監査役会とは、3人以上の監査役から構成される株式会社の機関です。
監査役は、原則として会計監査と業務監査の役割を担います。
監査役がその役割を遂行するため、監査役会は年に数回開催されることが一般的です。
また、監査役会を開催するには、原則として開催1週間前までに招集通知を発しなければなりません。
では、監査役会の開催スケジュールはどのように検討すればよいのでしょうか?
今回は、個々の監査役会を開催するスケジュールについて弁護士が詳しく解説します。
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監査役の基本
はじめに、監査役に関する基本の規定を解説します。
監査役の設置義務がある会社
次の会社は、監査役を置かなければなりません(会社法327条2項、3項)。
- 取締役会設置会社(公開会社でない会計参与設置会社を除く)
- 会計監査人設置会社
ただし、いずれも監査等委員会設置会社と指名委員会等設置会社は除かれます。
これらの会社には、監査役と同様の役割を持つ機関が設置されるためです。
監査役の職務と権限
監査役は、取締役(会計参与設置会社では、取締役と会計参与)の職務の執行を監査します(同381条1項)。
この監査の対象は、会計監査と業務監査を含む職務全般に及ぶことが原則です。
この場合の監査役は、原則として次の権利や義務などを有します。
- 取締役や会計参与、使用人などに対して事業の報告を求めたり、監査役設置会社の業務や財産状況の調査をしたりする権利(同381条2項)
- 職務上の必要があるときに限り、子会社に対して事業の報告を求めたり子会社の業務や財産状況の調査をしたりする権利(同3項)
- 取締役の不正行為や不当な行為などを遅滞なく取締役会に報告する義務や、これに関して必要な際に招集権者に対して取締役会の招集を請求する権利(同382条、383条2項)
- 取締役会に出席し、必要があると認めるときに意見を述べる義務(同383条1項)
- 取締役が株主総会に提出しようとする議案、書類その他法務省令で定めるものを調査し、違法または著しく不当な事項があると認めるときは、その調査の結果を株主総会に報告する義務(同384条)
- 取締役が会社の目的の範囲外の行為や法令等に違反する行為をした場合やするおそれがある場合に、会社に著しい損害が生ずるおそれがあるときは、その取締役に対してその行為をやめることを請求する権利(同385条1項)
ただし、次のいずれかに該当する会社以外の株式会社は、定款に定めを置くことで、監査役の監査範囲を会計に関する事項に限定することが可能です(同389条1項)。
- 公開会社
- 監査役会設置会社
- 会計監査人設置会社
この定款の定めのある株式会社の監査役はその権限や義務が制限され、次の権限と義務などを有します。
- 法務省令で定めるところにより、監査報告を作成する義務(同389条2項)
- 取締役が株主総会に提出しようとする会計に関する議案、書類その他の法務省令で定めるものを調査し、その調査の結果を株主総会に報告する義務(同3項)
- 会計帳簿やこれに関する資料を閲覧・謄写したり、取締役や会計参与などに会計に関する報告を求めたりする権利(同4項)
- 職務上の必要があるときに限り、子会社に対して会計に関する報告を求めたり、その会社や子会社の業務や財産状況の調査をしたりする権利(同5項)
監査役会の基本
監査役会とは、その株式会社のすべての監査役から組織される機関です(同390条1項)。
監査役会の基本は、次のとおりです。
監査役会の権限
監査役会は、次の職務を担います(同390条2項)。
- 監査報告の作成
- 常勤の監査役の選定と解職
- 監査の方針、監査役会設置会社の業務や財産状況の調査の方法、その他の監査役の職務の執行に関する事項の決定
ただし、「3」について各監査役の権限の行使を妨げることはできません。
監査役会の設置義務がある会社
会社法上の大会社(資本金5億円以上または負債総額200億円以上の会社)は、監査役会を設置しなければなりません(同328条1項)。
ただし、次の会社を除きます。
- 非公開会社
- 監査等委員会設置会社
- 指名委員会等設置会社
これら以外の会社であっても、定款に定めを置くことで監査役会を設置することが可能です。
ただし、監査役会設置会社とする場合には、取締役会を設置しなければなりません(同327条1項)。
監査役会の設置要件
監査役会はその会社のすべての監査役から組織されますが、監査役会設置会社における監査役は3人以上でなければなりません。
また、そのうち半数以上は、社外監査役でなければならないとされています(同335条3項)。
社外監査役に該当するのは、監査役のうち次のすべてを満たす者です(同2条16号)。
- 就任前10年間、その株式会社や子会社の取締役、会計参与(会計参与が法人であるときはその社員)、執行役、支配人その他の使用人であったことがないこと
- 就任前10年内のいずれかの時においてその株式会社や子会社の監査役であったことがある者にあっては、その監査役への就任前10年間にその株式会社や子会社の取締役、会計参与(会計参与が法人であるときはその社員)、執行役、支配人その他の使用人であったことがないこと
- 親会社等(自然人であるものに限る)、親会社等の取締役、監査役、執行役、支配人その他の使用人でないこと
- 親会社等の子会社等の業務執行取締役等でないこと
