会計監査人は株式会社おける機関の一つであり、会社の会計を監査する職務を担います。
会計監査人は株主総会で選任されるものの、取締役が株主総会に会計監査人の選任などに関する議案を提出するには、監査役(監査役会)による決定を経なければなりません。
そのため、会計監査人を選任する際には、株主総会日から逆算をしてスケジュールを組む必要があります。
そこで今回は、会計監査人の基本について根拠条文を示して改めて確認するとともに、会計監査人を選任するスケジュールの考え方などについて弁護士が詳しく解説します。
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会計監査人とは
はじめに、会計監査人の基本について解説します。
会計監査人の設置が義務付けられている会社
次の株式会社は、会計監査人を設置しなければなりません(会社法327条5項、328条1項・2項)。
- 会社法上の大会社(資本金5億円以上または負債総額200億円以上の会社)
- 監査等委員会設置会社
- 指名委員会等設置会社
また、これら以外の会社であっても、定款に定めを置くことで会計監査人を設置することが可能です(同326条2項)。
ただし、会計監査人を設置した場合には、監査等委員会設置会社と指名委員会等設置会社を除き、監査役を置かなければなりません(同327条3項)。
会計監査人の役割
会計監査人は、株式会社の計算書類やその附属明細書、臨時計算書類、連結計算書類を監査する役割を担います(同396条1項)。
会計監査人の監査対象は計算書類など会計に関する部分のみであり、取締役などの業務監査までには及びません。
会計監査人選任の基本
会計監査人の選任に関する規定は、次のとおりです。
会計監査人となれる資格
会計監査人は、公認会計士または監査法人でなければなりません(337条1項)。
また、これらに該当する者であっても、その会社の子会社などから公認会計士業務や監査法人業務以外の業務で継続的な報酬を受けている者やその配偶者など一定の者は、会計監査人となることができません(同3項)。
この場合には、適正に監査がなされなくなるリスクがあるためです。
なお、会計監査人の任期は、選任後1年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとされています(同338条1項)。
会計監査人の選任機関
会計監査人は、株主総会の決議によって選任されます(同329条1項)。
ただし、会計監査人が担う職務の性質上、監査対象である業務執行側が自身に都合の悪い会計監査人を任意に排除したり、自身に都合のよい人物を会計監査人に据えたりし得る状況は望ましくありません。
そこで、会計監査人の選任や解任、会計監査人を再任しないことに関する株主総会への議案の提出は、監査役(監査役会設置会社では、監査役会)が決定することとされています(同344条1項、3項)。
会計監査人の選任スケジュール設定のポイント
先ほど解説したように、会計監査人は株主総会で選任されます。
株主総会を開催するにはこれ以前に招集通知を発送する必要があるほか、取締役会による招集決定などを経なければなりません。
さらに、これ以前に監査役(監査役会)による決定も必要です。
そのため、会計監査人を選任するスケジュールは、株主総会の開催日から逆算をして設定することがポイントです。
会計監査人の選任スケジュール
会計監査人の選任スケジュールは、株主総会のスケジュールから逆算をして検討します。
では、具体的にどのようなスケジュールを設定すればよいのでしょうか?
定時株主総会で会計監査人を選任する場合におけるスケジュールの一例と考え方は次のとおりです。
なお、ここでは監査役会設置会社である大会社であることを前提にスケジュールを解説します。
日程 | 手続 | 法定期間・期限 |
---|---|---|
~5/7 | 会計監査人の候補者の検討 | |
5/8 | 監査役会の招集通知 | 「監査役会」の1週間前まで |
5/16 | 監査役会:会計監査人の選任議案に関する決議・取締役会に通知 | |
5/17 | 取締役会の招集 | 「取締役会」の1週間前まで |
取締役会の開催 | ||
6/4 | 株主総会招集通知発送 | 「定時株主総会」の2週間前まで |
6/19 | 定時株主総会 | |
7/3 | 登記 | 「定時株主総会」後の2週間以内 |
会計監査人の候補者を検討する
はじめに、会計監査人の候補者を選定します。
候補者の選定にあたっては、候補者の監査体制などについて十分に情報収集をしたうえで検討することが必要です。
先ほど解説したように、会計監査人は公認会計士もしくは監査法人でなければなりません。
ただし、上場企業のような大会社や公開会社では監査法人を選定することが一般的でしょう。
監査役会の招集通知を発送する
会計監査人の候補者が決まったら、会計監査人の選任議案を検討するため監査役会を開催することとなります。
これに先立って、監査役会の招集通知を発しなければなりません。
監査役会の招集通知は、監査役会の日の1週間前までに、各監査役に対して発するのが基本です(同392条1項)。
ただし、定款で1週間を下回る期間を定めることも認められています。
また、監査役全員の同意があるときは、招集手続を経ずに監査役会を開催することも可能です(同392条2項)。
招集通知の方法には法令上の定めはないものの、実務上は開催日時や場所などを記載した文書を送る形をとっていることが多いでしょう。
なお、定時の監査役会の議題にあらかじめいれておいて、監査役会で審議してもらう会社も多いと思います。
