公開 2023.11.14 更新 2023.12.18BusinessTopics

「譲渡制限株式」の譲渡等承認手続の方法・流れを弁護士がわかりやすく解説

会社法

本来、株式は現在の株主である譲渡人と譲受人とが合意することで自由に譲渡できるものです。
しかし、自由に譲渡がされてしまうと会社にとって好ましくない人物が株主となる可能性があります。

そのため、譲渡による株式の取得に際して、その株式会社の承認を受けることを要件とする旨の定款の定めをする株式会社は少なくありません。
このような制限がされた株式を「譲渡制限株式」といい、すべての株式に譲渡制限を付している株式会社を「株式譲渡制限会社」といいます。

では、会社に対して株式の譲渡承認請求がされた場合、会社はどのような流れで対応すればよいのでしょうか?
今回は、譲渡制限株式の譲渡等承認請求について弁護士が詳しく解説します。

目次
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譲渡制限株式とは

初めに、譲渡制限株式の基本的な内容を解説します。

株式の譲渡に関する原則

株主は、その有する株式を譲渡することができることが原則です(会社法127条)。
しかし、会社にとって誰が株主になるかわからない状況はリスクが高いといえるでしょう。

株主には配当金などの利益分配を受け取る権利があるのみならず、株主総会に参加して議決に加わる権利もあるためです(同105条)。
株式を取得した相手の目論見によっては、会社が乗っ取られてしまうかもしれません。

譲渡制限株式を発行する方法

株式会社は、譲渡による取得について株式会社の承認を要する株式を発行することが可能です(同107条1項1号)。
このような定めがされた株式を「譲渡制限株式」といいます。

譲渡制限株式を発行するには、次の事項を定款で定めなければなりません(同107条2項1号、同108条2項4号)。

  1. 株式を譲渡により取得することについてその株式会社の承認を要する旨
  2. 一定の場合において株式会社が譲渡承認をしたものとみなすときは、その旨とその「一定の場合」

なお、譲渡制限は株式の全部に付すこともできますが、複数の種類株式を発行したうえで、一部の株式にのみ譲渡制限を付すことも可能です。

このうち、全部の株式に譲渡制限を付している会社を「株式譲渡制限会社」といい、公開会社に対して「非公開会社」と称されることもあります。

なお、やや古いデータですが、2006年(平成18年)3月に中小企業庁が公表した「平成17年中小企業実態基本調査速報」によると、調査対象とした株式会社数は70万社のうち株式譲渡制限を定めている株式会社は40万社であり、株式会社に占める割合は56.7%でした。

ただし、上場企業を除くほとんどの株式会社が譲渡制限を付しています。
調査結果として譲渡制限を定めていない中小企業が半数程度にものぼるのは、調査に対して正しく回答できていない可能性や、専門家に依頼せずに定款を作成した結果、譲渡制限の定めが漏れているケースもあると推察されます。

また、そもそも代表取締役がその会社の唯一の株主である場合、他の株主が無断で株式を他社に譲渡することは考えにくく、これによりあえて譲渡制限を付けていない場合もあるでしょう。

譲渡制限株式を譲渡する方法

譲渡制限株式は譲渡が「制限」されているのみであり、譲渡が一切禁じられているわけではありません。譲渡制限株式を譲渡する方法は次の2つです。

会社が譲渡等を承認した場合

譲渡制限株式を譲渡しようとする際には、まず株式会社に対してこの「譲渡」を承認するか否かの決定を請求することとなります(同136条)。
これにより会社が譲渡を承認した場合には、会社が譲渡を承認した相手に対してその譲渡制限株式を譲渡することが可能です。

なお、この譲渡承認請求は具体的に譲受人を指定して行うものです。
A氏への譲渡が承認された場合はA氏への譲渡のみが認められたものであり、別のB氏へ譲渡することはできません。

また、株式の譲渡を受けた者から、株式会社に対して「取得」を承認するか否かの決定を請求することも可能です(同137条1項)。
この「譲渡」と「取得」を併せて、以下「譲渡等」といいます。