- その株式会社の取締役や支配人、その他の重要な使用人または親会社等(自然人であるものに限る)の配偶者または二親等内の親族でないこと
つまり、その会社の経営層の親族や、その会社や親会社の元取締役や元従業員などは、原則として社外監査役に該当しないということです。
社外監査役のハードルは高いため、今後監査役会設置会社への意向を検討している場合には、あらかじめその要件などについて弁護士へ相談することをおすすめします。
監査役会の決議
監査役会には定足数の定めはなく、監査役会の決議は監査役の過半数をもって行われます(同393条1項)。
監査役会の個別開催スケジュール
個々の監査役会を開催するスケジュールの考え方は、次のとおりです。
原則として招集通知が必要となるため、開催日から逆算をして招集通知を発送するよう注意しましょう。
招集通知の発送
監査役会の開催にあたっては、監査役は、監査役会の日の1週間前までに、各監査役に対して招集通知を発しなければなりません(同392条1項)。
ただし、定款で1週間を下回る期間を定めることもでき、定款の定めがある場合にはこれに従います。
また、監査役の全員の同意があるときは、招集の手続を経ずに監査役会を開催することも可能です(同392条2項)。
そのため、緊急の必要がある場合などには監査役全員の同意を得ることで、即日で監査役会を開催することもできます。
なお、実務上は監査役会規定などで招集権者を一定の監査役(議長など)に定めておくことが、通例としてよく行われています。
ただし、監査役会の招集権者は、各監査役です(同391条)。
そのため、たとえ監査役会規定に定めがあったとしても、他の監査役が監査役会を招集できなくなるわけではありません。
また、招集通知の方法には特に法律上の定めはなく、口頭で招集することも可能です。
ただし、実務上は緊急の場合を除き、開催日時や場所などを記載した文書を送る形をとることが多いでしょう。
監査役会の開催
招集通知で示した日時に、監査役会を開催します。
なお、取締役、会計参与、監査役または会計監査人が監査役の全員に対して監査役会に報告すべき事項を通知したときは、その事項を監査役会へ報告することを要しない(すなわち、報告のための監査役会を省略できる)こととされています(同395条)。
一方で、たとえ定款で定めて監査役の全員が書面などで決議への同意を示したとしても、監査役会で決議すべき事項について監査役会の開催を省略することはできません。
この点は取締役会と異なっています(同370条)。
監査役会の終了後に作成すべき議事録の取り扱い
監査役会の終了後には、監査役会議事録を作成しなければなりません。
最後に、監査役会議事録について解説します。
監査役会議事録に記載すべき事項
監査役会の終了後には議事録を作成し、出席した監査役がこれに署名または記名押印(議事録が電磁的記録であれば電子署名等)をしなければなりません(同393条2項)。
監査役会議事録に記載すべき事項は、次のとおりです(会社法施行規則109条3項)。
- 監査役会が開催された日時と場所(遠隔で参加した監査役等がいる場合には、その出席の方法を含む)
- 監査役会の議事の経過の要領とその結果
- 会社法に定められた報告義務に基づいて取締役、会計参与、会計監査人が述べた意見や発言があるときは、その意見や発言の概要
- 監査役会に出席した取締役、会計参与または会計監査人の氏名または名称
- 監査役会の議長が存するときは、議長の氏名
なお、決議に参加した監査役が議事録に異議を述べなかった場合には、その決議に賛成したものと推定されます(同393条4項)。
そのため、異議や補足意見を述べた場合にはその異議や意見の内容が議事録に反映されているかどうか、十分に確認したうえで署名等を行う必要があるでしょう。
後日決議内容に問題が生じた際、異議や補足意見の内容が責任の有無に影響する可能性があるためです。
監査役会議事録の据置き
作成した監査役会議事録は、監査役会の日から10年間、会社の本店に備え置かなければなりません(同394条1項)。
また、株主や債権者、親会社社員が権利を行使するために必要があるときなどには、裁判所の許可を得て議事録の閲覧や謄写の請求をすることが可能です(同394条2項)。
そのため、監査役会議事録は、状況によってこれらの者の目に触れる可能性を踏まえて作成する必要があります。
まとめ
監査役会の個別開催スケジュールについて解説しました。
監査役会を開催する際には、原則として1週間前までに招集通知を発しなければなりません。
ただし、この期間は定款で定めることで短縮することができるほか、監査役全員の同意があれば招集通知を省略することも可能です。
また、監査役会の終了後には議事録を作成しこれを10年間本店に据え置く必要がある点にも注意しましょう。
監査役会の開催スケジュールについて不明点がある場合やスケジュールの設定に不安がある場合には、機関法務に詳しい弁護士へ相談することをおすすめします。
記事監修者
山口 広輔
(第二東京弁護士会)第二東京弁護士会所属。明治大学法学部法律学科卒業、慶應義塾大学法科大学院修了。健全な企業活動の維持には法的知識を活用したリスクマネジメントが重要であり、それこそが働く人たちの生活を守ることに繋がるとの考えから、特に企業法務に注力。常にスピード感をもって案件に対応することを心がけている。
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