監査役会を開催する
次に、監査役会を開催します。
この監査役会の目的は、会計監査人の選任に関する議案を株主総会に提出することについて、決定をすることです。
会社法の規定により、株主総会に提出する会計監査人の選任等に関する議案の内容は、監査役会が決定することとされているためです(同344条1項・3項)。
会計監査人設置会社の監査役は、会計監査人の職務の遂行が適正に実施されることを確保するための体制に関する事項を監査報告に盛り込まなければなりません(会社計算規則127条4号)。
そのため、会計監査人の選任議案の決定について慎重な判断が求められます。
なお、監査役会には定足数の定めはなく、監査役会の決議は監査役の過半数をもって行われます(同393条1項)。
会計監査人の選任議案について監査役会が決定した場合には、その内容を取締役会議長に対して通知することが一般的です。
取締役会の招集通知を発送する
会計監査人の選任議案に関して監査役会の決定を経たら、取締役会を開催します。
取締役会を開催するには、原則として取締役会の日の1週間前までに、各取締役(監査役設置会社の場合には、各取締役と各監査役)に対して招集通知を発しなければなりません(会社法368条1項)。
ただし、定款で1週間を下回る期間を定めることも可能です。
また、取締役と監査役全員の同意があるときは、招集の手続を経ることなく取締役会を開催することもできます(同2項)。
取締役会を開催する
招集通知に記載した日時において、取締役会を開催します。
この取締役会において株主総会の招集と、会計監査人の選任を含む株主総会の議案を決定します。
併せて計算書類や事業報告等の承認や剰余金の配当議案の承認なども行われることが一般的です。
取締役会の決議は、原則として議決に加わることができる取締役の過半数(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)が出席し、その過半数(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)をもって行います(同369条1項)。
ただし、特別の利害関係を有する取締役は議決に加わることができません(同2項)。
なお、株主総会招集通知の作成や印刷はこの取締役会の開催後に行うこととなるため、印刷などにかかる期間も踏まえてスケジュールを設定することが必要です。
また、定時の取締役会で審議する会社も多いと思いますので、取締役会の開催スケジュールに合わせて準備しておくことが重要です。
株主総会の招集通知を発送する
次に、株主総会の招集通知を発送します。
株主総会の招集通知は、株主総会の2週間前までに株主に対して発しなければなりません(同299条1項)。
ただし、非公開会社は2週間前までではなく1週間までに発送すればよいとされているほか、取締役会設置会社でない株式会社はさらに短い期間を定款で定めることも可能です。
取締役会設置会社では、招集通知は原則として書面で行わなければなりません(同2項)。
ただし、株主の承諾を得た場合には、電磁的記録によって通知することも可能です(同3項)。
また、書面や電磁的方法による議決権行使を認めない場合において、株主全員の承諾がある場合には招集通知の手続きを省略することもできます(同300条、同298条1項3号・4号)
定時株主総会を開催する
招集通知で定めた日時において、定時株主総会が開催されます。
定時株主総会は、基準日との兼ね合いから事業年度終了末日から3か月以内に開催することとが基本です。
会計監査人の選任や解任は、株主総会の普通決議で行われます(同309条)。
また、会計監査人の任期は選任後1年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までであるものの、その定時株主総会において別段の決議がされなかったときは、その定時株主総会において再任されたものとみなされます(同338条1項・2項)。
登記をする
会計監査人が新たに選任されたなど会計監査人の氏名や名称に変更が生じた場合には、2週間以内に、その本店の所在地において変更の登記をしなければなりません(同915条1項)。
登記期限に遅れることのないよう、株主総会の決議後には速やかに登記の準備に入りましょう。
まとめ
会計監査人の選任は株主総会で行われますが、この株主総会を開催するには、取締役会で招集議案の決定をしなければなりません。
また、取締役が株主総会に対して会計監査人の選任議案を提出するにあたっては、監査役(監査役会)の決定を経ることが求められます。
そのため、株主総会日から逆算をして、取締役会や監査役会のスケジュールを検討しなければなりません。
併せて、それぞれの招集通知期間についても考慮することが必要です。
会計監査人の選任スケジュールの設定に不安がある場合には、機関法務に詳しい弁護士のサポートを受けることをおすすめします。
参考文献
記事監修者
森中 剛
(第二東京弁護士会)一橋大学法学部法律学科卒業。元裁判官。企業法務、M&A、労働法、事業承継、倒産法(事業再生含む)等、企業に係わる幅広い分野を中心とした法律問題に取り組む。弁護士としてだけでなく、裁判官としてこれまで携わった数多くの案件実績や、中小企業のみならず、大企業や公的企業からの依頼を受けた経験と実績を活かし、企業組織の課題を解決する多面的かつ実践的なアドバイスを提供している。
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