主に対して無償で株式を割り当てる行為です(会社法185条)。
増資ではないため、会社の資本金が増えるわけではなく、市場に流通している株式全体の価値も変わりません。

株式無償割当ては、次の目的から行われることが一般的です。

  • 株式の流動性向上(発行済株式数が増えることで1株あたりの株価が下がり、投資家が株式を買いやすくなる)
  • 既存株主への利益還元(一般的に、株式の流動性が向上すると株価が上がりやすい)

株式無償割当てによって割り当てる株式は、新規に発行することもあれば、会社が有していた自己株式(金庫株)を交付したりそれまで株主が有していたのと異なる種類の株式を交付したりすることもあります。
株式の割当ては株式数に応じて平等に行わなければならず、「同じ普通株式を100株有しているAには50株を割り当て、Bには20株を割り当てる」というようなことはできません。
会社が自己株式を有している場合、この自己株式自体は株式無償割当ての対象外となります。

投資家保護の観点から、上場会社は流通市場に混乱をもたらすおそれや、株主の利益の侵害をもたらすおそれのある株式無償割当てはできないこととされています(上場規程433条)。
そのため、特に上場会社が株式無償割当てをしようとする場合は、機関法務に強い弁護士へ相談したうえで慎重に手続きを進める必要があるでしょう。

株式無償割当てに必要な手続き

株式無償割当ては、原則として株主総会の普通決議によって行います。
一方で、株式無償割当てをしようとする会社が取締役会設置会社である場合は、取締役会決議によって行うこととなります。

次で詳しく解説しますが、ほかにも公告や上場会社であれば適時開示など、さまざまな手続きを踏まなければなりません。
そのため、株式無償割当てをしようとする場合は、弁護士へ相談したうえであらかじめ全体のスケジュールを検討し、漏れのないよう着実に手続きを進める必要があります。

株式無償割当て手続きのスケジュール例

株式無償割当ては、どのような手続きで進めればよいでしょうか?
ここでは、取締役会設置会社であることを前提に、株式無償割当てを行うスケジュールの例を紹介します。

株式の無償割当て

なお、これはあくまでも一例であり、実際には会社の状況などによってこれとは異なる手続きが必要となることもあります。
一方で、一部の手続きを省略できる可能性もあります。
株式無償割当てを行いたい場合は、別途弁護士へご相談ください。

取締役会決議をする

株式無償割当てを行おうとする場合、取締役会にて次の内容を決議します(同186条1項、3項)。
定款に別段の定めがある場合は、その定めに従います。

  • 一株主に割り当てる株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数)またはその数の算定方法
  • 株式無償割当ての効力発生日
  • 株式会社が種類株式発行会社である場合には、株式無償割当てを受ける株主の有する株式の種類

先ほども触れたように、株式の無償割当て数や算定方法を株主によって変えることはできず、所有株式数に応じて株式を割り当てることとしなければなりません。
ただし、割当ての対象から、その会社自身が有する株式(自己株式)は除かれます(同2項)。

会社が種類株式発行会社であり、株式無償割当てがある種類株主に損害を及ぼすおそれがある場合は、取締役会決議とは別途、その種類株主による特別決議を行わなければなりません(同322条1項)。
この場合において、種類株主総会の決議を経ないことには株式無償割当ての効力は生じないこととされています。

ただし、定款の定めによって種類株主総会を不要とすることも可能であり、この場合は種類株主総会を経る必要はありません(同2項)。

適時開示をする

株式無償割当てをしようとする会社が上場会社である場合、投資家を保護するための措置として、取締役会において株式無償割当てが決議されたら直ちに適時開示を行わなければなりません(上場規程402条1項f。)。

また、証券取引所に対して所定の変更上場申請書を提出することも必要です(同305条)。
この変更上場申請書に記載すべき事項が適時開示に含まれている場合は適時開示を行うのみでよく、別途変更申請をする必要はありません(同ただし書)。

保振機構へ通知する

会社が株式等振替制度(通称「ほふり」)を利用している場合、取締役会決議の後、速やかに保振機構に通知しなければなりません。

株式等振替制度とは、「社債、株式等の振替に関する法律」を根拠に上場会社の株式等に係る株券等をすべて廃止(電子化)されたことに伴って、その後の株主等の権利の管理を機構や証券会社等に開設された口座において電子的に行うものです。

損害を及ぼすおそれがある種類株主へ通知または公告をする

株式無償割当てにより、ある種類株式の株主に損害が生じるおそれがある場合、その種類株主総会による決議を経ることが原則であるものの、定款の定めによって決議を不要とすることもできます。

ただし、この定款の定めによって種類株主による決議が不要とされた場合、株式無償割当ての効力発生日の20日前までに、その損害を及ぼす可能性のある種類株主へ通知またはこれに代わる公告をしなければなりません(会社法116条4項)。

この場合、株式無償割当てに反対する種類株主は、買取請求をする株式の種類と種類ごとの株式数を明らかにしたうえで、効力発生日の20日前から効力発生日の前日までの間に、自身の有する株式を公正な価格で買い取るよう会社に対して請求することが可能です(同5項)。