会社が譲渡等を承認しなかった場合

株式会社に対して譲渡等の承認請求をしても会社が承認しなかった場合、株式を手放すことができないとなると、株主やその株式の譲渡を受けようとした者にとって不利益です。
そのため、この場合はこれらの者から会社(または会社が指定した指定買取人)に対して、株式を買い取るよう請求することが認められています(同138条1号ハ、同2号ハ)。

この請求がなされると、会社または指定買取人は株式を買い取らなければなりません。
これにより、譲渡が認められなかった株主や取得が認められなかった者が、その株式を換価することが可能となります。

譲渡制限株式の譲渡等承認手続きの流れ・スケジュール例

譲渡制限株式の譲渡等承認手続きの全体の流れは次のとおりです。

  • 株主から会社への譲渡承認請求
  • 譲渡の承認・不承認の決定
  • 会社から請求者へ決定内容の通知
  • 会社または指定買取人による買取りの決定
  • 買取代金の供託
  • 株式買取りの通知
  • 株式売買価格の協議
  • 株式名簿への記載

ここでは、株主から譲渡の請求がされたものの取締役会設置会社である株式会社がその譲渡を承認せず、会社がその株式を買い取ることとなった前提で全体の流れを解説します。
また、株券は不発行であるものとします。

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日程 手続 法定期間・期限
6/1 株主からの譲渡承認請求 「決定内容の通知」まで2週間以内
譲渡の承認・不承認を決定する取締役会
6/10 決定内容の通知
6/26 会社が株式を買い取る値を決める株主総会決議 「決定内容の通知」からそれぞれ40日以内
7/3 供託
7/12 供託を証する書面の交付
同日 買取りの通知
7/19 売買価格の協議 「買取りの通知」から20日以内
7/27 売買価格決定の申立て
8/10 売買価格の決定・決済
株主名簿の記載

株主から会社への譲渡承認請求

初めに、株主から会社に対して譲渡承認の請求がなされます。
この請求では、次の事項を明らかにして行わなければなりません(同138条1項)。

  • 譲り渡そうとする譲渡制限株式の数(種類株式発行会社にあっては、譲渡制限株式の種類と種類ごとの数)
  • その譲渡制限株式を譲り受ける者の氏名または名称
  • 株式会社が譲渡承認をしない旨の決定をする場合において、その株式会社(または指定買取人)が譲渡制限株式を買い取ることを請求するときは、その旨

なお、譲渡承認請求の方法は会社法により規定されていません。
「言った・言わない」のトラブルなどを避けるため、定款などで「書面での請求に限る」など請求方法を定めておくとよいでしょう。

譲渡の承認・不承認の決定

株主から譲渡承認の請求がなされたら、会社は譲渡を承認するか不承認とするかの決定をしなければなりません。
取締役会設置会社の場合、この決定は原則として取締役会で行います(139条1項)。
ただし、「代表取締役が行う」など、定款で別の決定方法を定めることもできます。

なお、ここでは取締役会設置会社の場合を前提としていますが、取締役会非設置会社の場合には株主総会で決定します。

会社から請求者へ決定内容の通知

会社として譲渡の承認・不承認の決定をしたら、その結果を請求日から2週間以内に譲渡承認請求をした者に対して通知しなければなりません。
期限内に通知をしないと、会社はその請求の承認を決定したものとみなされます(同145条1項1号)。

なお、2週間を下回る期間を定款で定めることも可能です。
また、株式会社と譲渡承認請求者との合意によって、これとは異なる期限を定めることも認められています。

この通知方法について、会社法上に規定はありません。
しかし、通知期間内に通知をしたとの証拠を残すため、この通知は内容証明郵便で行うことをおすすめします。

内容証明郵便とは、いついかなる文書が誰から誰宛に発せられたかを日本郵便株式会社が証明する制度です。

会社または指定買取人による買取りの決定

ここから先は、会社が株式の譲渡を不承認とした前提で解説します。
次の双方を満たす場合には、会社または指定買取人がその株式を買い取らなければなりません。

  1. 請求者である株主が譲渡承認請求にあたって、不承認時には会社または指定買取人がその株式を買い取ることを請求していたこと
  2. 会社が株式の譲渡を承認しなかったこと

この場合、会社はその株式を会社が買い取るのか指定買取人が買い取るのかを決める必要が生じます。
会社がその株式を買い取るには、次の事項を株主総会の特別決議で定めなければなりません(同140条1項、同309条2項)。