この買取請求がなされた場合、会社はその請求者である種類株主と価格の協議を行い、効力発生日から60日以内に対価を支払う必要があります(同6項)。

ただし、会社と株主間で価格の協議がまとまらないこともあるでしょう。
その場合は、株主または会社が裁判所に対し、価格決定の申立てをすることが可能です(117条2項)。
この申立ては、効力発生日から30日を経過した日から、30日以内に行わなければなりません。

株式の買取価格が決まらないことによって本来の支払い期限である「効力発生日から60日」までに買取対価を支払えない場合、会社は本来の期限以降の利息を支払う必要が生じます(同4項)。
ただし、会社が公正であると考える価格を、最終的な買取価格が決まる前に株主に対して支払うことが可能であり、この場合は支払った日以降の利息は不要となります(同5項)。

決定事項を公告する

株式の無償割当てをする際は、基準日の2週間前までに基準日株主が行使することができる権利と基準日について公告しなければなりません(同124条3項)。
株式の無償割当ては、株主投資判断などに影響を及ぼすこととなるためです。

基準日が到来する

あらかじめ取り決めた基準日が到来します。
この基準日時点における株主が基準日時点で有する株式が、無償割当ての対象となります。

株式無償割当ての基準日と効力発生日との間隔などについて、会社法での規定はありません。
ただし、上場規程では基準日等の翌日を株式無償割当ての効力発生日として定めるものとされているため、上場企業は原則としてこれに従うこととなります(上場規程427条)。

効力発生日が到来する

効力発生日が到来すると、この日に株式無償割当ての効力が発生し、株主の保有株式数が増加します。

なお、この記事は株券不発行会社であることを前提として解説していますが、株券発行会社であったとしても株式無料割当ての場合は株主から株券を回収する必要はありません。
株式無償割当てでは、株主が追加で株式を取得するのみであるためです。

一方で、株券発行会社である場合は、会社は効力発生後遅滞なく株券を発行し、株主に交付する必要があります(同215条1項)。

株主などへ通知する

効力発生後は遅滞なく、株主と登録質権者に対して、その株主が割当てを受けた株式の数(種類株式発行会社の場合は、株式の種類と種類ごとの数)を通知しなければなりません(会社法187条2項)。

株主名簿に記載する

株式無償割当てによって株式を発行したり自己株式を処分したりしたときは、会社はその旨を株主名簿に記載または記録しなければなりません(同132条3項)。
上場会社の場合、無償割当ての対象者や割り当てた株式が振替株式であるかどうかによって、株主名簿などの書換方法が異なります。

  • 振替株式の株主に対して振替株式を割り当てる場合:振替口座簿に簡易な記録手続きを行ったうえで、総株主通知を受けて株主名簿に反映する
  • 非振替株式の株主に振替株式を割り当てる場合:振替口座簿に新規記録し、総株主通知を受けて株主名簿に反映する
  • 非振替株式の株主に非振替株式を割り当てる場合:会社が株主名簿に記載等する

株式等振替制度を利用している場合において必要となる書換手続きがわからない場合は、保振機構や弁護士に相談しておくとよいでしょう。

端数処理手続きをする

株式無償割当てでは、1株未満の端数が生じることがあります。

株式無償割当てによって1株に満たない端株が生じる場合は、その端数の合計数に相当する数の株式を競売したうえで、これによって得られた代金を端株の数に応じて株主に交付しなければならなりません(同235条1項)。

ただし、対価をそれぞれ次の価額としたうえで、競売によることなく売却することも可能です(同2項、234条2項)。

  1. 市場価格のある株式:市場価格として会社法施行規則で定める方法によって算定される額
  2. 市場価格のない株式:裁判所の許可を得た額

また、株式を競売や市場で売却するのではなく、会社がこの株式の全部または一部を買い取ることも可能とされています(同234条4項)。
この場合、買い取る株式数や取得対価をなどについて、取締役会で決議しなければなりません。

変更登記をする

株式無償割当てでは、会社の発行済株式総数や、種類株を発行している場合の種類ごとの株式数に変更が生じます。
これらは登記事項とされているため、変更登記をしなければなりません(同911条3項9号)。

変更登記の期限は、株式無償割当ての効力発生日から2週間以内です(915条1項)。
変更登記の準備を整えたうえで、効力発生後にはすみやかに登記申請するとスムーズです。

まとめ

取締役会設置会社が株式無償割当て行うための手続きについて全体の流れを解説するとともに、スケジュールの一例を紹介しました。

株式無償割当ては株式併合などと比較して既存株主への影響が小さいことから、手続きが簡略化されています。
中でもポイントとなるのは、基準日の2週間前までに決定事項の公告が必要となることです。
ここがもっとも長い期間を要する可能性が高いため、この点を踏まえて逆算し、スケジュールを検討するとよいでしょう。

ただし、紹介したスケジュールは取締役会設置会社であることを前提とした一例であり、実際のスケジュールや必要な手続きは、会社の規模や上場の有無などによって大きく異なります。
また、株式無償割当てなど株主に影響する手続きに不備があり、種類株主などに損害を及ぼしてしまうと、会社に対して責任が追及されるかもしれません。

そのため、株式の無償割当てご検討の際はその目的を明確としたうえで、機関法務を得意とする弁護士のサポートを受けて進めるとよいでしょう。

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