  1. 対象株式を買い取る旨
  2. 株式会社が買い取る対象株式の数(種類株式発行会社にあっては、対象株式の種類と種類ごとの数)

なお、特別決議とは、議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の3分の2以上の多数をもって行われる決議です。
ただし、それぞれ定款でこれを上回る割合を定めることができます。

また、会社が株式を買い取ると自己株式となるため、財源規制による制限を受けます。
そのため、あらかじめ機関法務に詳しい弁護士等の専門家に相談しておく必要があるでしょう。

一方、指定買取人の指定は定款で行うほか、取締役会の決議によって行います(同140条5項)。

買取代金の供託

株式会社は次のステップである通知をする前に、次の額を本店所在地の供託所に供託しなければなりません(同141条3項)。

  • 1株あたり純資産額×対象株式数

この1株あたり純資産額は会社が独自に決められるものではなく、会社法施行規則25条に定める基準に則って算定する必要があります。
そのため、遅くとも会社が株式の譲渡を不承認とする見込みが生じた段階で、税理士や公認会計士などの専門家に1株あたり純資産額を算定してもらっておく必要があるでしょう。

供託をしたら、その供託を証する書面を譲渡承認請求者に対して交付します。
この交付は、不承認決定の通知から原則として40日以内に行わなければなりません(同145条2項)。

株式買取りの通知

株式会社が譲渡を承認しない旨の決定をした際には、譲渡等承認請求者に対して次の事項を通知しなければなりません(同141条1項)。

  • 対象株式を買い取る旨
  • 株式会社が買い取る対象株式の数(種類株式発行会社にあっては、対象株式の種類と種類ごとの数)

この通知は、先ほど解説した会社から請求者へ決定内容の通知(不承認決定通知)から40日(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)以内に行わなければならず、期限を超過した場合は譲渡を承認したものとみなされます(同145条2号)。

ただし、この期限は株式会社と譲渡承認請求者との合意によって変更することが可能です。
期限内に通知をしたとの証拠を残すため、通知は内容証明郵便で行うことをおすすめします。

株式売買価格の協議

株式の買い取り価格は、先ほど解説した供託額で確定するわけではありません。
供託が必要となる額はあくまでも一定の基準でしかなく、実際の買取価格は株式会社と譲渡等承認請求者との協議によって定めることとされています(同144条1項)。

協議がまとまらない場合は、株式会社または譲渡承認請求者は、裁判所に対して売買価格の決定の申立てをすることが可能です(同2項)。
裁判所はこの価格の決定に際して、譲渡等承認請求の時における株式会社の資産状態その他一切の事情を考慮しなければならないとされています(同3項)。

裁判所への申立ては、1つ上で解説した「株式買取りの通知」から20日以内に行わなければなりません(同2項)。
当事者間の協議がまとまらず、また期限内に裁判の申立てもしない場合は、供託をした額がそのまま株式の売買価格となります(同5項)。

株式名簿への記載

最後に、株主名簿への記載を行います(132条1項)。
会社がその株式会社の株式を取得する場合は、株主名簿に記録等しなければならないとされているためです。

まとめ

譲渡制限株式の譲渡等承認請求について解説しました。

株主から譲渡等承認請求がなされた場合には、その譲渡等を承認して株主の変更を認めるか会社(または指定買取人)が株式を買い取るかの2択となります。

譲渡制限株式を発行しており株主が複数人存在する株式会社では、いつ譲渡等承認請求がなされるかわかりません。
そのため、あらかじめ全体の流れを確認したうえで、手続きや売買価格協議などのサポートが受けられる弁護士を探しておくようにしてください。

記事監修者

Authense法律事務所
弁護士

森中 剛

(第二東京弁護士会)

一橋大学法学部法律学科卒業。元裁判官。企業法務、M&A、労働法、事業承継、倒産法(事業再生含む)等、企業に係わる幅広い分野を中心とした法律問題に取り組む。弁護士としてだけでなく、裁判官としてこれまで携わった数多くの案件実績や、中小企業のみならず、大企業や公的企業からの依頼を受けた経験と実績を活かし、企業組織の課題を解決する多面的かつ実践的なアドバイスを提供している。

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